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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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事の始まり

 くあぁっと欠伸を零して、手元の紙に目を落とす。

 はぁ~やる気でないなぁ~なんて思いつつ先月の売り上げと純利益をせっせと記録していく。

 やってはいるけどやりたくないから誰か来店しないかなぁ、とグダグダダラダラ手を動かし、時々大通りに目を向けていい感じの二人組が居ないか探す。


 もうかれこれ二時間くらいやってるからいい加減集中力も限界なんだよね。

 来店すぐに常連のお爺ちゃんが来ただけでそれ以外のお客さんが居ないのもやる気が消え去っている理由の一つ。

 他にすることも無いし、ため込んだら絶対嫌になるからと思ってやってはいるんだけど……もうやだ飽きた。と、背もたれに寄っかかって溶けていたら、カランコロンと扉の鈴が音を立てた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちはー」

「ああ、スクレ君。こんにちはー」


 入ってきたのは、パン屋の少年だ。

 大通りにあるビヤンネトルというパン屋の息子さんで、昼時に歩き売りをしているのだ。

 アンシークには十二時近くになると売りに来てくれる。先代が店主をしている時からのお付き合いで、この歩き売りのおかげで昼食が確保されている。


「今日は何ですか?」

「今日はハムと卵とレタスのサンドイッチだよ」

「お菓子は?」

「カヌレ」

「お、いいねぇ」


 日替わりでサンドイッチと焼き菓子を売っているので毎日飽きがこなくて有難い。

 しかも今日のお菓子はカヌレらしい。大当たりの日だ。

 まあ何でも美味しいから大体いつでもあたりの日なんだけどね。


「カヌレ一個でいい?」

「うん。おいくら?」

「四百七十コルメになりまーす」


 レジを開けて代金を払い、商品を受け取ってそれぞれ物の確認をする。

 売り物が無くなる前に、と売りに来てくれているから、この後の方が忙しいんだよね。

 なのであんまり引き留めてもいけない。そんなわけで去って行くスクレ君に手を振って見送り、さっそくサンドイッチの包みを開ける。


 ぎっしり詰まった具を落とさないように頬張って、しゃきしゃきなレタスの食感を楽しむ。

 パンに塗られたバターとの相性が非常に良い。

 卵に何か特別な味付けでもしてるのかな。ただ焼いただけとは思えないほど美味しいんだよなぁ。


 今日はお客さんもいないからのんびり食べていてもいいだろう、と油断しきって頬張っていたらカランコロンと入り口の鈴が音を立てた。

 ……やっべ。


「い、いらっふぁいまふぇ」

「……すまない、食事中だったか」


 飲み込めないまま扉が開いてしまい、慌ててそのまま声を出してしまった。

 とりあえず口元は抑えてさっさと飲み込む努力をしよう。

 ご来店されたのは騎士団のジャックさんとグレンさんだった。二人が揃ってきたということは何か騎士団の方で問題でも起こったのかな?


「んっし。すみませんね、いらっしゃいませ。何をお求めですか?」

「今日は買い物じゃないんだ。エスティアちゃんの話を聞きたくて」

「えーなんですか。私何も悪い事とかしてないですよ?」

「いや、そういう意味ではなくてだな。エスティアの方が知っている話だろうから何か分からないかと」

「ふーむ。なるほど?とりあえず一旦お店閉めるので待ってくださいね」

「ごめんねー」

「いいえー。騎士団云々は出来るだけ受けろって二代目からのお言葉があるのでね」


 なんだか長くなりそうな気配を感じたので、とりあえず店を一旦閉める。

 外の明かりを消して扉に鍵をかけ、出窓のカーテンを閉めておく。これで開いてないのは分かるし急ぎの人は閉めてても扉を叩いてくるからノックされたら出ればいい。

 店はこれでいいので、後は椅子くらい出そうと裏から折り畳みの椅子を引っ張り出してきた。


「よし。じゃあとりあえず、話聞きながら残り食べてもいいですか?」

「ああ」

「それどこのサンドイッチ?」

「大通りのビヤンネトルってパン屋のですよ」


 私はカウンターの内側にいつも通り座り、二人には椅子を渡して好きに腰かけてもらう。

 まあ、二人とも普通にカウンターの外側に並んで腰かけているので最初からそこに置いても良かったかもしれない。

 とりあえず了承を貰ったのでサンドイッチの残りを食べつつ、騎士団の中位騎士二人がわざわざこんな雑貨屋にまで話を聞きに来るような面倒ごとに話を振った。


「それで、どうなさったんです?」

「アイラック商会を知っているか?」

「ふぁい。……まあ、そりゃあ知ってますよ」

「そのアイラック商会と繋がりのあるジェンズビーって貴族は?」

「あー、お抱えですよね?濁音の多い名前だなぁと思った覚えが」

「まあ確かにそうだけど一番記憶にあるのそこなんだ?」


 あんまり興味なかったのにとりあえず覚えていただけ褒めて欲しい。……まあ、有名な商会だし覚えていて当然っちゃあ当然なんだけども。

 それがどうしたんです?と続きを促してサンドイッチの最後の一口を頬張る。

 このままカヌレ食べ始めたら流石に怒られるかな?


「少々黒い噂が立っていてな。何かそういう話を聞いたことはないか?」


 のんきにカヌレの事を考えている女にする話ではない気がしてきた。

 というか、それって騎士団の仕事なんです?

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