今までとはちょっと?違う日常(午前)
完成しました。次回は三日後更新です。
今日は一日ダンジョンアタック無しだ。早朝、低酸素状態で走るために布マスクをして10キロの山道を往復で走る。息を切らす事なく完走し、「万能訓練の棒」を使い素振り、ninjaな木々を跳ぶ訓練を終えてひと息つく。
木の的を作り(木を輪切りにしただけの物)、「万能訓練の棒」を弓矢に変え三十メートルからスタートだ。イメージして変形させたのは蔵にある和弓だ。弦を引いて矢を番る。狙って放つが、手に当たり矢は大きく右にずれてしまった。
『コラァ!何度言ったら分かる!こうして…こう!あ?わからんとは…今日はお主は体幹トレーニングだけやっておれ』
『んん?おお!そうじゃ。撃つ時に少し手を捻れ。そうすれば矢は真っ直ぐ飛ぶ』
矢を再び番ながら爺ちゃんに言われた事を思い出す。感覚を研ぎ澄ませ、集中する。失敗。失敗。失敗。失敗。
矢を回収しながら反省する。狙いをずらさない為に集中すれば、弓返りを忘れてしまう。弓返りを意識すると無駄にステータスが上がったせいか、力加減が難しい上無駄に手がスローに見えるので的に意識を割けない。いっそのこと弓矢じゃなくてライフルでも良いかなと思い始めた頃、当たった。ど真ん中だ。
まぐれ当たりかと思いもう一度やれば、当たった。そして距離を変えても当たった。うむ、この短時間で爺ちゃんに教わった事を思い出したからだ!と言いたいのだが、どこか自分のスキル「早熟」と「並列思考(極)」のおかげなんじゃないかと考えてしまう。すっかりステータスに毒されているなぁ(多分)。
訓練はもう一度昼過ぎに行うとして、次は魔法の練習…というか魔力を操作する練習だ。魔力は神眼で見えるか否かといえば、見える。なので自覚は簡単にクリアできた。ついでに「魔力感知」も習得した。あと魔力は基本誰でも鳩尾当たりにある。魔力操作なのだが、肝心の魔力というモノが実に厄介な性質をしてる為、結構難航している。
餅をついた事のある人なら分かるだろうか。もち米をまとめてつくと、なんとも言えないもどかしさを感じるのだ。その状態のもちは「千切れやすい」「若干の粘着性」「微妙な伸縮性」の厄介な三つの性質を持つ。そんな感じの性質を持ったモノが魔力だ。
千切れやすいから、千切れた魔力が消えていく。粘着性が少ないので体に張り付ける事もできない。微妙に伸縮するだけだから体全体に十全に行き渡らない。ちなみに餅と違い、こねくり回しても性質が変わる様子は無い。その全く変わらない感覚に少しだけ辟易としてくる。
ではどんな風に魔法を扱っているのか?それは適切な量を「切り離して」魔法に変換している。決して「千切って」いるのでは無いので、魔力を操作するのと魔法を扱うのとでは大きく違う。
そしてどうやってコントロールするのか?それが全くわからない。とりあえず捏ねくり回しているのだが、一向に性質が変わる様子が無い。もうイメージでは麺棒で叩いたり、薄くしたり、千切ってみたりしている。ちなみにどれも手ごたえ無しだ。
ラノベみたいに血管をイメージしても何にも変化無し。というか性質を分かってからは魔力が血管に詰まってしまうイメージしか出来ない。真面目に怖くてできない。
「ん〜。せめてこう、魔力が柔らかくなるみたいな代物が有ればいいんだがなあ。…………ん?んんん?魔力、空気中にうっすらと有るじゃん!!しかも水みたいにサラサラだし!」
モチをイメージしていたので水が必要だったのだ。外部から、すなわち空気中の魔力を吸い込むイメージ。ゆっくりと息を吐いて、一気に吸い込む!
「はぁ〜〜。すうぅ〜」
取り込んだ魔力を吐き出さない様に息を止めて、自分の魔力と取り込んだ魔力を一緒に捏ねくり回すイメージで。
…………それを何度も繰り返すうちに少しずつもち米が見えるレベルの状態から、お雑煮に入っているモチレベルまで変化した!そのちょっとふやけた感じのモチ、じゃなくて魔力を溶かして行く。
『魔力操作(極)を習得しました。
初級仙術を習得しました』
「成功!…にしても仙術?スキル獲得画面に有ったっけ?」
まあいいか。とりあえずこれで俺の魔力は「餅の初期段階」から「とろみのある液体」までに変化した!全身に染み渡る様に魔力を常に動かしてみれば、身体の動きが格段に素早く、力強くなった。
フィクションじゃ無かったのか、魔力を流すだけで強化できるってのは。……にしても、
「結界」
コンッ、ゴッ、ゴッ
うん、壊れない。以前なら本気で殴ったら壊れていたけど、今は(ステータスが上がっただろう現在でも)本気で殴っても壊れない。魔力込みでも壊れないな。つまり想定通り「魔力操作」が上手くなったら魔法の威力も上がる。更に言えば魔力消費も少ない。いい事尽くめだな。
あ、そういえばこんな事出来るのかな?
「結界、伸びろ……できたな。戻れ。うん、僅かに魔力が消費されるけど、この勢いなら攻撃にも使える」
結界◯という漫画を知ってるだろうか?あれと同じ事ができた。流石に◯界という最終奥義は使えないが、魔力をコントロールできれば丸い結界も可能だ。◯界ができないのは攻撃性能を付与できないからであって、結界を押し広げれば圧死させる事も可能だろう。
どこかの転生したスライムに封印ごと食われたドラゴンが言うように、聖典と書いてマンガと読むのはあながち間違いでは無い様だ。
「さてと、本題の魔法習得を頑張るか。っとその前に朝食だな」
今日はご飯と卵焼きとソーセージかな。チャチャっと作って食べよう。
「ごちそうさまでしたっと」
食器を洗う前にふと気づく。結界を使えば汚れだけを落とせないかと。結界とは空間と空間の間を作って、その隙間に魔力を入れる事で隔てているのだ。つまり食器と汚れを別のものとし隔てたら、汚れは落ちて綺麗になるのでは?うん、食器が壊れるかもしれんがやってみよう!
先ずは食器の形を正確に視る。その視た情報の通り結界を……できた!
「あ゛」
汚れは落ちた。そう、机の上に。また結界でやるか?……素直に拭こう。なんかやる気が急激に失せたわ。
気を取り直して魔法の習得練習だ。そもそも魔法を発動させるには「魔力」「イメージ力」「属性(才能)」「使う魔法についての知識」が必要(そう時空間魔法のスキルを覚えた時に知った)なのだ。だがここで疑問が生じる、一番最初に魔法を使った人はどうなるのだろう?少なくとも「使う魔法についての知識」は無かった筈だ。何せ一番初めなのだから、「魔力」「才能」「イメージ力」があったとしても知識はどうやっても得られない。
つまりここで言う知識とは、「魔法の知識」ではなく「魔法を起こした事で起きる事象への知識」ではないだろうか?要するに火を空中に起こす→魔力を元に燃える→火の周りに熱が発生する→風が起きるといった具合に。
ってな訳で早速実験。
「魔力を指先3センチに留める…クリア。魔力が燃えるイメージをする…失敗。イメージ…イメージかぁ。あ!チャッカマン!」
チャッカマンは無かったがライターの火を左手で点かせる。火を起こすのは左手を見ながら右手でやろう。火のゆらめき、温度の上昇、空気の移動、火の見た目……いざ!
「魔力を指先3センチに留める…クリア。熱が指先に感じ様にする……クリア。魔力を糧に燃えているイメージをする………」
『火魔法を習得しました』
「成功!!!」
右手を見たら指先3センチから火が揺らめいていた。試しに魔力を多く込めると更に大きく燃えた。魔力を移動させれば、それに伴い火も移動する。うーん、使い勝手が時空間魔法と違う。これは…一段飛ばしに魔法とは「こういうもの」とイメージしたらいいのか?
「火の矢。…成功だな。やっぱりイメージ一つで変わるな。できると思えばできるのか」
とは言え今回はたまたま俺に火属性の適性があったって事。こういう時に鑑定があれば…ってあったわ。俺神眼持ちだわ。属性は?
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魔法適性:火、風、土、闇、(時)、(空間)
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うん?王道たる雷や氷が無い。()はまあ後付けだと考えれるが…もしかして。
「雷よ」
―バチッ
『土魔法を習得しました。
上級錬金術を習得しました。
風魔法を習得しました。
雷操作スキルを習得しました』
「…できた。って事は雷って魔法適性は存在しないのか。アナウンスも違ったし。氷も試したいけど、水属性が無いからイメージできんなあ」
雷が一体どうしてそこに留まっているのか。自分がやった事だけど分からんな。まあ魔法ってこういう物だと一度でも考えられれば可能なのだろう。ちなみに雷のイメージをどうしたかはすっごく手間をかけ、雷を作った。
方法は「結界」内で土魔法で水晶(石英)と鉄を作成、水晶と鉄を風魔法で思い切りぶつけて圧電効果により静電気を作成、(時)空間魔法で静電気の発生ポイントを拡大して放電現象を作った。まあ要するに、
「電子式ライターの着火部分を魔法で再現、空間ごと拡大して規模を大きくしただけなんだよなぁ」
コスパがめっちゃ悪い。今度から火のつかないライター使った方がいいくらいだ。にしても水晶はともかく鉄をまともに作成できるとは、錬金術はなんでもありかよ。錬金術(極)に到達したら宝石でもなんでもござれって感じになりそうだな。
ん?錬金術?なんでこんなに簡単に習得できたんだ?しかも上級だし。周辺の物から土魔法で集めた土の中に石英と砂鉄があって、それから水晶と鉄を精製したのか。たしか初級が錬金術専用陣が複数事前に必要で、中級が錬金術専用陣が一つだけで良くなって、上級が錬金術専用陣が不必要になって、超級は単一の物資だけでは無く複数同時が可能になって、極は等価交換の法則のみに従うんだっけ。…やばいスキル十選(自己作成)に入ってたな。
うーん、なら宝箱もいけるかな?試しに銀の宝箱を出してっと。
「…おお!成功か?」
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銀のインゴット10kg レア度:普通8
純度99.99%の銀の塊。製造番号などが一切書かれていない為、正規ルートでは売れない。はっきり言って腕輪などの装飾品に加工した方が高く売れる。
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「……ソウダネ」
うん、売らないでとっておこう。俺に芸術性を求められても困るから加工もしない。ダンジョンが受け入れられる世の中になったら、刻印術で特殊な効果を込めて売るとしよう。うん、それがいい。……はあ、まったくいつになる事やら。
お?この流れは今持ってる株が少しずつ安くなるか?…欲しい優待券はもう無いし、一ヵ月経ったら魔物放出が発生する。今のうちに株を売って金に変えるべきか、それとも武器会社の株でも買うか?
ほぼ確実に、お金が魔物放出によって必要性が薄まるのは最初の一時的なものだろう。その後は武器製造などの物品購入が盛んになる事で再びお金の価値が出てくる。問題はその時にネットやら保険やらがどうなるのかなんだが…しばらくはネットは使えんだろう。保険はこの際無視しよう。
「となると、お金に変えて物資を買うべきか。お金は半分くらい残すことにするか」
となれば話は早い。少しずつお金に変えて一ヵ月後には半分を現金に変えておくか。その現金は自宅に保管って事の方がいいだろう。なら切り崩し始めよっと。
今全ての株を売るのは得策では無い。今の株を武器製造の会社に少しずつ投資をして、直ぐに現金化できる部分は一気に現金化させるか。そうした場合の現金化できる量なんて総資産の五分の一しか無いし。
じゃあ手続きをして、次はどこの武器製造会社に投資するべきか。ん〜、ここかな。本当、こういう前情報無しの時は「超直感」のスキルが頼りになる。「神眼」でもいいけどなんかズルした気分になるし、超直感なら罪悪感ゼロで済むしね。
「………あ゛あー、やっと終わった〜。手続きめんどくせ〜。これなら今週末には口座にお金が振り込まれているだろ。あ、今って現金の取り出しって制限されているんだっけ。詐欺対策で。面倒だな」
身体認証念のためにやっておいて正解だったな。おかげで現金限度額が高くできる。だと言えども一月で出せれる現金は、いくら俺が口座を複数別会社に作っていたとしても四千万が限界だな。婆ちゃんのコネを使ってもそれ以上だと政府に目をつけられる。
今家にあるのは総資産のうち五分の一、つまり六千万の現ナマが蔵の金庫に入ってる。結界も張ってあるから問題ないだろう。さてと、現金化手続きの申し込みを各所に行って飯にするか。
「何食おうかな〜。冷凍チャーハンでいいか」
「…電子レンジは魔法で再現出来ないのか。イメージしたら燃えるしなあ」
―チンッ
「お、できた。…いただきます」
どうも電子レンジを再現する事は出来ないようだ。まあなんでもかんでも魔法で解決できるとは限らないいい例だろう。ちなみに何故出来ないと判断したかと言えばこれまた「神眼」スキルだ。電子レンジを神眼で視て、その仕組みを理解して、再現するには魔法では出来ないと判断されたのだ。ああ日魔法という魔法適性があれば再現可能らしいが、その適性は十億人に一人らしい。グランドマスター並みのレア度でアホらしいので諦めた。
「うむ。下手な店で食うより美味い。日本万歳、料理への執念万歳だな」
「ごちそうさまでした」
今度は間違えずにしっかりと台所で結界を使い汚れを落とした。成功。でもなんとなく水だけで洗って乾かす。綺麗なのに濡れていないのはなんとなく気色悪いというか、えも言えぬ感じ悪さがある。この辺は慣れなんかね?
主人公がここまで簡単に土と風の魔法を扱えたのは「魔力操作(極)」と「早熟」と「魔法の才」のおかげであり、決して主人公補正では無い。
上級錬金術に関しても「魔力操作(極)」と元素記号を正確にイメージしたおかげ。あと土魔法で生み出した土の中に石英と砂鉄があったっていう運。これに関しては主人公補正は若干あると認めざるおえない。
自然界にある魔力は他のファンタジー小説定番の魔素では無いです。ただひたすらに柔らかく軽い魔力ってだけで、カテゴライズは魔力のまま。……魔素は別物として出す予定。