彼女の正体 3
調べ物の成果はほとんどないまま、他の魔法部隊の隊員が部屋に来たことで中位騎士二人とフィンリーは部屋を出て、別の所に行くことになった。
どこへ行くかという話になった時に、フィンリーがもう上がりだから家に来るかと言ってくれたので、フィンリーの家で話の続きを、ということになり、適当に夕飯を買って移動する。
フィンリーの家は、住宅街の一角にある少し変わった形の一軒家だった。
前の住民から引き継いだらしい屋上の大量の植物が不思議さに拍車をかけているが、怪しい雰囲気などは無く、どこか落ち着く森のような気配がする。
「適当に座って下さい。飲み物だけ持って来ます」
「あぁ、悪いな」
「ありがとう」
促されるまま椅子に腰を下ろし、奥へ去って行ったフィンリーの背中を目で追う。
家の中を動き回っている後姿からは、やはり性別が読み取れない。
魔法部隊としては別に珍しくも無いらしい性別不詳の隊員は、ただの騎士団員からすると少し不思議で意味は無くともどちらなのだろうかと考えてしまうのだ。
「とりあえずある物持って来ました。好きなのどうぞ、飲めない物しかなければ、適当に茶葉引っ張り出してきます」
「あ、俺これ好き」
「俺はこれを貰う。悪いな」
「いえいえ」
差し出された飲み物の中から好きなものを選び、買ってきた夕飯を開けながら魔法部隊の本部で話していた内容へと話題を戻す。
すなわち、エスティア・アンシークの正体について、だ。
「エスティアは魔力が特殊だと、魔法部隊の隊長が言っていなかったか」
「あ~、隊長、エスティの魔力は面白おかしいってよく言ってますよねぇ。まぁ、確かに特殊ではあるっていうか……あんまり見ない感じの魔力ではありますね」
「そもそも、魔力ってそんなに人によって変わるの?」
「変わりますよ。魔力で個人の特定も出来るし、血縁関係を調べたりも出来ます」
騎士団に入団する時に自分の魔力を登録したはず、と言われたが、ジャックもグレンも言われてみればやったかもしれない、程度の曖昧な記憶だ。
上位騎士にでもなればもっとしっかり認識して関わっていくことなのかもしれないが、少なくともこれまで二人がその知識を要求される事は無かった。
見習いの頃に習ったかどうかも覚えていないくらいだ。
教わったとしたらもう少し記憶にありそうな気がするし、そもそも習っておらず必要に応じて開示される知識なのかもしれない。
「魔力が特殊な人って、どんな人が多いとかはあるの?」
「んー……それこそ、貴族とか魔術師とかですね。貴族はほら、魔法の貴族学校とかあるでしょう?そういうのが必要になるくらいには、各家血に宿るものが多いんですよ」
「……あれ、そういうちゃんとした理由があったんだ」
「形骸化してるところもありますけど、無くならないのは必要だからですねぇ」
魔法への適性は、貴族の方が多かったりするのもそのあたりが理由らしい。
血に宿るものは恩恵もあるが面倒もあるので、正しく扱うためには魔法の知識も必要になる……と、説明は受けたが正直あまり頭には入って来なかった。
「魔術師は、魔術扱ってる間に魔力の形式が変化したりもするんで……魔力の形を変えるための魔術とかもあるらしいですし」
「そもそもなんだが、魔術とは結局何なんだ?魔法と違うんだろうことは分かるが、どういったものなのかが分からない」
ジャックの問いかけに、フィンリーは少し考えるように首を傾げた。
そのまま夕食を口に運んで咀嚼して、飲み込んでお茶を一口飲んでから改めてうーん……と声を出す。
「具体的に何、って言われると、ちょっと説明が面倒臭くて……魔術って、幅が広いんですよね」
「そうなのか」
「はい。例えば魔法薬を作るとして、魔力を一切使わない、体調を整える薬を作るのも、魔術の一種にはなるんですよ」
「……魔術って、なんかこう、不気味な印象あるんだけど……」
「あー、それあれです、禁術系の魔術の印象だけが世に蔓延ってる所為です。それも魔術の一部ではあるけど、一部です。割合にしたらほんのちょっと」
人差し指と親指の間に作られた隙間は、本当に少しだけだった。
過去に危険なものだからと注意を促した結果、その印象だけが広まって、魔術は全て怪しくて危ないものだという認識になってしまっているらしい。
「魔術師が基本的にあんまり表に出てこないのも原因ではあるんでしょうけど……」
「怪しいものだって思われてるなかに、わざわざ出ては来ないのか」
「それもあります。けど、それ以上に知識と技術が希少なんですよね。たとえば、今回自分たちはエスティの本名が分からないから、何の情報も得られなかったわけじゃないですか。これが魔術になると、そもそも相手の本名を調べるところから出来たりするわけです」
手間はかかるが、魔術の方が出来る事は多いのだとフィンリーは言う。
過去に捕まってその秘術を行使させ続けられた魔術師もいるから、基本的に魔術師は身を守るために名も姿も隠すのだと。
納得の声を上げつつ夕食を食べて、ジャックはフィンリーに詳しいな、と声を掛けた。
「魔法部隊はその辺の知識、最初に叩きこまれるんですよ」
と、フィンリーは軽く笑ったが、書類仕事の嫌いな中位騎士二人は聞いただけで震えあがるのだった。




