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子どもを守れない大人




ネタが!ネタが出てこない!!!

 

 少年と離れて向かうのはアケシさんのところ。見回りは終了したと報告したいのだが、今の場所が分からない。正確に言えば分かるが、自分が知っていたら不自然だという事だ。まあ幸い前線の近くなにで誰かに言伝を頼めばいいかね。


「おや、そこの美少年は」

「あ゛?何だよジョン(ナンパ野郎)じゃねえか」

「何か含みのある言葉だけど、まあいいさ。それで何をしているのかな?」

「いや避難誘導は終わったし、何しようかと思っていたところだ」

「ん〜、君強そうだから独立部隊所属?」

「そうですが?」

「じゃあ、あとどれくらいで魔物放出が起きるか分かる?」


 これは、素直に答えた方がいいのか?それとも試されているのか?……素直に言うべき、かな?


「あと、大体三時間ですね」

「ああ〜やっぱりか。君ミッションが出てるのか。まあ予想通りだけど……いいよ着いて来なさい」

「(雰囲気が変わった)…ええ、了解しました」


 そして第五魔物放出前線の本部に向かう。ここは海付近から脱出させるための時間稼ぎの場所で、他の国にも数多くある前線の一つだ。まあ全ての戦線はこの大陸の端っこ、つまりはいつでも誰もが(・・・)脱出できる様に作られたものだ。

 魔物たちが一体どこまで追ってくるかは不明だが、逃げ道が無いのはダメだ。士気が下がるからな。特にダンジョン攻略者ともなれば臆病な者が強くなる。そしてここに集まっている者は猛者ばかり、要するに良く言えば慎重派なのだ。

 と、まあこんな感じの説明を受け終わったところで、前線基地に着いた。


「君はどう思う?」

「まあ当然でしょう。こちらは命をかけて守らんとしているのに、その手段を指示される謂れはない。当然の判断なのでは?」

「うん、君もそういう意見で良かったよ。中にはダンジョンの側に前線基地を建てるべきだと言う連中も居てね。未だに電話で文句を言う連中が居るんだよ」

「金を出しているから、ですか?」

「いいや。支持が欲しいから、だよ」


 俺は呆れてものも言えない。予想していたのはアフリカ大陸の国々のトップが先に逃げて、その上で金を払ったのだから言う事を聞けと言うのだろうとゆう事だ。しかし選挙や今後の自身の保身のためとなると…。


「はあ、今は無視して後で抗議すれば良いでしょう?」

「それが「!?何者だ?」できれば一番なのだけど、出資者だから無視はできないのだよ」

「…再度問うぞ。何者だ」


 いきなり声をかけて来た存在へと短刀を構えながら言う。ジョンは無視、って事は何かあるのだろうが…。


「僕の事かい?僕はクラウス・メビウス。世界ランキング第三位のクラウスだよ」

「第三位か。…それで?そんな大物が俺に何か用なのか?」

「用はあった。けどもう終わったよ。じゃあね、君の考える様に僕は忙しいから」

「???」

「適性審査だよ。独立部隊に入ってもいいかのね」

「なるほどね。大方反応できるか、威圧に耐えれるか、と言った感じか」

「忙しいからね、彼」


 実際悪くない効率なのだろう。彼は中々いいスキルを持っている様で、一定以下隠密に威圧(ステータス参照)を持っていた。事実俺のステータスダウンが無ければ威圧に対して何とも思わなかっただろう。決して腹芸が得意という訳ではないのだから。

 まあそうやって頭で分かっても気持ちがついて来ないのが現実だが。


「…まあいいか。それで認められたって考えでも良いんですか?」

「なにも言われなかったし、いいと思うよ。ただ、聞いてるかどうかわからないけど独立部隊は文字通り独立している。それは開始も同じこと。だから魔物放出がスタンピードが始まったら直ぐに動かないといけないよ」

「了解です。まあ命を大事にして頑張りますよ」

「それがいい。じゃあ後の時間は自由だ。ただ、疲れは残さない様にね」


「いのちをだいじに」とネタに走りたくなったが、通じなさそうなんでやめた。言語的にも元ネタ的にも。


 さて、やる事が無いので外で待つ事にしよう。今からダンジョンに行くのは自殺行為だし、例のスタンピードが起きた場所に行ったらダンジョン内と同じような制度になっていた。つまりはドロップ品として道具を入手できた。更に言えばアイテム収集のスキルも有効だった。

 他人が倒したモンスターはどうなるのか実験したかったが、まあ出来なかった事はしょうがない。もし仮にこの場で他人の物まで回収される様ならば誰もいない場所で狩ればいいだけのこと。その方がなにかと都合が良いからな。


「じゃあ今なにをやるかって言えば、準備運動か?でもまだ早い気がするが、まあやれる時にやっておくか」



 そうしてラジオ体操をして奇妙な人間だと思われたり、どうにもその場では続行できなくなり移動した先にアケシさんが居て逃げて来たり、逃げた先で素振りをなどをしてたら残り時間があっという間に過ぎてしまった。

 そして今俺は前線の端っこに居る。本部に行ってDRカードを見せたらここに行けと言われたのだ。まあある程度の戦力を分散させて居るんだろうな。


 ーピピッピピッピピッ

「時間か」

『special mission start!!

 アフリカ大陸で複数の魔物放出が発生した。モンスターを倒して自然化を止めよう。→モンスターを適度に倒して自然化させよう!

 条件:複数のダンジョンから出てくる魔物を狩る(0/不明)。自然化を達成する。

 報酬:ダンジョンの少数化、倒した量の魔物に応じた宝箱(複数あり)』

「条件変わってるし。まあいいか」


 刀をするりと抜いて構える。そんな俺の様子に何か起きると俺の周辺の者たちが武器をそれぞれ出す。


「見えたな。おお大量大量」

『missionが開始されました!スタンピードによって大量のモンスターが向かって来ます!!各自で倒してください!』

「ああ〜、あの運んで来たスピーカーはこういう意図か。やけにボロいと思ったんだが、まあ使い捨てなら納得かな」


 ードドドドドドドッ


「行くぞ!!者どもかかれ!!!」

「「「「「おおー!!」」」」」


 威勢が良い事だと思い、俺も突っ込む事にした。



 Another side


 最初に猛スピードで誰かが突っ込んだ。それはカタナという日本の武器を持ち、男だと言われなければ、否、男と言われてもなお疑問の残る顔立ちをした者だ。

 突っ込んだ先では血飛沫が舞う。一瞬にして十以上ものゴブリンソードマンが首を斬られて死んだ。つまらなさそうな顔をしながらも更に血飛沫が舞う。その者は血に汚れることが無い様に立ち回っている。しかし、いくら実力者とはいえこの量のモンスターの血を避けながら立ち回るのは至難の技だ。


「すげえ」


 誰かが言った。それはモンスターを倒して血に汚れている者だからこその言葉だ。その者は知っている。いかに血飛沫を避けようとも、数がいればいずれかかってしまう事を。そしてその血は自分の動きを制限しかねない事も。

 そしてその称賛は口にせずとも同じことを思う者は多く居た。しかし懸念はある。あれだけの速さで敵を倒すのは長くは無いだろうと。



 やがてオークが現れ始めた。最初の第一陣の者たちは休むために一度引く。そのために声をかける。


「おい!疲労を蓄積させんなよ!」

「問題無い。すまんな、わざわざ」

「いやいいが、っと。お前さんは引っ込まないのか?」

「ああ、自分の体力は把握しているつもりさ」


 そして最初と同じようにオークが斬られる。的確に首を斬られて、的確に胸を刺し抜かれて死んでいく。そのペースは淡々と同じ速度だ。声をかけた男は一度引く。この男も自分の体力は把握していた。

 そして男が引く。それを見て問題無しと判断したのだろう。第二陣の者が来るまで淡々と斬り続ける。刀では届かないその高さに移動し続ける事で対応する。オークが斬られて、死ぬのを確認せず次から次へとジャンプして首を斬る。

 そしてその様子はあまりにも滑らかで無駄がない。第二陣の者が来ても尚動き続ける。



 そして第三陣と交代となる時にその少年はようやく引いた。だが皆が一様に息を切らすか疲労を感じさせるのに対し、何事もなかったかのように平然としている光景はとても奇妙だ。だが声をかける者はいない。皆が自分の事で必死だからだ。

 ただしそれは医療従事者を除く。


「あの、大丈夫ですか?」

「ん?ああ問題無い。体力的に辛くなっただけだよ」

「でもその、第一陣からずっといたと聞いたので…」

「あはは、心配かけたかな?悪いね。でも無理してもいい事は何も無い。それは良く知ってるから本当に大丈夫だよ」

「分かりました。何かあればおっしゃってください」


 その少年は何故自分だと分かったのか理解していなかったが、実はその容姿から噂が広まっていたのだ。そしてそれは医療従事者達の耳にも入っていた。曰く、


『誰よりもモンスターを倒して、傷も血飛沫も無い華奢な男の子が居る』

『考えれる最高の効率でモンスターを仕留める見た目とはかけ離れた少年がいる』

『戦う様子は踊ってる様にしか見なかった。ただし参加した相手は皆死んだが』


 などなどだ。だがまあそれを当の本人が知るのは後々になる。何故なら、


『緊急事態です!前線後方に飛行型モンスターが襲撃し始めました!繰り返します…』


 モンスターが後方を攻め始めたのだから。

 それを聞いた男は、武器を持ち直ぐに休憩所を出て行った。その脳裏には、あの輝かしい少年の姿が思い出されていた。



 男が知らせを聞いて駆け出す少し前、前線後方の避難所からは船に向かうために移動する集団がいた。その警護をする者たちはどこかホッとした雰囲気だ。それもそうだろう。この者たちは第三陣が出た事で出なくなった第一陣の者たちなのだから。

 疲れを癒すとともに比較的安全な仕事を指示されたのだ。疲れから回復しつつ比較的安全な護衛をするのか、再び前線に出て戦うのか、どちらを選ぶのかは明白。こうして多くの者が護衛をするのは当然だった。


 そしてその警護されて移動する者の中には、とある少年がいた。無事に親に合流して、時々聞こえる大きな音にビックリしながらも、避難する船へと向かう者たちの一人だ。そして、悲劇を予測された者でもある。


「怖いよ、お母さん」

「大丈夫だよ。もうすぐで安心できるからね」


 その親の言葉に子は安心して、しかし心のどこかには不安を抱きながら移動する。そんな、何処にでもある一幕。

 だが、世の中は厳しい。いや、非情だと言うべきか。


「ギュオォォオオ!!」

「ぎゃあぁ!?火が!火だあ!?!?」

「ワイバーンだ!撃ち落とせ!」


 空から理不尽(モンスター)がやって来た。ワイバーンは空から火の魔法で人を焼く。そしてその陰からブレイドホークスが魔法を使ってくる。ワイバーンもブレイドホークスも速い。そのため矢を放ってもほとんど当てられず、その矢は落ちて避難民に当たりかねない。その判断が被害を広げる。

 数少ない魔法の使える者が倒すが、被害は増える一方だ。そしてその事を理解した者たちが笛を吹く。奇襲された時に使う応援要請の笛だ。しかし当然、到着までには時間がかかる。絶望感を皆んなを襲う。

 だが…いや、だからこそ、立ち上がる者がいた。ネックレスに願い、そして不思議な事に弓矢を得た少年だ。


「お母さんたちに、手を出すなー!!」


 普通ならこんな少年の言葉には誰も見向きしない。普通ならこんな言葉でモンスターは死なない。しかし実際にモンスターを倒したなら?誰もが気合を入れ直す。ガキンチョ一人に任せてなるものかと。ガキンチョを守るのが俺たちの役目だろうと。誰もがそうして武器を取る。


「ありがとな、少年。君は勇敢だ」


 そしてその様子を見ていた応援要請をした者は感謝をする。そして心の中で在らん限り、褒め称える。少年は今も不思議な道具を使ってモンスターを倒している。ただ、自分の大切な人を守るために。


「気合入れて守れ!応援は来るぞ!」


 たった一人の勇気ある少年によって場の空気が変わる。皆が気合いを入れて、武器を持ち、怖気付いた者も感情的になり立った。まさしく英雄、まさしくヒーロー、まさしく勇者。この少年を中心に誰もが輝いた様に見える。

 そう、まさに御伽噺の様だ。が、再度言おう。…現実は非情だと。


「ピィィイィィン!」


 急に変わった場の空気に警戒を高めて、更に攻撃をするブレイドホークスは見つけた。アイツだ。アイツが仲間を殺す原因だ。そして魔法を放つ。少年に向けて。

 それに気づいた警護の一人がその少年を守り、魔法で体を切られ死んだ。少年には皆を惹きつける力があった。ただ、ただそれだけなのだ。他には不思議な武器を持つ事以外は本当に普通の子供なのだ。そう育って来たのだ。

 もし、もしも少年が人の生き死にに慣れてれば或いは違う運命があったかもしれない。しかし今まで人が、それも目の前で、自分を庇って死んだ光景は見たことが無かった。


 呆然とした少年に再度複数の魔法が迫る。そしてその凶刃から、非情な現実から少年を防ぐ手立ては、無かった。


「きゃあぁぁぁぁ!?」


 少年は致命傷を受けた、しかしその目はまだ空を睨んでいた。手は震えながら尚も弓を引こうと動く、少年の親はもうやめてと叫ぶ。しかし少年は折れなかった。全ては、


「お母さん、たちに、てを……だす…な!」


 その言葉に場の空気が支配される。敵は怯む。味方は怒る。少年の親は、泣きながらもう良いと言う。もう十分だから、死なないでと。


「お兄ちゃん…ぼく、がんばる」


 しかし少年の目はもう親には向いていなかった。親でも無く、ただ自分に戦う力をくれた人に、託そうと、弓矢に手を伸ばして、最期に矢を番えずに弦を弾いた。


 ーチリンッ

「俺がいなければ、死ななかったかもしれん。すまんとも言わん。ただ、お前は頑張った。だから、もう眠れ」

「がんばれ…た。かな……」

「ああ」

「じゃあ、まだ…」

「いや、もう兄ちゃんが来た。もう眠れ」

「なら…これ」

「ああ」

「ありが…とう……」

「ああ」



 さあ、修羅が舞い降りたぞ。



 Another side END



 いずれこうなる事は分かってた。いつかこうしないといけない事も、分かってた。愚者となったあの時から、いつか必ず、こういった光景を見ないといけないのは、覚悟していた。だけど、いやだから、か。


「俺はお前を、誇りに思う」


 ただ涙と共に刀を振るう。チリンと音が鳴る。そして少年の持っていたネックレスが光となって吸収される。その光景を視て、再度刀を振るう。今度は鳴らない。


「ただ怒ってるがために、お前たちを殺そう。この子に代わって、この子の親を一時(いっとき)だけ守ろう。故に、君は最後を見届けて行きなさい」

 ーチリンチリン


 その場で跳び上がり、ブレイドホークスの首を斬る。それを足場に隣も、その隣も、後ろも斬る斬る斬る。地上に降りて刀を弓矢に変え、構える。


絶矢(ぜつし)、三連」


 矢を三つ持ち、素早く放つ。それはワイバーンの足に刺さり怯ませる、心臓を撃ち抜き衝撃を与える、そして頭を貫き堕とす。


 ああこんな状況なのに嫌に冷静だ。決して自分の落としたステータスから逸脱しない範囲で攻撃する、そんな自分が嫌になる。少年に立ち上がらせ、少年をお膳立てし、少年に活躍させて、そして少年を死なせた。

 腹が立つが、全ては他人の運命を変えれない自分の、()()()()実力の無さ故。俺には、その者の死を嘆く権利はない。ただ、故人の意思を少しの間繋ぐだけ。


「あと十体。内三体は市民の、少年の守りたい者の上」


 他の七体を三回に分けて殺す。先ずは二体頭を貫き、それに釣られて来た一体も撃ち抜く。ワイバーンが一体気づき、こちらに来る前に翼を撃ち抜き堕とす。トドメは俺じゃ無くても良い。

 ブレイドホークスを射る前にその下に行き、移動しながら狙って、四体に向かって同時に撃つ。そして気づいた一体が付いて来る様に走って、その間に刀に切り替え、急停止。ブレイドホークスの首を斬る。そしてそこを足場にもう一体に飛びかかって、胴に一発打撃を加える。そして飛ばされた先に落ちながら矢を射って終了だ。

 着地は足から順に側転をする様に受け身を取り着地した。すると音が響く。


 ーチリンチリンッ

「どうだ?満足か?」

 ーチリン

「そうか。じゃあ、さよならだ」

 ー…チリン

「ああ、約束は守った。なら、もう眠れ。いいな?」

 ーチリン

「ああ。おやすみなさい」


 ひと息つく。終わったのだ。この少年は成仏しなければならない。そして俺は今、その成仏した様子をしかと見届けた。


「うっし、この仕事は終わりだ。じゃあ次の仕事だ」


 そして直ぐに去る。約束は守った。ならばもう、ここに居る必要は無い。前線に戻る。修羅道師らしく暴れようじゃないか!

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