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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
三章「曰く、禍福は糾える縄の如し」
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油断の行く末 2

 徐々に暗闇に慣れてきた目は、この小部屋の情報をもっと詳しく拾ってくる。

 よく見ると宝箱のようなものが置いてあったりするので、元々こいつの住処って訳ではなく、こいつがこのいい感じの小部屋に後から住み着いたようだ。

 人がここを探索した気配は……しないな。少なくとも一ヵ月は誰も足を踏み入れてない感じがする。床に積もった埃に人の足跡は無いし、なんなら宝箱は開けられてないんじゃないか?


「未発見部分は不味いぞ……」


 そうなったら無理をしてでも自力で脱出しないといけないかもしれない。

 ……でもなぁ、足を咥えて運ばれたせいで、実は立つのもしんどかったりするんだよなぁ。

 壁伝いに足を引きずってどうにか、って感じなので、あのモンスターが追いかけてきたら逃げきれないし、そもそもダンジョンの中を進むのが無謀な感じ。


 これは自分の不運を呪っていいレベル。なんで私なんだよぉ……くそー……

 今度実家に帰ったら、何かしら巻き込まれ対策アイテムでも作ってもらおうかな。

 多分なんかしらくれるでしょ。……まぁ、今のこの状況はどうにもならない訳だけどさ。


「……あ、戻ってきた」


 脱出方法やら今後の事やら、現実逃避気味に色々考えていたらモンスターが戻ってきた。

 一応物陰に隠れる感じに移動はしているけれど、意味はないだろうなぁ。

 とはいえ今すぐに私を食べるって感じでもなさそうだ。


 でもまあ、モンスターの考えることなんて分からないしなぁ……

 こいつの心変わりが先か、シュッツが来るのが先か。シュッツじゃないと困るけど、まだ駆け込んでこないのは何かしているからなのだろう。

 食われる前に来てくれれば何でもいいや。最悪の場合、自分でどうにか出来なくもないしね。


「ゥバウ!」

「鳴き声は犬だねぇ、お前。それ以上こっち来んなぁ~?」


 自分で連れてきたくせに私に向かって思い切り吠えてくるモンスターに緩く話しかけながら、ズリズリと後ろに下がる。

 小部屋の入り口を確認してみるも、誰かが来る気配は無い。

 しかしモンスターは私が下がった分だけ距離を詰めてきている。


「……オーケーオーケー、こっち来んなって言ってんだろ?」


 何もオーケーではないけれど、そんなことを言いつつジリジリズリズリ後ろに下がる。

 しかし元々広くはない小部屋で、投げ捨てられて跳ね返った位置に居たのですぐに壁まで追い詰められてしまった。

 私はこれ以上下がれないのにモンスターは一定の速度で距離を詰めてくる。


 そして、何か合図でもあったのか急に飛びかかる前のような姿勢になった。

 ……これは、シュッツは間に合わなかったかな?

 状況を確認する。相手を確認する。覚悟を、決める。


「あんまり、やりたくなかったんだけどな」


 ぽつりと呟いて、飛びかかってきたモンスターを眺める。

 やけにゆっくり動いているそれに照準を合わせようとして、小部屋に飛び込んできた人影に気が付いた。

 見覚えのあるその人影をしっかりと見て、上げかけていた手は頭を庇う形に持っていって姿勢を出来る限り低くする。


 直後、頭の上を高速の何かが通過した気配と、何かが壁に当たる爆音が響いてきた。

 ついでに衝撃で体勢を崩してコロンと横に転がってしまう。

 うへぇ、ひっくり返っちゃった……頭庇っといてよかった……


「エスティ!」

「エスティアちゃん!」

「おあぁ……無事ですぅ……」


 駈け寄ってきたらしい足音を聞いて、ゆるりと手を挙げる。

 シュッツとフィンさんと……ジャックさんとグレンさんも居るみたい。

 なんだか大事になっているなぁ。まぁ、一般人がダンジョンに引きずり込まれたんだから大事か。


「怪我……無いわけないか。よし、とりあえず出よう」

「はぁい」

「エスティは自分が運ぶよ。騎士様方は前後の対処をお願いしても?」

「ああ」

「分かった。行こう」


 フィンさんに抱え上げられて、黙っているシュッツの方を見る。

 全面的に心配ですって顔してるなぁ。なんか色々気にしてそうだから、あとでゆっくり話をしよう。

 とりあえず今はフィンさんにしっかり掴まっていないと落ちそうだ。


「もうちょっとで出るよ」

「はぁい。……速いなぁ」

「はは。このまま騎士団の救護室行くから、もう少し我慢してね」

「大丈夫です」


 モンスターに引きずられてた時は余裕がなかったからとんでもない距離を移動したような気がしていたのだけれど、安心感の凄い状態で高速移動していると思ったより早く外に出た。

 外にも何人か騎士団の人が居て、ジャックさんは状況の説明をして後で合流するらしい。

 流れるような連携だぁ、なんて呑気に考えている間に騎士団所有の建物に到着して、そのまま中に運び込まれる。


「よおエスティ。災難だったな」

「あ、イヴィさん。今日はシラフです?」

「当たり前だろ。仕事中だ」


 運ばれた部屋は言われていた通り救護室のようで、白衣を着た人と今日はシラフらしい魔法部隊の隊長さんがいた。

 ベッドの上に降ろされて、痛いところを聞かれたので足と答えてされるがまま大人しくしておく。

 フィンさんはイヴィさんに何か軽い報告をしているみたいだ。


 こうしているとちゃんと偉い人に見えるなぁ、なんて呑気に考えつつ、靴に牙の形の穴が開いていることに気付いてオアァ……と声が漏れる。

 お気に入りだったのになぁ。まあ、靴がそれなりに厚いおかげで足のケガも大したことは無さそうなのが唯一の救いだ。

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