表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常  作者: 瓶覗
序章「曰く、千里の道も一歩から」
1/124

アンシーク

 昼時のそれなりに強い日差しの差し込む大通りを、カウンターの内側に肘をついてのんびりと眺める。

 今日は随分と暇な日で、やる事もこうしてぼんやりと水を飲みつつ暇を潰すくらいしかなかった。

 軽くため息なんて吐きつつかれこれ一時間くらいは大通りを眺めていたら、そこをこの国の騎士団の「最強」「最弱」なんて噂される二人が仲睦まじい様子で歩いているのが見えた。


 誰がそう称したとか、本当にそうなのかとか、そんなことは今どうでもいい。

 その二人が仲良く通りを歩いているという現状が何よりも重要だ。

 はぁ~~~いい眺め~~~。あれが見れるだけで客が来ない退屈も一気に吹き飛んでいきますわ。ただの水も何より美味しく感じる。


 この国「グリヴィア王国」は、何かにつけ最強だの最弱だのと称号を付けたがる。

 最強はともかく最弱は汚名なんではないか、と思わない訳ではないけれど、それも別に大した問題ではなく。

 私が一番重視している部分は、その最強最弱云々かんぬん言われている人たちはわりかし一緒に行動することが多い、という点なのだ。


 私の唯一と言っていい趣味。それは他人の恋愛観察である。

 ……うん、趣味が悪いとか、言わないでね?自分からは手も口も出さすに観察に徹するし、邪魔は一切していないからセーフだと言ってくれ頼むありがとう。

 まあとにかく、私はそこに二人組が生成されているならそれだけで大変テンションの上がる女なのだ。


 愛だの恋だのがあれば、男女だろうが男同士だろうが女同士だろうが性別不詳だろうが、なんなら人間じゃなくても美味しく頂けてしまう雑食の生き物。それが私。

 他に全力で楽しめることがないのと、色々あった縁のおかげで雑貨屋の店主をしながら大通りを眺める生活を送っている。

 店は私で六代目になる、それなりに年季の入った雑貨屋。店の名前は「アンシーク」


 それなりに年季の入った店、という事で、様々な年代の様々な物を求めた人がやって来るちょっとだけ有名な店である。

 今日は特別暇だけど、それでも経営に問題はない。というか今日が暇すぎるだけだ。

 なんでこんなに暇なんだ。


「雨でもなければ祭りもないのに」


 ぼやきつつ、もしや私が知らないだけで何かあったりしたのだろうかと考え始めたところで扉に付けられた鈴がカランコロンと音を立てた。

 数時間ぶりの客か、と営業スマイルを張り付けて、開いた扉の方を見る。


「やっほーエスティ!久しぶりー!」

「アムー!久しぶりだね、いらっしゃい」


 入ってきたのはお客さんではなく、友人だった。

 幼馴染で趣味友で、ついでに姉のような存在。それがこのアムールという女。

 旅が好きで家も持たずあちこちに足を伸ばしており、この前も別の大陸まで行ってくると言い残して数か月姿を見せていなかった。


「どこまで行ってきたの?」

「グラングラスまで。はぁ~……グリヴィアは過ごしやすいねぇ」


 流れるようにカウンターに肘をついたアムはご機嫌に呟く。

 この国は気候も穏やかだし内情も穏やかなので、過ごしやすさは上位に入ってくるだろう。

 世界中を旅しているアムからすると、私より強くそう思うのかもしれない。


「何か買って行く?」

「んー……実はまだコルメ換金してないんだよね」

「通貨も持たずになにウロウロしてるの」

「とりあえずエスティに会おうかなって」


 旅を始めたばかりでもあるまいし、何か面倒事が起こらないとも限らないんだからさっさと換金してきなさいよ。

 というか通る道に寄ってはアンシークに来る前に寄っていける換金所あったでしょ。

 なにより先に会いに来てくれたのが嬉しくない訳ではないけれど、いくら平和な国でもあまりに無防備すぎる気がする。


 えへ?と小首を傾げて雑に誤魔化そうとするアムにため息を吐いていたら、カランコロンと再び扉の鈴が鳴った。

 さっきまで閑古鳥が鳴いていたのに、来るときは纏めて来るものだ。

 アムはまあ、暇になったら好きに過ごすだろうしお客さんの方が優先。そんなわけで営業スマイルを顔に張り付け、扉の方に顔を向けた。


「いらっしゃいませ」

「やあ」

「おやジャックさん。こんにちは、何をお求めです?」

「紙とペン先の替え、それからシーリングワックスのスティックを」

「はーい。シーリングワックスの色、何色がよろしいですか?」

「紺で。二本頼む」


 ご来店なさったのはこれまた顔馴染みのお客さん。

 この国の騎士団、その中位騎士であるジャック・ラエグスという青年で、今日は非番なのか鎧ではなく身軽な様子だ。

 店内で物を探すより私に言った方が早いと理解しているくらいにはよくいらっしゃる常連さんである。


「エスティ、私そろそろ行くねー」

「あれ、泊まって行かないの?」

「泊まってくー!けど先に換金済ませてくるー」

「はいよー」


 裏に頼まれたものを取りに行こうと思ったら、アムが店から去って行った。

 それを見送って、ジャックさんに一言告げてからカウンターの内側にある扉から奥へ入る。

 この先は倉庫兼作業場であり、さらに扉を潜ると個別にトイレとシャワー、それから居住区である二階に上がる階段がある。


「お待ちどうさまです。確認お願いしますね」

「ああ、確かに。……ところでエスティア、先ほどの女性は……」

「あれ、会うの初めてでした?アムールっていう私の幼馴染ですよ。よく遊びに来るんです」


 そんな話をしつつ代金を受け取り、去って行くジャックさんを見送る。

 アムが戻ってくるまではまた閑古鳥が鳴きそうだな。

 こうなれば、さっきと同じように建物の隙間から大通りを眺めて暇を潰すしかない。


 これが私、エスティア・アンシークのそれなりに楽しい日常である。

始めまして、もしくはこんにちは。瓶覗と申します。

内心が騒がしいタイプの一人称の話が好きなので好きなものを好きなように書きたいと思います。

エスティが何でもかんでも楽しんでしまうタイプなので話の中にはBLもGLもNLも入ってくるかと思います。地雷をお持ちの方はお気を付けて。全部好きだよって人は牛歩で進む話ですが暇つぶしがてらお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ