無理な理由 2
アムの怒ったような目線にたじろいでいる中位騎士二人を見ていたら、アムはそのままその目を私に向けた。
……はい、ごめんなさい……反省してます……
「エスティ」
「はい……」
アムの、一見優しい声が今は何よりも怖い。
大人しく話すし反省するから兄さんには何も言わないで置いてください……お願いします……
ぽそぽそとそんなことを呟くと、アムは無言でにっこりと笑った。ヒィン……
「えっ……と、それで、説明っていうのは……?」
空気に耐え切れなくなったのか、グレンさんが控えめに手を挙げて途切れた話の続きを促してきた。
私もアムの圧にそろそろ耐え切れなくなってきているので、全力で乗っかって話しを進めよう。
えーっと、どこから説明すればいいんだ……?
「エスティは霊体に影響を受けやすいの」
「霊体に?」
「あー……はい。感情が伝播すると言いますか、取り込まれると言いますか……」
普段これの説明とかしないから、どうしても曖昧な言い方になってしまう。
アムが話を誘導してくれるので、それに従ってどうにか自分で説明する。
手間をおかけしてごめんなさいね……おじいに説明した時は、先に手紙である程度の説明をされた後で疑問点を質問されただけだったから、どうしたらいいのか分からなくてね……
「霊体の感情に引っ張られて、その記憶の中に沈み込んじゃうんですよね」
「……じゃあ、あの時熱いと言っていたのは」
「記憶を覗いてたから、ですかね。あ、先に言っときますけど解決方法とか分かりませんからね?」
「引っ張られるって……危なくない?」
「危ないですよ。危ないから、説明をしないでうっかり取り込まれかけたのをここまで怒ってんだよ?エスティ?」
「ごめんなさぁい……」
霊体との相性が良くないと分かったのは、まだ実家に居た頃だ。
確か五歳くらいだったかな?色々あって記憶が流れ込んできて、その感情に引っ張られた私はうっかり霊体に取り込まれそうになった。
その一件以降アムと兄さんは私を霊に関係することから徹底的に遠ざけるようになり、墓参りとかは誰かと一緒じゃないと行かせてもらえなくなったんだよね。
なのでアムは私が頻繁におじいに会いに行くことに対してちょっとだけ不安そうな顔をする。
そんなことを考えていたら、中位騎士二人も同じような目をこっちに向けていることに気が付いた。
……そういえば、お二人は私がおじいの所に頻繁に行っているのを知ってるのか。
「エスティアちゃん、結構な頻度でお墓参り行ってる気がするんだけど……大丈夫なの?」
「あぁ、はい。あそこにはしっかり供養された方しか眠ってませんからね。それに、先代が亡くなる前に墓守さんに私の事を伝えていたみたいで、気にしてもらってるので」
お墓参りに行くときに、墓守さんに毎回声をかけるのはこういう事情だ。
長時間私が戻って来ない場合は中で倒れている可能性があるので、墓守さんは一定時間が経つと私の安否を確認に来る。
あんまり心配をかけるわけにはいかないし、長居しすぎない方がいいのも確かなので毎回そこそこに切り上げているのだ。
「供養されていれば、安全なのか?」
「安全って言うか……なんでしょう、穏やか?供養もされず、無念のままずっと留まってると、その時に一番強い感情だけが残るんですよね。そんで、それが恨みとか怒りとかの時はこうやって実害が出る感じになる……みたいな」
これは私の感覚でしかないので、詳しいことはちょっと分かんないですね。
なんて付け加えて、アムの方を見る。
そろそろ……下ろしてもらったりは……
「……はぁ。全くもうエスティは。最初からそうやって説明しておかないと危ないでしょうが!」
「えぇん……ごめぇん……」
また怒られた。今回は私が悪いので、大人しく反省して縮こまっておく。
そんな私の様子にため息を吐いて、アムはそっと私を地面に降ろしてくれた。
久々の地面だ。流石にもう立ち眩みとかはないし、ちゃんと自分で立って歩ける。
「さて、じゃあ帰ろうかエスティ。今日はこのままお店閉めて、ゆっくり休むこと。私も泊まるからね」
「はぁい」
「そっちはお願いしますよ」
「あぁ、任された。魔法部隊長にも報告しておく」
アムに肩を押されて、屋敷から遠ざかる。
ずっと蚊帳の外にされていた魔法部隊の人は、中位騎士二人に両サイドからがっちり確保されていた。
うーん、まぁ、あれに同情はしないかな……散々な目に遭ったしな……
とりあえず二人には手を振っておこう。
また後日、今度はゆっくりお茶でもしましょうね。出来ればフィンさんあたりも一緒だと、話がスムーズだと思うんだよね。
「アムー、帰る前にカフェ寄らない?お腹空いたー」
「お、いいねぇ。可愛くて美味しいもの食べて、ゆっくり寝な!」
鬱々としているのは良くないから、気分を上げながら帰ることにした。
ついでに買い物もして帰ろっかな!アムも泊まっていくって言ってるし、夕飯の材料も買って行った方がいいだろう。
何が食べたいとか、欲しい物とか、そういう話をしながら帰路を辿った。




