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生得術式っていいたかったけど自重しました

 

 陰邸様に臭いと言われ傷心中のまま、俺は陰邸様の屋敷で風呂を済ませて一対一でのお話をしていた。まあ要するに俺が使う術式に関する討論だ。


「――と言う感じですね。理にかなってるとは思うんですが」

「そうねえ。先ず指摘する部分は陰陽術としては効果を隠す術式が無いのは大きな減点、次に加点部分が減点対象になってるわねえ。具体的には簡素である点が」

「速攻性としては加点だけど、分かり易いから対処可能という点では減点ってことですか」

「そうなるわねえ」


 既にいくつも改善しているが、特に攻撃系はボロボロに言われている。理由は簡単、陰陽術という性質をそもそも間違って考えていたことだ。陰陽術は敵にも味方にも何を使うのかわからない様にするのが特徴だ。言い方を変えると結果は分かっても過程を分からない様にするって事だ。


 魔法の代案として考えてしまっていた俺はとにかく、「簡潔に」「効率よく」「素早く」「分かり易く」の四つの要素を考えていた。何故なら魔法は使う時点で真似される可能性なんて考慮していないから。とにかく敵を倒す事を優先して考えられている。

 そもそも魔法陣が一瞬しか見えないので簡単には真似できないし、よしんば記憶していたとしても真似して魔法陣を構築するのは非常に難しい。そしてその苦労に見合うだけの効果はそんなに無い。何しろ鮮明にイメージできれば再現なんて魔法陣の難易度関係無く可能なのだから。

 だったらバレる云々なんてどうでもいい判断材料だ。だからこそ自分以外の誰が見ても関係ない。むしろ分かり易い方がいい事の方が多い。


 一方で陰陽術の考え方は違う。「複雑に」「効率よく」「素早く」「自分のみが分かる様に」の四つが重要視される。それはいつ味方が敵となるのか?と、霊怪の知性の高さが原因だ。ああ後は術者の技量関係無く術式が目にはっきりと見え理解できてしまう故にか。だからこそ隠すし分かりにくくする。

 そしてその所為なのか術式を隠す術式が多く存在する。これが門番が言っていた見たことのない術式に繋がる訳だ。術式を隠す術式によってどこの家のものか、どんな流派なのか、そしてどうして此処に来たのかすらも分かるそうだ。なのでこれを編む術式選びまたは創作は結構重要らしい。

 まあ概ね隠す術式は決めたのだが、今は細やかな部分を考えている最中だ。


「隠蔽系や支援系はこれでいいですか?」

「そうねえ、正直私(あたし)が真似したいくらいの精度だよ。そこは誇っていい」

「ありがとうございます」


 真似したいくらい、という表現はおそらくだが最上位の褒め言葉だろう。何せ術式を隠す術式なんてものが複数存在して、それらを網羅しているだろう陰邸様の言葉なのだから。それだけ多くの種類の中そのまま使わないのは意地なのか、常識なのかは定かではないがな。


「となると、体内術式の判別と練習だねえ」

「お!本当ですか!」

「嘘言って何か得があるのかい?」


 そう言いながらも何やら使用人に声をかけて何かを用意する陰邸様。何がなんだかわからないので黙って正座しながら復習して待つ。


 まず体内術式。簡単に言えば他者から見ることのできない自分だけの陰陽術式。一人につき一つしか持てない術式で、アタリやハズレというものは存在しない。必ず術者に役立つ能力なのだ。原因としては深層心理が云々と言っていたが詳しくはよく分からんかった。分かりたくないとも言う。

 ともあれ術者に役立つ能力っていうのは、目立つ例としては少しの霊力で山を貫くレーザーを出せたり、自然現象を無効化したりできる。普通なのをあげれば筋力を十倍にしたり、他の術式を強化できたりする。地味なのは爆竹程度の爆発を起こせたり、色んな場所にくっつける様になったりだな。

 攻撃系か防御系か支援系か、規模はどれくらいかなどの大きな括りが分かるのが判別だ。練習は陰邸様の力を使うとしか知らない。


「失礼します。例の物はこちらにございます」

「ありがとうねえ。タクミ、これを使いなさい」

「この紙に霊力を込めて、その上で反応済みの紙をこちらの紙に重ねれば良いんですよね?」

「ええ、そうねえ」

「では」


 そして渡されたのは灰色の短冊に真っ白なB5紙だ。短冊をまず手に取り霊力を込める。すると灰色から白色に点滅し始めて、霊力の線が短冊の真ん中に向かって複雑に絡み合う。さらに霊力を込めると点滅が徐々に無くなり短冊の色が「紅色」に変わった。


 何やら陰邸様からの視線が強くなったが無視して次にいく。紅色に染まった短冊を紙に載せると、これまた点滅し始めた。しばらくすると短冊が溶けた様にドロドロになって紙に吸収され、紅色が文字をかたどり始め完成した。


「これで大丈夫ですかね?」

「そうねえ、なんて書いてあるの?」

「えーっと」

 ーーーーー

 村正 匠 

 系統:支援 規模:自分のみ

 効果:必中効果。何をどうすれば当たるのかが分かる。また必要項目を三つ達成すれば威力は減衰せずに目標まで追いかけ当たるまで高速で追尾する。

 ーーーーー

「ですね」

「強力ねえ。当たるまでの過程と必要項目が分かる上に、難易度がどれくらいかは不明だけど威力が減衰しないのは厄介な事この上ないわ。「高速で」の文言はどれくらいかしら?」

「そうですよね。…体内術式はどう使うんですか?」

「心臓に霊力を込めてみれば分かるわ」


 そういえば特定の臓器に霊力をこ込めた事は無かったと思いながら行う。するとあら不思議、不可解な術式が手元に出現した。試しに陰邸様の近くに紙を投げようとして見てみれば、距離と必要項目がずらっと並んだ錯覚を覚える。そしてハッキリと使い方がわかった。


「これは…この体内術式の効果っていうか使い方がハッキリと分かったんですが、一体なぜですか?」

「さあねえ、解明されてないけど生まれ持った故にって説が有力だよ。なんせ小さい頃からずっと一緒だったんだから」

「それでも赤子は学ぶでしょう。その考えならば赤子はその形を形成した時に動かし方が分かってるはずだ」

「さてねえ、それこそ私の専門外さ。それで、コツは掴めたのかい?」

「ん〜、まあ残りはダンジョンで学びます」

「そうかい。じゃあ残りの術式はもう暫く此処で勉強していきな。ほれコマキ、この子がいる間はお世話は任せるよ」

「は。了解しました」


 そう言ってスススーと去ってしまう陰邸様。酷いぜ、何かこの娘の情報をくれないとコミュ障(弱)が出てきてしまう。いや別にそこまでひどいレベルのコミュ障では無いのだが、話すことがないと辛いっていうか、潜在敵の可能性があると気が締まるというか。

 そうやってうじうじと考えていると、コマキ氏が口を開く。


「それではお部屋に案内いたします。ついてきてください」

「ん、よろしく」


 そんな訳で最低限の会話しかせずに歩き始める。俺は体内術式が書いてある紙を回収して結界に閉じ込め跡形もなく燃やす。情報は大事だからこそ、知られる可能性は少しでも排除しないとな。……もしかしたら弁償もしないといけないかもしれんが。

 体内術式の練習をしながらついて行く事十分、やっと着いたらしくコマキ氏が止まった。


「こちらがタクミ様のお部屋です。お風呂とおトイレは入って右側に、リビングは突き当たりに、お食事は六時十二時十八時にお持ちします」

「この呼び鈴は?何か術式が描いてあるけど」

「それは私たち侍女を呼ぶ物となっています。霊力を込めて振っていただければ、私たちに伝わりますので遠慮なくお使いください」

「分かった、ありがとう。…ああ、そうだ、陰陽術の練習はどこですれば良い?」

「夕食後ダンジョンへと案内いたしますので、それまではお待ち下さい」

「了解」


 そして手をヒラヒラと振り部屋に入る。こういう知らない人と話す時は多少雑に対応した方がいいのだ。その方が相手との距離感を少しずつ分かってくる。と、勝手に思っている。


 中に入ればそこは旅館の一室の様だった。窓側に行けば中庭が見え、そこで切磋琢磨している若人(わこうど)たち――まだ俺も二十五歳だが――が柔軟体操や走り込みなどの修練をしていた。その様子をしばらく見ると、そのうち修練の内容が変わってきた。


 組み手をしているのならば普通だと言えるだろうが、生憎ここに居る者たちは全員が陰陽術師。つまりは各々が仕切りのある場所に行き陰陽術の練習をするのだ。年齢的におそらく十代後半なので、七師族選出に向けてお互いが術式を隠すのはなんら不思議は無い。


 ただまあ、俺の場合は仕切りがあっても当然のように透視できるので、術式の見放題の上に自分好みにカスタムができるのだ。そんな訳で目に入った術式を片っ端から携帯の絵を描くアプリに描いていく。…メモ帳に描けないのが不便だな。


 術式を書き込む一方で面白いと思った術式を改造して使う。一つは障壁といえるもの――結界とは違う――を作り操作する術式。二つは粘液質の物質を作り操作する術式。三つ目は加速させる術式。


 一つ目の障壁の事は面白いことに魔法による障壁は存在しない故だ。竜種や高位のモンスターは普通に使っているのだが、これは魔法ではなくて限定された魔力変質のスキルなのだ。弱点は自分の近くにしか出現不可な点。

 魔法で再現する事ができない理由はその一面にしか張れないという点だ。四方を囲う結界は一面だけ取り残す、という事ができない。できるのは限りなく薄くした長方体の結界の生成のみ。一面だけ作ればまだ布の方がいいレベルの障害にもならない魔力の塊しかできない。

 よって障壁は自分が好き勝手に使える手としては良い。特に人前で使う見せ札としては丁度いい。陰陽術の特性故にバレにくいし。


 二つ目の粘液質の物質を作り操作する事。これは魔力変質で再現可能な上、コスパも魔力変質の方が良い。ただまあ魔力変質のスキルを持つ者はソフィア・イヴァノヴァ以外に見たことが無い。なのでこれまた見せ札としては最高だろう。


 三つ目、加速させる術式、これが面白い性質を持っている。他の事象には一切作用しない、つまりは対象のみ(・・)極端に遅くすることも速くすることも可能。まあ超簡単に言えば自分だけ速く動けたり、物を急激に経年劣化させたりできる。

 似た事ができない訳じゃ無い。時空間魔法による「アクセル」は自身のみ身体のみを速く動けるようにする事もできる。が、自分も老けるし負担は加速解除した時に一気にくる。そして下手したら死ぬ。ざっくり言うと一時的に速くなり、後からその負債を支払うのだ

 しかしこの加速させる術式はそのデメリット――一概にはデメリットとは言えないが――を無視できる。魔法では魔力で負担する事が不可能なのだが、一体なぜなのか陰陽術では霊力で負担できるのだ。ハッキリ言って反則級の技だ。まあ難し過ぎて使おうとすれば脳が弾けるが。




 さて、以上三つの術式を描いて保存して、好きなように改造した結果がこれだ!



 極薄の竜鱗の盾(数多の木の葉)。自分で動かす以外には相対固定しか使えないのだが、意識して動かせば竜鱗の盾よりも遠くに動かせ、攻撃も、他人の防御も可能。操作性に難有りだが、体内術式でカバー可能だ。

 散り集まる(アンブレイク・)障壁(アイギス)。竜鱗の盾を起点として何枚も障壁を張る術式。障壁が壊れる事を条件に防御にバフをかけていく、壊れれば壊れるほど強化される障壁。起点が実体を持っていないといけない。


 沈殿領域(スロー・フィールド)。自分の霊力以外を纏わない物――非生物限定――の動きを極端に遅くする術式。とにかくエネルギー消費量が極端に大きくなる空間を作り、燃費は非常に悪いが使いようによっては化けるだろう術式。


 思考加速。自在に超劣化版「極限の世界」スキルと同じ効果を得られる術式。安全確認した後からずっと使っているのだが、消費より霊力回復が大きいので問題が無い。デメリットを強いて言えば普通の術式での霊力の消費が増えてしまう程度。

 反応加速。化学反応の速度を早め、継続時間を少なくする代わりに花火のように瞬間火力を上げる術式。現代兵器だがダンジョンでも使えるスタングレネード――組合で買える様になった――の効果を強くできる。まだ試作段階の術式。


「うん、まあ大体これくらいか」


 メモを見て満足できる内容に仕上がって嬉しくなる。陰邸様の言っていた隠す術式も完璧。ただ何か足りない気もするのだが、そこはおいおいで良いだろう。


 ふと懐中時計を見れば十八時過ぎ。どうしたものかと指先に集めた霊力と球状にした霊力を体内術式で弾いて遊ぶ。暇な時はこうして霊力の球を作り、指先同士で霊力の球を弾いて楽しんでいる。そして今回は術式を使って複数個弾き合わせて遊んでる訳だ。


 初めて見た者なら霊力の球が宙に浮いて動き回ってる様に見えるだろう。ある程度の実力を持つ者ならばその霊力操作のレベルの高さに驚くだろう。そして実力者ならば、


「なっ!?」


 こうして遊んでる様に見えてもそれは術式を描いているのだと気づくだろう。まあ、


「はあ。虫は好きじゃないんだ、消えてくれ」

「!?!?」


 気付くのが少し遅かったな。俺の手元から術式が発動して突如として現れた人面蜘蛛の式札をズタズタに切り裂く。「極薄の竜鱗の盾」の運用にもってこいなので試したのだが、中々良いじゃないか。隠れていた人面蜘蛛を切り、人面蜘蛛がいた場所には何の痕跡も無い。


 今回使用したのは自分の体内術式と「極薄の竜鱗の盾」の二つ。必中術式(体内術式)を極薄の竜鱗の盾――今後は圧斬(へき)◯ではなく、斥刃(せきじん)としよう――に付与して放った。

 結果、狙った通りに敵のみを切り裂いた。勢いというものが斥刃の術には存在するので、単にぶっ放した場合には地面に大きな切れ目が残るだろう。だが実際には必中術式を付与したら地面には切れ目が残らなかった。つまりは、


「必中術式は狙った場所までしか効果を発揮できない」


 これは中々に癖が強い。今の例で言うなら必中術式の効果は「視界内にいる対象の接続部分まで」という様に定義して発動した。まあ小難しく言ったが要するに人面蜘蛛の体のみに対象を絞った。


 他にも複数斥刃を放った。

 例えば「視界内の対象」と置き換えたものは、透視を使ってないので視界から出れば斥刃は消えた。

 例えば「視界内の対象に触れるまで」としたら、斥刃は切り裂くまで効果を発揮せずに消えた。

 例えば「対象に触れるまで」としたら、切り傷を僅かに与えた上で消えた。

 例えば「対象を消すまで」としたら、斥刃は式札から出現した人面蜘蛛が式札ごと消滅するまで消えなかった。

 そして「対象を切り裂くまで」としたら、結果が別れた。しかしどれも対象以外を切り裂く事はなかった。途中のルート上に机や椅子が存在しても。

 要はこれは


「擬似的な『選別』か?………ふっ!…いやちょっと違うか?」


 出た結論があまりにも嫌なものだったので、届かない射程距離の霊糸(れいし)――霊力を糸状にした物理面でも作用するもの――を放てば当たった。つまりは射程距離を無視した結果を出したのだ。って事はつまり?


「条件を三つ満たせば何がなんでも当てれる?……恐ろし!」


 何という凶悪かつ強力な術式か。今回の満たした条件は「視界内に捉える事」「対象の情報を知る事」「対象までの正確な距離」だ。どれも愚者の瞳ならば分かる基礎的なもの。「対象の情報を知る事」なんて姿形を正確に分かれば満たせる。

 そして更に言えば敵が狙いを定められたと分かって避けようとしても、一度でも三つの条件を満たせば必ず当たる。つまりは射程距離が触れないとダメなレベルの短い攻撃も、条件を三つ満たせば射程距離なんて関係なく当てられることを意味する。

 愚者の瞳と組み合わせればとんでもなくヤバい術式だ。


 まあだからといって使わない理由にはならない。武器を持てば持つほど選択肢が増え、結果的に俺を助けるのだから。さて、自分の術式についてはもういいだろう。


 今回人面蜘蛛の式札を送ってきた人物は誰か?…ではない。犯人はさっきの式札を通して知ったし、その者を見てどうして送ったのかも答えは分かる。それは嫉妬だった。陰邸様の教えを何故俺というどこの馬の骨とも知れない者に!的な感じだ。


 全くもって迷惑な話である。うちの婆ちゃんが勝手に約束して、そちらのお偉いさんが決定し、その結果俺はここに連れてこられて術を学んだだけなのに。それを羨み自己鍛錬に熱を入れるのは良いだろうが、嫉妬して攻撃しようとは何事か。


 ま、その辺はどうでもいい。本格的に攻撃された訳でもなし、見られて困る様なものも見られてない。つまりは何の問題も無いので無視するのが一番だ。まあ二度も同じことをされたら俺自身の手でぶちのめすとしよう。俺は仏様よりも寛容ではないしな!

 ん?何やら人の気配が、


 ーコンコン

「お夕食をお持ちしました」

「どうぞ〜」

「…失礼します。こちらが本日のお夕食です」

「ん、ありがとうございます」

「お召し上がりください。ああ修練場の件ですが」


 修練場の件、はて、何の話だったか?……ああダンジョンに案内してくれるって話か。


「…それが何か?」

「ええ、実はしばらくの間ダンジョンは立ち入り禁止となりました。ですのでまた明日の朝案内いたします」

「ダンジョンの立ち入り禁止?そりゃまたなんで?」

「霊怪が、それもおババ様の封印していた霊怪が復活の兆しを見せたのです」


 霊怪。魔力や氣ではダメージを与える事ができず、陰陽術でしか祓えない存在。陰陽術を扱う高位の存在もかなりの数がいると確定している上に、さらに高位の存在ともなれば人の言葉を知り戦術までも組み立てれる非常に厄介な存在。


 おババ様、つまりは陰邸様の封印をしている存在は最上位の霊怪だ。中には陰邸様クラスが祓いきれなかった存在もいる超危険な存在。そんな存在が復活するともなれば、逃げ場ともなるダンジョンを立ち入り禁止にするのも分かる話だ。


 おそらく立ち入り禁止とやんわりと表現しているが、実際には封印をしているのだろう。未だ習ったばかりの俺でも分かる強い者でも陰邸様の八割といった感じで、要するに足手まといなのだろう。しかしまあ、何とか補助にはなるだろうレベル。

 となると、


「俺は大人しくしてろって事か」

「飾らずに言うのならば、そうでしょう」

「んー、なら言っておいた方がいいか?いやでもな…」

「どうかなさいましたか?」


 正直言って人面蜘蛛の式札を送ってきた者については、霊怪の話云々の話を聞く前から話そうとしていた。だが、なんとな〜く嫌な予感がするのだ。そしてその事を言うのを躊躇っているのは決して良心故では無い。

 恐れ故だ。


「言霊って知ってるかい?」

「?ええまあ」

「それを今俺は非常に恐れている」

「何故ですか?」

「それを言ったらおしまいだろう。ただまあ」

「?」

 ーズドオォォン

「もう手遅れっぽいが」

「!?!?」


 最初の破壊音と同じく今も爆音と破砕音も聞こえる。コマキ氏は俺を守ろうとしているのか防御術式を展開し始めた。しかしながら効果は期待できないだろう。別にコマキ氏の防御式が弱い訳ではなく、単純に系統が異なるからだ。


 再びの破壊音。今度は近くだ。そして扉の前に気配が出現して、その瞬間、俺はコマキ氏を強引に引っ張ってその場から脱出する。そして脱出して数秒後、俺がいた部屋は爆破と共に煙に包まれた。ついでに困惑していたコマキ氏も煙の中から出てきた人物に驚いていた。


「…何故ですか!何故この様な事をするのです!雉子野(きじの)殿!!」


 俺はその言葉を聞いて納得した。雉子野、それは七師族に惜しくもなれなかった家だと陰邸様から聞いたからだ。そして今度行われる七師族決定の儀で、七師族になるべくこの陰邸様の屋敷で修練をしている者だから。ではなく、先ほどの人面蜘蛛の式札を送ってきたのはコイツだからだ。


 陰邸様曰く、「スジも良いし努力家。だが運には恵まれていない」と評価されていたな。そして「だからこそ、タクミが絡まれる可能性も高い人物」とも言ってた。どうにも妬まれてる様子。更に言えば、


「桃木様まで!?」


 煙とは別に俺たちの横に現れたのは、これまた陰邸様から絡まれる可能性があるので要注意と言われた七師族の一家、桃木家の次期当主だ。プライドが高いらしい。


 嫌になるなあ、と考えていれば吹き飛ばされてきた者が二人。一人は気絶している様子の犬鳴夢見。もう一人は犬鳴を術式で浮かせている陰邸様だ。


「つくづく騒動に愛されてるとしか思えんねえ。佐々木家の血筋ってのは」

「おババ様!」

「コマキかい?まあ(そば)にタクミが居ると考えれば当然かねえ」


 評価が高いのが辛いな。確かに俺が先ほどまでいた場所の煙は不自然にそこに留まっているし、その煙を視たところ洗脳の効果があると分かった。故にあの場をコマキ氏と脱出したのは正解だと言えるだろう。つまりはコマキ氏は俺と居たので安全だったのだと言えるだろう。


「陰邸様、霊怪ってのはこんなにもおっかない存在ばっかりなんですか?」

「分かってて聞いているだろう。今回のやつは封印されてる中でも(あたし)が注意すべき存在のうちの一体さねえ」


 それは分かる。だって陰邸様は傷一つついていないのに酷く疲弊している様子だもの。十中八九、傷を受けたらまずい類いの術を使うのだろう霊怪だ。犬鳴という足手まといもいるしな。


「殺しはまずいっすか?」

「いいや、殺さなきゃならんよ。アイツに傷をつけられたら洗脳されて駒にされ、闘争本能を強く引き出し、死ぬまで戦わされる。解術は不可能。唯一のデメリットは駒にされた者からの攻撃じゃ駒にはされない事かねえ」


 その言葉に顔を青ざめさせるコマキ氏。そしてボス登場とばかりに大きな影が空から降ってきた。登場シーンはカットする派なんだ、死ね。結界でソイツを大きく弾き飛ばす、つもりだった。実際にはあっさりと溶かされた上で躱された。


「ふむふむ。それで、陰邸様。本体ってアレですか?」

「そうなるねえ」

「アレは大猿ですか」

「私とタクミの目が狂って無ければねえ」

「いやはや、厄介だなぁ。被ダメは無しで結界もダメ。物理は九割九分カットで魔法も氣もダメージにはならない。これは控えめに言って化け物では?」

「だからこその封印なんだがねえ」


 ごもっともですね。

作中にあった爆竹程度の爆発を生み出せる術式は、霊力消費が少なく、素早く、広範囲に、連続して起こす事で最早単なる爆発と大差ないレベルまで昇華できる。って術式です。

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