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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
五章「曰く、蟻の穴から堤も崩れる」
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無理な理由

 中位騎士二人の横に音もなく現れた人影に、二人は見覚えがあった。

 あったからこそ、驚きで動きが止まる。

 そこに居たのはエスティアが姉のような存在だと言って、祭りなどで共に居るところを見かける女性だったからだ。


 二人は中位騎士なので、日々鍛錬を積んでいるし戦闘経験もある。

 それなのに彼女の出現を一切関知出来なかった。

 驚きで止まっている間に、彼女はフラフラと屋敷の方へ歩いて行くエスティアに近付いて、その手を取っていた。


「エスティ」

「は、なせ」

「エスティ。……」


 腕を掴んで、顔を覗き込んで静かな声で名前を呼ぶ。

 大きな反応は見せないエスティアの様子に少し眉をひそめたかと思うと、耳に口を寄せて何かを小さく囁いた。

 何を言ったのかは分からないが、その一言でエスティアの動きが止まる。


 そして、身体がぐらりと傾いた。

 思わず手を出したが、騎士二人の手が届く前に目の前の彼女が軽々とエスティアを抱えて、慣れた様子で歩き出した。

 向かう先は屋敷の敷地外のようだ。


 後ろを付いていき、文句を言いたげに引き返してきた魔法部隊の口を塞ぐ。

 管轄外だからと今まで傍観に徹していたが、明らかな害が出たのでこれ以上は何も言わせるつもりはないのだ。


「……エスティ、起きて」


 屋敷の敷地外に出て、さらに少し進んだところで彼女は止まった。

 そして、エスティアに声をかけて抱えた身体を小さく揺らす。

 その様子を一歩離れて見ていると、エスティアの瞼がゆっくりと開いた。





 脳内に流れ込んでくるのは、屋敷の中の様子。

 立ち入った記憶のない場所だとか、少なくとも廃屋には見えないとか、そういう事を妙に冷静に認識していた。


 逃げ惑う、見覚えのない人を見て、無意識にお母様と呟く。

 なるほど、この記憶の持ち主の母であるらしい。


 屋敷は綺麗なままで、人だけが燃えていた。

 記憶の持ち主もまた、炎に巻かれているらしい。


 熱い、熱いと喉を掻き毟って、痛いと叫んで。

 それでも誰も助けてはくれなかった。なにせ、皆同じ状況だったのだから。


 あいつだ、と急に鮮明な声が聞こえた。

 あいつだ、あいつがやったのだ。そう叫ぶのは、多分記憶の持ち主だろう。


 どうやらこの惨状を引き起こした者に心当たりがあるらしい。

 炎に巻かれたまま屋敷の中を動くその気力は、ちょっと見習いたいなともまで思う。


 憎い、と呟く声に、だろうねぇと緩く返事をする。

 そりゃあ、こんな派手な呪いをかけられたら憎いだろう。


 どこだ、と叫んだ声に、流石にここには居ないんじゃないかなぁと呟く。

 かなり周到に仕込まれた呪いだ。ただ燃やすのではなく、人だけを燃やしている。


 それなりの熟練者が、準備にしっかり時間をかけて作ったものだろう。

 そんな人間が、発動のタイミングでわざわざ屋敷内に残っているとは思えない。


 動いていく視界に身を任せていたら、ふと何かの違和感に気が付いた。

 なんだろうなぁと首を傾げていると、急に名前を呼ばれた。


「んえ?誰だろ」


 私の名前を知っている誰かが、この場に来ているらしい。

 ……この場、は、どこだろう。


 そういえば、ヤバい気配のする屋敷の敷地に踏み入ったんだったか。

 そこで意識を飛ばしていたんだったか。

 この記憶は、あの屋敷のヤバい気配の原因のものか。


 あぁ、じゃあ、帰らないと。

 戻らないと、心配させちゃうな。

 どこに帰ればいいんだろうかとあたりを見渡していたら、上の方に光を見つけた。


「エスティ、起きて」

「アム、いつの間に来てたの?」


 返事はない。まだ、浮上しきれていないらしい。


「アム、このお屋敷どうにか出来るかな」


 まだ返事は来ない。光に近付くと、徐々に体が重くなっていく。


「……アム」

「おはよ、エスティ」


 重たい瞼を持ち上げると、曇天の下で私を見て微笑むアムと目が合った。




 微笑むアムを見て、あ、やっべっという意識がギュンッと出てきた。

 アムのこの微笑みはヤバい。怒ってる時の微笑み方だ。

 なんで怒ってるんだろ。……あ、私が無謀にもあの屋敷の敷地内に入ってったからか。


「アム、あの、あのね……」

「嫌がる女の子を無理やり連れて行く騎士団が居るなんて、グリヴィアは思ってたより平和じゃないんですかねぇ」


 慌てて口を開いた私の声を遮るように、アムの威圧感マシマシな声が響いた。

 ビクッと身体を揺らしたのはちょっとだけ離れてこっちを窺っていた騎士団の面々だ。

 アムが私を抱きかかえる手に力が入った。……下ろしてって言おうかと思ったのに先回りされてるなぁ……これやっぱり私にも怒ってるよなぁ……


「エスティ」

「はい……」

「エスティもエスティだよ。どうせ説明面倒くさがってちゃんと言わなかったんでしょ」

「はい……」


 バレてるなぁ……完全にバレてる……

 ジャックさんとグレンさんが不思議そうな顔をしてこっちを見ているその視線すら痛い。

 これ、ちゃんと説明するまでアムの怒りは収まらない感じだろうか。


 というか、私がちゃんと説明しないとアムから二人に伝わる可能性すらある。

 ……でも、まぁ、こっちに意識が向いている間はあの魔法部隊の人には怒りが向かないんだよなぁ。

 普通に嫌いだし今後一切関わりたくないけど、アムの怒りを向けるのはちょっとかわいそうだからもう少しだけこっちで受け持ってあげよう。

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