不穏な噂
常連の子のプレゼント相談にアルトを呼び付けてから数日。
結局話はアルトに作製を依頼することで纏まって、詳しいデザインとかは二人で話し合ってもらって、その話がまとまったって連絡が来た。
アルトが個人からの依頼を受けるのは珍しいんだけど、今回は私が呼び付けたから特別らしい。ありがとね。
アルトにお願いしたんなら絶対きれいなものが仕上がるよね、と安心して私は今、スクレ君からパンを買っている。
今日のパンも美味しそうです。二種類ある日はどっちにするか悩むよね。
「あー……レモンチキンにします」
「はーい。お菓子も一個?」
「うん」
「合計で四百二十コルメでーす」
今日はレモンチキンサンドとダックワーズ。
ちなみにもう一種のサンドイッチはトマトとチーズだった。そっちも美味しそうだったんだけどね、今日はレモンチキンの気分だったからね。
代金を払って去っていくスクレ君に手を振って、店内にお客さんもいないので早速サンドイッチの包みを開ける。
一口齧って、んま、と小さく声を出し、もう一口齧ったところで扉がカランコロンと音を立てた。
……また、また頬張ったところで誰か来たよ。
最近は気を付けてすぐ飲み込めるくらいずつ食べてたのにその時は誰も来なくて、油断して大きめに齧ったらこれだよ!
「いらっふぁいまふぇ」
「すまん、食事中だったか……」
「ふみまふぇん……」
入って来たのは騎士団のお二人で、ちょくちょく私がリスみたいになってる時に来てるからなんかもう本当にすいません……って感じだ。
いつもじゃないんです……いつもこんなんでは……
内心で言い訳をしつつせっせと咀嚼してサンドイッチを飲み込み、水を一口飲んでから向き直る。
「すみません、いらっしゃいませ」
「いや、こっちこそごめんね」
「何をお求めでした?」
「今日は買い物ではなく、注意喚起だ」
「ほう」
何やら大事なお知らせっぽいので、椅子に座り直してジャックさんを見上げる。
騎士団がわざわざ来るってことは結構大きめな事件でもあったのかな?
普段から騎士団がよく来るアンシークだけど、注意喚起ってのは少ないからね。
「王都内でモンスターを見たという報告が複数上がっているんだ」
「え、またどっかにダンジョンの入口でも出来たんです?」
「いや、どこにも穴は開いてないんだってさ。原因は今捜査中で、捜索も続いてる」
「何か不審な物などがあったら報告してほしい。騎士団でなくとも、警備に話をすれば全て集約されるようになっている」
「分かりました。とりあえずは警戒って感じですね」
「そうだね。エスティアちゃんは特に、前にも狙われてたから……」
「やな思い出ですねぇ……」
去年いっぱいあった不幸の一つは、しっかり記憶に焼き付いている。
モンスターに足噛まれて引きずられるとか、早々忘れるもんでもないしね。
なんて、思わず遠い目をしつつ今回の件で今判明している事の詳細を聞く。
まだ話が終わらない気配がしたからね。案の定詳しい話が聞けたので、ふんふん相槌を打ちながら御話の内容を脳内に並べ直した。
「なるほど、ここからは結構遠いですね」
「ああ、なのでいつもより気を付けてくれるだけでいい」
「巡回の人数も増えてるから、何かあればすぐに人が来るよ」
「了解です。ありがとうございます」
目撃情報があったのは王都の中でもここからは離れた区画で、それに準ずるような噂もこの辺では聞こえてこないらしいから、何かあるにしてもすぐにってことはないだろう。
今日の用事はこの話だけだったらしい騎士団の二人が去っていくので手を振って見送り、外からモンスターが入り込んで来るなんてなぁ……とか考えながらサンドイッチを齧る。
大ごとになったら面倒だし、早めに情報を集めたい。
多分近いうちに情報を集めたシュッツがやってくるだろうから、それまでは大人しくしておこう。
私が騒いでも何か出来る事なんてないからね。
緊急性があるならシュッツが飛んでくるし、常連の騎士団員も来てくれるだろうし、なんなら物理的にフィンさんが飛んでくるし、どうにかなるでしょ。
「今回は流石に私関係ないっしょ~」
なんて気楽に呟きながらサンドイッチを食べきって、デザートのダックワーズの包みを開けた。
ほほ、美味しい。素晴らしい。
これ今後お店行った時に売ってたら買おうかな。
全部食べ終えて包みを裏に捨てに行ってついでに水を追加しに二階に上がって戻ってきてもお客さんは来ず、そのまま暇な午後に突入した。
今日は特に急ぎでやる事とかないから、暇な時用に用意していた店の仕入れ先一覧を取り出す。
実家に帰る前に一回整理して書き直してもいいかなぁーって思ってたんだよね。
前に使ってたのも捨てないで取っておくんだけど、たまに書き直して整理しないとごちゃごちゃになるからね。
今使ってる奴は二年前くらいに書いてちまちま書き足してたやつなので、ここで一新してしまおう。
ちなみに前に使ってたのを捨てないのは、アンシークが特殊な取引多すぎて雑に捨てると後で困ったりするからだ。
先代と先々代は結構苦労したらしい。
苦労させたのは多分三代目だろうなって思いながら話を聞いた記憶がある。




