舞い込んだ面倒事
鼻歌でも歌いそうなくらいに気分がいいけれど、特にすることも無いような暇な時間に、その面倒事はやってきた。
ちょうど私がお昼ご飯を食べ終わって、今日のお菓子のパウンドケーキも食べ終わって、飲み切ってしまった水を取りに行って戻ってきたタイミングだった。
やってきた面倒事は騎士団魔法部隊の制服を着ていて、ついでに言うと私の知らない人の姿をしている。
「お願いします!」
「いや、だから何度も言ってますけど、うちただの雑貨屋なんで……」
アンシークには騎士団の人がよく買い物に来るけれど、魔法部隊の人はあんまり来ない。
魔法部隊は専門店じゃないと入手できない道具とかが必要だから、そっちに行っているんだろう。
そんなわけで私の知り合いの騎士団魔法部隊所属の人というと、隊長であるイヴィさんと下っ端を自称しているフィンさんの二人に限られるわけだ。
別に不便も無いし興味もないので、他の魔法部隊の人とかは調べたりすることはなかったんだけど、今この瞬間になってその怠惰をちょっと悔やんでいる。
でもまさか、こんな急に面倒ごとに巻き込まれるとは思わないじゃん。
しかもそれを持ってくるのが魔法部隊の人とか、思うわけないじゃん。
「アンシークさんは色んな事件を解決していると聞いています!どうか力を貸してください!」
「いや誰ですかそんな適当なこと言ったの。んなことしてないですから」
この人の中では色んな事件を解決している名探偵のような「アンシークさん」の人物像が出来上がってしまっているようで、私が何を言っても謙遜か何かだと勝手に解釈して認識を歪めやがるのだ。
百歩譲ってその名探偵が本当に「アンシークさん」だったとしても、それは私じゃなくて先代以前の誰かなので私を巻き込まないで欲しい。
「悪霊が居ないと分かれば、作業は再開できます!」
「だっからんなこと私に言われたって困るんですよ、私ただの雑貨屋なんですって」
しかも。しかもだ。この人が私を巻き込みたいのは、シュッツから忠告されていた例の屋敷の件らしいのだ。
そんなん金を積まれたってお断りだ。絶対ヤダ。
なので、もう隠すことも無く面倒だという気配を全面に出しているのだけれど、この人は一切気にしない。もはや気付いていないのかもしれない。
私の言葉を理解する気もないんだろうなと思うような、意味のない問答。
おもっくそため息を吐いても、相手はただお願いしますと繰り返すだけ。
イヴィさんったら部下にどんな教育してんだろう。今度会ったら全力で文句言ってやる。
ここには居ないイヴィさんに脳内で不満をぶつけていたら、扉がカランコロンと音を立てて開いた。
お客さんが来たなら、この魔法部隊の人には早々にお引き取り頂かないといけない。
今のアンシークの客層は若い女性がほとんどなので、騎士団の人と何か言い争っている店で買い物するような肝の座った人は中々居ないのだ。
そう思って扉の方を見たら、そこには騎士団の鎧を着た人が立っていた。
まさかの騎士様追加である。でもよかった、魔法部隊の人を連れ帰ってくれるかもしれない。
しかもこの騎士様は魔法部隊の人がどうしてここに居るのかも知っているようだ。屋敷の件に関わっている人なのかもしれない。
「お願いします!」
「ですからね?何度も言ってますけどね?私はただの雑貨屋の店主で、名探偵でも祓い屋でもないんですよ」
押し問答を繰り返しながら、騎士様に早く連れ帰ってくれ~と念を送る。
けれど、口を開いた騎士様が言った言葉は私が望んだものではなかった。
「アンシークさん、無理を承知でお願いできませんか」
「……は?」
「例の件、ずっと手詰まりの状態で、こいつもかなり限界が近くて……」
知らねぇが?という言葉は、どうにかこうにか飲み込んだ。
顔見知りや友人ならともかく、顔も知らない魔法部隊の人のために動いてやるほど私は優しくないのだ。それに何より、その屋敷には近付くなと念を押されている。
そもそも私に何を望んでいるんだ。こんな雑貨屋で時間を浪費している暇があるなら、なぜか帰って来れないらしい祓い屋でも連れ戻しに行って来たらいいのに。
「結果はどうであれ、一度調べたという事実があればこいつももうここには来ないと思うので」
「だから頼むところを間違えてるんですよ。ここは雑貨屋で、人材の貸し出し所でも祓い屋でもないんです」
「お願いします」
「無理です。そもそも私お化けとかそういうのがまず無理なので」
ここには来ないってのは普通の事だろうがよ。
意味のない押し問答を続けている苛立ちで、どんどん口調が荒くなっていく。
どうにかこうにか表には出していないが、さっさと帰ってくれないと思い切り舌打ちとかしちゃいそうだ。
「アンシークさんの魔力は特殊だと聞いてます!何か分かるかもしれないじゃないですか!」
「だからぁ!」
苛立ちが抑えきれなくて、思わず大きな声を出してしまいそうになったところで再びカランコロンと扉の鈴が鳴った。
顔を向けると、そこには常連の女の子が立っている。
あぁ、もう。こうなっては押し問答をしてなどいられない。
「帰って下さい。営業の邪魔です」
「お願いします!」
「だから、」
「お願いします!」
「あぁもう!分かったから帰って下さい!」
時間制限は、こっちにしかないのだ。
来てくれるんですか!?と調子よく声を明るくした魔法部隊の人を何でもいいから早く帰れと押し出して、騎士サマは睨んでおく。
そうしてやっと帰った二人が窓から見えなくなったところで、カウンターに手を付いて深ーいため息を漏らすのだった。




