ジャンプの次回予告なみに信用できない確率論
百四層はゾンビが徘徊する墓地エリアだ。通常のゾンビ――今のところグールはどのダンジョンでも出会った事がない――は魔法で一掃できるが、ここの階層は耐魔法系のスキルを所持しているので中々一掃とまではいかない。俺がゾンビ系統を倒す方法は一つだけ、魔石を取り出すことだ。
スケルトンは骨の隙間から、ゾンビは透視して魔石のある場所を槍で貫き、リビングアーマーは鎧の隙間から抜き取る。まあリビングアーマーの場合は頭を取ってから中に手を突っ込んで取り出すのが、表現としては正解か。
ともあれそんな理由で百四層は脅威では無い……なんて事はない。
「チィッ」
リッチエンペラーがゾンビやスケルトンにリビングアーマーを操り、戦術的にこちらを攻めてくるのだ。リッチエンペラーは一定距離をお互いが縄張りのように不可侵領域としてこのフィールドに存在する。そして縄張りに生者が入れば反応する仕組みだ。
敵を今のところ全滅させれた事はない。対魔値が高いので魔力爆破でもダメなのだ。魔力で作った剣なら効くのだが、それでも正確に魔石のみを一万近い数を貫くのはキツい。殺しても殺してもモンスターハウス並みに沸いてくるので体力消費が半端ない。
「無空!」
今まで浮かせて攻撃していた無空を手に取ってゾンビの魔石を破壊する。さすがにゾンビを素手で触りたくない。更に言えばレーツェルの宿る刀は突きには向いていない。決してレーツェルをゾンビで汚したくないって意味だけでは無い。
話は戻るがここの階層にいるモンスターは耐魔法系のスキルを持っているという話。では魔法ではなく陰陽術や呪術があるから問題無いだろうと思うだろう?それは間違いじゃない。実際過去に「破砕氷風」を使ったら九割くらい殺せたし、「藁人打ち」という呪術――いわゆる丑の刻参り――でも九割九分だった。
コイツら絶対に全滅はしない様に作られてるのか、全員殺したった!と思っても違う種が存在してモンスターが全滅するのを防いでいるのだ。藁人打ちはいい感じに見通しが良くなったが、二体くらい死んでなかったのだ。無論即座に殺したが、その一瞬でゾンビがわらわらと地面から復活した。
そして今回はリベンジだ。秘策はある。今は準備中だが果たして効果はあるのだろうか?
「……!できた!!」
地面に刺した短剣と短剣が線を結んで一つの魔法陣が完成する。高い視点で客観的に自分を見て、どこに短剣を刺すのかを徐々に押されるかの様に移動してできた超巨大魔法陣。それが今完成した!
「聖域」
そう最後に口にすれば、魔法陣から光が出現する。アンデットたちは光に呑まれ消えていく。そして光は魔法陣の外にも溢れ出てアンデットを浄化させていく。
俺には信仰魔法は使えない。まあ信仰する対象がいないと言ってもいいだろう。少なくとも神とカテゴライズされる存在には負ける事はない。なので、今回使ったのは光属性の魔法だ。アンデット系は光に弱い。いくら対魔値が高いとはいえ弱点は弱点。通じない訳じゃないのだ。
今回の魔法、聖域は対アンデットに特化した超広範囲攻撃。その範囲は広く、魔力量に比例して広がる。今回の様に魔法陣を描けば範囲と効果は爆発的に広がり、術者本人もダメージを受ける可能性がある。まあ結界を張れば問題無いのだが、少なくともコイツらを全滅させるには十分過ぎる威力と効果範囲だ。
そして光が消えて周りを見渡す。
「………ふむ全滅させれたか?」
『secret mission clear!!!!!
発生条件:百四層に入る時に1%の確率で存在するボールスケルトンを踏み抜くこと
条件:スケルトンロードの討伐
報酬:DRポイント500、呪術・闇影操術の術式復元』
『secret mission clear!!!
発生条件:モンスターを666体以上倒す事
条件:第百四層の無限ポップするモンスターを消し飛ばす事
報酬:DRポイント100、ロードオブアンデットとの戦闘』
「ロードオブアンデット?……まあひとまず置いておこう。闇影操術がまた使える様になったのは嬉しいな」
俺の過去世に呪術を扱う技術が発展していた世界があった。その時に手に入れた術式なのだが、どうも生まれ変わると同時に術式が消えてしまう様で、呪術を使い戦う全盛期の時とは比べるのも烏滸がましいレベルで弱いしバリエーションも少ない。
なお俺が使える術式は何度生まれ変わっても方定円骸は必ず存在した。正直この術式一つで問題はないのだが、闇影操術はめっちゃ便利なので嬉しい。試しに使えば全盛期と同様に扱えれた。
「……うん、これなら良しと思ってもいいね。そうとは思わないかな?」
「そうかもしれんのう」
そうして地面から透ける様に現れたのは、どれもこれもが一目で神話級の物だと分かる装備を着飾ったガイコツだ。昔にロードオブアンデットに出会った事があるが、ここまで強くはなかった。って事は、
「はあ、本来のモンスターから違う存在が入る可能性は0.1%だって師匠の言葉は信じれんな」
「では始めようぞ。命を賭けた勝負を」
「戦闘狂かよ。まあ、俺も人のことは言えんがな!!」
一歩、お互いが間合いを詰め呪術を使う。相手の術式は「略奪」触れた者の呪力と魔力を奪い取れる術式。対して俺は闇影操術で作った手甲。二つがぶつかり衝撃波を生み出す。ステータス制限無しの俺と力は互角だ。スピードは俺が若干上。となれば、
二歩目、敵の影を思いっきり踏む。
「!?!?」
「…チッ」
いきなりダメージを受けて混乱している敵を無空で突き刺そうとすれば、杖で弾かれた。お互いが距離をとってその場をバックステップで移動する。追撃すれば杖に仕込まれた魔法で大ダメージを受けそうだったからな。
闇影操術の基本技。影や闇の影響を実体側が受けてダメージを受けたり、硬化したり、影を固定して自分や敵を動けなくする。
今の一瞬の攻防だけでアイツは迂闊には行動できなくなった。何しろどう攻撃されたのか不明だからだ。仮に近づいてきても今度は致命傷を与えれる様にすればいい。そして仕留め損なったと考えさせればなおよしだ。
見せ札は強い方がいい。無論切り札を持った上でだが。そして見せ札を実際よりも強いと思わせるのが最上の手だろう。という訳で、より印象付けるのがベスト。
「闇纏い」
その俺の声を聞いて即座に反応した相手は俺の周りを魔法で囲む。そして放たれた魔法は全て斬り捨てた。
「道刃開け」
道を作る様に更に追加で円形に前方を斬る。そして敵の防御壁を削りきった。
「!チッ!?」
「舌打ちしたいのはこっちだよ!ガイコツ!」
舌が無いのに一体どうやって舌打ちしたのか検討もつかないが、それはいい。ニノ太刀要らずは決してニノ太刀を放つのが苦手だという訳じゃない。だが連続するのを目的とした技以外では、若干だが技を放つのが遅くなる。
そして道刃開けは連続して放つ技では無い。故に一瞬だけ隙が生まれてしまう。ガイコツの作った防御壁はよく俺が竜のブレスを防ぐために使う「積層盾」の様に壊される事を前提とした防御。そして破壊されるという条件で効果を発揮する。
今回の場合は一瞬の隙を突かれ火属性の爆破をモロにくらってしまった。体勢を崩した状態から咄嗟に武器を持ってなかった左手で掌底を放つが、これは大きくバックステップをして避けられた。
「火は効かぬか」
「この程度じゃ効かねえって予想できるだろう」
「闇には光を、これは基本だからのう」
「そうかい!」
再びの突進。今度は体を低く保ち、突きを放つ体勢のまま、地面を滑る様――影を操り実際に滑ってる――にして進み勢いよく回し蹴り。
―パリンッ
「パラライズ」
障壁を一枚壊しただけに終わり、その隙にデバフを使ってきた。これが攻撃ならば気にせず続行可能だが、デバフの場合には氣を練り上げ抵抗しないと効果をモロにくらう。
そして抵抗するために練り上げた氣は発散されない。その練り上げた氣は攻撃へと変換されて、回し蹴りからの踵落としに。
―バギィ
「ぐっ!」
「がっ!?」
左肩の骨が折れて悲鳴を上げるガイコツ、そして鏡返しの術を使っていたガイコツのせいで俺までダメージを受けた。おかげで迂闊には連撃ができないし、斬撃が怖いので刀を使うのも躊躇う。俺もガイコツも警戒をしてお互いに距離をとって隙を窺う。
疑問に思うのは鏡返しの術を受けたこと。確かに前もって術は待機させてなかったはずなのに、踵落としを決めた瞬間には術が存在していた。魔法の発動スピードが速いとか言うレベルじゃないのだ。だからこそ俺から攻める事が難しい。
一方でガイコツは魔法の弱点を正確に斬った俺を警戒している。ガイコツが装備しているのはローブに杖と魔石を守るためだろう革鎧。魔法は上手いだろうし、近接戦もある程度は可能だろう。だが魔法を編み、待機させているならば時間経過と共に強くなる。故に自分からは攻めようとはしないだろう。
じゃあどうするか?
「爆煙、ウォーターレーザー」
魔法で対応すればいい。爆煙の効果で感知系のスキルを効きにくくし、魔法を放つ。爆煙の効果時間は約一分。その間は水属性の魔法と闇魔法を使う。効果は薄いと分かっても関係無いとばかりに魔法を途絶えさせない。そうしながらも準備は怠らず、また相手に準備の隙も与えない。鏡返しの術は厄介だからな。
そして魔法を多く使う中で一つ一つ術式を刻む様に魔法を放つ。雨あられと表現するのが正しいくらいの質量攻撃、当然だがその全てを防いでいるわけでは無い奴は、間違いなく超一流の腕を持ってると言ってもいいだろうな。まあだが、俺の本命の一撃は今のところ全て入ってるので問題あるまい。
魔法には強弱の波が存在する。もっともこれは継続して魔法攻撃をする時に発生するもので、単発や少ない数の場合には問題無い。いやその場合でも魔力操作が上手じゃないと波ができてしまうが。ともかく、こうしてコイツに魔法を放ち続けているのならどんなに魔力操作が上手であっても波はできる。
その強弱の波は大なり小なり敵にチャンスを作ってしまう。もちろんチャンスを与えるのは一定以上の実力の場合なのだが今回はそんな敵だ。強弱の波がある為に魔法には大魔法などという単発で強く広く長い間効果を発揮する魔法が存在するのだ。
そしてこれをカスタムしたのが俺の魔法、継続魔法だ。波を作らない様に連続して攻撃する事を目的とした魔法で、魔法陣が一つしか存在しない。いや、大元の魔法陣がと言うべきか。例えるならば普通の魔法はスタンプを連続して押しているのに対し、継続魔法はピッチングマシーンの様なものだ。手間も術式の複雑さも違う。
だが効果はバツグンだ。
「オラァ!魔法なんて使わせるとでも思って、いるのか!!」
「ぐっ、ぬうぅ」
相手が魔法を組み立てようとしようとも、体を動かそうとしても、魔力操作をしようとしても邪魔をする。ダメージよりも邪魔を優先する。いくら波がないとはいえ大なり小なりのダメージを無視して動かそうとしたら、それは動かすことは可能なのだから。
だがコイツの行動を阻害しなければ反撃を受ける。そしてそれは俺の今の形勢を脅かすか、最悪逆転までされてしまうだろう。そうなれば今のコイツ同様、俺はかなり追い詰められかねない。それだけ実力が拮抗しているのだ。
体術で、いや近接戦では俺が有利だ。だが魔法戦ともなれば、こうして一見すると一方的な状態じゃないと勝てないだろう。いや勝てる?……ともかくわからないが、少なくとも試したいとは思わない。魔法好きじゃないし。
「!……バースト」
「?」
そして時間がきた。魔法陣の完成だ。
「いざ死ね。ディメンションクラッシュ」
『窮鼠猫を噛む』
「!?」
ディメンションクラッシュ。まあ名前通りの効果なのだが、切断と何が違うのか。それは魔法自体の強度だ。自身の魔力値と敵の対魔値が同じ以下なら問答無用で成功するという格下殺しの技がディメンションスラッシュ…なのだが、これは空間を変化させることのできない存在のみの話だ。まあ大半は空間干渉なんてできないのだが。
ともかくディメンションスラッシュが効かない相手にも有効な一撃を与えれる強力な魔法が、ディメンションクラッシュなのだ。いや有効だと表現するのは少し違うだろう。現在、俺が使える攻撃魔法の中でも最強の一角を担っていると言っても問題無いレベルの魔法が、ディメンションクラッシュだ。
そしてそんな強力な魔法をくらったコイツは、窮鼠猫を噛むと言った。そしてその効果は一瞬分からなかったが、結果からして、
「見事だ」
俺の左腕が歪められていた。雑巾を絞った様な、紙をグシャッとしたかの様な状態だ。思わずニヤッと笑ったコイツに賞賛を送ったほどに素晴らしい技だった。
『special mission clear!!!!!
発生条件:シークレットミッション報酬のロードオブアンデットとの戦闘をクリアする事
達成条件:ロードオブアンデット→デスロードの討伐
報酬:DRポイント500、銀の宝箱三つ、金の宝箱一つ、虹の宝箱一つ、洞爺湖と書かれた木刀(空想)』
「……は?」
洞爺湖と書かれた木刀って何?せっかくの気持ち良い感じで終わった雰囲気がぶち壊しだよ。何?◯魂の銀さんが持ってるやつ?偽の「妖刀星砕」っすか?御神木なのに通販で買えちゃうやつっすか?
……とりあえず鑑定。
ーーーーー
洞爺湖と書かれた木刀(妖刀・星砕) レア度:空想級
世に溢れる洞爺湖と書かれた木刀のうち、二番目に優れた木刀。使い手の技量に大きく影響を受けてしまうが、基本性能で大砲どころか戦艦を叩き割る事もできる。名の通り星を砕く事も過去にはあった。処理に困った『世界』が報酬として出した。普段使いは良い。
効果:所有者固定、隠蔽擬装、不壊、召喚、打撃変換、ギャグ補正、シリアス補正、自動修復
ーーーーー
「何これ」
いや本当に何これ。ギャグ補正とかシリアス補正ってなんだよ。いや言わんとすることは分からんでも無い。多分。文字通り、ギャグ展開なら無類の強さを発揮するのだろう。例えばニノ太刀要らずの刀とまともに打ち合えたりできるだろうな。
そしてシリアス補正は……なんだろうな。真面目なシーンの空気を読んで壊れるとかか?でも銀さんが武器を壊してしまうシーンなんて映画か次郎◯戦の時しか折れたの知らねえぞ。…使っていくうちに分かるかね?
「まあとにかく悪かねえって事だな。空想級だし、ある程度は信用して良いだろ」
腰には刺さずベルトの収納に登録してしまう。いつでも使える様に、というのと勘だ。何となく使える気がするのだ。まあ勘なので外れてもなんとも言えないが。
「次だ次。泥率は1%で物欲センサーアリ。まあ一回だけだし問題無い」
そう、問題無いのだ。約束した時間まで残り少ないので自動で一回だけと決めてあるので後腐れない。そして何よりディメンションマンは超楽に倒せれる!
百五層。そこは今までと同じように洞窟……ではなく真っ白な空間だ。理由はディメンションマンが透明だから。洞窟のように凹凸があると透明だろうと見つけやすくなるし、見つけやすいってことは倒しやすくなるって意味なのだ。ディメンションマンは非常に打たれ弱いから。
では全面攻撃?NOだ。空間干渉して防御される。魔法も物理も、等しく無力。更に攻撃も空間そのものを歪めたものなので不可避で防御が非常に難しい。それがディメンションマンの特性。そして、
「鬼斬」
空間そのものを攻撃する技にはめっぽう弱い。
「あ」
(どうかしたの?)
「一発で空間部屋がドロップした」
(あらあら、うふふ)
「なんかなぁ」
運って言うべきなのか、物欲センサーなのか。難しいところだ。
ご都合主義です。
いやあ今回は難産でした……。
題名は◯魂アニメverの第六十三話(多分)の「ジャンプの次号予告は当てにならない」からです。
闇影操術→闇や影を操作できる。闇魔法に近いがこちらには明確な弱点が存在しない。少しでも闇や影が存在すればその範囲を広げて操作可能な上、闇を纏い強い光に触れながらでも十全に動ける。デメリットは使ってる間は呪力を消費し続けること。元ネタは呪術◯戦の赤血操◯から。
アイギス→何枚も障壁を張り、一枚割れるごとに次の障壁を強化する術。元ネタはfat◯のアーチャーが使うロー・◯イアス。




