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エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
一章「曰く、悪事千里を走る」
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真意の見定め

 カランコロン、と扉の鈴が鳴る。

 笑顔を向けて来店したお客さんに声をかけて、手元のメモ書きは一旦カウンターの中にしまって。

 そうしていつも通りに過ごしているわけだけれど、ここ数日でアイラック商会の噂をやたらと耳にするようになった。


 面白い噂だからとみんなが広めている……と考えても、ちょっと異常な広まり方だ。

 しかも内容はどんどん苛烈になっていく。

 アイラック商会を擁護する人も多いのにここまで一気に広まったのは、やはり誰かの悪意がそれをあおっているからだろう。


「どうしたエスティ。考え事か」

「……今日の夕飯、買い出し行かないとなんもない気がするんですよね……」

「そりゃあ一大事。ちゃんと食えよー」

「私は何があろうとご飯だけは食べる女なのでその点はご心配なく」


 常連さんにバレるレベルでぼんやりしているわけだけど、今はどうにも出来ないんだよねぇ。

 シュッツが来るまでまだ日数がある。それまでに何かもっと面倒なことにならないといいけど。

 なんて考えつつ会計を終わらせて具合が悪いなら休めよーと去って行く常連さんに手を振る。具合は悪くないから大丈夫ですよー。


 ……まあ、別に私が解決しないといけないって話でもないんだからそんなに気にしなくてもいいっちゃいいんだけどね。

 アイラック商会はやって無さそうだなぁとそんな印象ばかりのこの状態でただ噂で押し流されていくのを見ているってのはあんまり気分が良くない。

 それじゃあ先代に報告する内容としては下の下だよなぁー。


 人の居なくなった店内で、ぐーっと身体を伸ばしながらどうしたもんかと何度目かになる言葉を繰り返す。

 そもそも直接関わる気はないので、どうにかして間接的に解決に持っていきたい。

 となると結局、アイラック商会が「悪事を働いたという決定的証拠」もしくは「やっていないという決定的証拠」が必要になる、のか。


「はぇー。めんどくせぇー」


 正直、それを確かめるだけならどうにでも出来るんだけどね。

 ちゃんと証拠として出せるように、違和感のない方法を使わないといけないあたりが大分面倒くさいんだよね。

 一人で解決するだけならそれはそれで楽なんだけどなぁ。それやると色々問題があるからなぁ……


 なんて、背もたれに体重を預けてダラダラと考えていたらカランコロンと鈴が鳴る。

 体勢を直して扉に微笑んでいると、スクレ君が顔を出した。

 もうお昼か、全然気付かなかった。


「こんにちはー」

「こんにちは、スクレ君。今日は何です?」

「今日はバジルチキンサンド。お菓子はナッツのパウンドケーキだよ」

「美味しそう」


 美味しくない日は無いんだけど、もう反射的に言っちゃうんだから仕方ないよね。

 そんなわけで代金を払って去って行くスクレ君に手を振って、扉が閉じたところでさっそくサンドイッチの包みを開けた。


 一口齧ってちょうどいい塩加減と味付けのチキンに思わず笑みが零れ、二口目を齧ったところで再びカランコロンと鈴が鳴った。

 なんでこう、皆私が丁度頬袋をいっぱいにしたところで来るんだろうね?


「い、いらっふぁいまふぇ」

「あ、ごめんエスティ……」

「なんふぁ、シュッツか」

「うん、とりあえず飲み込んで?」

「ん」


 促されてせっせと咀嚼をする。

 一週間後と言っていたのに随分早く来たなぁ、なんて思いつつ口の中のサンドイッチを飲み込んで、とりあえず水を一口。ふう。


「よし。いらっしゃいませ。予定よりずいぶん早いね?」

「まあ、たぶんこれだなぁってのが出てきたからね」

「ほーう、証拠でも出たの?」

「やってない、って方なら?」

「あー……そっちが先に出るよねぇそりゃ」


 まあ予想してたっちゃしてたけど、そんな簡単に出てくるかね普通。

 そっちの方が調べるの面倒だと思うんだけどなぁ……どんな調べ方したんだこいつ。

 とりあえず差し出されたメモ帳を受け取ってペラペラ捲っていたら視界が急に暗くなる。

 何かと思ったらシュッツがカウンターに肘をついてこちらを覗き込んできていた。


「そのあたりは街で聞けた噂。上に日付も書いてあるから」

「相変わらず無駄に几帳面」

「無駄って言わないでよ……」


 このあたりは私も聞いた噂が多い。

 日付が新しくなるほど苛烈になっていくあたりも一致。

 ま、おんなじ国の中で聞いてんだからそりゃあそうだわな。


「こっちはたまたま聞けちゃった話」

「うわ……」

「全力で引かないでよぉ」

「ウサギかなんかかよ……絶対そんな可愛いもんじゃないじゃん……」


 たまたま聞けちゃった、とかわざわざ言うあたりがもうね。

 まあいいどさ別に。頼んだのは私な訳だし、そうとやかくも言うまいよ。

 え?もう言ってるって?気のせい気のせい。


「で、これは?」

「それはその話をしてきた、って人の記録?どんな人が噂広めたのかなーってエスティは気にするかと思って」

「ふーん……」

「冷たい……エスティが冷たい……」

「はいはい。いつもありがとーねー」


 お礼はまた今度ちゃんとするからちょっと待っててほしい。

 今はこれ読むのに忙しいから。というか私の態度は昔から一貫してるんだから今更では?

 むしろそれでも一緒に居るそっちの趣味嗜好を疑うんだけど。


「……これが最後?」

「そう。辿って行ったら出てきたすべての噂の出どころ」


 そこには、ルツィオ商会と一言だけ書かれていた。

 ルツィオ、ルツィオねぇ……なるほどふんふん。

 メモを返して、シュッツを見上げる。綺麗な水色の目はただ静かにこちらを見ていた。


「行ってみようか?分かりやすい方がいいし」

「はぁ……言うと思った……」


 あからさまに嫌そうな顔をするんじゃない。

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