ダンジョンアタック!!
ハッと目を覚まし腕時計を見れば二時だ。よ〜く見れば午後の二時なのでセーフだ。まあ実際に午前の二時だったらとっくにボスがリポップしているだろうから、冷静に考えて時間がそんなに経ってないと分かるだろう。その事実にホッとひと息付き、ドロップ品自動収集スキルを使いアイテムバックから弁当を出す。
弁当と言っても単におにぎらずだが。猛毒はもう無いようなのでガスマスクを取る。手を合わせて、
「いただきます。にしても、もうマジックバックがギリギリだな。主にオーク肉とスライムジェルと水か。そういえばさっき強化材が報酬にあったな。それ使うか?それともマジックポーチに入れ替えるか…悩むなあ」
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マジック収納系アイテムの効果増大の同化布 レア度:幻想級
マジック収納系のアイテムにはその多くが重量制限か、数量制限が課されている。このアイテムは名の通り収納系アイテムにこの布を当てると同化し、その制限を大幅に減少させる効果を持つ。
効果:同化強化(一回のみ)、同化時頑丈付与、制限減少
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「うーむ、どれくらい制限が無くなるのか書かれていない。だが丈夫になるならばマジックバックの方がいい。うん、そうしよう」
そうしてマジックバックに布を押し当てると、布が見たことのない文字となってマジックバックに入った。さて効果は如何に?
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マジックバック レア度:伝説級→幻想級
重量制限があるタイプの収納系アイテム。両肩に紐をかけて背負う背嚢だが、所有者の動きに一切の負担をかけない事が特徴的。見た目の色が薄茶色なのも相まってとても伝説級の代物には見えない。
効果:収納、収納物リスト化、5t→500tの重量制限【デメリット】、召喚、負担無し、頑丈、(所有者固定)
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おお〜!まさか100倍とは。流石は幻想級のアイテムだな。ただ気になるのはうっすらと所有者固定の効果が表示されている事か。あれかね。付喪神的な。…だったらソードブレイカーにも付いてもおかしくないな。確認しようか。
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ソードブレイカー(?) レア度:希少級→伝説級
峰の部分で受け止められる頑丈さ、他者に使えない事が特徴的。だが所有者と多くの戦いを共にした事でひっそりと進化した。今やソードブレイカーに止まらず、魔剣と化し始めている。
効果:頑丈、所有者固定、属性付与、斬撃(強)、憑依魔剣
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「ワオ!なんか凄いことになってる。っていうか憑依魔剣ってなに?」
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憑依魔剣:他の剣に乗り移ることで相乗効果を得られ強くなるが、何かしらのデメリットが付いてしまう。基本的に格下の物には乗り移れない。
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「ん〜、飯も食い終わったし今は置いておくか。ごちそうさまでしたっと。ま、強化できると分かっただけで儲けものとしようか」
未来の自分が頑張ることを祈ろう。さて、ボスを倒した事で出現した扉を糸の練習の意味を込めて糸で開けながら荷物も持つ。お、開いた開いた。準備万端、ガスマスクは換えのフィルターが無いのでもう使えない。
行きますか。
扉を開けたらそこは一面雪原だった。木は奥に一本だけ、常緑種だと思われるもののみ。フィールド型のダンジョンか。外縁部の縁を走って行こうか!
いや〜、真面目にエンカ率がここまで高いとは想定していなかったな。走って三十秒でキツネっぽい生き物を発見して首を手刀で切る。そのまま先に進もうとしたらウサギの大群が来たので「影繰り」で殲滅し、また三十秒ほどで鹿が現れて戦闘中だ。
この鹿結構強い。バックステップもサイドステップも可能、角は希少級の武器より鋭く頑丈で、毛皮は手刀で浅い傷がつく程度。ボスじゃないのかと思うくらい強い。が、知能はそこまで高くない様で唐辛子スプレーで悶えさせ思いっきり殴ってフィニッシュ。
唐辛子スプレーの効果を食らわない様に直に移動、ドロップ品の回収はスキルで済ませる。そして10キロくらいだろうか、走ってきたら一周した様で扉があった。中心部の木まで直線で約20キロ。さっさと行こうか。
「はあ。あの鹿って1キロ置きに縄張りでもあるのかね?まあドロップ品が中々良いから文句は言えないけどさ」
中心部の木まで到着して目の前にいる巨大な熊を結界と糸を使って拘束しながら愚痴る。相性が悪い事に相手は物理特化で魔法は無し。多少は切れるだろうが力任せに糸を切れる力がありながら糸に付与した毒の気配に動けずにいる。うん、詰みだな。
「じゃあ愚痴も言い終わったし、死ね」
『mission clear!
ダンジョン第十四層クリアおめでとうございます。
条件:ジャイアントファイターベアーの討伐。
報酬:第十五層への鍵、飛撃スキルを獲得』
「次行こ、次」
出現した扉を開けようとした時に、ふと上を見上げると木の実がなっていた。しかも松ぼっくりかと思えば、林檎みたいなのもある。一本の木にだ。…回収しとこ。
思わぬ収穫を携帯のメモ機能に書いてとっても上機嫌になった俺は鍵を開ける。
扉を開けて見えた先は遺跡風の洞窟だった。面白い事にパッと見た感じは全く別れ道がないにも関わらず、透視して観れば道にトラップと共に別れ道が見つけられた。
「ふむ。ダンジョンからのジャミングで透視の効果が薄くなる事象も一切無いし、嗅いだ限り一切モンスターがいない。その代わりトラップ満載と」
面白い。その言葉を飲み込みトラップを片っ端から発動させていく。ボス部屋までは一直線だったが、何故かこの階層は立体構造になっていた。残念だが宝箱は無かったが、代わりのアイテムがポツンと部屋のど真ん中にあったりした。まあそれが罠って事もあったが。
この階層の面白かったトラップ三選は、
・落とし穴。正しくは地下二階にショートカットする坂道となっているのだが、そのまま身を任せていると最後は地下一階の毒沼(気体は無し)にハマる。しかし坂道の途中に太鼓の◯人の様にテンポ良く壁にレンガがあり、それを叩けば地下二階に転移させられる。
・酸の池に浮く石(?)。これまた二秒以上石の上に居ると沈むベタなトラップなのだが、一ヶ所だけ立ち止まっていると二階層に物理的に真上に吹き飛ばされる。また飛ばされる最中に穴があり、穴の中に手を入れればアイテムをゲットできる。
・正しく無い魔法陣。何もしないとランダムで鉄なら簡単に切れる威力の風の刃を生み出す魔法陣。だが魔法陣に近づけば魔法は当たらなくなり、また魔法陣の一部が空白なのでそこに正しく書き足せば魔法陣完成、そのまま消えて代わりのアイテムをゲットできる。
の三つだった。他にも階段の正しいトラップを発動しないと無限に歩かされる無限階段、硬すぎる金属球が襲って来る最中に一部を切らないと潰される坂道(上り)があったりして楽しかった。硬すぎる金属球は回収したので当分はその金属には困らないし、他にもレアな物が回収できて嬉しい限りだ。
「じゃあボス部屋はなんだろ。たーのもー!って……あー、そうきたか」
右から順に火の壁、水の壁、風の壁、土の壁で道が完全に塞がれている。見た感じでは壁同士に隙間は無く、空間魔法で繋げられていた。強引に突っ込んでも突破は可能。しかし壁の先には三十センチ間隔の各属性での柵があって、更にその奥には台座が4つありそれぞれ文字が書かれていた。その奥は見えない。
これが意味するところは、
「謎解きな訳か。どうやってクリアしますか?的な感じで」
となると魔法無しでもクリア出来ないと変だ。何故なら今まで階層クリアの報酬には魔法は何も無かった。各種耐性はあったが、それを利用しろって訳じゃなさそうだな。部分転移は…可能か。さてどうしたものか。
うん、謎解き得意だからいっか。分かったし。
まずは各属性の壁、これは土の壁を掴んで移動させる。案の定見た目とはかけ離れて軽く、移動させても崩れる様子は(当然だが)無い。そしてこれを火の壁の場所に押し込む。もう一回掴むとかなり熱いが、すぐ隣の水の壁につけると、ジュウゥという音と共に土の壁が固まっていく。五分ほどで金属の様になった土と言えるのか不明な壁を風の壁に倒して…これで何にもない。つまりクリアだ。
次、手前から土→水→火→風の順にある編み目の柵。土は金属の様に硬いが押せない訳ではない。水の場所の半分くらいまで押し進めて水を向こう側へと飛ばす。そして半分だけ堰き止められた水が火に飛び、鎮火させる。完全に止まった?まさか!そんな訳ない。
俺はこの部屋に入った場所まで戻ってしばらく待つ。三分ほどで湯気によって風の編み目が可視化された。そしてその事実は三十秒毎に風が射出されているという事実が分かるには十分だ。そこから五分ほどで土のの柵が爆破して、水と火の柵を作っていた小さな魔法陣を傷つけて通り過ぎる事が可能になった。
「あとは三十秒毎に来る風の無いタイミングで進んだら……クリア!」
そして見えたのは4つの台座に火、水、風、土の順に大きく文字が書かれていて、物を載せるはずの部分には魔法陣が書かれていた。そしてボス部屋の最奥には的の様に風球、土球、火球、水球があった。……逆に引っ掛けは無いのかというレベルで出来過ぎている。試しに神眼で見渡すも何も無し。
という事は。俺は火の台座に触り左手で正面には無い水球を指差し、右手から魔力を流して魔法陣を発動させる。そして台座から鋭く火が噴いて水球が消える。続けて水の台座からは火球へと、風の台座からは土球へと、土の台座からは風球へとぶつける。
「これで正解か?ヒントが無さ過ぎて自信がない」
『mission clear!
ダンジョン第十五層クリアおめでとうございます。
条件:魔法試験の間のクリア。
報酬:第十六層への鍵、四属性無効化スキル』
『secret mission clear!!
発生条件:初見で第十五層を全て踏破し、階層にある全てのアイテムを回収すること。
条件:魔法試験の間の第一問の答案通りの方法での正解。
報酬:DRポイント50、銀の宝箱一個、四属性のスキルオーブ』
『secret mission clear!!
発生条件:初見で第十五層を全て踏破し、階層にある全てのアイテムを回収すること。
条件:魔法試験の間の第二問の答案通りの方法での正解。
報酬:DRポイント50、銀の宝箱二個、生雷氷の装置』
『special mission clear!!!
発生条件:初見で第十五層を全て踏破し、魔法試験の間の第一問と第二問をクリアする事。
条件:魔法試験の間の第三問までを模範的に正解。
報酬:DRポイント100、銀の宝箱三個、金の宝箱一個、、事象拡大のスキルオーブ』
『トラップ実験場の第十五層を今後協力しますか?
→YES
NO
お選びください。YESの場合、毎回トラップの位置や種類が変更されます。NOの場合変更はありません』
「………YESで」
『協力特典としてマツハマ・タクミ様のダンジョン第十五層の魔法試験の間を無くし、休息ポイントとします。またこの休息ポイントは登録した場所のみ転移が可能です。現在登録済み場所は【ダンジョン入り口】【第十五層入り口】のみとなっています』
ま・じ・か!!正直言って報酬無しかと思ってた。だからめっちゃ悩んだんだし!しかも報酬内容的に今後も休息ポイントが出そうな雰囲気!!!素晴らしい!!!
しばらくして、興奮が収まり時計を見れば五時半。進むか、休むかを決めないといけない時間帯だ。そしてここは休息ポイント。つまりはこれ以上無い仮眠場所だともとれる。…まあ仮眠するか。
っとその前にマジックバックから簡易トイレをだし纏域で囲い(狭くないとソワソワするため)用を足す。ん?汚い?これが自然なんだよ!と言っても大の方は半神半人になってから出ないけど。俺は一体誰に言ってるのだろう…。よし、後処理をして終了。いや〜、対災害の文明って素晴らしいね。日本だとこういう面でもありがたい。
用を足した場所から離れて、タイマーを四時間にセットし枕と柔らかい布を地面に敷いて寝る。掛け毛布は無いがこれで十分だろう。休める時に休むべし。これはダンジョンアタックに限らない基本だ。
「おやすみなさい」
ーピピピッ!ピピピッ!!ピピピッ!!!
「ん〜、ん!?知らない天井だ」
一人で寂しく一度は言ってみたかったセリフを言い、一人だと単純に虚しいだけだと認識した。枕と布とタイマーをマジックバックに入れ、ストレッチ体操をする。頭は先ほどの虚しい気持ちでスッと醒めた。
マジックバックからサンドイッチを出して食べる。飲み物はさっき覚えた水魔法で作った水だ。簡単に使えた。
「ふう、ごちそうさまでした。さて、次行くか!」
気合い十分。十六層への扉を開けて先に進む。休憩と仕事(?)のメリハリはしっかりと。これもダンジョンアタックに限らない基本だ。まあダンジョンアタックに関しては、命懸けなのでもっとメリハリをつけるべきだと思うがな。社会経験無いから比べる対象が高校生活なんだが。
そうして見えた扉の先は第十三層を彷彿とさせる洞窟だった。幸い毒は無いので単なる広い洞窟だ。
「何が出ることやら。ん?……千里眼使用」
本来ならダンジョンアタックが命懸け、つまりは俺が強くなれる場所なのでなるべく透視、鑑定、視力上昇以外の神眼の超便利な権能は使いたく無いのだが、嗅ぎ分けスキルも効果がないし致し方ない。そう思い視えた結果は、中身が魔石のみの甲冑どもだった。
「…なるほどね。そりゃ臭いが無い訳だ。リビングアーマーなんて生き物の臭いはカケラも無いんだから」
納得した事で千里眼を解いて、先に進む。罠は千里眼で確認せずとも分かるし問題無い。ダッシュで進み、マッピングして、敵を倒す!至ってシンプル。
しばらくしてリビングアーマーに遭遇。貫手で甲冑を貫通して魔石を取り、ドロップ品を回収して終了。武器はそのままだったので売れば(売れれば)いい値段だろう。この稼げる感、やっぱり十三層を彷彿とさせる。
罠はガス系のみだ。道中なんとなく嫌な感じがしたのでガスマスクのフィルター部分を錬金術で毒のみを分離、いつでも使える様にしておく。ちなみに分離した毒は固形だったのでアイテムポーチに入れておいた。何かに使えるかもしれないしな。
「結局何も無いままマッピングも終了してボス部屋か。ここまで来ると嫌な予感っていうか感覚が半端ないな。……いかんいかん。何もせずに気分を沈ませるな!うっし、行こう」
ガスマスクを装着、先に無限ポーションを飲み準備万端な状態で大扉を糸で開けて中に入った。思った通りひとりでに扉が閉まるが、視線は前から動かさない。否、動かせない。
前には武器の山。その上には自分の生存本能が全力で警鐘を鳴らしている存在が居た。見た目は背の高そうな男、装備は禍々しい剣とこれまた禍々しい革装備。立ってはいない。こちらを向いてもいない。なのに、
(とてつも無い絶望感)
いくら自然体でいつでも動けるようにしてるとは言え、おそらく俺を見たら10人中10人がとんでも無い化け物と相対していると分かるだろう。例えるならヒノキの棒を持ったままの勇者(笑)がドラゴンにあったかの様な、レベル一のまま魔王に相対している様な絶望感。
だが、
「……ふう〜〜。いつまで俺に背を向けているんだよ」
心は折れない。折らせない。蛮勇?無茶?話にならない?知ってるさ。これがなんと言われてもしょうがない事くらい、百も承知。その上で挑む。
「ふむ、中々に面白い。ここまで絶望を感じていながら話しかけるか」
そう言って振り向くナニカ。振り向いて俺を見ると更なる威圧感を感じる。最早実際に質量があると言われても納得できるほどの威圧感だ。
顔から考えれば間違いなく人間だろう。鑑定したいと思ったがやめる。死ぬと思ったからだ。いや違う。こんな事考える余裕は無い!
「…ああ。心は折らせないと、爺ちゃんと誓ったんでね。絶望しても、その上で動けないのは、論外だ」
「なるほど。ならば…その心折ってみせよう。この砂時計が全て下に落ちるまで耐えたら、命を見逃してやろう」
「ククッ、いいぜ。だが生憎俺は人間なんでな。時間はそうかけられないぜ?」
「人間?我の眼には半端者に見えるが、まあいい。この砂時計は三時間で落ち切る。それまで死ぬ様な傷を負っても瞬時に回復するから安心しろ。まあ正確には違うんだがな。では始めるぞ?」
次の瞬間男が手を振るえば地面にあった筈の大量の武器は消えて、男はフワッと浮き上がり着地する。
『いいか、タクミよ。格上に遊ばれる時は遊ばれてると考えるなよ。自分が高みに登るためのぶつかり稽古だと思うんじゃぞ』
『ワシは後悔しているんじゃ。あの時、もっとぶつかれば良かったとな。ま、お陰で婆さんと生きて出会えたんじゃがのう。わっはははは』
「覚えているよ、爺ちゃん。俺は高みに登る。だから、行くぞ」
「良い闘志だ。来い、若人よ」
全力を出すためにガスマスクを収納、成長の剣を両手で持ち、意思を研ぎ澄ませ、斬りかかる。それに対して男は全く動かずにいた。結果、革鎧に防がれる前のナニカによって当たらなかった。その感触はまるで布で包まれたかのうよう。これは凝縮した魔力?つまりは漏れ出た魔力がこのレベルで?……だが!そんなことでは怯まない!!
その様子にニヤッと口を歪ませた男は左手を振るう。その光景は視えている。だが見えてると言っても避けれるかは別。ゆっくりとガラ空きの俺の胴に入って、
ーズドドドドドンッ
真横に吹き飛ばされた。声を上げて悲鳴を出すこともできない。古災龍の服のおかげで胴が泣き別れする事無く、壁にめり込みなおその殴られた勢いが止まる事は無い。衝撃は纏域のおかげで軽減されてるが、それでも関係無いほどにダメージを負い死にかける。
「だが、まだ…死んでねえぞ」
「だろうな」
血で霞んで見える視界でなんとか移動したと分かった男に今度は背中を殴られ意識が途絶えた。
「ガッ。…はあ、はあ、今のが、死に戻りかよ」
「その現象に近いな。ではもう一発」
再び左手で殴ってくるのを視界で捉えながら、動いたところで反応できないと知っても尚動こうとし、
「グボッ」
内臓を破裂させられた。その勢いのまま口まで血で溢れ出たために、閉じていた口の歯が吹き飛び、口から強制的に血が出る。こんな体験死なないとできないと思いながら意識が途切れた。
「二回目だ。まだまだいけそうだな」
「当然、だ!!」
成長の剣で振われた剣を逸らそうと動き、そのまま剣ごと袈裟斬りにされた。
「まだ、だ。ふんッ」
「ほう?」
左手で貫手を行い、剣で肘から先をを斬られた。何故か元に戻っている剣を振るい、剣で右手も肘から先を斬り飛ばされ、全魔力を込めた頭突きより先に膝で蹴ろうとし、右脚を太腿から斬られ、頭突きを食らわせに男の胸にナニカで防がれる事なくぶつければ下から首を斬られた。
「まだまだぁ!!」
逆手で持った剣と少しずらして放つ肘鉄、両腕を斬られた。血が噴き出る時に魔力を血に巡らせ燃やす。自分が受ければ一瞬で焼き死ぬレベルの業火。一瞬で条件を血の接触にした事で底上げされた魔法はしかし、
「中々、やるな」
傷を与えるに至らなかった。尚も燃える炎の中平然と剣を振るい首を斬られた。
声を出さずに死んだ。攻撃できずに死んだ。少しずつ押し潰され死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死ん死ん死死死死死死死死死死死……。
「まだ折れぬか。だがまだ一時間も経っていないぞ?」
「いい」
「ん?」
「まだ、視れる!」
「ははは。その言葉効果するなよ」
剣が振られた首が落ちる。やっぱりだ。俺は、
Another side 男
久しぶりに見た気がする。この俺を見てなおも、次元が違う力を理解してなおも、自身が弱いと突きつけられなおも挑んでくる存在を。
大抵の生き物は一度絶望すれば立てない。心がそのまま折れてしまうのだ。中には絶望しても尚生き足掻く存在も一定数いる。だが死んだ時になおも生き足掻く存在はとんでもなく少ない。実際に死に、どう足掻いてもダメだと感じて自ら心を折ってしまうのだ。
だがどうだ、この今いる存在は。稀有な眼を持つ、多少心が強い生き物だと思ってた。その眼は俺の圧倒的な速さの攻撃を捉えているだろう。その眼の所為で心が折れやすいだろう。自身が死ぬ時を正確に理解するのだから。
だが違った。利用したのだ。今こうして攻撃を捉えながら死んでも、その死ぬ瞬間まで視ている。何故死んだ?どう攻撃された?どうやったら一矢報いる事ができる?
「ほう?」
今も俺が両手と片足を斬っても、頭突きをしてきた。おそらく視えているのだろう、俺の纏う魔力が。だからそれを突破するために同じく魔力を纏って突破した。この革鎧で止められ当たっても無いのと同じだが、突破したのだ。嬉しい気持ちで思わず力を込めて斬ってしまった。
だが杞憂だった様だ。次の死からの復活した時には血液に魔力を込めて、発動条件を限定する事で俺の纏う魔力を容易く突破して燃やしにきた。
「中々、やるな」
歓喜の感情が湧き出る。久しく感じていなかった感情に身を任せて殺して殺して殺しまくった。感情をなんとか抑えて攻撃をやめる。
そして見たその眼は未だ死んでなかった。それを理解した上で、問いかける。
「まだ折れぬか。だがまだ一時間も経っていないぞ?」
「いい」
「ん?」
「まだ、視れる!」
「ははは。その言葉効果するなよ」
笑いながら、最初の様な手加減を少ししなくなった攻撃をする。視ていたのだ。数えるのも億劫になるほど、たったの一時間で数百もの回数殺された全ての攻撃を。いくら死のうがお構い無しに。自分の糧とするべく。
分かっていた。たったの四回ほどで俺の纏う魔力を突破して攻撃してきたのだ。そして今も振るう剣を正しく視ていた。たかだかまだ出会って一時間で、この攻撃を捉えながら死ぬなど。それは最早、成長では無い。天才でも烏滸がましい。
進化とも言える。その様子に俺は再び歓喜する事を予感した。
Another side 男 END
ラストはダンジョン関係無かったっすね、すいません。
作中にジャイアントファイトベアーにトドメをさしたのは上段蹴りです。文字数の関係上戦闘シーンはカットさせてもらいました。申し訳ない。
酸の池に浮く石(?)の(?)部分は酸に石は浮かない上に、長時間酸に触れてると通常の石は溶けるから(?)です。
主人公が作中にて謎解き得意などとほざいていますが、作者はめっちゃ苦手です。