彼女の正体 2
黙り込んでしまった中位騎士二人を眺めつつ、魔法部隊の二人はのんびりと会話を続けていた。
彼らからすれば、本名を隠している人物というのもさほど珍しくは感じないのだという。
「魔術系の人の他にも、王族や貴族も本名を正確には認識出来ないようにしてますからね」
「そう、なのか?」
「そっちはやたら長い名前とか、正式な何かの時以外は名乗らない隠し名だとか、そういうのが当てはまりますね」
正確さを失わせることで、動きなどを探ろうとする者に渡る情報をぼやかすのだと、机の上の物を動かしながら魔法部隊の隊員が言う。
魔法も魔術も馴染みが無い二人からすれば、そういう物なのかと納得するしかない話だ。
話を聞きながら、ジャックがフィンリーに目を向ける。
「フィンリーは、エスティアの名が本名でないと知っていたのか?」
「いや、知ってたわけではないですよ。そうなのかな~って思ってただけで」
「何故気付いた?」
「んー……勘ですかね。魔法部隊なんで、その辺は割と察せられたりするんですよ。隊長も察してんじゃないかな」
魔法部隊隊長のエイヴィリーも、エスティアとは仲が良かった記憶がある。
エスティア曰く、知り合いの店でよく飲み潰れている人、らしい。
騎士団魔法部隊の隊長をそんな風に言える仲の良さに、少し驚いた覚えがあるのだ。
「エスティアより、エスティの方が本名に近いんだろうなぁーって」
「え、それはなんで?」
「あー……エスティって、別に初対面の人にめっちゃ気軽だとか、そういう事ないじゃないですか。アンシークのお客さんには愛想いいけど、接客の括りから外には出ない感じ」
「まぁ、そうだな」
「なのに毎回初対面の人には、気軽にエスティと呼んでくださいね、って言うから。偽名なんだとしても、一から全く違う名前を名乗ってんじゃなくて、本名の愛称がエスティだからエスティアって名乗ってんのかなぁって」
考えを纏めているのか、斜め上あたりを見てぼんやり呟くフィンリーを見た後に、二人は顔を見合わせた。
確かに、自分たちがエスティアと初めて会った時にも言われた台詞だ。
「と、いうか、なんですが……すみません、なぜそこまでエスティアさんの事を調べようと?」
「確かに。エスティなら、帰って来た時に聞いてみれば教えてくれそうだけど」
魔法部隊二人から言われて、ジャックはグレンの方を見た。
今回、ここまで彼女の正体を気にしているのは、どちらかと言えばグレンの方だ。
エスティアが何かしたというのを間近で見たのもグレンであり、ジャックはそれなりに距離がある中でそれを見ていた。
「……なんていうか……エスティアちゃんの雰囲気が全然違くて、そのまま帰って来ないんじゃないかって思って……」
「なるほど、帰ってきたら聞けばいいけど、帰って来ない可能性を考えてしまって不安なんですね」
「普通に帰ってくるとおもうけどなぁ。モンスター騒動があるから王都を出たわけじゃなくて、元々用事があったところにモンスター騒動が重なっちゃっただけだし」
ま、不安も分かるけども。と締めくくって、フィンリーは整理し終わったらしい机の前に移動した。
何をするのかと首を傾げる中位騎士二人と違い、魔法部隊の二人は何も言わずとも次にやることを理解しているらしい。
「そんじゃ、お願いガル」
「はい。お任せください」
「……何をするんだ?」
「どうせだから、本名が分からなくても出来る捜索方法を何個か試してみようかと思いまして。まぁ、そんなにいい結果は出ないだろうけど」
そう言いながら始まった魔法部隊二人の調べ物は、魔法の事は全く分からない二人には何をしているのか最初から最後まで分からないものだった。
結果が芳しくない事だけはフィンリーの表情と声から察せられたが、他の情報は一切出てこない。
「う~ん……結局、魔術の方なのか貴族の方なのか分かんないなぁ……」
「違いがあるのか?」
「そうですね、防ぎ方というか、情報のぼやかし方で分かることも多いんですけど……エスティがお嬢様でもまぁ納得だしなぁ」
確かに、言われてみればエスティアは所作が綺麗だ。
特に無意識にやっているのであろう身のこなしが美しく、貴族の子女だと言われても納得できるものではある。
だが、そうなると次の疑問が出てくる。
「そうだとして、家を出て別の国にいる理由はなんだ?」
「それはまぁ、貴族の家って色々ありますから。アンシークなら安心って預けられたとか?」
「まぁ、確かにアンシークなら……」
安全ではありそうだし、どんな事情であってもアンシークであれば何となく納得してしまう。
ここにいる四人全員がそう思っている辺りが、アンシークの特殊な部分だろう。
エスティアで六代目になるが、歴代店主の全員が血縁関係が無いらしいことを考えても、何があっても驚かないというか、納得できてしまう特殊性が詰まっている気がする。
「それにほら、シュッツの説明がつくし」
「シュッツって、エスティアちゃんの傍にたまにいる……」
「あ、あいつそっちにはあんまり顔出さないんですね。あいつ、多分エスティの従者ですよ」
当然のような顔をして言われた言葉に、シュッツの事を思い出していた二人は固まった。
二人からすれば、エスティアが珍しく当たりが強い人物くらいの認識だったのだが、確かに何か他とは違う関係値が見えることはあった。
それが主従関係だと言われれば、納得できる……かも、しれない。




