油断の行く末
本日最後のお客を見送って閉店作業を終わらせて、エプロンを外して裏に置いておいた荷物を持って外に出る。
買う物を思い返しつつ、とりあえず魚屋から見ていくかなーと商店街に向けてのんびり歩く。
どの道を通って行こうかとちょっと考えて、そろそろ暗くなってくるし最短距離で行ってしまおうと速度をちょっとだけ上げる。
アンシークから商店街の方に向かう最短ルートは、ダンジョンの入口が出現した道のすぐそばを通るのだ。一応今日まで気にしていたのだけれど、いい加減もういいだろうし時間がかかる方が問題な気もする。
夜遅くに外を一人でウロウロしてると知り合いからこぞって心配されるからね。私もうそんなに子供じゃないんだけどね。
そんなわけで、最短ルートでさっさと行って帰ってくることにした。
「うお、ここの街灯壊れてるのか……」
ダンジョン出現の影響で壊れたのか、いつもよりずいぶん道が暗い。
今はもう通ってしまっているからこのまま行くけれど、帰りは面倒でも別の道で帰った方がいいかもしれないなぁ。
とりあえず早く抜けようと小走りに進んで、もう少しで大通りに抜ける、というところで何かが近付いてくる気配がした。
勢いよく振り返ると、そこには獣のような何かが居る。
四足歩行で、恐らく私の腰辺りまである体躯なので後ろ足で立ち上がったら私より大きいんじゃなかろうか。そんな何かが、確実に私を見ていた。
こーれは……久々に本当に不味いのでは?
一拍遅れて危機感が追い付いて、走りだそうと思ったそれを行動に移す前に向こうが動いて足を噛まれた。
「おっま何して……うおあぁぁ!!?」
思わず口を突いて出たわるわるな口調は、足を噛んだそいつがそのまま走り出したことで強制キャンセルを食らった。
……なんて、冷静に考えてる場合じゃあ無いんだが?
私、謎のモンスターに足噛まれてお持ち帰りされてるんだが?
命の危機なんだが~!?
「お前どこ行くつもりだぁー!」
叫んだ声に、当然返事はない。
そりゃそうよね。こいつ言葉を理解してるようには見えないもん。
というか、誰かの指示だったって方が面倒だから入り込んだ野良モンスの方がマシか。
……いや、まあ、どっちにしろ不味いは不味いんだけどさ。
どうしたもんかなーこれ。というかこいつどこに向かってんのかなー。
もう一周回って冷静になってきたわ。
「……あ、そうだ。シューッツ!!あと頼んだー!」
声を魔力に乗せて、一言大きく叫んでおく。やんなくてもどうにかしてくれはしそうだけど、一応叫んどいたほうがどうにかなるような気がするからね。
これでも一応足を振りほどこうとしてみたり、どっかに掴まれないかとやってはみてるんだけど全然駄目だからもうシュッツに丸投げしよ。
出来ることはやった。私は頑張った。
「って、お前まさかダンジョン潜る気か!?」
内心で自分に拍手を送っていたら、モンスターの目指している先が見えてきた。
人は入れないように規制されたダンジョンの入口だけれど、このモンスターは別の入口を知っているらしい。
……というか、もしかしてダンジョンから出てきたのかな。
「ほんとに入りやがったー!うわーん!」
もしかしたら別の所じゃないかなーとか期待してたんだけど、当然のようにダンジョンに入って行ってしまった。
規制用ロープの下をくぐって、止まりもせずにダンジョンを駆け抜けていくその姿に最早感動すら覚える。
……これどこまで行くんだろう。私、ダンジョンの中とか全然入ったことないから深いところまで行かれると困るんだけど。ちなみにもう既に困ってるんだけど。
道を覚えるなんてことももう出来ないので、早く止まれーと念じていたら、モンスターは急に止まって私を置くにぶん投げた。
なにしやがるてめー!と叫びながらとりあえず頭を守って衝撃に備える。
床か壁にぶつかると思ったのだけれど、思ったより柔らかい何かにぶつかってちょっと跳ね返った。
「埃っぽ……何ここ……」
暗いなぁ、埃っぽいなぁ、とぼやきながら周りを見渡すと、どうやらダンジョン内の小部屋状の場所のようだった。
んで、私がぶつかってちょっと跳ね返ったのはボロボロの布。なんでこんなものが?
というかあいつ、私をここまで連れて来てどうするつもりなんだ?
ここがあのモンスターの住処なのか、周りには他にも雑多に物が投げ捨てられている。
ダンジョン内で捨てていかれたものだったり、あいつが奪い取ってきたものだったりするのかな。
……という事は私は戦利品なのでは。それならまだいいけど、今晩の夕飯だったとしたらちょっと時間に余裕がない。
私を巣に投げ込んで満足したのか今は姿が見えないが、あれが戻って来ないとも限らないのだ。
自力での脱出は難しいので一旦ここに留まるしかないんだけど、外に救難信号を出す方法とか考えるべきかな。
最悪本気で食べられそうになったらどうにか出来る手段がなくもないから、一度落ち着いて状況整理から始めよう。
ここに駆け込んで来てないってことは、シュッツが何かしらしてくれてるはずだしね。




