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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
二章「曰く、林中の蛇影」
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認識の誤差 2

 ギルドのお兄さんがアンシークにやってきたのは仕入れの日から三日ほどが経った頃だった。

 こちらとしては、むしろ三日でよく調べ終わりましたねって感じだ。

 思いっきりお昼ご飯のサンドイッチを頬張っているところだったのでちょっと気まずい。


 ごめんなさいね、口いっぱいに頬張ってて。

 本当になんで皆私が丁度リスみたいになってるところに来るんだろうね。

 言っても仕方ないし一気に頬張る私が悪いんだけどさ……


「……すみません、はい、えっと、いらっしゃいませ」


 あまりの気まずさにもごもごしてしまった。

 普段はそんなに気にしないんだけど、ギルドのお兄さんとアンシークで会うことないからなんか妙に気まずくなっちゃうよね。


「ええと、調べがつきましたのでご報告しますね」

「はい」


 お兄さんが真面目な方向に話を進めてくれたのでそれに乗っかって真面目な顔をしておく。

 なんであれこの件はちゃんと聞かないといけないしね。

 ついでに言うと、ダンジョンアイテムの方も何か進展があるかどうか確認したいのだ。


「まず、取引中止の手紙は本来アンシークさんとの取引には関わりのない者が勝手に出していました。ギルドマスターに報告済みなので何かしらの処分が下ると思います」

「あ、やっぱり怒られるものなんですね」

「そうですね。自分の担当外の部分に無断で勝手な行動をしているので」

「……お兄さん怒ってます?」

「それなりに」


 怖い。にっこり笑ったお兄さんは何よりも怖い。

 この人絶対ギルドの中でもそれなりに偉い人だもん。

 そんな人を怒らせてしまった手紙の主が心配になるくらいだ。


「動機についても調べましたが、お聞きになりますか?」

「じゃあ、一応」

「分かりました。動機はアンシークさんがダンジョンアイテムの盗難に関係しているのではという疑いからだったようです」

「あら、私疑われてるんですね」

「一部の者に、ですが」


 何となくそんな気はしていたけど、お兄さんも案外はっきり言うなぁ。

 まあお兄さんは全く疑っていないからなんだろうけど。

 信頼していただいてとても嬉しい。関わりのない人に何を思われても疑われてもそんなに気にならない分関わりのある人に疑われると一気にしんどくなる性分なのでね。


「疑っていた理由としては、アンシークさんが魔法を使っているところを見かけないから、だそうです」

「なんですそれ?この国じゃ使う人の方が珍しくないです?」

「そうなんですが、魔力量が多いのに魔法を一切扱わないのはおかしいと」


 なるほど、手紙の主は魔法をある程度扱える人なんだろう。

 確かに私は魔法使いって言った方が納得されるだろう魔力の量をしているけど、それだけで疑ってくれるなよとも思う。

 まあしょうがないんだろうけどね、ここまで盗人が見つかってないと全部怪しく見えるんだろう。


「魔法、使わない訳じゃないんですけどねぇ」

「そうなんですか?」

「はい。ま、ギルドで使うような魔法は何にもないので見たことなかったんでしょう」


 嘘ではない。魔法なんて使えないとか言うよりはちょっと誤魔化すくらいの方がいいだろう。

 実際ちょっとした魔法は使えるわけだし。

 私はただの雑貨屋店主なのでね、使う魔法も明かり付けたり物を軽くしたり、その程度ですよー。


 そんなことを言って手をひらひらさせていたらお兄さんは何かを少し考えた後ににっこりと笑った。

 お、この笑顔は怖くない。

 いつもの笑顔。よしよし、私へのお咎めは結局何もなしで良さそうだ。


「ともかく、今回の件はこちらの不手際です。申し訳ございませんでした」

「いえいえ。大変な時ですし仕方ないですよー」

「今後こういった事が起こらないように、取引再開前に少し処理がありますので少々お待ちいただいても大丈夫ですか?」

「はい」


 こっちとしては特別枠の取引先としてギルドに認識されている現状が続くのなら特別不具合もないので時間がかかる程度どうってことない。

 もうほんと、私の代で私の不手際でギルドとの縁が切れるとか先代に申し訳が立たないからね。

 お兄さんが何か対処をしておいてくれるらしいし、私はのんびり連絡を待とう。

 なんて思いながら帰る気配を醸し出し始めたお兄さんに、何気ない声色で質問を投げかける。


「というか、ダンジョンアイテムの件が終わるまで待った方がいい感じですか?」

「いえ、そちらもそろそろ片が付きますから」

「そうなんですか。なるほど」


 特別隠されなかったのは「アンシーク」への信頼か、それとももう公表してもいいくらいには追い詰めてあるのか。

 どちらにしろ落ち着くのならそれが一番だから余計なことは言わないでおこう。

 そんなわけで去って行くお兄さんを笑顔で見送り、扉が閉まり切って窓から姿が見えなくなってから昼食を再開した。


 カウンターの向こう側、お客側からは見えない位置に押し込んでいた手紙を引っ張り出してもう一度中身をざっと読む。

 慣れ親しんだ兄の字は、何よりもスッと脳に入ってくる。

 ギルドの事をあれこれ聞いたので、ギルドの事をあれこれ書いてくれたその手紙を読み返しつつ暇な午後に突入するのだった。

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