表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
二章「曰く、林中の蛇影」
30/124

夏の盛り

 ぐっ……と首を持ち上げる。

 じりじりと焼けつくような日差しを浴びて、全身から汗が噴き出している、気がする。

 暑い、暑い。あちちだねぇ。ちくしょうめが。


「ニーレさーん」

「はーい」

「先代の所に行くので花束ください、一つ」

「分かったわ。……エスティ、大丈夫?」

「大丈夫……じゃ、ないです……」

「中に入って日陰で待ってて。ほら、これもあげるわ」

「ありがとうございます……」


 ニレさんに促されて店の奥に置いてある椅子に腰を下ろす。

 ついでに貰った飲み物もちびちび飲んで、至れり尽くせりな待機時間だ。

 帽子も取って、顔の前でパタパタと動かす。


「こんな感じでどう?」

「わあ、綺麗。それでお願いします」


 ニレさんが見せてくれた花束に拍手をして、長さを揃えたり包んだりの作業を見守る。

 完成した花束を受け取って代金を払い、帽子を被り直した。

 日差しの下に出るとまた一気に汗が出てくる。


 それでもここまで来たらあんまりダラダラしないで先代の所まで行こうという気も湧いてくるので、ちょっとだけ速度を上げて進む。

 とはいっても遅いことに変わりはないんだけどね。

 仕方ないんだよ。暑いんだもん。


 なるべく日陰を選んで進み、墓守さんに挨拶をして先代のお墓の前にしゃがむ。

 途中で買った水を墓石にかけて、花束を置いてほうっと息を吐いた。


「来ましたよぉ、おじい。今日は死ぬほど暑いのでおじいにもお水あげます。

 ギルドのごたごたは終わったからアンシークはまた平和な日常に戻りましたよ。わりかし穏やかに対応したので褒めてください。

 それにしたって私を疑うことないと思うんです。確かに魔力はかなりありますし?分かりやすく魔法を使ってないのは事実ですけど?でも酷いですよねぇ。終わったことなんでこれ以上は言いませんけど。


 ……あっつ。駄目です、おじい。今日は本当に暑いです。

 なので早いですけどもう退散します。

 アンシークは例年通り、次に忙しくなるのは収穫祭の頃だと思うのでその前にもう一回くらい来ますね。……もちょっと涼しくなったころに。


 そんなわけで、ばいばいおじい。また来ますねー」


 暑すぎてこれ以上はいられない。

 秋になったらもうちょっと長話しに来るし、冬になったら心配されるくらい居座るから夏は早めに撤退する。

 そもそも来すぎだとか先代好きすぎとか色々言われてるのは無視だ。無視。


 いいじゃんね、大好きでも。

 生みの親が嫌いな訳ではないけれど、親よりおじいの方が「育ててくれた」って感じが強いからどうしたって思い入れも強くなる。

 おじいに張り合えるのは兄さんくらいだと思え。


「あ、エスティ」

「おや、こんにちはー」

「こんにちは。どこか行ってたの?」

「先代の所です。暑さに負けたのでもう帰ります」

「そっか、倒れないでねー」

「はーい」


 夏場に知り合いに会うと九割くらいは倒れないようにとか水はいるかとか言ってくるんだよね。

 私はそんなに倒れそうかい。まあ、夏はずっとフラフラだし心配はされるか……

 ……と、いうか。ちょっと歩くのしんどい。どっか日陰で休もう。


「エスティ」

「……ん、シュッツ」

「はい、果実水」

「ありがと」


 どこから見ていたのか、座ってすぐにシュッツが現れた。

 用意周到に冷えた果実水まで持ってるし、荷物から厚紙取り出して扇いで来るし。

 シュッツはそんな服で暑くないのか。全然汗かいてないけど、それってむしろ駄目なのでは?


「どこ行ってたの?こんな猛暑日に」

「先代のところー」

「夏は控えればいいのに……」

「やだー」


 確かに今日は特別暑いらしいけど、それでもアンシークの休みと涼しい日が重なる方が珍しいのだから行こうと決めた日に行くしかないのだ。

 シュッツも私が先代大好きなのを知ってるからか、諦めたようにため息を吐いた。

 心配かけたのは悪かったけどさ。でも、暑さにやられて外で倒れたことは今までないのだから、フラフラでもちょっとくらい信用してほしい。


 ……いや無理か。現に今、世話を焼かれてるんだもんなぁ。

 というかシュッツは何してたの?収穫祭に向けての情報収集?早くない?

 でもまあ、そろそろ準備を始めるころではあるのかもしれない。これから時間をかけて、のんびり準備するんだよね。


 それはそれで楽しいものだ。アンシークではまだ始めないけど。

 職人さんたちは基本的に次の季節の物を作っていることが多いから、リュバチートとかだと収穫祭用のドレスを作り始めた頃かもしれない。

 まだ夏の盛りだけど秋の訪れを感じさせてくれて非常に嬉しい。気温の方も早く秋になって欲しい。


「……よし」

「もう大丈夫?」

「うん」

「送って行こうか?」

「……うん」


 断ろうかと思ったけど、一人でダラダラ歩いてるより話しながらの方が楽なんだよね。

 そんなわけでシュッツと並んで歩き出す。

 ついでに夕飯も買っていこうとお店を覗き、シュッツからはちゃんと食べているようで安心したと言われた。


 昔からご飯を抜いたりはしてなかったでしょ。

 ……夏バテは、確かにしてたけどさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ