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大人を守る大人

 

 Another side


 それは嵐の様な雰囲気だった。戦場を必死に押し留めようとしていた者たちは、素早く、魅せられる様な、全く無駄のない動きをする者によって役目を全うした。


 荒々しい雰囲気の、繊細な糸を通す様な動き。まるでモンスターを含め戦場にいる全ての者が役者になったのかと錯覚する。そんな動きだ。ステータスは然程高くない筈だ。スキルも使われていないだろう。それゆえか誰しもが魅了される。

 最早戦争と何ら変わりないレベルまで敵の統率が取れてた。そして嵐の様な雰囲気を纏った者はただ刀を振るうのみ。自身より高いものがいれば跳んで斬り、その死体が消える前に移動して斬る斬る斬る。身長が低ければ刀で心臓部か首を斬る。筋肉が分厚ければ口から斬る。

 あらゆる弱点を殺陣でもやってるかの様に斬る。まるで映画の世界にいる住人の様な動きだ。当然そんな動きよりももっと洗練されているが。


 そしてある程度減ったら直ぐに違う場所へと行く。嵐の様にやってきて、嵐の様に過ぎ去って行く。



 そこは空に居る存在への攻撃をする場所。まるで重力を感じさせない余裕、距離など無いかのように最短を動く先を見る目、そしてモンスターと人間両方の攻撃を一切くらう事ない気配察知。


 魔法や矢に銃が当たる様に射線上には一切入らない。まるで予定通りとでも言える様な動きは、この場に居る誰もが苦に思わない。最初この場所に来た時、射手は気を使ったが、途中から馬鹿馬鹿しくなり撃とうとすれば射線に一切入らず、まるで以心伝心の様に撃とうとすれば射線から消えた。

 矢が切れて押されそうになる戦線は「食い止める」と言う事で誰もが安心した。そして事実食い止めてみせた。銃が突然使えなくなった時は一喝して動揺を止めさせた。そして盾部隊を少しでも呼ぶ様にし、次々にナイフで飛ぶモンスターたちを落としていった。

 戦術的な面でも指示を出し、どうすれば勝てるかを教え、敵を倒す効率の良い指示を出した。まさしく彼はこの場のヒーローだ。


 もう疲れたと言い休憩所に向かう彼を誰もが責めず、誰もが敬意を持っていた。



 そこは皆が体を癒し、休める場所。そしてだんだんと組織だった動きを始めたモンスターに突然使えなくなった近代兵器。ならば答えは、


「やっぱり」


 気配を消せるモンスター。それらが襲いかかっていた。幸いにもそれを察知した者がやって来てから、襲われはじめてまだ時間が経ってない。そして予想はしていたのだろう、ランキング上位陣が出揃っていた。


「おう、タクミじゃないか!セイっと」

「ああ予想通りか」

「その通り!っと、そうそうクラウスがありがとうってさ!」

「一応聞いて、おくよ。何故?」


 会話の途中に来る敵を弓矢で全て倒す。そうして一時の猶予がある。会話の再開だ。


「ワンフォー!この戦いの生存者がグッと増えたって言ってたなあ」

「何故それが分かったんだ?スキルか?」

「さあ?何でもスキル公開は禁止らしいよ」

「情報の大事さをよく知ってるな。まあ少しお粗末な気もするが」

「かもね。まあ組合幹部の規則には無いから、今の自分は軍人としてでは無いとか言うのかもね」

「かもな。じゃあこの場はお前に任せて良いな?」

「もちろん。医療従事者(可憐な女性達)にまで手を出そうとするんだ。本気だよ」

「……まあ良い。じゃあな」



 彼の心配は杞憂だった?そんな事はない。ジョンの感知網には引っかかっていない敵がいた。それがステルスゴーレム、ミスリルでできてるために魔力感知には引っかからない存在。


「さて、お前が死ねば終わりだな。じゃあな」


 紋章を敵に貼り付け、錬金術でレジストする前にコアを抜き取った。戦闘とも言えない一方的なものだが、本来ならもっと大変なのだ。そして今のステータスではなおのことそうだ。敵の対魔値が高いので通常の錬金術はレジストされてしまう。まあ紋章があればご覧の通りだが。

 掃除を終えた様に、いや事実本人は掃除を終えたつもりなのだろう。手を払って次の場所に行く。



 そして着くのは最前線(・・・)。その様子はまさしく昔の戦争とはこう言うものだったのだろうと彷彿とさせる状況。しかし依然として冷静に、今押されている場所へと向かう。


「五分休め。代わる」


 そう端的に言って約十人で抑えていたモンスターたちを殺す。そこらに落ちている死体から、既に折れてしまっている剣などの武器を糸で掴み突き刺す。その光景に疲弊していた者たちは驚く。止めようと思ってた。無理だと思ってた。

 暫し固まるが、しっかりと現実を受け止め休み始めた。と言ってもその場で立つだけだ。だが、それでも十分だと考えていた。心身ともに疲れ切ったものを回復するには立つだけでも大丈夫な様に鍛えている。

 その様子を見て、安心して切り進む。一撃で確実に仕留めれる敵は糸で操った武器で、それ以外は全身を使い殺す。首を斬り、心臓部を刺す。それができない敵なら、動きにくくする。動きが鈍れば他のモンスターの邪魔になり、それはモンスターを減らす原因になる。

 首ほどではないが手足の付け根を斬れば出血していずれ死ぬ。それまでは雑魚の障害物となってもらう。徹底した一対多数の殺すための技術。そして、


「五分オーバーだ、後は頑張れ。俺は他の場所に行く」

「あ、ありがとう!」


 笑い、気にせずとも良いと言ってまた戦場を走る。大丈夫そうな場所、そうじゃない場所。…そして、蹂躙している場所。

 アケシさんが身の丈以上のスレッジハンマーを振るいモンスターが吹き飛ぶ。クラウスさんが剣を振るい魔法使うことでモンスターたちを焼き切る。そしてブレスを吐き出して広範囲の敵を、建物に関係無く薙ぎ払う小さな竜。

 そしてその更に奥には巨人がいる。そしてその更に奥にはじわじわとやって来る森だ。


「もうここまでか。おそらく他はもうかなりの人数が死んでるか、全滅か、はたまた撤退か。いずれにせよもう砂漠は砂漠じゃ無くなっていそうだな」


 そう呟くと他の押されている場所へと向かう。それと同時に、


 ーキュオオオォォ!!

「撤退だ!」

「撤退の合図だ!引け」

「引け!引けえ!!」


 小さな竜が大きく鳴いた。その声(?)は最前線を構成する者たちを引かせた。おそらく最初から撤退の予定だったのだろう。ここまでの精度は、予め撤退をプランにしていなかったら不可能だ。ただ、しんがりとして力を尽くして倒れる者もいた。

 そしてその者を助ける者も。


「立てるか?」

「すまん、もう辛い」

「仕方ない。少し手荒だが恨むなよ!」

「ぬおっ!?」


 修羅はその者を助けるために糸を使った。粘着性の高い物で限界まで伸ばして放る。


「行け!この場は抑える!」

「感謝する!!」


 修羅は刀を収め、抜刀した。その瞬間前方には大きな横一文字に線が入り、多くの対魔値が低い存在を切った。そしてその当人は耐えた個体のオーガに突撃、そのまま斬りかかる。

 ジャンプして首を斬れば頭をボールに見立てて蹴って他の個体にぶつける。倒れるその巨体を足場に次へと向かう。ナイフで目を刺しその隙に首を刎ね、オーガの首を蹴り折る。その勢いで地面にいるドラゴンモドキの硬い表皮を刀で貫く。足りなければ地に落ちてる武器を糸で掴み、その目や口に突き刺す。

 体から力が抜ける前に足場にして次の個体に斬りかかる。それも撤退が上手くいっていない場所の近くでだ。常に武器を糸で操り周囲に待機させ、刀と短刀で殺しきれないと判断すれば待機させた武器で攻撃する。結果を見るまでもなく次へと向かう。


「化け物、もう一人居たとはな」

「あー、報告するぞ」

「キュウ」

「アレは後で呼び出しだろう。というかする。どうせ後から聴取するのだから関係無いだろう」

「知らね〜からな。巻き込むなよ」

「お前好みでは無いのか?」

「もう粉はかけておいた」

「流石というか…ハア」

「照れるなあ、そう褒めるなよ」

「褒めてない!」

「キュウ!」


 そしてその光景を見たアケシとクラウス、そしてどんな関係か竜が話していた。彼らの中ではもう確定しているのだ。もう安心だと。そして事実、かの修羅がそこで押し留めていた。



 Another side END



「はあ、はあ、はあ、はあぁ」


 疲れた。糸に送る魔力を止めて一刀一殺を心がけ移動してどれほど経ったか。ようやく森が止まり、巨人も消えていた。そして掃討戦をする事なくモンスターたちは引いていった。

 そんな俺は今、治療を受けてはいなかった。治療が必要な怪我はあったが全て自分で処置して、ぶっ倒れたところをジョンが運んでくれたのだ。まあ処置以上の事は必要性が低いと判断され、新しい包帯にされた程度だったが。ともかく俺はそんなことで息を切らしている訳では無い。

 引いたと思っていたモンスターが一体だけやって来たのだ。それも俺以外だれも探知できないレベルの存在が。ひっそりと休憩所を抜け出し、ステータス上限を取っ払わずに森に向けトレインし、戦い終わったのだ。だがまあ樹海化している場所なのでモンスターは出るわ出るわで疲労困憊。

 そしてようやく森から脱出して休憩所へと戻ったところだ。


「先輩!?どうしてここに!?それよりもその傷は」

「いや何、ちょっと残業していた時にな」

「残業って、速く集中治療所へ」

「あ〜、悪い。もう限界だわ。ちょっと…寝る」

「先輩!!誰か運んで!」


 怒声が体の傷に響く中、俺は意識を失った。



「うん、知らない天井だ」

「ネタに走らんで下さいよ、タクミさん」

「ん?バクムか?何で居るんだっと。痛え」

「動かんで下さい。まだ絶対安静なんでっから」

「お前、口調が戻ってるぞ」

「そりゃ命の恩人が死にかけなら口調は気にせんでしょうに」

「死にかけ、か。やっぱり聞いてた通り残業は命削る行為って、痛え」

「はあ、とりあえずカレンちゃん呼んできますわ」

「おう」


 天幕からバクムが出て行く気配とともに、自分がどんな状態か判断する。肋骨が右四本ヒビ、左手の手首から先がポーション漬け。デコの骨にもヒビ、左腕は骨折か。下半身は傷つけない様に頑張っただけの事はあるな。


「ん?」

「先輩!良かった、死んで無かった〜」

「おう、死んではねえよ。それと、こんな状態ですみません。クラウスさん、アケシさん」

「いや、意識が戻ったと聞いてな。それに命の恩人に無理をさせるべきじゃ無い」

「アタシはあんたの顔に傷がないか見にきた…ってのは冗談だ。感謝しに来たんだよ」


 確信を持って命の恩人だと告げるクラウスさんに、感謝をしに来たアケシさん。そして、何の意思を持ってなのかわからないが、強いて言えば「悔しい」という感情を持ってるだろう子竜。


「何が?と惚けても無駄っぽいですね」

「ああ、きっちりとコイツが聞いていた」

「それは、噂の従魔ですか」

「ああ。天竜の子供で、偶々テイムできたペンドラゴンだ」

「キュウゥウ」


 よろしくと言ってくるペンドラゴンに返事をせずに観察する。腕を伸ばそうとするが、


「痛っ」

「ふふふ、腕が治ったら触ると良い」

「あはは」

「ゴホン!」

「おっとそれじゃあ本題だ。先ずはこんなにも酷い怪我を負ってまで我々を助けてもらって感謝する」

「アタシからも、ありがとね」

「まあ利益が無いとは言わないですし、結果的に死ななかったんで良しとしましょう」

「そうか。君はきっちりしているね。だが僕は知ってるよ、君がヤツを倒したんだね?」

「……はあ、参った。降参だ。確かにヤツは倒した。ミッションで見たんだろ?」

「そうだね。知ってるのは僕とペンドラゴン、彼女(アケシ)とジョンだけだ。安心すると良い」

「逆に安心できませんね」


 今回の件は最も知られたく無かったのは、世界ダンジョン組合の幹部達だ。彼らは誰でも何処かの組織、国、或いは個人と繋がってる。だからこそ、俺が実力者だと知られたく無かったのでひっそりと出て行って倒したのだ。


「そうかもしれないね。ただ、安心すると良い。この事は長と私たち三人以外には口外しないと誓う。無論ギアススクロールを使っても構わない」

「あー、魅力的な提案ですが誓っていただくだけで問題無いですよ。それと、俺はどれくらい意識を失っていて、どのくらいの怪我だったのかと、後どれくらいで治るのか聞きたいですね」

「それについては彼女から話してもらおう。Missカレン」

「ええと話しても良いんですね?」

「らしいな」

「それではー」


 そして言われたのはポーション万歳なお話だ。先ずどのくらい意識を失っていたのかは、約半日。そして怪我は肋骨の右側は全て折れていて、左側はヒビと一本折れていた。左足にヒビに左腕と左手首から先は複雑骨折。デコもヒビ。右手に右足と各内臓器官は大丈夫。何気に足にヒビが入っていた事に悲しくなった。

 高級ポーションで漬けておけば後一日経過で左手首から先が動くだろうが、ポーションがぶ飲みをすれば左腕はギブスで何とかなるそうだ。だがその前にこの後ポーションで全身浴を実行して他の部分を治すそうだ。なので全治二週間でOKらしい。


「ーとまあこんな感じです。ポーションの過使用にならない様に腕はギブスでどうにかして下さいね」

「なるほどな。まあ動けるし、介護って誰かいる?」

「私です」

「なるほどね。じゃあポーション風呂手前までか。よろしくな」

「ええ、よろしくお願いします」

「…話は終わったかい?」

「ええ終わりましたよ。この後ポーション風呂に入れられて、ギブスで二週間ですって」

「相変わらずポーションは現代医学に喧嘩を売ってるわね」

「まあお陰で時間が短くなって良かったじゃ無いか。それじゃあ、ポーション風呂に入ったら本部に向かってくれ。僕たちは先に帰ってる。ただし、後処理はアケシに任せる事になってるけどね」

「あー、そういえばここの扱いどうなるんですか?」

「危険大陸として扱うよ。国は全部崩壊、北の砂漠だけじゃなくて南まで全部森になったみたいだよ。ついでとばかりにね」


 という事は、師匠の命令は無事遂行か。……いや無事って言うべきか?まあ命があるだけでも儲けものと考えれば、確かに無事か。まあ今の話を聞く限り大勢死んだだろうから、この先この樹海は最初の樹海と同じく多くの死霊が出るだろうしね。

 そういえば、


「俺の装備って残ってるのはこのマジックポーチと短刀だけっすか?刀は仕舞ってあるんで分かるんですが、召喚の腕輪と高級ポーションが無いんですが」

「あはは、高級ポーションは使わせて貰ったよ。後で渡すから安心したまえ。腕輪についてはもう形を保っているのが不思議なレベルまで壊されていたよ」

「あー、気に入ってたんだけどなあ。まあ消耗品だと思えば、思えば、何とか」

「そうしなさい。そうそう、移動は空母からの飛行機でアメリカを中継して日本に到着予定だからね。貴重な体験だ。しっかりと味わいなさい。僕は先に帰るとするよ、じゃあね」


 空母か。まあ飛行機を飛ばす場所が無いと考えれば妥当な判断だろう。だが毎回のことだが空母なんてどこから引っ張って来たのやら。想像できない。そう思ってアケシさんを見れば、何やら神妙な面持ちだ。


「今回は本当にありがとう。これは私個人としてじゃなくてアフリカ大陸の一権力者としてです。被害を最小限に抑えてくれてありがとうございます」

「(被害を最小限、か)……ええ。ではありがたくそのお礼を受け止めましょう」


 この大きな戦いで被害が出るのは当然。前途ある若者が死んだのは、否、死なせたのは、当然の出来事ながら、悲しい事だ。

 これは、後悔先に立たず、か。

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