じっちゃんの名にかけて!……大分違うな。
死死死死死死死死死死。分かってきた。死ぬ際のゆっくりな筈の世界でも速くなり始めた男の攻撃、自分の身体以上に思考はもっと早く追いついた。それに伴って徐々に視認していたゆっくりな世界に身体が追いつくのが。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。視認している死に対して絶望感ではなく、恐怖の感情になり始めた。死ぬ事が怖い。でもその感情が自分の身体の動きを成長させてきてるのが少しずつ分かってきた。
殺される殺される殺される殺される殺される殺される。徐々に精神が疲労していくのが分かる。そして疲労とともに身体の動きが無駄を無くそうと、自身の持てる全ての術でもって試行錯誤していくのが嬉しくなってきた。
「素晴らしい」
自分の成長が分かり始めてから何度死んだだろう。遂に、遂に、遂に男の袈裟斬りに振り下ろされた剣を逸らせた。魔力を全力で手に集中させ、右腕以外から力を抜き、手で剣をそっと上に押し出して、自分は反動でしゃがんだ。足払いを掛けようと重心を移動させた瞬間、上から振り下ろされた剣に首を刎ねられた。
立っている。次の瞬間死ぬと思い未来を全力で取捨選択して正解の未来を手繰り寄せる。それと同時に身体は動く。左手で殴ってくると思い至った瞬間には、腹を中心に魔力を固めて、動く空間に合わせて右足の力を抜き、左足に芯を通す様な感覚を通し、両手でやってくる男の左手を捻って向きを強引に変える。
腹に当たっても身体ごと右に向けて威力を抜く。男が逆手に剣を持ち構える事を視て、身体を男の左腕に巻きつける様に動かす。すると初めて男は、
「発体・爆」
術を使って俺を殺した。だが確かに「視た」ぞ。自分の上半身が男の左腕に触れた瞬間、恐怖を感じ、上半身に衝撃波の様なモノが走り、中から破裂した。
視ない。それは予想しない事。後手に回るという事。男が剣を横にして突きを放つ。狙いは俺の首、チリチリとした恐怖が俺に教えてくれた。纏域で防御?間に合わない。部分転移?空間が裂かれて転移させれない。左手で防御?一部採用。
加速した思考の末に行動する。左手に魔力を流しその甲で突きにきた剣を刺させる。少しの遅延。そして纏域を左側の首を覆う様に動かしながら、左手を犠牲に剣の行き先を上へと逸らす。左手が裂かれる感覚の前に右手に回した魔力、そのまま身体を沈ませながら男の左脇に攻撃する。
あっさりと男の左肘で撃墜されるが、
「発体・爆」
右手を犠牲に爆破させて初めて男の左肘に傷をつける。だが、左手を犠牲に上へと逸らした剣が加速、纏域を無視して俺の首を斬った。
おそらく空間をも斬り裂く速度で振るい、任意の場所で遅くしたから纏域を無視したかの様になったのだろう。だが、しかと「視たぞ」
「再度褒めよう。素晴らしい」
「…いきなりなんだ?」
「一度ならず二度三度と、俺の攻撃を逸らすに成功した。さらに魔力爆破をされ殺された次の機会には劣化させたとはいえ真似をした。賞賛に値する」
「どうも有難う、と言うべきなのだろう。ところで勝負はどうする?俺の勝ちか?まだ砂時計は半分しか落ちてないのだが」
「無論続ける。だが、言うべきことがあってな」
「何か?」
「手加減したとは言え、お前は強い。そして強くなった。これからも強くなれるだろう。が」
気を抜かなかったのが幸いした。些細な違和感、
「まだ視ていない世界が多い。その世界を認識しろ」
それは男の腕が少しだけずれてる事。
「視える様にな」
そして今、漸く認識できた。手を頸より上にある筈のヘアゴムに触れた瞬間。髪がパッサリと解かれた。ヘアゴムを見てみれば老朽によるソレではなく、鋭く斬られた跡が残っていた。
「これが視てない世界、か」
「そうだ」
ヘアゴムは斜めに綺麗な断面を残して切れてる。それを見てふと疑問に思う。どうやって斬ったのかと。
「…まさか」
「まさか、なんだ?」
「まさか斬りたいものだけを斬った…のか?」
「ほう、分かったか。正解だ」
つまりはこの男は移動せず、剣を振るっても届かない距離で剣を斜めに振るい、俺の頭部と髪の毛を無視して、ヘアゴムだけを斬ったのだ。地面を見ても髪の毛は落ちてない。
先ほどの様に纏域を無視した攻撃ではない。あれは剣の速度を調整して、強引で繊細に斬ったのだ。そしてそれを俺は確かに「視た」でも今回は全く「視えなかった」
「剣士の最終的な目標にして、究極の技法。選別?」
「…知っていたのか?」
「うちの爺ちゃんができた。『これが最強の攻撃。もし自在に使えたらと、誰もが願い、しかし到達できなかった技。選別じゃ』って言ってた」
「その名は?」
「巌流、村正。巌流が姓で、村正が名」
「お前は?」
「竹林匠。竹林が姓で、匠が名」
「そうか。…時にお前は、姓に興味があるか?」
「性別の「性」?それとも名字の「姓」?」
「後者だ」
「無い。全く無いよ」
「そうか。ならばこの勝負、お前が勝ったらその命と姓をくれてやる。構えろ」
初めて構えろと言われた。少しその事を嬉しく思う。成長の剣を再召喚してだらりと構える。そして息が詰まりそうなプレッシャー殺気の中、動く。
突っ込んで左手で捻り気味の掌底撃ち。それよりも速く男が左手で防ごうとする。視てみれば何か魔力爆破に似た魔力を左手に纏っている。防ぐと同時に攻撃をするつもり、違う。視えて無いけど俺の手を吹き飛ばすつもりだ。
そう直感するとともに左腕に風を纏う。狙いをずらせるために、手を守るために、次に繋げるために!さらに右肘を引いて切先を男の左手を打ち上げるべく膨大な魔力を込めた剣を打撃として振り上げる。無論それだけでは止まらないだろう男の左手。次の手は、
「なるほど、そうきたか」
剣と左手の接触の瞬間、剣に込めた魔力を爆破させて男の左手を打ち上げる。そして狙い通り左手に纏った風で勢いをつけられた左手で男が体勢を少し崩す。男がすかさず剣の刃を立てて防御体勢を取る。その間俺は考えた。
このままいけば左手が切れる。止める?一矢報いる事なく それは無しだ。情報が足りない。剣を視て、そこには魔力が殆ど込められてなかった。せいぜい俺の左腕に纏う風に剣を弾かれない様にある程度。ならばやりようはある。
このまま左手の掌底打ちが決まっても大したことは無いだろう、と思っていた。それを今使うしか無い。
「これは…」
身体に走った激痛に悲鳴をあげかけるのが分かる。それを意思でねじ伏せ左手に集中する。思い出すのはデスパラディンを斬った時の感覚。「通じる」その感覚と共に左手を打ち出す。
剣と左手がぶつかる。その瞬間手が少しも切れずに拮抗した。
「ああ、悔しい」
「そうか、悔しいか」
力を抜いた剣が拮抗を崩す。剣をそのまま左手の下に潜らせ心臓を一突き。それと同時に男が左手を手刀として俺の首を斬った。意識が途切れる時まで考える。どうすれば一矢報えるのかと。
ああ負けた。だが、折れない。折らせてなるものか。
その意思を持って再び男と相対する。鋭く、鋭く、鋭く斬るために短く息を吐いて斬りかかる。そしてふと思い出す。
『お前は一つのことに集中し過ぎだ。それが悪いとは言い切れんが、知らんうちに情報を捨ててしまっている。じゃから、うーむ…まあ先ずは笑え。余裕を持てば笑える様になる。逆もまた然りじゃ』
その言葉を思い出した瞬間、視野が広がった。そして見落とすことの無い筈の魔法が後方から放たれた。
鋭くした感覚のまま振り向いて魔法を斬り裂き、背中から男に斬られた。
「見事だ」
爺ちゃんの言っていた事を思い出したのは、走馬灯だと思った。
男と相対すると、男はふと笑い剣をしまった。その様子に訝しむ。
「何かあるのか?」
「いや、貴様の勝ちだ。気づかんか?」
「……砂が、落ち切った?」
「そうだ。そしてお前は俺と相対した時と同じく、笑っている。実に見事」
「そうか。ホッとした様な、残念なような、そんな感じだな」
実際本当にそういう気持ちなのだ。もうこの恐怖は感じたく無いと悲鳴をあげる一方、もっと俺に高みを見せて欲しいとも感じる。
「そうか。だがこれ以上はお前が折れずとも、その眼が耐え切れないだろうよ」
「眼が?…ああ、熱いな。酷使しすぎたか」
「その通りだ。じゃあな、俺と会ったのは不幸中の幸いだと思っておけ」
「あ、その前に聞きたい事が二つと、感謝を」
「聞きたい事?」
「そうだ。先ずは感謝を、俺を高みに少しでも連れて行ってくれてありがとう」
俺は本当に幸運だ。高みを見て、高みを諦め、再び高みに行くことを望み、多くの高みと出会えた。だが最も成長できたのは、確実にこの男のおかげだ。それがたとえ戯れだとしても。
だからこそ、頭を下げて感謝を伝える。
「分かった。お前が、タクミが俺の戯れだと理解した上でそこまでするならば納得するまでそうしてろ。で、質問は?」
「まずは、名を」
「レイ。タクミにはそう呼ぶ事を許す」
「分かった、レイ。二つ目は…レイ、あなたより上はどれくらい知っている?」
「確実に五人はいるな。同じくらいのやつは四人か?いや、もしかしたら五、六人かもな」
「そうか、ありがとう。そして今度会えたら、剣の高みを見せたいと思うよ。叶うならば勝ちたい」
「そうかよ。じゃあな。…期待している。高みに来い、タクミ」
そう言って男は、レイは消えた。
『緊急事態!緊急事態!
ダンジョン内部に異世界からの存在を感知しました。
◾️◾️タクミ様に被害が出ています。緊急保護を行います』
遅いんだけどなあ。と思いながらダンジョンの慌てているかの様な姿が視えた気がする。俺はレイという圧倒的な存在が消えた事によって立つ事もままならずその場に倒れる。そして天井を見ながら安堵と高揚を感じる。
すると一部の地面ごと透明な球体に保護された。ふと保護されていない地面を見れば、戦いの傷跡が残っていた。横に一直線に抉れた地面に、球体が埋まったかの様に壊れた壁、燃え溶けた地面などいっぱいあった。何よりも印象的なのは多くの場所にある血痕だ。視れば俺の血痕だと分かった。そして疑問に思う。俺は一体どんな時間を過ごしていたのかと。
成長の剣は形が大きく変わったが折れてないし使える状態だ。古災龍の素材でできた服には血が僅かに付いている。至上礼装・纏域は…銀色だったのが黒色に変色している。秘術の手袋は両手の甲の部分に血で同じ紋様が出ていた。暗黒龍のロングコートを脱いで見てみれば背中部分に薄っすらと龍と何かのマークがあった。
なんとなく身体に違和感を感じて服を上げて視れば、左胸から右腹にかけて古傷があるだけで他には無かった。いや違った。薄っすらと右胸から左腹にかけて傷跡が残っていた。神眼で凝視してなんとかってレベルだ。
「これは…ああ、三回目の斬られた時か」
一度目は二回殴られて死んだ。二回目は腹パンで死んだ。そして三回目、傷跡と同じように斬られて死んだ。その時と同じ傷だ。ふと首が最も斬られたよなと思い首を俯瞰して視れば何も残ってなかった。ちょっと安心して、気を抜いたのが原因か。そこで意識が途絶えた。
Another side
何かを感じ取り慌ててダンジョンを見れば大量の血痕と傷跡、そして不自然に記録の無い個体名タクミの記録があった。
「よう。邪魔してるぜ」
「…そうか、貴様か」
「そうだよ。ああ弁明はさせろよ?何か感じたんだよ。でそっちに向かって空間を斬ったらそこにはタクミがいただけで、お前のダンジョンに侵入したつもりは無い」
「………そうか。納得はしておこう。だが質問には答えろ。無窮の砂時計を使ったな?」
私はゆっくりとコイツの過去の数々の行いを思い出して、苦虫を噛み潰した末に嚥下したかのような感覚と共に納得した。つまりはお咎め無しだ。だが質問には答えてもらう。何が起きたのかわからないのは問題だからな。
「ああ、使い捨てじゃなかったら良かったのにな。アレ」
「続けて質問する。何故使った」
「一つは戯れだ。タクミの心が折れていなかったんでな。つい楽しくなって貴重な物使った。ま、後悔はしてないが。二つ、結果論だが俺たちに届く存在に仕立て上げるため。三つ目、これが一番の収穫だが…」
「私たちに届く存在よりも、か?」
「ああ。俺もまだ信じきって無いが、調べてみてくれ。タクミの祖父。佐々木村正を」
「……ああ、分かった。だがアレを使って未だ死んでないとは、報酬をくれた方がいいと思うか?」
「ん〜。これはあくまでも勘だが、アイツには過去を思い出すキッカケとそれに耐えれる身体で十分だと思うな」
「過去、だと?簡単に言うな?」
「ああ。アンタならできるだろう?ま、勘だがな」
コイツの勘は私たちにも匹敵する。コイツはあくまでも私たちと同レベルだとは言わんが、私はそう思わない。というかあと少しを先延ばしにしているコイツを少し腹立たしく感じる。
しばらくどんな事をしていたかを聞いて、タクミの精神がいかに異常なのか、そして過去に耐えられる身体とは何かと思った。考えた末に、ニヤニヤとしてウザいコイツを仕事部屋から追い出し結論付けた。
そしてアイツと同じ疑問にたどり着いた。それは、
タクミはどうして生まれたのか?タクミの祖父母は本当に居たのか?の二つだった。
三名の調査が必要だな。私も久しぶりに心が弾むのを自覚して仕事を始めた。
Another side END
「……知らない天井だ。あ、言っちゃったよ」
言わない様に我慢して葛藤した末に口から出てしまった。もう一人の時には言わないと決めてたのに!!
『そうですか?あなたは一度ここで目覚めた筈ですが』
「………は?え、誰?ってかどこに居るの!?」
『04です。記憶に欠落があるのですか?』
04、記憶に欠落?……ああ!
「そうだった。たしかレイと戦っい終わってからダンジョンから保護されたんだ。天井が岩っぽいって事は、今一階?」
『そうです。……レイ、ですか』
「あ、まあいいや。で、保護された以降の記憶が無いけど、説明お願いできる?」
『…』
「おーい。04さん?」
『失礼しました。そこまで覚えていたら話が早いです。このダンジョンに侵入者が現れ、あなたが保護されました。そしてここまで転移、精神魔法にて精神を回復させました』
「おおう。精神魔法…」
サラッと精神魔法を使われた事実と使った誰かがいたのを説明されたが、たしかに精神が安定しているし戦闘の高揚も無くなってる。いわばフラットな状態だ。精神魔法怖っ!
『YES。そしてこの短期間で信じられないレベルの成長を遂げていたので、その調整をしていました。そして調整が終了したので目覚めた、という訳です。なお現在の地上の時間はダンジョン突入同日の二十三時です』
「え、俺って十六層のボス部屋突入から一時間しか経ってない事になってるの!?」
『そうですが、何か不自然な事象でも起きましたか?』
「…(うーん、砂時計の存在は認識されてないのか)いや、死にかけてからまだ一時間かと思ったんだよ」
『そうですか。現在のタクミ様の状態は詳しく視るならばステータスを開いてもらえばと。理解してもらえたら今後の変化に関しても説明がスムーズになりますので』
「?…まあ今後の説明云々は一旦置いておくか。まあ現状は詳しく知りたいし…ステータスオープン」
ーーーーー
ムラマサ タクミ 二十四歳(固定済) 男
種族:進化型鬼神(最適化完了:高揚時に角が出現)
職業:GEマスター、氣闘師、魔闘師、纏者、デットライン
DRポイント:3625(+375)
適性:グランドマスター、インファイトマスターetc.
称号:逸脱者、氣嶺、剣聖、細工師…
HP :347,155/347,155→2,430,085/2,430,085
MP :4,536/4,536→19,052/19,052
筋力 :475 →4,752
耐久 :341 →682
敏捷 :586 →20,542
器用 :1,386 →20,790
魔力 :4,536 →19,051
対魔 :2,268 →14,288
戦闘スキル
「戦巧者」(精密武術・纏術・忍術・仙術・超直感・氣闘術・暗殺術)
「魔術師」(基礎魔法(火水風土闇)・時空間魔法・契約魔法・術陣構築・魔力精密操作・雷氷操作)
「生存者」(肉体再生・魔力超速回復・硬化・高速回復(眠)・高速移動)
「戦人」(戦術・並列思考・地図・自動マッピング・最善手・早急理解)
「錬金術師」(錬金術・錬成術・薬調合・魔力変質)
「ダンジョン攻略者」(ドロップ品自動収集)
感知系スキル:意思感知・魔力感知・嗅知きゅうち・精密周囲感知・危険察知
耐性・無効化スキル:ストレス耐性・痛覚耐性・毒無効・魔法耐性・衝撃耐性・物理耐性・病気耐性・失血耐性・飢餓耐性・睡魔耐性・環境変動耐性
極意スキル:剣の極意、氣の極意、仙術の極意、魔法の極意、罠の極意、錬成の極意、言語の極意
特殊スキル:統廃合・神眼・極限世界・弱点攻撃時確殺・逆境・事象拡大
ーーーーー
「うわー、なんていうか…うわー」
『種族については今後も変化する可能性が高いですが、高位の存在へと進化したため便宜上「神」となっています。実際のところ神よりも上の場合でも下の場合でも一まとめにされています』
「あ〜、うん。…(後の自分に任せよう。処理しきれん)便宜上って事はそれよりも上の表現が無いって意味でいいのかな?」
『神の上は「道」となっています。現状「道」よりも上は確認されていません。なのでもう一度進化した場合、種族は「鬼道」となります』
「あ、はい。分かりました。……じゃあ変化についての説明お願い」
『了解しました。ステータスを見た通り、一定数以上のスキル獲得を確認されたのでステータス表記が変わりました。これは一定数以上のスキル獲得を条件に取得可能な「統廃合」のスキルです。ここまででステータスの説明は以上です。何か質問はありますか?』
あります!見覚えの無いスキルやら、異常に見やすくなったスキルやら、職業欄に書かれるべき名前がスキルになってたり、知らない称号があったり、取得の可能性が無さそうなスキルがあったり、知らない間にサラッと神さまにされてて?混乱してます!!
と色々言いたいが、我慢しよう。一個一個聞いていたらキリがない。だから一つだけ聞いておこう。
「ええと、神さまよりも格は下だよね?俺って。なんか聞いた限りだと「神」という存在とは違うとしか言ってないだけな気がするんだけど」
『格は同格です。ですが「神」という定義を満たしていないので、「神」にはなっていないだけです』
「うーんと?…神さまには定義があって格としては一緒だけど、他の面で定義を満たしていないから神さまじゃないって事?何、戦ったら勝てちゃったりするの?」
『一部肯定します。殆どの場合において神と生身で戦っても十中八九タクミ様が勝ちますので、格としては同一規格には入りません。しかし信仰される事で力を変動させる神とは違い、タクミ様は信仰に関係無く常に一定以上の強さをほこるのでざっくりと特殊な立ち位置だと考えてください。神についての条件は資料を作成しましたのでそちらを後でご覧ください。他には質問はありませんか?』
か、勝てちゃうのかよ!!!そして神さまになるための方法までも情報開示されているのかよ!?!?あ゛〜落ち着け…うん、落ち着いた。なんか感情が結構簡単に抑えれるのが怖いな。
うっし。神さま関連は後だ、後。切り替えて次の説明を聞こう!
「……いや無い。今のところはな。質問に答えてくれてありがとう。それでステータス以外の説明は何かな?」
『ダンジョンについてと、侵入者に関する不備のお詫びです』
「あー。不備のお詫びは、結果論だけど今後同じことが無いようにして欲しいくらいだけど」
『そういう訳にもいきません。等価交換をご存知のはず。何かあればキチンと対抗策以外のお詫びは必須なのです。特にダンジョンでは』
その声は機械音のはずなのにどこか感情を感じさせる雰囲気を放っていた。だが等価交換と来たか。それを踏まえて考えると、
「ダンジョンそのものの特殊性が関連するのかね?まあ分かったよ。続きお願い」
『感謝します。先ずはダンジョンの方から。今回の大幅に上がったステータスに対する難易度変更はありません。ただし用意可能なレベルまでの階層を増やしたために、早く攻略してもらわないと下階層にモンスターが通常よりも多くできてしまうので、なるべくモンスターを倒していただきたいです』
「本末転倒な気もするが、それをするにはどうしてもクリアしないとできない理由がある」
『ダンジョン攻略とより素早くグランドマスターになってもらうためにも、十五層以降三十層と五十層、それ以降は十層毎にクリアしていただいた場合に休息ポイントの発生と休息ポイント同士への転移許可が発生します』
「予想していたってわけか。ま、了解したよ」
『ダンジョンそのものの変更は以上です。何かご質問はありますか?』
ここまであけすけに攻略してくださいってのは何かを感じざるおえないな。ただまあデメリットが一切無いのでそこがちょっと怖いと思う程度か。特に嫌な感じもしないし、俺にとってメリットがあるようにも感じる。そのメリットは…何か懐かしさも感じる。だがまあ決していい事ばかりでは無いだろうが。
それは置いておこう。今はこの提案という名の美味し過ぎて裏を考えるも全く修正案が出ないものを承認するしかないのだから。
「いいや無いな。それでお詫びとやらは何になるんだい?」
『買い取り制を導入したいと思います』
「ん〜、それはダンジョン攻略の最中に得た売れないものだが価値あるものと何かを交換するシステムかい?」
『正確には等価交換では無い買い取り制を、ここだけでの導入となります』
「……とりあえずは分かった。ラインナップは後で資料として渡してくれ。他には?」
『DRカードの擬装、地球上における都合の良い状態、タクミ様が不自由しない情報統制、神からの接触不可、そしてダンジョン攻略ランキングの導入です』
「…最初に挙げた四つはできるならばありがたいな」
『可能です』
正直言って言われるまで完全に忘れていたが、DRカードなんて物あったな。よーく思い出せばダンジョンの導入の話の時にチラッと聞いたが、それでも完全に忘れていた。DRカードが有れば入れるとかなんとか…聞くか。
「忘れていたけど、DRカードって何?」
『DRカードはダンジョン攻略の際に必ず必要になる物です。DRポイント、簡易ステータス、どのダンジョンに入ったか、ダンジョン攻略はどこまでか、などが分かります。また非常に頑丈なので盾にも使う者が出ると予想もしています』
「そっか、それならさっきの擬装はありがたいな。……話は戻るけどダンジョン攻略ランキングの導入って俺にメリットある?」
『情報の公開がメリットだと判断しました。更に言えばダンジョン攻略ランキングは擬装はできませんが、隠す事は全員可能です。しかし擬装を可能にし、ランキング上位十位に入ったり出たりする事が可能です。またそれに伴い、ダンジョン発生時に追加する情報も資料として渡します』
「なるほど。それならまあ良しとしよう。相談完了だ。ああ後、悪いけど十六層のボス部屋前に戻してくれる?再攻略したい。時間は有限だからね」
『承諾しました。各資料はマジックバックへと転送します。良いダンジョン攻略を』
その声には今までの感情は無く。事務的、否、ダンジョンに入った時のような機械音に戻っていた気がした。
転移をした感覚を終え、目の前には見覚えのある大扉があった。ただそこにはレイと出会った時のような嫌な予感は無く、ただただ、未知の存在と戦えることに期待を感じていた。
ダンジョン十六層のボス、いざいかん!ってな。
大扉を蹴り開けて堂々と歩く。ああ、この先はどうなっているのか…楽しみだ。
まだまだ続きます。
スキル説明(一部)
・「氣闘術」は氣と呼ばれる生命力を消費して戦う技。氣を放出したり自分の身体以外に纏わせたりするとHPが消費される。
・「仙術」は自身の魔力は一切動かさずに、自然界にある魔力を動かす事で自身の周囲に事象を引き起こす術。ただし、何も無い空間で火を出すなどの魔法の領分は侵せない。MPは消費しない。
・「地図」は紙に書くときに分かりやすく早く書けるスキル。名前こそ「地図」だが、筆記系のスキルの最上位なので、字や絵までも上手く書ける。
・「自動マッピング」は紙を指定すれば紙がどこにあろうと勝手に地図を描いてくれる。ただし、魔法陣などの効果のある陣を寸分違わず描いても効果は発動はできない。
・「早急理解」は文章や地図を瞬時に理解できるスキル。読解系の最上位スキル。完全記憶の効果もある。が、指定した部分のみいつでも思い出せれるが、指定外の部分は時間がかかる効果となってる。
・「逆境」は自分よりもステータスが上の存在に対した時に急速にスキル習得やステータスアップをするスキル。差が大きいほど上がり幅が大きい。