兄からの手紙
帰って行くお客を笑顔で見送って、鈴を鳴らして閉まった扉にふっと息を吐く。
一人になった店内で軽く掃除やら整理やらをして、それも終わってから椅子に腰を下ろした。
そして取り出したるは兄さんからの手紙。朝一番で届いたから読もうと思っていたのに忙しいほどじゃないけどお客がずっと来ていたから結局お昼になってしまった。
ちなみに手紙を届けてくれたアムは顔だけ出して遊びに行った。
今回も泊まって行くらしいから夕方には戻ってくるだろう。
どうせなら夕飯の買い出し頼めばよかったなぁ。軽く話してすぐ行っちゃったから思いつかなかった。
「……ふふ」
思わず笑ってしまった。兄さんが元気そうで何よりだ。
内容を要約すると、兄ちゃんは今やたらめった忙しくて死にかけてるけど生きてます。あまりの忙しさに妹の可愛さを補給したい欲求が抑えられないので、何か可愛いエピソード送ってください。
との事だ。
可愛いエピソードかぁ……何かあったかな。
とりあえず収穫祭に向けての準備が始まったところに巻き込まれて、それ用のドレスを作られそうになってることでも書いておこうか。
目立ちたくないから着る気はなかったけど、着てた方が目立たない気もする。
「どうせならアムとお揃いのでも着ようかなぁ」
「呼んだっ!?」
「うわぁアム!」
音もなく入ってくるのやめてほしい。
普通にびっくりして大声出しちゃったよ。
確かに名前を呟きはしたけど、だからって、戻ってくる必要はないのに。というか普段は聞こえても無視してるでしょうに。
「いやあ、手元に短剣がなかったから、荷物に入れてたかと思って取りに来たのよ」
「なるほど。じゃあまたすぐ行くの?」
「うん。なんか買ってくるものある?」
「夕飯」
「りょうかーい」
奥に引っ込んでいったアムを目で追っていると、すぐに戻ってきて外に出ていった。
これで夕飯問題は解決だし後はのんびり店番するだけだ。
店番、っていってもまだしばらくは兄さんへの返事考えるんだけどね。
普段は「妹は生きてるだけで可愛いんだから手紙は存在自体が尊みの塊」とか言ってる兄さんが可愛いエピソードをくれ、なんて言ってくるのは相当疲れてる証拠だ。
他に何かあるかなー。デートに誘われました、は前に出来心で書いてみたんだけど、エスティの選んだ人なら、とか顔を見に、とか震えた線で嫁入りでもすんのかって内容が返ってきたからもう書かないと決めている。
「んー……」
唸りながら椅子に体重を預け、ぼんやりとここ一ヵ月くらいのことを思い出す。
とはいっても、休みの日にやったことなんてニレさんとお茶行って、フィンさんと新作ケーキ食べて、シュッツと新しいクッションカバー買いに行ったくらいなんだよね。
……改めて考えてみたら私、休みの日大体誰かと遊んでるな?
我ながらびっくり、なんて笑っていたら扉の鈴がカランコロンと音を鳴らした。
「いらっしゃいませー」
「やっほーエスティアちゃん」
「あらグレンさん。今日は何をお求めですか?」
「ここに書いてあるもの、揃えて貰えるかな」
「はーい。少々お待ちくださいね」
騎士団の鎧に身を包んだグレンさんからリストを受け取り、まずは棚からインク等の小物をカウンターに乗せていく。
グレンさんとジャックさんはお休みの日にも割と来てくれるけど、やっぱり仕事中の方が頻度が高い。
騎士団は消耗品系をアンシークに買いに来るんだよね。有難いことです。
「今日は暇だったの?」
「それなりですねー。朝はちょっと忙しかったですけど、さっきまでは暇でしたよ」
話しながら店内で揃うものをすべて集め、声をかけてから奥に行く。
あとなーんだ。羊皮紙?なにに使うんですこれ?
魔法部隊以外で羊皮紙って使い道あるんだなぁ。何か伝統的な物でもあるのかな。
「……よし、これで揃ったと思います。ご確認をー」
「はぁい。……うん、大丈夫。ありがとう」
「じゃあ代金が、二千六十コルメですね」
合計金額を伝えて用意してもらっている間に袋に商品を入れていく。
おっと危ない、手紙が紛れ込むところだった。
これは避けて、ここの隙間に羊皮紙入れて……袋詰めって、パズルみたいでちょっと楽しいよね。
「……はい、ちょうどですね。ありがとうございます」
「こちらこそ、綺麗に詰めていただいて。……ところでエスティアちゃん、それは?」
「ああ、これは兄からの手紙です」
「お兄さんからの……」
「はい。仲が良いもので。あ、そうだグレンさん、新作ケーキの感想は可愛いエピソードに入ると思いますか?」
急に意味の分からないことを聞いたせいで、グレンさんが一時停止してしまった。
ごめんなさいね、ちょっと脳から口までが直通だったものでつい。
……悩んでる顔がやたら整ってる。笑ってないこの状態の方が好きって女性陣結構居そう。
「……仲の良い妹からだったら可愛いんじゃないかな」
「なるほど。ありがとうごさいます」
「何かあったの?」
「いえ、なんか疲れてるみたいで、可愛いエピソード送ってくれって書いてあったので」
「あはは。なるほど。本当に仲良いんだね」
笑顔で去って行ったグレンさんを見送って、鈴を鳴らして閉まった扉に振っていた手を止める。
よし、グレンさんのおかげで書くことも決まったし、とりあえず手紙を仕上げてしまおう。




