今までとはちょっと?違う日常(午後)
冷凍チャーハンって美味いっすね。
あ、次からは五日おきだと思います。
冷凍食品の素晴らしさを実感した昼食後、中庭に出た俺は魔力を全身に流しながら身体を動かす。ゆっくりと身体を動かして、徐々にスピードを上げていく。普通ならここまで身体能力が上がったら想像との乖離で思ったように動かない。だからこそ少しずつ身体を動かしているのだが、全く想像との乖離が無い。嬉しい誤算なのだが、ちょっと怖さも感じる。
まあそれはいい。それよりも今考えるべき事は、午前中に考えてた弓矢の訓練だ。当然だが俺がやれるようになりたいのは「止まった」標的に矢を当てるのでは無く、「動いてる」標的に矢を当てれるようになりたいのだ。自分も動いている状態で当てられればなおよし。
そんな訳で糸に吊らした的に風魔法を使い動かしながら矢を当てる訓練を行う。100メートルほど離れて行っても簡単に当てられる。理由は分かっている。所詮は風魔法で的を動かしているのは自分、どの程度動くのか?どのくらい揺れるのか?などは全部分かっているのだ。これでは当たって当然。
というかだ。風魔法の弊害(本来なら良い事)、風の動きが分かるのだ。それは魔法を使わずとも感知できてしまうので、突風が吹いても的の動きが分かるし、急に鳥が降りてきても分かる。訓練にならないのだ。魔物の動きも分かるから良いではないかと思ったが、魔物が物理法則に従っているとは思えないし。
結論、この訓練は大した意味無し!
「じゃあ切り替えていこう!次は、ninjaな動きをしながら矢を当てる訓練だな」
木々を移動しながら一つの目印を付けた木に矢を当てる訓練を思いついたが、実際やってみるとこれが中々難しい。木を狙うもその場で止まることができない(と言うか止まったら落ちる)足場、移動する度に射線上に標的では無い木が邪魔をし、ろくに標的が見えないず、見えた瞬間に弓矢を放つ技量が無い。
そこで弓矢の代わりに魔法で矢を飛ばす訓練にした。魔法の矢を自分の周りに待機させ、木々を移動しながら標的に矢を当てる。これの命中率が約二割、前半は全く当たらなかったが、後半になれば当たるようになった。
これらの事から標的を探す→認識する→構える→撃つまでの時間が遅いと結論付けて良いだろう。特に構える→撃つの二つの工程が要訓練だと認識した。
「ま、とりあえずは魔法での訓練だな。弓矢は魔法での命中率が100%を超えてからかな」
黙々と訓練をするうちに、自身の動きを含め俯瞰的な視点で認識できるようになってきた。目を閉じても木に当たる事なく見えているかのようになったが、スキル習得アナウンスが無かったので神眼スキルのおかげだろう。
木々の移動を意識して行うようになってから、標的との射線が繋がる瞬間、標的に魔法を当てるためにどのタイミングで発動準備を始めればいいか、魔法が標的に当たるまでの時間までも分かるようになった。試しに魔法を二、三撃ってみたところ、当たったが魔法が洗練されていない事に気づいた。
「洗練されていない、というか、矢として無駄が多いと言うべきか?」
火魔法なら長距離では規模を大きく暴力的な感じ、つまり矢と言うより槍の方がいい。風魔法なら弧を描くような切れ味がありそうな感じ、チャクラムや鎌鼬(旋風)の様な方がいい。土魔法なら黒曜石の様な鋭い感じ、矢とした時に刺さる方がいい。
多分これらの違いは最初の魔法を使った時のイメージだろう。火に関しては飛ばした時に消えそうなイメージになってしまうからもっと暴炎じみた感じになる。風はぶつけることで火花を出すために勢いが良い感じだ。土は結晶を作ったからか黒曜石のイメージが忘れられない。だからこそ魔法を無理やり矢の形にしていると違和感が出てしまうのだろう。それが無駄となってる。
「つまり今の訓練には、俺にとっての最適な魔法属性があり、それは土であると言うことか。では早速、凝固せよ!」
『魔法凝縮術を習得しました』
「正解か。なら、炎槍よ。風刃輪。石矢よ」
俺の周りに荒々しい炎の槍と切り裂かれる風の輪ができ、見た目より遥かに重い石の矢が手に現れた。握り潰そうとしてもびくともせず、オークの首を切った時の槍より少し重い程度の重さを持つ矢。先端部は鋭く指を押し当てればプスリと刺さった。
もしコレを木に放っていたら確実に木は倒れていただろう。炎の槍に手を近づければ焚き火に手を触れさせたかの様なジリジリとした感覚と共に火傷を負った。もう一方の手で風刃輪に触ろうとすれば手のひらを成長の剣で斬った時の様にスパッと切り裂かれた。
無限ポーションで手を治して改めて考える。よく魔法があるファンタジー小説では剣の周りを炎で包んだり、風を纏わせ切れ味を増したり、土を纏わせ大剣にしたりする。だが今作った魔法では火魔法なら剣は溶けて、風魔法なら剣その物を切ってしまい、土魔法なら剣が重量に耐えられず折れるだろう。
「つまりはコレらは魔法単体での最適解であって、何かに纏わせたりするには向かない改良型という事か」
だが今の魔法のイメージ以外では威力が落ちたり、コスパがかえって悪くなる。諦めた方がいいか?……いや、効果を一瞬だけ使うなら利用できるか。火なら接触時のみ超高温にして鉄を溶かしながら振るえば使える。風ならば振った勢いに沿って魔法を発動すれば飛ぶ斬撃が可能。土なら振り下ろし時に纏わせれば身体を振り回される事なく大剣と同じ効果を得られる。
だが使い捨ての方法になるんだよなぁ。マジックバックもから召喚すると一秒くらいタイムラグがあるし。そういえばなんか良いアイテムがあった様な気がするんだが……あ、「登録型召喚腕輪」ってアイテムがあったな!帰ったら効果調べるか。
「さて、改善策もおそらくだが見つかった。無理だったら頑丈な剣を使えば良いだけだし。矢に関しては土魔法を手加減して作れば生成可能か。弓は「万能訓練の棒」を使えば大丈夫、本番なら「不定形の槍」で十分だろ」
万能訓練の棒の真に凄い効果は矢を生成できる事でも、質量保存の法則を無視している点でもない。【デメリット】扱いされてる攻撃不可の効果だ。仮にこの異常に鋭い石矢を使って弓を引けば、
―コッ
このように軽く石が当たる程度の威力しか発揮できないのだ。炎槍を無理やり矢に変えて射っても、
―ポンッ
当たったら霞のごとく消えてしまうのだ。しかも何気に弦を引いた状態から炎矢を触っても火傷すらしない。弦を引かずに触れば先のように火傷するという、攻撃不可の判定がどの程度から発揮するのか気にはなるが今はいい。炎矢は見た目だけめちゃくちゃ派手で目眩しくらいには使えるだろう。もしくは魔法の練習か。
ともかく訓練の間はこの万能訓練の棒を頼るとしよう。しかし弓矢じゃなくて、木々での訓練は疲れたな。繊細さや集中力が続きそうに無いので一旦休憩だな。
「他には…あー、あとはさっき習得した初級仙術だな、神眼で調べるか」
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仙術 初級
本来なら自身の魔力は一切動かさずに、自然界にある魔力を動かす事で自身の周囲に事象を引き起こす術。しかし呼吸を行う事で自然界の魔力を間接的に動かし、自身の周囲に流動する空気層を作り身体を動かし易くした事で初級仙術を獲得した。
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「ふむ、でも呼吸せずに魔力を流しても身体の動きは速くなるぞ?。…いや僅かに違う、か?言われてみればちょっと違うかも程度だけど。走ってみれば分かりやすいかな?」
無呼吸で魔力を流すだけでダッシュ!五十メートル、二秒半。我ながら化け物だな。
ではゆっくり呼吸をして、魔力を流しダッシュ!ふむ、二秒前半か。確かに少し違うな。
となると、問題はどうやって初級から脱するのか。そもそもどうやったら自分以外の魔力を操れるのかさっぱり分からん。自分の魔力なら簡単に、それこそこの短時間で(手足は言い過ぎなので)口笛くらいの気軽さで操作できるがな。自分の外となると途端にイメージ出来なくなる。
魔法と同じく魔力を操作するのはイメージだ。自分の中なら四苦八苦した末に瞑想をできるようになったから直ぐに魔力感知までできた。しかし…いやだからこそか、自分の魔力は「餅っぽい」感じで、外の魔力は「水っぽい」イメージだと思ってしまい中々操作と言われても分からないのだ。
やっぱり伝承とかで出てくる仙人の様に滝行とか、自然の中で沐浴でもするべきなんだろうか。大樹の下で座禅を組んでたりすると自然と身につくのだろうか。分からん、分からんなあ。いっそのこと感謝の正拳突き一万回と言われた方が分かりやすい。できないと思うが。
「何とか初級仙術なら出来そうな気がするんだが、そこから先が想像できない。スキルを取りたいとも思えないし、まあ精神統一や休憩の合間に集中してやるか。戦闘なら今の効果で十分だし」
呼吸を意識して行い、自然にある魔力を取り込む。その行為を歩きながら一定のペースで行い続け一旦家に戻った。気を整えるとも言うべきか、気分を落ち着けながら静かに歩けた。そうしていたら
『中級暗殺術を習得しました』
こんなスキルも手に入った。おそらく無意識のうちに足音が消え、気配も希薄になっていたのだろう。今はまだ集中しながらでないとダメだが、そう急かす必要も少ない。ゆっくり成長していこう。
家の戦利品置き場に歩いて行き、中から「登録型召喚腕輪」を二個発見する。まあまずは鑑定だね。
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登録型召喚腕輪 レア度:伝説級
一つにつき一種類までの物を手元にタイムラグ無しで召喚できる。また召喚者の血を垂らす事で、召喚者固定や鑑定スキルを持っていてもパッと見ただけではミサンガにしか見えない様にできる。
効果:所有者固定、指定召喚、隠蔽偽装(中)
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中々いい物じゃ無いか。使い捨ての武器をいっぱい登録して使う事はできないが、今回帰って来る最中に進化?し始めた「成長の剣」と何がいいだろう。アレはこれからもっと強くなる。二刀流はハイ・オークエンペラーとの戦いで使ったが決して上手くはなかったし、根拠のない単なる直感だがこれからも要らない気がする。
となると候補は遠距離攻撃用に弓か、攻撃から身を守るために盾か、いざと言う時に使う近接攻撃用の武器か、どんな時でも使える「不定形の槍」みたいな万能タイプの武器か……悩むねえ。あ、あとポーションって手もアリだね。緊急回復用に。
こういう時に仲間が欲しいとつくづく思う。もし仲間が補助タイプなら盾を使ったかもしれないし、近接攻撃タイプだったら弓を選択しただろう。ソロにも限界はあるだろうが、だからといって今すぐ欲しいほどでも無い。いや、他のグランドマスター候補ならワンチャンあるかもしれん。だが推測の域を出ず、ともすれば妄想だと切り捨ててもいいけど。
結局あれこれ悩んだが結論は出なかった。なので一旦保留にしてし「成長の剣」だけ登録。今はホームセンターで買ってきた南京錠やダイヤル式の鍵の解除練習をしながら次の階層などに考えを巡らせる。
ここからは何日も連続で潜っていかないとダメだろう。どんなに早く駆け抜けたとしても、十階層までには半日は必要だ。転移できればと思うが、ダンジョン内では部分転移すらもキャンセルされる。これはおそらく技量云々の問題ではなくズル防止のためだろう。当然ではあるな。
「あ、できた。やっぱり構造視えていると簡単だなぁ」
『上級鍵開けを習得しました。
上級罠解除を習得しました。
上級罠作成を習得しました。
GET!称号【シーフの鑑】を入手しました。
感知術(極)を習得しました。
周辺精査を習得しました』
「これインフレ系のゲームにでも入ったかの様な勢いでスキル習得するな」
神眼で透視を行なって、最初は南京錠に針金を突っ込んで錬金術で曲げながら開けていた。だが鍵開け系は早く終わって初級鍵開けを獲得、次にダイアル式を開けたら中級、最後は金庫を開けては閉めを繰り返して一時間ほどやった。
罠に関しては自分でネットを使って様々な罠を作成しては解除を繰り返していたら、さっきのアナウンスが響いたってわけだ。感知術に関しては罠を作成して山に設置したら鳥が捕まったのだが、その感覚を覚えてって流れだと思う。周辺精査習得と実際のところは分からんが。
「ん〜。暗くなる前に魔法をひと通りやって、日が沈んだらまた弓矢の訓練だな」
そして再び庭に出て魔法を発動させる。最初は炎の槍、風の鎌鼬、土の矢。次に風と土を空中で維持しながら火の調整。ガスバーナーのように徐々に火力を上げ、形を様々な動物に変化させて移動させる。動物の部位毎に火力も変えて複数同時に操ったりする。これを風と土でも行う。
終わったら闇魔法だ。まあ正確には影魔法と言った方が適切かもしれないのだが、ともかく影でも同じことをする。アレだ。鋼の錬金◯師に出てくる傲慢なお子様をイメージしてくれればいい。そしてこの漫画の設定と同じくが闇魔法=影魔法とならない最大の理由だ。闇魔法は火が無くとも使えるが、影魔法は使えない。
日が完全に沈んで闇魔法を少し使う。闇魔法には直接攻撃系は少ない。せいぜい影魔法の様に闇を物質化させて攻撃くらいしか知らない。だが足音を完全に消したり、闇と同化して移動したり(物理影響お互いに無し)、闇が全身を包んだ時に身体能力を格段に上げたりできる。
『闇魔法を習得しました。
影操作を習得しました』
「ふう。魔法の訓練は一応終わりにしようかな。次は弓矢だ」
そして万能訓練の棒を弓に変え、土魔法で作った矢を番えて木々を移動する。闇魔法で矢を作っても良いのだが、命中したら闇に溶けて残らないので土魔法だ。移動は闇魔法で身体能力を上げ、木を傷つけない様に静かにしばらく移動する。
『上級暗殺術を習得しました』
…まあ色々と言いたいことはあるが、ウォーミングアップは終了。罠を設置した時につけた目印地点に移動して、目標に射線が通る瞬間に矢を放つ。
―コッ
静かな闇夜の中、自分の発する音すらない状況では矢が当たった音はよく響く。まあ視たら一発で当たったかどうか分かるが。続けて移動しながら矢を番え、射線が通る瞬間に合わせて放つ。
―コッ
成功。
そして九時を知らせる時計のタイマーがなるまでひたすらに矢を射続けた。
『弓術(暗殺術)を習得しました。
夜間戦闘術(極)を習得しました』
全く無粋なアナウンスだ。家に帰って飯を食おう。
晩ご飯はオーク肉のステーキを食べた。少しの葛藤もなく、味を楽しめた。めっちゃ美味しかった。ついでに言えばオーク肉には何故か野菜の栄養素も豊富に含まれてた。……何故だ!
作中に風魔法のメリットと紹介した「風の動きが分かる」部分は主人公の間違いで、正確には仙術のメリット。何故間違えたかは、まだ主人公が仙術を正しく理解していないからです。
闇同化は魔力消費(持続時間)と発動までの時間と光魔法がデメリット。発動までに五秒かかり、最高効率でも魔力は一秒毎に10MP消費してしまう。まあそれでもメリットは大きいですが。
オーク肉に含まれる栄養素は、それ単体で人間が生きられるほどバランスが良い。理由はファンタジーだから!