兄からの手紙 3
閉まった扉を見て、営業スマイルを一旦外す。
無人になった店内でふーっと長く息を吐き、壁の時計に目を向ける。
二時四十分。そろそろかなー。
「おっすエスティ」
「ん、準備出来た?」
「うん。今度は収穫祭の時に来るねー」
「はいはい。じゃ、これお願い」
「まっかせろー」
出発の準備を整えたアムに兄さんへの手紙を託し、ついでに水も渡して店の入口まで見送る。
収穫祭ならそんなに先でもないし、寂しがるほどのもんでもないな、よし。中に戻ろう。
アムの見送りを終えたら、とりあえずやる事がないので店の中から大通りの方を眺める時間になる。
暇だなーと頬杖をついていたら扉がカランコロンと音を立て、笑顔のシュッツが現れた。
反射で作った営業スマイルは取っ払って向かい直し、どしたーと緩く声を上げる。
ま、この時間に来るなら普通に買い物だろうけど。
「メモ帳を買い足しに……アム様はもう行ったの?」
「うん、さっき出発した」
「そっか」
アムはよく来るけど、一回の滞在期間はそんなに長くないからシュッツは最近会ってなかったっけな。
どうせなら会っておこうかなーとか思ってたのかもしれない。もう出発した後って言うか、ちょうどすれ違う感じになっている辺りがシュッツだなぁと。
タイミング悪いよねぇ、昔から。もうそういう宿命だと思うよ。
「収穫祭来るらしいからそん時に会えるよ」
「アム様はお祭り好きだねぇ……」
「どっかの収穫祭行ってから来るんだろうしね」
「エスティは今年、ドレス着る気になったの?」
「目立たない程度の物でアムとお揃いなら着る気が無くもない」
「なるほど」
「誰に頼まれたの?」
「リュバチートの大婆様」
「ム、お婆ちゃんなら文句言えない……」
わざわざ聞いてくるってことは誰かに確かめてこいって言われたんだろうと思っていたし、実際そうだったみたいだけどダラダラ文句を言える相手ではなかった。
リュバチートの店主であるお婆ちゃんは身体は小さいが権力と圧力が大きいからね。優しいお婆ちゃんなんだけどね、私を着飾らせたがる謎の趣味があるんだよね。
私以外にも取引のある若い子居るでしょうにな~んでだろ。
「……ところでエス様、最近どこか行った?」
「え?最近?……別に、新しい所には行ってないな。国外にも出てないし」
「そっか……ん~……?」
「よく分からんが任せた」
「はい、任されました」
何か考えているシュッツにとりあえず全てを丸投げして、メモ帳を渡して代金を受け取る。
はい、まいど。この時期はシュッツも忙しそうね。
普段何をしているのかは知らないけど、収穫祭が近付いてくると誰だってある程度忙しくなるものだ。
「というかそのクリップやたら可愛くない?貰い物?」
「ああ、これね、貴族街の商店のお婆ちゃんがくれた」
「道理でやたら質が良いわけだ。追剥とか気を付けなよ」
「遭遇しないと思うよ……」
他に話したいことも無かったので、そのまま去って行くシュッツを見送って再び大通りに視線を向ける。なんか面白いものないかなー。
お。あそこに見えるのは常連の女の子……はっ……まさかデート中!?そういえばこの前一緒に出掛けるって言ってたな!今日か!今日なのか!
あーらもう着飾っちゃって可愛いな~。楽しそうで何よりだ。今度店に来た時にどんなだったか聞かせてくれたら嬉しいな。ちょっと楽しみにしてよ。
「は~~。水がうめぇ~」
もう見えなくなってしまったけれど余韻で水がうめぇうめぇ。
今日はなんかもう満足しちゃったな。気分的にはこのまま閉店して風呂入って寝たいくらいの満足感がある。
まあ、まだまだ営業時間なんだけどね。なにせまだ三時だからね。あと数時間残っている。
もうちょっと忙しくなってくれないと時間が流れるのも遅いよねぇ。
こういう日に誰か、普段お喋りしている常連の子とか来てくれたら嬉しいんだけど。ま、言っても仕方ないし座ってても暇だから棚でも見てるか。
乱れても居ないし隙間が出来たわけでもないから整理はする必要ないんだけど、ただ座ってるよりは楽しいでしょうきっと。
うーん、何度見てもリュバチートの小物は綺麗。ハンカチの並び、ちょっと変えようかな?誰かが選ぶときに見比べていたのか、似たような色味が集まっているのでバラバラになるように混ぜる。
揃える方が好きな人もいるだろうけど、私は揃っていない物はどこまでもランダム配置が好きです。
このハンカチは端切れから出来てるからね、柄が同じものはない。
それに、混ざってる方が綺麗に見える気がするんだよね。
なんかいっぱい種類あるーってテンション上がんない?別に上がらん?あらそう。
まあ誰かに何か言われても基本的に好きにやるんですけどね。ここの店主は私なので私が絶対だ。
「私が素直に言うこと聞く人はここにはおら~んよ~」
暇すぎてご機嫌な謎歌まで飛び出してきた。
誰にも聞かれてないからセーフセーフ。並べ終わったハンカチをちょっと離れて確認して、満足したのでカウンターに戻る。
さて、あと数時間のうちにお客さんは何人来るかな?




