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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
三章「曰く、禍福は糾える縄の如し」
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慌ただしい日 2

 日が沈んだ後、閉店作業をしていたらシュッツがやってきた。

 とりあえず中に入ってもらい、さっさと店を閉めて二階に上がる。

 アムなら勝手に飲み物を淹れているところだけど、シュッツは大人しく座っていたみたいだ。


「なんか飲む?」

「あ、淹れるなら僕が」

「いや座ってたんならそのまま座ってなよ」


 あ、はい……と大人しく座り直す姿が何だか滑稽だ。

 外で見かける時は顔の良さを存分に使って男女問わずたらしこんでいるように見えるけど、こうなっては昔と欠片も変わらない。

 ふふっと軽く笑い声を零すと不満げな目線が送られてきたので軽く睨んでおく。


「ゴメンナサイ……」

「弱ッ」


 あまりにも早い撤退に感想を零しつつお湯を沸かし、湧くのを待っている間に一番手前にあった茶葉の缶を取り出す。

 これな~んだ。ふむ、この前誰かに貰ったやつだ。

 確か美味しかったって記憶があるので、まあ人に出してもいいだろう。そもそも人に貰ったって時点で自分で買うやつより美味しいしね。


「ほい、どうぞ」

「ありがとう。いただきます」


 お茶を出して向かい側に座り、とりあえずお茶を啜る。

 あっつ。熱くて味分かんねぇわ。

 シュッツは何で平然と飲んでるんだろうね。舌狂ってんじゃないの?


「んで?ダンジョンの入口?」

「そうそう。気になってるかなって」

「ま~ね。どうだった?」


 お茶を冷ましながら聞いたら、シュッツは腰に付けているポーチから地図を取り出した。

 既に何か書き込まれているこれは、グリヴィアの地図のようだ。

 ふんふん、アンシークがここ。ギルドがここ。んで、この丸のところが?


「ここが入口が出現した場所」

「空地?」

「うん。ちょうど空地だったから被害はそんなに出なかったみたい」

「へぇ、不幸中の幸いって感じだね」


 これなら規制もしやすいだろうし、ちょっと横にずれてたら家が倒壊してとんでもない被害が出てただろう。

 いい感じに隙間を縫って出てきたみたいだ。もしかしてそうなるように何らかの力でも働いてるのかもしれない。

 ……いや、入り口出現で家が壊れた話とか聞いたことがあるし、偶然か。


「とりあえず入れないように通行が規制されてて、ギルドの方でダンジョン内の地図を再構成してるところらしいよ」

「思ったより早く落ち着きそう?」

「まあ、そんなに長引きはしないかな?塞ぐにしても解放するにしても、長くて一ヵ月で終わると思うよ」

「そっか、なら良かった。……けど、魔力の方はどうなるかな。正直酔いそうでしんどいんだけど」

「それも騎士団の魔法部隊が動いてるみたい。エスティだけじゃなくて、体調不良を訴える人が割と出たみたいだから」


 騎士団の魔法部隊、ってことはそのあたりはフィンさんに聞いてみればいいかな。

 また近いうちにお茶しましょうねーって言ってるし、それの前に治まるならそれでもいいわけだし。

 なんであれ早く治まって欲しいな、なんてぼんやり考えていたら、シュッツは時計を見て立ち上がっていた。


「お、もう行く?」

「うん。これ以上お邪魔するのは、ね」

「私は別に気にしないけど」

「僕は気にするから……」


 ま、引き留めるような用事もないので普通に送り出すけどね。

 店の入口ではなく建物の横にある出入り口から去って行くシュッツを見送って、扉に鍵をかけて二階に戻って夕飯の支度をすることにした。

 適当にスープ作って~、パンの表面をカリッと焼いて~、シュッツに出したお茶のカップは片付けて~、っと。


 色々残っていた野菜の欠片だのなんだのを集めて鍋に突っ込み、ざっくり味を調えていく。

 ん~……もうちょっと塩かな……あとは、アムが前にくれた玉ねぎパウダーでも入れてみるかな。

 あれは良いものです……なんていうか、味に深みが出ます……よく分からんけど。まあ美味しくなるから入れりゃあいいんです。


「うめぇ。私は天才かもしれない」


 自画自賛しながら味見を終えた鍋を火から降ろし、器を取り出して適当によそって焼きあがったパンを持ってくる。

 お茶もあるからそれなりに豪華な夕飯だな。

 うまうま。食べながら明日の予定でも考えようかな。明日は仕入れの日なので、行く店と通る道を考えないといけないんだよね。


 シュッツが地図を置いて行ってくれたので、それを見ながらぼんやりと考える。

 基本的にはいつもと同じ道で良いと思うけど……こっちは迂回かなぁ。

 まあ、ジャンさんと相談しながらでもいいか。細道だの回り道だのに関してはジャンさんの方が詳しい。私もグリヴィアに住んでそれなりになるけど、一人の時は表通り以外は歩くなって過保護な人たちから言い含められてるからなぁ。


 先代にシュッツにアムに兄さんに……上げようと思えばまだまだ沢山いる。

 皆そんなに私が心配かね。もう小さい子ではないんだけど。

 先代はまだいいんだよ、おじいだし。兄さんもいいんだよ、兄さんだし。アムもギリギリいいんだよ、私の姉的な存在だし。シュッツも……まあ、ギリッギリいいよ。私が怪我したら困るしね。


 ……あれ、駄目だ。文句言える相手がほとんどいない。

 こうやって素直に受け入れてるから周りが過保護を改めないんだなぁ。

 私はもう成人したしアンシークの六代目店主をしっかりやってるのに。今後はことあるごとに遺憾の意を示していった方がいいかもしれない。

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