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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
八章「曰く、月夜に釜を抜かれる」
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春の只中 2

 カランコロン、と音を立てて扉が開き、扉から小さな女の子がひょっこり顔を出した。

 あら、育ちの良さそうなお嬢さん。

 なんて思いつつ顔には営業スマイルを張り付けて、穏やかに声を発した。


「いらっしゃいませ~」


 女の子は他に人が居ないのを確かめるかのように店の中を見渡して、トコトコとこっちへ歩いてきた。

 綺麗に纏められた髪、汚れ一つないふわふわの服、ピカピカの靴に、小さなポシェット。

 迷子には見えないが、なんだろう。初めてのおつかい?ってやつだろうか。


「あの、店員さん」

「はい、どうなさいました?」

「プレゼントえらび、てつだってもらえませんか」


 ほむ、と小さく口の中で呟いて、椅子から降りてカウンターの前に回る。

 ついでにしゃがんで視線を合わせると、女の子は肩にかけていたポシェットをずいっと見せてきた。


「お金、あります」

「なるほど。ここのお店でよろしいんですか?」

「はいっ。おかあさまが、ここの店員さんに聞いてごらんて」


 なるほどなるほど。子持ちの良家のお嬢さんには、何人か心当たりがある。

 お眼鏡にかなったんなら、まぁ選びますか。

 お行儀の良い可愛い子の相手は嫌いじゃないからね。


「どなたへのプレゼントですか?」

「おじさま!」


 パッと明るくなった顔と声に、相当懐いている相手だという事だけは悟る。

 おじさまかぁ。血縁のおじさまなのか、そうじゃないのかで大分年齢層が変わってくる気がするなぁ。

 ……いやまぁ、こんくらいの歳の子からなら、何貰っても嬉しい気はするけども。


「そのおじさまは、どんな人ですか?」

「おじさま、優しくて、かっこよくて……あとね、ダンスがおじょうず」

「なるほどなるほど」


 どうしよう、この子がそのおじさまにめっちゃ懐いてるって以外の情報が増えない。

 ……ま、いっか。私はあくまでお手伝いだからね。


「それじゃ、お嬢さんから見てそのおじさまは、何色に見えますか?」

「いろ?」

「はい。何でもいいですよ、春みたいな色とか、空みたいな色とか」


 実用的なものがいいとか、そんなんは関係ないのだ。

 なにせ大人からの贈り物と違って、子供からの贈り物ってのは心がこもってて一生懸命選んだのが分かるだけで全てが許されるのだから。

 この子が一人で来たことが何よりの証拠だよね。


 何か特定の物を贈らないといけないなら親か誰かが一緒に来るし、質にこだわる必要があるならアンシークには来ない。

 たまにとんでもないものが出て来るとは言え、ここは庶民向けの雑貨屋だからね。

 店の場所も目立つところにあるわけじゃないから、このお嬢さんが一人で来たとは思えない。


 店の前まで誰かが送ってきて、わざわざ一人で入店させたんだろうなぁ。

 ということは、私はプレゼントの送り先である「おじさま」を詳しく知る必要はないのだ。

 このお嬢さんの目を通してみたおじさまのぼんやりした想像だけあれば足りるだろう。


「んっとね、おひさまの色」

「おひさまですか」

「うん。ぽかぽかのおひさま」


 じゃあ黄色とかオレンジだ。

 色が固まるだけで随分やりやすい。ま、別にその色じゃなくたっていいんだけどね。


「よし、それじゃぁ店の中を見て回って、ピンとくるものを探しましょう」

「うん」


 素直に返事をしてくれたお嬢さんに笑いかけて、立ち上がって店の中をぐるっと見渡した。

 男女ともにプレゼントを買って行く人は結構いるけど、お嬢さんがピンとくるものは何かあるだろうか。

 分かりやすいのはハンカチとかな気がするけど……どうだろうなぁ。


「上にあるもの、降ろしますねー」

「ありがとうございます」


 目線からして見えていなさそうなものは降ろして見せて、反応があったものをカウンターに乗せていく。

 今日はちょうど暇だったからね、楽しいお仕事が舞い込んでくれて私もウキウキだ。


「どうですか?」

「うーん……これも、これも、きれいだし、これもかわいいけど、おじさまとはちがうかも」

「なるほどぉ」


 一通り店の中を見て、カウンターに物がわりかし並んだところでカウンターに戻ってきたけど、プレゼントとしてはピンと来てないみたいだ。

 凄いな、このくらいの歳の子って、そこまで考えられるのか。

 なんて考えてから、ふと店の奥に置いてある箱の中身が記憶に割り込んできた。


 せっかくなら出してこようと思って、ちょっと待っててくれと声を掛けてから奥へ行く。

 棚の中から引っ張り出した箱には、さらに小さな箱が複数入っている。

 その中身を確かめて、目的のものであることを確認したら箱を抱えて店に戻った。


 お嬢さんの足元にはさっき出した踏み台があるので、カウンターの上を片付けてそこに箱の中身を並べていく。

 並べられている細長い箱を見てお嬢さんは首を傾げたけど、大人しくその様子を眺めていた。


「わぁ……」

「どうでしょう」

「きれい!」


 並べ終わった箱を開けていくと、お嬢さんは小さく歓声を上げた。

 箱の中に入っているのは、全てが一点物のペンだ。

 軸にもペン先にも細かく模様が彫り込まれ、飾りも付いている綺麗で贅沢なもの。


 職人さんが作っているもので、言われた時にしか出してこない物の一つ。

 アンシークに蓄えられたお宝の一角なのだが、この子ならなんか価値を分かってくれそうな気がするので、今回引っ張り出してきた。

 案の定目を輝かせて一つ一つ見ているので、多分この中からプレゼントが選ばれることになるだろう。

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