真意の見定め 3
バスケットを買った後向かう先はとある工房。
うっかり割っちゃった花瓶の金継ぎを頼んでいたのだけれど、出来たと連絡が来たから受け取りに行こうと思っていたのだ。
いやぁ、洗ってたら手が滑ってね、うっかりうっかり。
捨ててしまうには思い入れのある物だから直す方向で話を進めた。
何でもかんでもそうするわけでもないけど、割と直してどうにかしようとしてしまうので今回金継ぎを頼んだ工房からは真剣な顔で買い替えは悪い事じゃないぞ?なんて言われてしまったくらいだ。
確かによくお願いしているけど、そんなに言うほど?
疑問には思うけど、言っても仕方ないので受け取りに向かう。
工房自体は入り組んだ場所にあるけど、通い慣れているからさして迷うことも無い。
ボーっとしてると迷いがちだけどね。何らかの魔力でも満ちてんのかな。まあ魔力は満ちてそうだけどさ。
「こーんにっちはー」
「ん?おお、エスティか」
「花瓶受け取りに来ましたー」
「持ってくるから、ちと待ってろ」
「はーい」
元気よく扉を押し上げて中に入ると中に居た職人さんが気付いて顔を上げた。
待っていろと言われたので大人しく外を眺めながら待っていると床が鳴るのが聞こえてきた。この建物割とふる……歴史があるので床とか結構音鳴るんだよね。
音だけでどのあたりに居るのかが分かるの面白いなぁ。
人によっては鳴らない、とかもないからね。
誰が通っても鳴る。床だけでもどうにかしたらいいんじゃないかな、なんて思う。
「はい、お待たせ」
「わー!綺麗になってる」
「お前いい加減買い替えることを覚えろ?」
「これは特別ですぅー。何でもかんでも直そうとしてるわけじゃないですってば」
「これの前に来たのいつだよ」
「……ひと月前?」
「十分頻度高けぇよ」
「うむぅ……いいじゃないですかぁー。上客ですよ有難く思え」
うだうだ言いながら丸め込まれないうちに受け取った花瓶をしまって代金を払い、とりあえず反論されないだろう理屈を並べておく。
お兄さん流されてくれないからこっちが丸め込まれそうになるんだよね。
さあ、受け取ったし代金も払った。にーげよっと。
「では!ありがとうございました!」
「はいはい。もう割るなよ」
扉を開けて脱兎のごとく逃げる。
呆れた声が返ってきたからとりあえず押し問答は終わりという事でね、いいんだよこれで。
思い返してみれば前回もおんなじやり取りした気がするし、逃げるのも慣れたもんだ。その気になれば逃げられないはずなのでなんだかんだ言いつつ別にいいやで放置されているんだろう。
自分でも言ったけど上客な訳だし。
これは無理って言われた奴は大人しく持って帰ってるし。
まあつまり、問題ないってことだ、うん。
それにしても綺麗に直してもらえたなぁー。何を言われようとお願いしに行ってしまう理由はこれだよねぇ。
「さーて、次だ」
荷物を抱えなおして向かう先を決め、足取り軽く歩き始める。
なんだか視線を感じるから、向かう先はそっちにしよう。
シュッツはそんなあからさまに付いてくることないから多分ルツィオ商会の関係者だな。
やっほー!カモがネギ背負っていきますよぉー!!
でも金継ぎしたての花瓶は割らないようにしてくださいね、これで割れて修繕頼んだら今度こそ取っ掴まって説教されてしまう。
そして買い替えさせられてしまう。それは嫌だ。
私がずんずん進んで行った結果、視線の主は慌ててどこかに行ったみたいだ。
ま、このあたりに居るだろうしルツィオ商会がここら辺だから近くには居るだろう。
なんかあったらシュッツがどうにかするよねーっと速度を落として店を眺めつつ進む。
「……ま、つ……はや……」
「その……あ……し、る……」
……なーんか聞こえるね?なんだろうね?
聞こえるところで話すべきもんじゃねえだろうになぁ……
まあ、今日の私はカモなので分かりやすく声の方に顔を向けて首を傾けてちょっと寄っていく。
ここに聞いちゃったカモが居ますよー。いいんですかー。
……おっ気付いたな。じゃあ分かりやすく逃げよう。
そーれ走れー!わーい!シュッツどこだろー!
後ろから待てー!!とかこのガキー!!とか聞こえてくるけど止まるわけないよね、むしろちょっと速度を上げる。
……っておい、誰がガキだこの野郎。
自分で迎撃したい気持ちがふつふつ湧いて来たけどそれじゃあこんな面倒な事をした苦労が無に帰るので無しで。
そんなわけで少し走ったところで後ろから徐々に人が迫ってきている気配がした。
その気になればまだ速度はあげられるけど、このあたりが頃合いだな。
近付いて来た人の気配はそのまま私を捕まえる……というより何かを振りかぶっているようだった。
なんだてめえ殺す気か??内緒話を聞かれるより大きな事件を起こそうとするなよ。
「死ねぇ!!」
「うっわぁ!」
あまりにも直球な言葉にびっくりして声が出てしまった。
まあ、いいけどそのくらい。
振り返って手で頭を庇うより先に、身体が急に持ちあがって加速した。
見上げるとシュッツが私を抱え込んで連中から距離を取っている。
うーん、肌のキメが細かい。この至近距離で見ても綺麗なのはすごいなぁと素直に思うわけですよ。
なんてのんびり構えているのは私だけで、シュッツは真剣な顔をしてこっちを見ていた。
「エス様、ご無事?」
「うん。ありがと」
声を潜めて聞かれた言葉に短く返事をして、私を追いかけてきていた人を初めて正面から見た。
わー、息上がって目が血走ったおじさんが二人。
子供が見たら泣くだろう光景だ。




