謎の視線
毎日忙しいこの時期の仕入れは、回るところがいつもと違ったり量が多かったりと中々大変だ。
普段は割と女性向けの小物とかが多いんだけど、騎士演舞が終わるまではペン先とかネクタイピンとかいつもとは違う感じのハンカチだとか、そういうのを大量に仕入れないといけない。
楽しいっちゃ楽しいんだけどさ、疲れはするよね。
「よーっしゃ、行きましょうジャンさん!」
「おう!気合入れて行こうぜ!」
あんまりにも大変なもんだから、私もジャンさんもテンションがバグっているくらいだ。
むしろこのテンションで行かないとしんどいまであるからね。馬鹿みたいにはしゃいでいけぇ~。
うおーっと意味もなく拳を突き上げたりしながら、事前に決めておいた順番通りに仕入れ先を回っていく。
マジでこの時期がアンシーク一番の繁忙期と言っても過言ではないので、一回じゃ荷物が運びきれなくて半分回ったらアンシークに荷物置きに行かないとなんだよね。
ちなみに先代が店主をやってた頃は、この時期の仕入れ日は先代が仕入れに行って私は店で棚の並べ替えをしたり商品を箱に並べたりしていた。
棚の隙間に箱をねじ込んで並べる時間を無くすスタイルは、先代から引き継いだものなのだ。
「サクサク行きますよぉ!次はレガンホールです!裏から来いって言われたので、裏に向かいましょう!」
「おう!つーことはこっちだな!」
「はい!!」
今日の仕入れ、ずっとこのテンションだからね。
道行く人がちょっとびっくりしているけど、そっちに気を使っている余裕はないのだ。
ふと素に戻って「何してんだろ私……」ってなる前に仕入れを終わらせなければいけないのだ。
そんなわけで仕入れ先を回って荷台がかなり埋まってきた時、なにやら妙な視線を感じた。明らかに知り合いのものではない、観察されているような視線。
……なんか、ちょっと嫌な感じだな。
すぐに外れたのでとりあえずは気にしないことにしておく。何せ仕入れの最中だからね!
「次!アンシークです!」
「おう!」
そんなわけで前半戦が終了。一度アンシークに戻って荷物を下ろし、さっき回っていたのとは逆サイドへ出発する。
後半戦だぁ!こっちはでかいものが多いぞぉー!!
ラング爺さんの所は騎士演舞の後に行くことにしているからスルーして、向かう先は……
「ヴェロチカです!あっち!」
「おう!」
仕入れに集中していたら視線の事なんてすぐに忘れて、日暮れが早くなってきているからと急いで回って今日の仕入れは終了した。
あー疲れた。テンションは最後までもったけど、正気に戻った瞬間に全ての疲れがどっと押し寄せてきた。ジャンさんもげっそりしてる。
「んじゃ、お疲れ様でしたー……」
「お疲れさん。ちゃんと飯食えよー」
「はーい」
一気にテンションが低くなって元気のない会話をして、ジャンさんと別れたところで昼間にも感じた謎の視線を、また感じた。
……分かりやすく、私が一人になる瞬間を待ってる感じだ。
本当は夕飯食べて帰るつもりだったんだけど、家に食材もあるしさっさと帰ることにしよう。
幸いまだ人通りの多い時間帯だし、アンシークは大通りからは少し外れているものの目の前の通りはそれなりに大きいしすぐそこだ。
道行く人が途切れることはないだろう。
向かう先が決まったら、視線には気付いていないふりをしてグッと伸びをしてから帰路を辿る。
アンシークの中に入ってしまえば早々事件は起こらないからね。
うちの店本当に防犯意識高いから。意味わかんないほど防犯意識高いから。
入る時も裏口ではなく正面から入ったほうが良さそうだから、何食わぬ顔でテクテク歩いてアンシークの店の入口の扉を開けて中に入り、速攻で扉と鍵を閉める。
今日はお店休みだったからカーテンはずっと閉まっていて中は見えないので、とりあえずこれで安全かな。
扉を叩いたりとか開けようとしたりとかも無いから、一旦落ち着いて良さそうだ。
顔に出さないようにはしてたけどそれなりに緊張感があったから、一気に気が抜けてお腹が空いてきた。
「……うっし、飯作るか」
一度深呼吸をしてから奥へ進み、念のため戸締りを確認してから二階に上がる。
はー、疲れた。お腹は空いたけどあんまり手間はかけたくないし、ベーコンと卵でも焼いてパンに乗せて食べようかな。
スープはいいや。面倒だし。
お茶くらい淹れようかなぁと思ったけれど、それも面倒なので水でいいか。
水がうめぇんだ結局。まぁそんなわけでダラダラと夕飯の準備をして、さっさと食べてシャワーを浴びて寝ることにした。
明日は普通に営業だからね。ある程度しかやってない仕入れた物の仕分けとかもやらないとだから、早く寝て早く起きないといけないのだ。
視線の事は気になるけど、アンシークの中にまで影響を及ぼせるようなものではないみたいだし、あんまり考えすぎるのも良くないだろう。
明日にでもシュッツに頼んでおけば、すぐに正体も分かるだろうしね。
そんなわけで私は寝る。おやすみ。




