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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
四章「曰く、色事は銘々稼ぎ」
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小さな事件 2

 午後の柔らかな日差しに零れた欠伸を噛み殺し、読んでいた紙を置いてグーっと伸びをした。

 収穫祭が終わってひと段落だけど、もう少ししたらまた忙しくなるからこのゆったり加減は今だけだ。なのでのんびりした時間も楽しんでおかないとね。

 まぁ、その間に書類仕事をしないといけなくはあるからただ楽しんでも居られないんだけど。


 面倒だけど今のうちに終わらせないとなぁ……

 なんて考えつつ天井を眺めてボーっとしていたら、扉の鈴がカランコロンと音を立てた。

 聞こえた瞬間速攻で身体を起こして営業スマイルを張り付け、扉の方に顔を向ける。


 我ながら素晴らしい反応速度だった……

 大丈夫、今代アンシーク店主もちゃんと仕事してますよー。

 なんて誰にするわけでもない言い訳を並べている間に扉が開いて、見覚えのあるお姉さんが入ってきた。横には知らない男の人もいる。


「いらっしゃいませー、この前のおねーさーん」

「こんにちは、この前はどうもありがとう」


 わーい、と一瞬店主の顔を作るのを忘れて両手で手振っちゃった。

 まあいいか。お姉さん笑って手を振り返してくれてるし。

 なんてやっていたらお姉さんの横に居た男の人がカウンターに歩いて来ていた。


「先日は、妻を助けていただいて、ありがとうございました」

「いえいえ、たまたま店の横に居たから首突っ込んだだけですよ」


 なるほど、旦那さんだったのか。勢いよく頭を下げられたからちょっとびっくりしちゃった。

 私としては仲良さげなご夫婦の様子を遠目に眺めさせてもらえればそれで満足なんでね。あんまり気負わないでくださいね。

 というかもう、ご夫婦で来店してもらっただけで満足まである。ありがてぇ……ありがてぇ……


「これ、よければ召し上がって下さい。先日のお礼です」

「わあ、ありがとうございます」


 ご丁寧に菓子折りまで貰っちゃった。これ、老舗焼き菓子店の高い方の箱入り菓子だぁ。

 嬉しいので遠慮せずに受け取って、次にアムが来るのはいつかなーなんて考える。

 自分では買わない美味しいものだからね、出来るだけ共有したいよね。


「それと……この魔道具、買い取りたいんだけど、いいかしら」


 そう言って見せられたのは、落ち着いたら返しに来てくれれば、と押し付けたままにしていた防御の魔道具だった。

 なるほど、買い取ることにしてくれたんですね。

 今後同じことが無いとも限らないので、そういうのを一個持っていると安心なのも確かだ。


「もちろんです。一応改めて使い方とかの説明をさせてもらいますねー」


 この前は投げ渡してそのままにしちゃったから今更感はあるけど、でもまあ説明は必要だよね。

 そんなわけでちょっと待っててもらって奥から説明の用紙を持ってきた。

 これは知り合いの魔道具職人が作っているものなので一から十まで説明が出来るのだ。


「ここが起動スイッチです。押すと起動、もう一度押すと停止します。起動より停止の方が強い力が必要なので、間違って切るってことは早々無いと思います」

「あぁ、妻では固すぎて押せなかった」

「なら大丈夫ですね。魔力効率はかなりいいので、丸二日くらいなら起動しっぱなしにも出来ます」


 説明しながらボタンを押して、カチッと音が鳴ったことを確認する。

 横の部分が光っていたら起動状態ですよ、と説明を追加して、気合でボタンを押し込んで停止させた。

 雑貨屋店主の指をなめちゃぁいけない。無限に伝票に穴開けたりしてる日もあるからね。なんか自然に強くなってたよね。


「魔石はここに入っています。この部分をコインか何かで回してもらうと……こんな感じで蓋が取れます。魔石は充填可能なものなので、切れたらどこかの店などで補給してください。アンシークでも承ってます」


 中の魔石は綺麗な紫色をしていた。

 魔力が切れると透明になるので、これはまだまだ十分な魔力がある。

 ちょっとだけ足しとこ、とバレない程度に魔力を足してから蓋を閉めて、今度は持ってきた説明の用紙を差し出した。


「詳しいことはこの紙に書いてありますが、これは使用者が拒みたいと思ったものを弾く魔道具になっています。

 お姉さんはあの日、男たちの事を全力で拒絶したので強い雷系の魔法が一瞬出てました。強く拒絶するとその分強く弾きます。代わりに魔力の消費もちょっとだけ上がります」

「それで、貴女のことは弾かなかったのね……」

「はい。危機感を感じただけでも発動するらしいので、護身用としては便利な道具だと思いますよ」


 とりあえず私からするべき説明はこれくらいかな。

 他に何か疑問などあるかと聞いてみたが、特には無いと笑顔を向けられた。

 そしてそのままお会計をして、包まなくていいと言われたので抜身のまま渡す。


 まあ、ぽっけに直入れの方が使いやすいですしね。

 なんて思いながら去って行くご夫婦を見送って、営業スマイルをただの笑顔に切り替えた。

 グッジョブあの日の私。お前は非常に良い仕事をしました。


「はぁ~~~水うめぇ~~~」


 最高の夫婦だったな……と幸せを噛みしめて、コップの水をあおる。

 またのご来店を切実にお待ちしてよう……もう最悪ご来店は無くてもいいけど、二人で末永く幸せに暮らしてくれ……

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