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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
九章「曰く、背に腹は代えられない」
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彼女の正体

 連日のモンスター騒動は、大型のモンスターが正門を抜けて王都内に入るという一大事に発展した。

 それ自体は大した被害も無く収められたが、問題はその収まり方だった。

 応戦した中位騎士二人がどうにかしたわけではない。なのに、騒ぎを聞きつけて上位騎士が合流した時には、既にモンスターは瀕死だった。


 ついでにその中位騎士の片割れが持っていた地図には、赤い丸が付けられており調べてくれと伝言まで貰っている。

 上位騎士と魔法部隊の隊長が何やら話し合って、それを信じることになって探索を行えば、そこからは確かに異物が見つかった。

 そこからまたそれに関するごたごたがあったのだが、騒ぎの中心にいた中位騎士二人はそれにあまり集中は出来なかった。別の思考に捕らわれているせいである。


 その思考というのは「エスティア・アンシーク」は何者なのか、ということ。

 あの騒ぎを収めたのは、間違いなくエスティアだった。

 けれど彼女はその説明をすることも無く、気付けばどこかへと消えている。


 元々、実家に帰る予定があるとは聞いていたし、あの日がちょうどその出発日だったのだろうとも思っている。

 が、それではあの行動に説明がつかないのだ。

 二人でいくら話し合ってもどうにもならない話題に、中位騎士二人は他の者を巻き込むことにした。



「それで白羽の矢が立ったのが自分ってわけね……」


 なぁるほど、と緩く声を出したのは、騎士団魔法部隊のフィンリーだ。

 エスティアとは仲がよく、よく個人的にも会っているフィンリーならば何か知っているのではないかと、そんな風に考えたのだ。


「端的に言いますけどね、知らないですよ」

「そう、なのか」

「隠し事が色々あるのは知ってましたけど、探ったりはしなかったので。お互いそうでしたからね」


 それでも、中位騎士二人はエスティアに隠し事が多い事すら知らなかった。

 本人は別に「隠し事があること」を隠してはいないとフィンリーは言うが、だからこそそうは見えなかったのかもしれない。

 どことなく落ち込んだ二人にフィンリーは若干気まずそうに声を掛けてきた。


「……まぁ、調べる方法が無い訳じゃないですけど……」

「そうなのか?」

「自分らは魔法部隊ですから?」


 本人の知らぬところで調べるのは、あんまりよくはないけど。なんて言いながら、フィンリーは二人を魔法部隊の本部へと案内した。

 少し待たされて、建物の更に奥へと進む。

 同じ騎士団と言えど魔法部隊は独立部隊だ。建物の奥に進むことは滅多になく、物珍しさと緊張で落ち着かない。


 そんな二人が通されたのは、魔法部隊本部の一角。

 何やら色々と道具が並ぶ部屋で、見知らぬ魔法部隊員が一人座っている。


「ガル、お願いね」

「はぁい。何をお調べしますか?」


 フィンリーに目線で促されて、二人は声を揃えた。


「エスティア・アンシークについて」

「ふむ、全面的にお調べします?とりあえず探りやすいのは、今どこにいるかとかですけど」

「やりやすいところからやってって」

「分かりました、ではお二人、ここに手を置いてくださいね」


 言われた通りに手を置いて、次の言葉を待つ。

 魔法部隊に調べ物を頼むことはあったが、どのように行われるのかまでは知らないのだ。


「それでは、エスティアさんの事を出来るだけはっきり脳内に思い浮かべてください。他の事はなるべく考えないで」


 言われた通りに、脳内にエスティアの事を思い浮かべる。

 肩につかない程度の長さの金髪、いつも楽し気にしている緑色の目。

 何故か店を尋ねると口いっぱいに昼食を頬張っていることが多くて、子ども扱いが嫌いで、身長が他より低いことを気にしていて、先代アンシーク店主の事をとても大事に思っている。


 その他にも、思い起こせる限りのエスティアを脳内に並べる。

 大体はアンシークの中でのことだが、アンシークの外で会うこともあった。

 その時の彼女は何故か毎回のように面倒ごとに巻き込まれていたが。


「う~ん……」


 思い起こすのは楽しかったが、けれど結果はあまり良くないようだ。

 もしや自分たちに問題があったか、と二人が顔を見合わせた時、横で眺めていたフィンリーの静かな声が響いた。


「弾かれてる?」

「そうですねぇ……根本から」

「やっぱそうかぁ」

「……どういうことだ?」

「前提条件が合ってないんです」


 何やら納得している魔法部隊二人と違って、こちらは何も分からないままだ。

 説明を求めてフィンリーを見ると、どこか言い辛そうに目線が逸らされた。


「エスティア・アンシークは偽名ってこと」

「……は」

「そうかなぁとは思ってたけど、マジだったなぁ……」


 はは、と薄く笑ったフィンリーとは違い、二人はその言葉をどこか受け入れられずにいた。

 むしろ、個人的な交流も多いフィンリーが冷静な理由が分からない。

 そんな二人の考えが分かったのか、調べてくれていた魔法部隊員が口を開いた。


「魔法使い……よりは、魔術関係の方には多いんですよね、本名を隠される方」

「そうなのか?」

「はい。名を知られると、こうして調べることも出来ますので……」


 そう言われ、グレンの脳内にはモンスターに向けて何かを放ったように見えたエスティアの姿が蘇ってきていた。

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