悔やみ、忘れて、
今度からこの時間に更新します!…多分。
単なる愚痴ですが、病院食って本当に不味いっすよね。なんで甘い系を入れちゃうかね!?ってなったり、とりあえず食材突っ込んで煮込んだだけだろ!?ってなったりします。
作者は2021/4/11の現在、入院一ヵ月です。荒れてても厳しくしないでね。
その日俺はしてやられたと、後悔していた。俺が愚者だとバレた?いやそんなに精神的に死にそうな事ではない。実力者だとバレた?何となくばれ始めているのは否めないが、違う。答えは、
「本が…ない..」
「も、申し訳ありません。つい昨日売れてしまいました。次の入荷は、未定です」
「…いや、いいんだ。新品を買えば良いんだ。うん、そうするよ。今度から新しいのが入ったら買うって決めるいいきかっけになった」
「申し訳ありません。またのご来店をお待ちしています」
今日安くなるまとめ本が先に買われていた事実だ。家では色々と便利道具が揃っている。その一方で趣味の読書は実用的なアイテムばかりで、こういった庶民的というか、漫画やライトノベルなどは少ないのだ。非常に。
そして現在株の全てを世界ダンジョン組合の関連会社や製鉄所などに使い手元には五千万ほどある。さらに専用のダンジョンは158層で止まっているので気分転換にと古本以外も扱うチェーン店に向かったのだが、結果は目的の物が買われてしまい買えずに終わった。
「うん、気分転換にアニ◯イトに行こう。とらの◯なは近くには無いし、行くか」
そうして歩いて行くのだが、大分雰囲気が変わった。この一年でダンジョンに関する設備などが恐ろしい速度で整った。フギンもビックリな速度で、改めて洗脳の恐ろしさを実感した。
先ずは武器屋。銃刀法が消えて抜き身の剣はアウトだが、鞘に収まっているならば帯剣している人も珍しく無い。一般人は銃を持ち、ダンジョン攻略者は剣を持つ。なので武器屋が普通にある。銃も売っている。自身の身分証明と許可が出れば普通に買える。
ダンジョンでは前までは十三層で持ち込み不可になった銃などの近代兵器が、今では五層までだ。つまりは剣の需要が高まった。だが一般人は剣は十分すぎる脅威なので揉めに揉めた結果、ダンジョン攻略者は銃はダメだが一般人はOKになったのだ。今のところ一般人の方が強い。
そしてホームセンターが大きくなった。ダンジョン内でもある程度過ごせる様にキャンプ系のゾーンや、災害時に使える緊急性の高い物が多く並ぶ様になった。そして株の関連では現在一番伸びている。
そして保存食にも注目が集まり、匂い消しの研究が進んでいる。保存食はなるべく素早く、水分を無くさない様な物が求められている。匂い消しはコボルト対策だ。コボルトから逃げるのは匂いがある限り至難の技(笑)だ。そのため新しい「対コボルト用匂い消し」とも言うべき物が求められている。
言っちゃ悪いが雑魚に構い過ぎだろ。
そして最後、酒屋だ。今までは比較的歓楽街に纏められていたのが通常商業施設が多いエリアに進出してきたのだ。だが所謂キャバレークラブの様な女性の接待を伴うものではない。純粋に美味い飯と酒を提供するお店が二十四時間営業になってる。
そのため一般商業施設の多いエリアの酒屋はほぼ常時誰かがいる。治安が悪くなることが懸念されてたが、そこはWDUがきっちりとした。もし治安が悪くなる様なら幹部による研修が行われる事となった。
ちなみにその研修が実施された場所はダンジョン攻略者による犯罪が驚異のゼロパーセントになった。それ以降は聞いて無いが、国外だとまだちょくちょくある様だ。
おっと着いた。さて買い物〜。
「ん?携帯のタイマーか。何々?」
『special mission!!
アフリカ大陸で複数の魔物放出が発生する。モンスターを倒して自然化を止めよう。残り時間25時間。
条件:複数のダンジョンから出てくる魔物を狩る(0/不明)
報酬:ダンジョンの少数化、倒した量の魔物に応じた宝箱(複数あり)』
「あー、忘れてた。組合行かないと」
すっかり忘れていたが、こんなミッションがあったのだった。しかも師匠直々の参加命令もある。ギリギリまで先延ばししていたが、移動時間を考えると今日の午前中には出発しないとダメなのだ。
後ろ髪を引かれながらもカゴを渋々戻して組合に行く。このミッションは組合からの依頼でもある。誰からの依頼かと言えばアフリカの各国が連盟で出したものだ。俺とはまた違う表示らしいが、近々魔物放出が起きてその内第二の被害に会うぞ〜。避難頑張れ〜。的な内容らしい。まあ国が消えるので利権云々は言ってられないのだろう。
渋々、本当に渋々組合に足を運ぶ。ここ、中部に見つかったダンジョンは多く三つ。なのでそれに見合った大きさの支部が建てられた。いや、建てられている。現在も建築中の大きい建物はこの町のどこからでも見える。
俺は嫌々気配を消すのをやめてそのまだ建築中の建物の中に入る。なんで気配を消していたかって?それは、
「ねえ君。良かったら「死ぬか?俺は男だ。その酔いからさっさと覚めたらどっか行け」ヒイッ!?」
こうして約半分の確率で絡まれるからだ。この地域にやって来たばかりのやつは大抵俺に絡む。この容姿のせいなのだが…チッ。
「おー、久しぶり〜。調子はどう?」
「黙れ、欲に負けて罠に引っかかる愚か者。声をかけるなと言ってるだろう」
「それはまだ俺が弱かった時の話じゃないか〜。今はそんなことしないって」
「チッ、罠に引っかかって死ねばいいものを」
「酷いなあ、タクミくんは」
「何故お前程度が未だに生きてるのか不思議でならん」
未だにわーわー言ってるコイツはまだ駆け出しの時に助けて以来、つまりは約半年近く前からの付き合いだ。俺が報告したダンジョンに挑みに来ていたコイツに、気まぐれで適性を鑑定したところアイテムマスターになる可能性がある事を知ったのだ。
ダンジョン側の目的を知ってる者としては直ぐに死ぬには惜しい存在だったので、しばらくダンジョン攻略を手伝ってやったのが運の尽きだ。それ以来急激に成長したコイツは僅か半年で幹部候補にまで至った。しかしまだ成長したいとの希望でこうして未だに下っ端をしているのだ。
「それで、やっぱりタクミも例の依頼を受けているんだ?」
「……はあ、後で話す。移動中にでも来い」
「それって認めてk「何故貴様程度を認めんとならん」酷いなあ。少しは希望を持たせてよ」
「ならば俺より結果を出せ。そうすれば認めてやる」
「ブーブー」
未だにうるさい「アイテム使い」の莫夢を置いて受付へと行く。ちなみに美人やイケメンの上で仕事ができる人間しかなれない去年のステータス的な意味でなくなりたい職業ナンバーワンの受付だ。美人やイケメンなのは見栄もあるのだろうな。
そんな中でも一定ランク以上の者しか使えない受付へと行く。
「お久しぶりです、タクミ様。来ないかとヒヤヒヤしましたよ」
「相変わらずの毒舌だな。まあいいさ。支部長直々に依頼だからな、断ってばかりだと怒られる」
「その程度ならば気にしないでしょうに。それで、アフリカの依頼、こちらでよろしかったですね?」
「気にしない訳じゃ無いんだが……ああ、この内容でいいぜ。移動の手配は?」
「済んでいます。ギリギリですね、あと五分で迎えの車が来ますよ」
「おー、了解。じゃあ、そこで飲み物でも飲んでるよ」
そして入って左側の奥にある喫茶店と居酒屋が混じったかの様な場所に行く。ここはダンジョン攻略者会員のみが使える場所で酒類やご飯は他の店と比べてレパートリーが少ないが安い。大体二割引きくらい。そして酒類以外の飲み物はほとんどタダだ。
そしていつもここに来れば頼む物がある。それが、
「モンエn「はいどうぞ。いつものやつよ」はあ、ありがとう。最後まで言わせてくれても良いんだが」
「どうせいっつも同じでしょ。偶にはご飯や酒を頼みなさいよ」
「それは高い場所で食った方がいい」
「はあ、これだから金持ちは」
「これからチップでもやろうか?」
「いいの、給料高いし。貰ったら怒られるわ」
「だろうな。んっと、じゃあな」
「ハイハイ」
やる気のない声と共に席に座る。モン◯ナを二本ポーチに冷やした状態で入れる。そして飲むのは飲むヨーグルトだ。無論、一般に出回ってるものの中では最も好きな銘柄だ。もう既に食事も睡眠も必要がない存在になったが、しっかりと食事をするし睡眠もとる。
飲むヨーグルトとモンエ◯を頼む理由は、飲むヨーグルトはまだ成長するかもしれないと期待してのこと。あと単純に好きだから。そしてモ◯エナは長期の依頼や、やる気を出すために飲む。
そしてちびちびと途中から無理矢理座った莫夢と一緒に呼び出しを待つ。
「ん?あれは七瀬さんだっけ」
「そうっすね。時間は、ピッタリなんで例の依頼でしょうね」
「無駄に金をかけていないという事か」
「その金ほとんどタクミさんのものじゃないっすか」
「金は俺の手元には少ない量しか無いぞ?」
「そりゃあんだけ寄付すれば誰でも少なくなりますよ」
俺は世界ダンジョン組合ができて直ぐにメグミが攻略していたダンジョンの場所を売った。幸い隠蔽の効果の魔法を使っていたので町の近くにあっても誰見つけられなかった。そして売った事で得たお金は、悩んだ末に全額寄付した。
理由は大きなものなら、既に攻略済みなのでこれからお金が入ることは予想できたから。そして株は世界ダンジョン組合の関連会社に出資したので膨らんで返ってくることは明白。そして既にお金は十分にあったから全額寄付したのだ。
まあ結果としてここにできるWDUの施設がとんでもなく立派になり、高待遇になったのは予想していなかった。他の支部と比べても大きいのは単にダンジョンが多いからでは無いのだ。現に移動用のヘリコプターがあるのはうちの支部くらいだ。
「タクミ様、バクム様、リンドウ様、カレン様はこちらへお越しください!緊急依頼での移動です」
「行くぞ」
「いや〜死ぬかなって思ってたけど、タクミさんがやる気ならチャンスありますね」
「お前のお守りでも命令されたらな。基本的に自由で良いだろ」
「でしょうかね。まあ最初の緊急依頼なんで、リンドウさんもカレンちゃんも緊張してるみたいっすね」
「お前はどうなんだ?」
「俺っすか?俺は、大して緊張して無いっすね。なんでっすかね?」
「ふっ、さあな」
そしてガヤガヤと二人で七瀬の下に行く。そしてエレベーターに乗って屋上へと行く。屋上にはヘリコプター、それも軍用機が存在する。これは軍用機である必要性をあまり感じないが供給の問題であるらしい。なんでもダンジョンができてから直ぐは現代兵器の生産が多かったから安いとかなんとか。今は逆に需要がないので仕事を無くさないためにも必要だったそうな。
まあそんな事は些細な事だ。今はともかくどうやって現地で行動するかだ。おっと、着いた様だ。外に歩いて行けばヘリコプターが既にいつでも飛べる様になっていた。
「着きました。では説明などはこちらに書かれていますので、空港までの移動中にどう動くかは各自で決めてくださいね。それでは失礼します」
「お待ちしていました。ではこちらへ」
屋上に着いたら七瀬さんがパンフレットを渡して男性職員へと案内をパスした。七瀬さんの代わりに男性職員がヘリコプターへと連れて行く。
ヘリコプターに乗れば両サイドに椅子がある、輸送機系のヘリだと分かった。内装をじろじろと見回しながら入って行く。男性職員の指示に従って席に着いてシートベルトをする。右横にカレン、前にはバクムが、左横には男性職員が座った。そして直ぐにヘリが飛び始めた。
男性職員はヘリが飛び始めてから口を開いた。
「各自パンフレットをご覧ください。大まかに部隊が分かれているので確認の上、どの部隊に入るかお決めください。なお今回参加する組合員は全員がランク3以上ですので共闘の良い機会だと考えていただければ幸いです」
「…ん〜、質問いいか?」
「ええと、パンフレットを見終わったら聞きますよ?タクミ様」
「もう見終わったから聞く。なんなら全部書いてある事見ずに読み上げようか?」
「……いえ、でしたら良いですが。なんでしょう」
すっごくコイツとの時間はかけれない感を出している男性職員に、少しイラッとしつつも言う。ちなみに完璧に全部読み終わった。
「単独部隊って名前の、完全に単独じゃないのか不明な部隊名があったが、それについて質問だ。他の部隊には長が記名されてるが、ここには無い。指揮は来ないって事で良いのか?」
「ああランク2以上の者の部隊ですか。一応名目上は部隊だと書いてありますが、これはある意味実験らしいですね。指揮はいきませんよ」
サラッと馬鹿にされたな今。ああちなみに俺のランクは2だ。ランク1は幹部クラスなので実質一番地位があるのだが、例えば莫夢はランク1だ。金を積んで装備を固めればランク2までならなれる。なのでランク2である俺もそう思われたのだろう。
そんな事実が存在するからなのか、未だにダンジョン組合の職員にはそういった風にランク1以外の者を見下す風潮がある。この男性職員はつまり見下す風潮の者なのだろう。
「…はあ、もっとマシなやつ寄越せよ」
「………どう言う事ですか?」
「ランク=実力じゃねえ。大方俺がギリギリのランクだから心配を装って辞退させるつもりなんだろうが、最低限の実力すら見抜けねえ雑魚を寄越すなって意味だ」
「……」
「沈黙は是なり。もっと実力上げるか頭賢くしてから来い。話にならん。質問はお前にはしない」
そして空気の悪い状態のまま空港に着く。中部国際空港だ。俺たちはさっさと降りて男性職員を連れて行く。場所は世界ダンジョン組合がまるまる買い取ったゾーンなので案内は必要無いのだ。そして外を覗くと小型の飛行機が二機あった。
着いた先では持ち物検査はされない。危険物なんていっぱいあるので必要無いのだ。というかカードを見せればそれで終了だ。その際に女性職員に希望する部隊を言いシールをDRカードに貼る。部隊の識別用だそうだ。
「それではこちらへどうぞ。どうかご無事で」
「ああ、ありがとう」
そして案内された小型の飛行機に乗った見れば、
「うわー、凄いっすね!」
「旅行かなんかかよ。誰だ、こんなところに金使ったのは」
「先輩じゃ無いんですか?」
「俺もタクミだと思ったが、違うのか?」
「俺は違うと思いますよ。タクミさんは無駄が大嫌いだからこんなところには金を使いませんって」
「お前にだけ理解されてる俺は悲しいな」
「ひどっ!?」
俺が否定しようとしたら莫夢がしっかりとした訂正をしてきた。実際、莫夢の言う通りなのだ。俺は庶民感覚がずっとあるのでこういった場所には一切金を使わない。まあ食事はたまに金かけるが。
さて、今の今までずっと黙っていたのは面識のあまり無い大剣使いリンドウ(二十七歳)と、先輩と俺のことを言うヒーラーのカレン(二十四歳)だ。リンドウは単に高ランクだから知っているのだが、カレンは高校時代から知っていてその名残りで未だに先輩と呼ばれている。
『出発します。シートベルトを着用してください』
「だとさ」
「俺は何気に初の飛行機なんだが…大剣はどこに置けばいいんだ?」
「私は大剣を膝に乗せておくしか無いと思いますが。そもそも大剣は最近になって保持している物、のせる場所はないと思いますよ」
「そうっすよ。設計からして違うんすから」
「進言しておくか。いや、需要が高まるとすると、これからはエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスの他に新たにクラスができそうだな。投資しておくか?」
「タクミさんは変わらず、か。らしいな〜」
「先輩の話、聞かせてもらえませんか?」
「およ?良いっすよ」
早速ポーチからパソコンを出してメールを送る。宛先は空港会社の幹部だ。昔の友達の親が未だに現役なのでその人宛てだ。コネはあった方がいいなと、改めて実感しながらモンエ◯を飲んだ。
そして約16時間後ようやく着いた。魔物放出の発生まで、残り八時間か。そしてそれを知っているのは寝てしまった莫夢と花蓮の両名だ。カレンは将来的に聖女の職業、つまりはマスタークラスよりも若干下だが凄い職業になる可能性がある。
そしてその当人は真面目そうにミッションの画面を見ていた。俺は動画を見ながらこっそりとカレンの様子を見る。彼女は心を痛めるだろう。今回の件は、ただ邪魔だからという理由で起こされた事を知ったら。ただまあその程度で折れる心ならば、俺の見る目が無かっただけだな。
『到着いたしました。既に待たれている方がいらっしゃるのでお早めに移動をお願いします』
「……ん?…ああ着いたのか」
「ん、あー、あれ?たしか…ああそうか。おはようございます。タクミさん」
「ああおはよう。丁度いい時間だな」
「あ、おはようございます?先輩、バクムさん、リンドウさん」
そして皆んなが起きた事を確認して直ぐに飛行機から出る。そしてそれを待っていた現地の組合職員は片言ながらも日本語を話せたので、今のおおよその状況が分かった。今ダンジョン内には大量のモンスターが蔓延っているのでそこを対処して少しでも時間を稼ぐ方針らしい。
そして俺たち派遣組は現地人の避難誘導か、この掃討作戦か、後方支援に加わって貰うらしい。ここで俺は言語がわかるので避難誘導を、掃討作戦にはリンドウを、後半支援はバクムとカレンが行く事となり、その場で離れて仕事をする事となった。
「はーい、こっちに来て!火事場泥棒は問答無用で処分するからそのつもりで」
そんな不穏な声をハツラツとあげる者がいた。職員から聞く限り魔物放出が発生するまでどうにもあの者が責任者らしい。
ダンジョン攻略ランキング第23位、アケシ・クルマ、女性、年齢は28。世界ダンジョン組合の幹部だ。視たところステータスは三桁台で直感に優れている様だ。
「ん?あんた派遣された者かい?」
「ああそうだよ。見ての通り日本人だ。ああ男だよ」
「おお〜、凄いね。うーん、ただ…」
「なんだ?」
「いや、その容姿だと避難誘導に従わないかもしれん。だから時々出てくる火事場泥棒を頼むよ」
「チッ、これだからこの容姿は嫌なんだ」
「いやいや〜、その容姿はとt!?」
「おいこら、ぶち殺すぞ。容姿が嫌だと言ったら嫌なんだよ」
「ヒューヒュー!」
アケシが茶化すが無視して殴る。もう三発殴ってようやく気が収まり、一旦解放する。よくよく見てみれば観たことのある人間だ。たしか…
「何つったけ、あー、おお!ナンパ野郎のジョン・ニュートリーか」
「な、ナンパ野郎って酷くない?」
「アケシさん、コイツなんでこんなところにいるの?」
「女性を守るため、って言ってたな」
「そうさ!女性が多く死ぬのは嫌だからね!」
「ふむ。俺はその理由をテレビでも聞いてナンパ野郎だと判断したんだが、何か間違ったか?」
「いいや。ただ、アタシとしては戦力面ではありがたいがね。いかんせんこんな奴だが実力はある。頼らない訳にもいかないのさ」
ジョン・ニュートリー、ダンジョン攻略ランキング第13位で大の女好き。アメリカ人、強さは順位に見合うだけの事はあるらしく、本人もイケメンなために結構モテる。テレビにも多く出ており、ダンジョン攻略の理由も女性を守るためと公言している。一応幹部候補。
ただしハニトラには引っかかっておらず、代わりに体の関係になった者たちはこぞって本人を擁護する。最初の魔物放出に最も怒った人だとも言われている。
「にしてもよく気づいたね。この男は実力はアタシより上なのに」
「視線には慣れてるんでね。知らないうちに感知系のスキルが磨かれたんだよ。幸い隠密系のスキルも使ってないし」
「それはそうさ!目立たないで女性を助けるほどつまらない事はない!!…む?女性の困った感じがする。これにて失礼」
今行くよ!と言いながら消えて行った。それを見ていたらガッチリとアケシさんが俺の肩を掴んだ。
「ええと、なんですか?」
「どう?アタシと結婚しないかい?」
「……ああ〜、ノーで。 」
「そうかい?じゃあこれアタシの連絡先。いつでもおいで」
「あー、じゃあ火事場泥棒を捕まえますね。それでは」
アケシ・クルマの噂。それは大の美少年好きで、タイプの相手と出会えば決して強引ではなく紳士的に対応する。女性的魅力が良いために引っかかってしまう者がそこそこいたが、ソフィアによる教育によって無くなった。
まあ今の様に組合員には手出しOKしてあるので、ソフィアがどれだけ苦労したのか分かるだろう。そんな相手にまともに張り合う方が馬鹿だ。なので撤退なう。
…他の組合幹部にも会ってみたくなってきた。どんな連中なんだろう。
そんな風に考えながらも町を駆け回る。それはまるでninjaの様。これでも全力なのだ。今俺は買い取り制度を使い貯めたポイントで得たスキルを使っている。それは『訓練用ステータスダウン』というスキル。これともう一つを買うためにポイントの全てを使った。
このスキルは死ぬレベルの攻撃を受けそうになった時に解除される。あとは任意でも解除できる。効果はステータスを任意の値に変化させ、そこから成長した分と同じ倍率(最大2倍)を本来のステータスにかける。スキルはそのまま使える。
そしてステータス画面に映る全て、つまりはステータスとスキル、適性や職業に補正は出ないが、知力、記憶力、直感、スタミナ、経験蓄積に成長補正がかかるという効果もある。っていうかむしろこっちの知力と記憶力関連が本命。
ステータスがアップするのは嬉しいがなにか違う。そして最近になって何故か知的好奇心と戦闘欲求が上がってきた。なのでそれに対応する何かが無いかと探して見つけたのがこれだ。何で知的好奇心と戦闘欲求が上がってきたのか分からん。
さて、しっかりと仕事しますか。そうして屋根の上を走り回る事五分。感知に引っかかった。これは子供か。
「っと。君大丈夫?」
「えっ!?ええと大丈夫じゃない、です。お母さんと逸れた、逸れました」
「ふふ。よし、じゃあ避難所に行く?」
「お母さんはどこ?」
「お母さんは荷物持ってた?」
「持って、いました」
「じゃあきっと避難所に居るよ。さあ行こうか?」
「は、はい!」
感知に引っかかった少年を保護して避難所へと一直線に歩いて行く。道中気になり話を色々したのだが、この子の親は確実に避難所に居ると確信した。そしてその先どうなるかも。
……この子は死ぬ。どこかで既視感を覚えたのだ。いつもは良い子なのに一度何かスイッチが入ると勇猛果敢な戦士になる。そんな子と重なった。誰かがピンチなら、自分と自分の仲間を守るべく戦うのだ。力が及ばず死ぬその時まで、必死になって。
そしてこの今の世の中覚醒なんて無い。ダンジョンに行かないとその可能性、つまりは英雄じゃなく勇者へとなる可能性は絶対にできない。そう設定されている。このシステムから逃げるには運と悲劇と実力をもって覆す他ない。そしてそうなると「世界」から消されるのだ。
「ねえ、一ついいかな?」
「なあに?お兄ちゃん」
「君はいつか、いやきっとあと少しで決断しないとダメだろう。そして悲劇は避けられない。だからその時どうする?」
「?…ん〜、よくわからないけど」
「けど?」
「少しでも悲劇を減らすために努力する」
ああ、何という「模範解答」何という運命。何という、眩しさか。せめてあと五年、いや三年あれば、その間で勇者と言うべき存在に仕立てるのに。だけど分岐点は今にやって来た。やって来てしまった。そして今、俺は悲劇を引き起こす側の者だ。止めることはできない。
ああならば、ならばせめて、
「そうか。じゃあお兄ちゃんと約束だ。最後まで諦めないで、生き……いや、誰かに託しても良いと思ってコレを持って。きっと助けになる」
「お兄ちゃん?…わからないけど、分かった。今のまま頑張れば良いんだよね?このネックレスをして」
「そう、だよ。だけど絶対に今の言葉を守ってね」
「うん!」
「ありがとう。じゃあ見えて来たし行こうか!」
「うん!」
そして第五魔物放出前線の後方にある、避難所に着いた。人は少なく門番に声をかけて案内させる。その時の笑って離れた光景は、どこかで見たことのある光景だった。