彼女の正体 4
エスティアについて、時々脱線しつつもあれこれと話し合った結果、ジャックとグレンはフィンリーとそこそこ仲良くなっていた。
モンスター騒動が片付いた影響で連日続いていた仕事に休みが増え、結果として落ち着かないジャックとグレンが揃って行動していると、どこからかフィンリーが現れたりもするようになっている。
「ねえ、フィンリー」
「うん?」
「エスティアちゃん、予定ならそろそろ帰ってくる頃じゃない?」
「まぁ、二週間か、一か月くらいって言ってたからねぇ。まだそんなにソワソワするほど遅れても無いと思うけど」
今日はグレンが見回りをしているところに空からやって来たフィンリーは、円盤状の移動用魔道具に乗ったままのんびりと言葉を返した。
魔法部隊は一人一個持っている移動用魔道具だが、その形状はさまざまだ。
フィンリーの使用している小さな円盤は、小さくて懐に入れられるのはいいが、小さすぎて片足くらいしか乗らないから安定感がないらしい。
使えるのはフィンリーくらいなんだそうで、支給品だから以前は誰が使っていたのかの記録もあるらしいが、使っているのはフィンリーが二人目という出番の少なさなんだそうだ。
そんな話をしつつも、グレンはどこか落ち着かない。
どうしても、最後に見たエスティアの様子が気になって仕方ないのだ。
あの時彼女が何と言っていたのかは、それなりに近くにいたはずなのに聞き取れなかった。
だからこそなのか、いつもと違ってどこか不安定というか、消えてしまいそうな気配を纏ったエスティアの様子が気になって仕方ない。
「そんなに悩んでも何も変わらな……あ」
「どうしたの?」
「ジャックと~……アルトだ」
「アルト……アルト・ヴェルカー?」
「そう」
その名前には、聞き覚えがあった。
腕のいいガラス職人として有名な女性だ。この間のガラス細工の大会でも特別賞に輝いて、また一段と人気が高まったと聞いている。
そして、エスティアと特別仲が良い印象のある相手でもある。
シュッツを相手にするのとはまた少し違う気楽さで、エスティアがよく一緒にいるところを見かける。
祭りなどで見かける時は、まるで恋人かのような距離感で並んで歩いていることが多い。
「グレン。フィンリーも一緒か」
「何してるのジャック」
「おー、なんか揃い踏みだなぁ」
騎士団三人に囲まれてものんびりと構えているアルトを見てなのか、個人的な交流があるのか、フィンリーが円盤から地面に降りた。
そして回収した円盤を懐にしまって、やっほ、と緩く片手を上げる。
「なんだぁ?エスティの事か?」
「……何かあったのか?」
「いや、この面子があたしの事囲みに来るのは、確実にエスティ関連だろ」
当然のように言われて、中位騎士二人はぎくりと肩を揺らす。
そんなに分かりやすいだろうか、とフィンリーを見ると、フィンリーは笑うばかりで何も言わなかった。言外にそうだと言われている気がする。
「んで、なに?」
「……エスティアの秘密について、何か知っているか?」
「秘密なんて大量に……あぁ、なんかでっかい秘密でも知ったのか。まぁ、大体知ってる。エスティはあたしには基本隠し事とかしないからな」
きっぱりと、聞き間違いようのないほどしっかりと言われた言葉を、理解して飲み込むのに少し時間が掛かった。
中位騎士二人がその言葉を飲み込むのに苦労している間に、フィンリーはアルトの言葉に笑う。
「アルトはエスティの特別だからね」
「おう、知ってる」
「むしろ何を知らないの?」
「あ?……さあ?とりあえず名前も実家の場所も知ってるけど」
また、飲み込むのに時間のかかりそうなことを言われた。
それを何でもない事のように言われるのが、一番飲み込むのに時間が掛かる。
そんな二人の様子を見てどう思ったのか、アルトは面倒くさそうに首の後ろを掻きながら後ろに下がった。
「知っちゃぁいるけど、あたしからはなんも言わねぇぞ。知りたいならエスティが帰ってきた時に直接聞け」
「……帰っては来るよな?」
「当たり前だろ。遅れてんのは、どうせどっかで買い物しすぎてるだけだ」
言いながら、クルリと身を翻してアルトは去って行った。
元々作業の休憩に出てきていただけらしく、引き留める何かがあるわけでもないので背中を見送って見回りに戻る。
フィンリーは流石にこれ以上サボるとバレるのか、再び円盤に乗ってどこかへ去って行った。
エスティアが戻らないままひと月と一週間ほどが経とうという頃、ジャックとグレンは落ち着かなさからかたびたびアンシークの前に足を運ぶようになっていた。
当然、店主不在のアンシークは開いていない。
その閉じられた扉を見て肩を落とし、帰ろうとしたところで、アンシークへ向かってくる人影に気が付いた。
「あれ、お二人ともお揃いで。どうなさいました?」
大きな荷物を背負って、何もなかったかのような顔をして、エスティアがそこに立っていた。
思わず大きく一歩踏み出すと、驚いて警戒するように少しだけ後ろに下がられる。
それを見て足を止め、ひとまず深く息を吸った。
「……戻って来たんだね」
「あ、はい。ただいま戻りましたー」
「……おかえり。無事で何よりだ」
「もしかしてご心配おかけしました?」
すいませんねどうも。と緩く笑う姿は、全く持っていつも通り。
記憶にある通りの、エスティア・アンシークの姿だった。




