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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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事の始まり 2

 カヌレの包みを開けながら、アイラック商会についての記憶を引っ張り出してくる。

 黒い噂、ねぇ……評判のいい商会だけどなぁ。そういう所の方が裏で何かしらーってのは言われがちなことではあるけど。


「私は聞き覚えないですよ。というかそういうのって騎士団の仕事なんです?」

「普通は警備の方に行くんだが……今回はジェンズビー子爵が関わっているという話だからこちらに回ってきたんだ」

「へぇ。そもそも黒い噂って、どういう方向で?違法にしてもいくつかありますよ」


 カヌレ美味しー。……じゃ、なくて。

 普通の商会じゃなくて貴族のお抱えってところが面倒になってるのかな。

 それだけで黒い方向に出来ること一気に増えるからなぁ。やる気は当然ないけど、まあ話はいくらでも聞くからなぁ。


「違法に改造されたダンジョンアイテムの販売、禁止されている薬物の販売……その他、裏取引だな」

「ダンジョンアイテムって改造出来るんですか」

「出来なくはないけど……大体は違法だよ。無理に出力を上げて暴発するとかよくある話だし」

「そうなんですか。まあ、売買が主な違法行為なら取引相手から情報が漏れたってことでよろしいですか?」

「いや、匿名の情報だ。どこまで本当か分からないからなるべく情報を集めたい」

「なぁるほど。とりあえず現状私はそういう話はアイラック商会関係では聞かないですね。あそこ働く側からしても取引側からしてもいい商会ですよ」


 食べ終えたカヌレの包装紙とサンドイッチの包装紙をまとめてごみ箱に入れ、手を拭いて水を飲む。

 色々思い返してみたけれど、アイラック商会がそういうことをやるとは思えない。

 やりそうな商会は他に……いや、これは言わない方がいいか。


「もしならアイラック商会との取引記録持ってきましょうか」

「あるのか?」

「はい。大体残してありますから」


 うちでしか取り扱ってない、というか職人と繋がってない商品がちょっとだけあるので実は色んな大手商会と取引記録があるんだよね。

 何か問題があった時のために記録はよほどのことがない限り保管しているから探してくるのがちょっと大変なくらいしか問題はない。


「少々お待ちをー」

「ああ」

「ゆっくりでいいよ」


 裏に引っ込んで棚から書類をごそっと取り出す。

 えーっと、確かここら辺だよなぁ。このくらいの時期に取引があったはず。

 ごちゃごちゃにしないように気を付けながらせっせと探すと一枚だけだが取引記録が出てきた。


「ありましたよー」

「早かったな」

「まあ、珍しい取引先は記憶に残りますから。どうぞー」


 見ればとりあえず分かるように書かれているので見てもらえれば分かるだろう。

 分からないところは聞いてもらえれば答えられるし。

 持ちだされるのは流石に了承出来ないのでここで全部解決していってもらおう。


 書き写すくらいならまあ、別にいいけども。これ一つ写されてなにか不味いわけでもないし、秘匿義務とかもない取引だし。

 普通に大っぴらに出来る罪の欠片もない取引しかしないのがアンシークのこだわりです。

 ……って、先代がなんかの時にぶち切れていたので私もそれに倣っている。


「これが取引の物品、で良いんだよね?」

「はい。ラング爺さんのランプを二個、だったはずですね。うん」

「ラング爺さん……?」

「ラングエス・シャルベって職人さんです。うちと……もう一件くらい取引先あるって言ってたっけな……まあ、仕入れられるのがうちくらいなんですよ。結構有名なランプ職人らしいですよ」

「へぇ……あ、もしかして前にガラスケースに入ってたランプ?」

「それですそれです」


 先代の頃からうちに作ったランプを置いているらしく、私は割と可愛がってもらっているが頑固な職人然とした人なのでお弟子さんは大変そうだ。

 それでも逃げださないのは技術にほれ込んでいるからなんだろう。

 確かにすごい綺麗なんだよなぁ。熱狂的なファンとかついてるし。そのせいでちょっとした面倒ごとに巻き込まれたこともあるくらい。


「確かになにもおかしくない取引か……」

「そうでしょう」

「まあ、アンシーク相手に下手なことする商会が珍しいか」

「……前から思ってたんですけど、騎士団のアンシークに対する信頼感ってなんでそんなに高いんです?有難いですけど」

「付き合いが古い、というのが大きいのだろうな」

「あとはたまーに事件解決の協力者ってとこにアンシーク店主、って書いてあることあるよね」

「何代目だろう。三代目とかですか?色々逸話の残る人ですけど」


 私は先代、つまりは五代目店主としか会ったことがないが、五代目は三代目のことを「二百くらいまで生きると思ってた」って言ってたくらいだ。

 騎士団と確固たる縁を築いたのは二代目だったはずだけど、それをより強固にしたのが三代目なのかもしれない。

 知る人が皆違う逸話を知っている愉快な人だからね。


 なんて雑談もしつつ覚えている限りアイラック商会とのやり取りを語る。

 まあ、普通に良い取引だったなぁという感想しかないのでそれ以上は何も言えなくて申し訳ない限りだ。


「とりあえず今回は撤収かな」

「ああ。あまり長く店を閉めさせるわけにもいかないか」

「いえいえ。お役に立てず申し訳ない」

「いや、急に来たのはこちらだ。エスティアが謝る事ではない」

「そうだね。まあ、何か情報が入ったら教えてくれるとありがたいな。俺たちじゃ聞けないような噂とかもあるだろうし」

「分かりました。何かあればお伝えしますよ」


 去って行く二人を店の外まで見送りに行き、そのまま閉めていた店を再び開ける。

 あまり踏み込み過ぎるのは良くないけど、ちょっと手伝うくらいならいいかなぁなんて考えながら大通りを眺め、道行く人を目で追っていく。

 ……そろそろ日永の祭りがある頃だし、それまでには終わったほうが気持ちもいい。


「ま、ちょっとくらいならね」


 ぽつりと呟いた声は誰にも聞かれず消えていき、浮かんできた欠伸を噛み殺して水を飲んだ。

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