夏の盛り 3
今日は朝から暇な日で、理由としてはまあ、大通りのでっかいお店が何かの祭りだとかでそっちに人が流れてるんだろうなぁと思うので別にいい。
ともかく今日は暇な日で、カウンターで頬杖を突いて欠伸を噛み殺していたわけだ。
そうしたら急に扉が開いた。勢いが良すぎて、鈴がカランコロンじゃなくてガラン゛ゴロン゛!!みたいな音を出した。
「静かに開けろって言ってるでしょ!?」
「おう!元気だなエスティ!」
「おうじゃねぇんだよ!もう!アルト!」
「ん、すまんすまん。はいこれ今月分」
流れるように話を戻してきたな。
はいはいさっさと取引しましょうね。
必要な書類持ってくるからちょっと待っててね。待ってろ?大人しく待ってろ?
「はいこれ記入してね」
「エスティ書いて……」
「自分で書け」
検品を済ませている間に、と書類とペンを渡したらいつものようにごね出したので無視して検品を続ける。こいつ書類記入系遅いから、私の方が先に終わっちゃったよ。
仕方ないから終わるまで彼女を眺めておくことにした。
雑に纏められた金髪と、夕焼けのようなオレンジ色の目。私がつけているのと同じデザインの指抜きグローブ。白いワイシャツと黒いスキニー。腰には布を巻いていて、後ろから見るとスカートみたい。
大体いつも同じ格好なので、これが全部揃っていたら十中八九アルト・ヴェルカーだ。
他に目に付くのは左目の泣き黒子。あとは、そうだな。キラキラ光るピアスかなぁ。細い鎖が揺れると、その先についている飾りが光る。何もしていなくても鎖の根元の飾りが光る。
結構目を引くんだよね。ちなみに自作らしい。
「……終わった」
「はい、お疲れ様」
「今回はちょっと多いぞー」
「そうだね。前回がちょっと少なかったからバランス取れるかな」
アルトはガラス職人だ。結構人気な動物の形の小物入れはこいつの作品である。
好きに作っては完成したものをアンシークに持ってくるのだが、こだわりが強すぎて月に一回しか持ってこない上に、一回に持ってくる個数が五個から十個程度だけなのだ。
店頭に出すとすぐに売り切れてしまうので数か月分を貯め込んで個数を稼いでいる。……そろそろ出しても良さそうかな。それとも来月を待とうかなぁ。
「何難しい顔してんの?」
「アルトがもっと数を纏めて持ってきてくれたら悩まなくていいんだけどね」
「無理。満月までに作れる数も少ないのにそっから加工失敗したらさらに減る」
「わざわざ魔法加工するからだよ」
「せっかく綺麗に作るんだから長持ちさせたいだろー?」
ガラス職人なのに保護の魔法までかける人、アルトくらいだと思う。
まあ魔法が綺麗にかかった後の方が綺麗だから、それもあって人気高いんだと思うけどさ。
話しながらお互いやる事はすべて終えて、後はもう仕事の話ではなくただの雑談になる。
「そろそろ別の作るかなー」
「次は何にするの?」
「今が鹿で、前が羊だろ?となればヤギだろ」
「よく分かんないけどやっぱりお前角のある生き物にハマってるな?」
「お、よく分かったな」
「次から違うの作るならそろそろ並べていいかなぁ」
今回と前回の個数を確認しながら考えていたら、アルトが急に手を伸ばしてきた。
そのまま顔の横の髪を退かしてジーっとこちらを見てくる。
……耳とか見えないように毎朝髪セットしてるんだから崩さないでくれるかな?
「エスティってなんで耳出さんの?」
「何となく」
「せっかく飾り付けてんのに見えないじゃん」
「見えないようにしてるんだよ。流石に多くてビックリされるわ」
「えー。綺麗なんになー」
私の耳を見たことがある人は実はものすごく少ないので、こうして好き勝手に髪を弄ってくるアルトにはいつまで経っても慣れない。
耳の形が特殊、とかではないんだけど、左右三つずつで合計六個ほどピアスが付いているので流石に見た目の治安が悪いな……と思って隠してるんだよね。
外すという選択肢はないので髪で隠すしかない。
たまに引っかかってヒヤッとすることがあるけど、基本的には問題なく隠し通せている。
……まあ、小さな隠し事だしこれは別にバレても困らないんだけどさ。なんとなくね。
アンシークの店主の見た目の治安が悪い、ってなんか問題な気がするし。まあ、先代もピアス複数個空いていたから今更な気もするけど。
「新しいの付けん?」
「付けない。これでいいの」
「ふーん……加工は?」
「しないよ。……なに、作りたいの?」
「んー……」
遂には両手で髪を退けてじっとこっちを見てくるアルトにちょっと困る。
何がしたいんだー?何でもいいけどとりあえず退いてくれるかー?
というか一個はアルトが作ったやつじゃん。
「エスティはさ、自由なのがいいと思うぞ?」
「なに急に」
「縛られてるみたいでなんかなー」
「……いいんだよ、好きでそうしてんだから」
「ん、そか」
ようやく満足したのかスッと身を引いたアルトは何か考えているようで、空中で指をクルクルさせている。
何がしたいのかはいつまで経っても分からないけれど、とりあえず髪を直しておこう。
鏡を探して髪を整えている間にアルトは帰ることにしたらしく扉に手をかけていた。
「んじゃーな」
「はいはい、またね」
「おーう」
手を振って去って行く彼女を見送り、何となく時計を見る。
思ったより時間が経っていたけどそれでもまだまだ営業時間だ。
……この後もこのまま暇だとすると、ちょっと流石に時間を持て余しそうだな。




