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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
二章「曰く、林中の蛇影」
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認識の誤差 3

 杖を揺らして暗い地下通路を照らし、魔力の残滓を追って歩いて行く。

 ギルドからの依頼で派遣された騎士団魔法部隊は微かに残った魔力を視分け、それを確実に追って王都の塀を出て少し進んだところにある出入り口からダンジョンの中に入っていた。


 今回の窃盗犯捕縛作戦の参加者にはダンジョン内に詳しい元冒険者のギルド職員もいるので、ダンジョンの中でもそれなりの速度で進んで行ける。

 魔法部隊、と言っても全員で来るわけにもいかないので特に人の魔力の見分けと残滓の認識が得意な一人が送り込まれており、その人が捜索に集中できるように護衛役も騎士団から派遣されていた。


 ギルドと騎士団の連携は数年前から強化され、それなりの頻度で合同作戦や合同演習も行われるようになっている。

 今回の件はギルドとしては窃盗犯を捕らえたい一心であり、騎士団としては連携と信頼関係の構築のための物でもある。の、かもしれない。


「……魔力はこの壁の向こうに続いています」

「少々お待ちを。……はい、稼働壁ですね、動かしますのでちょっと離れてください」


 暗く狭いダンジョンの通路を進みながらのんびり考え事をしていた魔法部隊の下っ端は魔力が壁に吸い込まれるように奥に入っている場所で足を止めた。

 特に隠しもせず見えたものを伝えれば、同行していたギルド職員が壁を確認して壁横を何か弄り始める。言われた通りに一歩下がって見ていれば、すぐに壁が動いて先に続く道が現れた。


 再び歩き出しつつ徐々に濃くなっていく魔力の残滓に目を凝らす。

 あの壁を越えられるとは思っていなかったのか、先ほどまでに比べて随分と残滓の片付けが雑になっている。

 この感じなら思ったよりも早く終わりそうだ。


「ん、この壁の先ですね」

「分かりました……ここも稼働壁ですね」


 二枚目の壁を抜けて、いよいよ魔力が強く感じられるようになってきた。

 多分この先に居ます、と静かに声を出すとそれまで後ろに居た護衛の騎士団員が前に出た。

 ここまで来ると捜索担当の魔法部隊はお役御免な感じになるので、最後に逃がさないようにだけ集中しておくことにする。


「グリヴィア王国騎士団だ!その場に留まり武装を解除しろ!」


 事前に決まっていた通り騎士団員が声を張り、何ならバタバタと音がしていたけれどギルドの職員さんたちによって捕縛された数人の男たちが引きずられてきて、そのまま連れていかれる。

 この場所の詳細把握等はギルドの管理なので護送を終えれば仕事は終わりになる。

 これが終われば久方ぶりのお休みが貰えるので、そうなったら友人に会いに行って話をしよう。


 なんて考えながら連れていかれる男たちの後ろを付いていく。

 元冒険者の先導だけあって迷うことなく地上に戻り、何事もなくギルドへの護送を完了した。

 騎士団への報告は各自になるので護衛をしてくれた団員と少し話してから別れて先に騎士団魔法部隊の建物へ向かう。


「お疲れ様です」

「お疲れ様でーす」


 向かう途中に出くわしたのは中位騎士の二人組。

 向こうはこちらを知らないだろうけれど、こちらは向こうを知っている。

 別に有名人というわけでもないが、友人と仲がいい、もとい友人に好意を寄せていそうな二人組としてしっかり認識していた。


「フィンリー・シャルン」

「ん、はい?」


 すれ違いざまの挨拶だけで終わるつもり満々だったのに名指しで呼び止められてしまった。

 エスティも罪な女だねぇとか思っていたのがバレたなんて事はないだろうけれど、彼女関連以外で呼び止められるほど面識のある相手ではない。

 一体何用だろうかと首を傾げていると、黒髪の方の中位騎士さんが何かを差し出した。


「来月からこちらの任務に一時的に加わってもらうことになった。詳細は魔法隊の隊長から説明があるはずだ」

「なるほど、了解しました。ありがとうございます」


 脳をお仕事モードに切り替えて差し出された書類を確認する。

 いつもの魔法部隊派遣のあれですね、今回は自分に回ってきただけで別に特別なことではない。

 よし、ではこれで用事はおしまいですねと立ち去ろうとしたら今度は銀髪の方の中位騎士から声をかけられる。


「そういえば君はエスティアちゃんと仲良いの?」

「まあ、店長する前からの仲ですし」


 急に出てきたエスティの話に思わずお仕事モードがどっかに行った。

 ああ、もう。戻っておいで外面猫ちゃん。

 というかこの状況、もしかして中位騎士のお二人は自分とエスティの仲を邪推していたりするんだろうか。


 恋は盲目って言うけど敵視はしないでほしい限りだ。

 エスティとはいい友人でありある種の趣味友なだけなので。

 確かにアンシークの先代店主がお逝去なさった時に寂しがるエスティを慰めがてらお泊りはしていたりするけど、それも友人としてだ。


「一応言っておきますが、エスティは自分の事姉もしくは兄としてしか見てないと思いますよ」

「……失礼かもしれないが、性別は?」

「お好きな方で認識してください」


 にっこり笑えば二人からは曖昧な笑みのような表情が返ってきた。

 混乱させてしまってすまないが、これ以上何か言うつもりはないので今度こそ退散する。

 口止めもされていないしエスティに話してやろーとか思っている辺り性格が悪いが、まあそのあたりは共通の知り合いの話題だし、と意味もない言い訳で乗り切ろう。

そういえばこの話でエスティ以外に視点が移るのは初めてだった気がします。

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