第3話 英雄への褒美。
『~~……~~……』
……声が、遠くなった……?
決して聞こえなくなったわけではない。けれど、頭の中で響いていた声が、少しだけ遠くなった気がした。
一体何が起きたんだと、固まるディートリヒに気付かない様子で、先程の声の主は控室へと入って来た。
白いレースに飾られた淡い水色のドレスに、その腕を全て覆い隠すこれもまた白いレース状の手袋。顔はベールで隠されており、その後ろに黒く長い髪だけがつやつやと流れている。
と、ベールで隠れた顔が、こちらを向いた。
「あら、ごめんなさい。お邪魔してしまいましたか?」
手を口許と思しき場所にあて、女はそう申し訳なさそうに訊ねてくる。あまりにか細い、消え入るような声音。
あとから部屋に入った、侍女と思しき女もまたこちらを向き、はっとしたように頭を下げた。
そんな二人の様子をぼんやりとした思考で見ながら、すぐに理解する。黒く輝く髪、その面を隠すベール。
メルテンス王国の国民であるならば、見たことはなくともすぐに理解できるその姿。
慌てて立ち上がり、ディートリヒはその場に膝をついた。「申し訳ございません」と、頭を下げながら。
「アウレリア姫の控室とは知らず、勝手に立ち入ったことを謝罪いたします。すぐに出て行きますので……」
言うが早いか、ディートリヒは再び立ち上がると、完璧な所作で一礼して、ベールの女、このメルテンス王国の第一王女であり、レオノーレ女神の神託を受ける愛姫でもあるアウレリアの方へと歩み寄る。その傍らをすり抜けて出て行こうと、足早に扉の方へと進んで。
「お待ちください」と、アウレリアが声を上げた。
「この部屋は、わたくしの控室ではありませんわ。晩餐会に来られた方ならば、誰もが使用できるお部屋です。見たところ、とても顔色が悪いご様子。無理せず、休まれてくださいませ」
ことりと、僅かに小首を傾げながら言う彼女の声は優しく。彼女の傍らで立ち止まることになったディートリヒは、少しだけほっとしながら「ありがとうございます」と小さく呟く。頭の中の声が遠ざかろうとも、日々の寝不足のせいで万全とはいえない体調で、王城の中を歩き回るのは正直嬉しくなかったから。
「お言葉に甘えて、休ませて頂きます」
「ええ、そうしてくださいな。さあ、あちらへ」
頭を下げるディートリヒに、アウレリアは小さく笑ってその手を伸ばす。ふわりと、か細いその手のひらがディートリヒの肘に触れて。
ぴたりと、ディートリヒは固まった。
……声が、消えた……?
「……? どうかされました?」
唐突に動かなくなったディートリヒを不思議に思ってか、アウレリアはそう言ってこちらを見上げてくる。ベールに覆われたそんな彼女の顔を、ディートリヒはまじまじと見つめた。
なぜ、急に……。
「……あの?」
アウレリアは戸惑うように首を傾げていて。ディートリヒは、はっと目を見開くと慌てて歩き出した。先程まで座っていた椅子に腰かければ、アウレリアがほっとしたように微笑んだ気がした。
その時だ。控室の扉が、再び開いたのは。
「アウレリア姫。お疲れのところを申し訳ありませんが、陛下がお呼びです」
開いた扉から顔を出したのは、一人の騎士。おそらくは、アウレリアの護衛騎士なのだろう。勇者一行を迎える晩餐会に相応しい、祝賀行事の際に着用する白い騎士服を身に着けた、赤い短髪のその騎士には見覚えがあったけれど。彼はアウレリアがはっとしたようにそちらを振り返り、「ありがとう。すぐに向かいます」と応えると、再び部屋の外へと姿を消してしまった。
同時に、アウレリアがディートリヒの肘からその手を離す。
『~~……~~……』
再び遠く聞こえて来た声に、ディートリヒは僅かに眉を寄せた。相変わらず、頭を揺さぶる気味の悪い声。
けれど、確証は持てないけれど、自分の予想が正しければ、もしかしたら。
考えるディートリヒに、アウレリアは「それでは、ゆっくりなさってくださいね」と声をかけて来た。踵を返し、扉の方へと戻って行く。一歩、二歩、開いた扉の外へと足を踏み出し、もう一歩足を進めて。
『~~~~~~~~』
彼女が完全に部屋を出た途端、これでもかというほどに騒ぎ出した声に頭を抱える。どういう原理なのかは分からない。けれど、少なくとも。
……あの方に触れれば、この声は消える。
時間が経っても、光魔法を使っても、決して消えなかった声が、確かに消えたのだ。このひと月の間、絶えず頭の中で響き渡っているこの声が。眠ることを妨げ、体力さえも奪い取り、ディートリヒの命さえも削っていた、この声が。
「もし、叶うのならば……」
胸に抱いた願いは、一騎士が抱くにはあまりに大それたもので。けれどこれ以上ない程に、切実なものだった。
誰もいない控室に、先程ディートリヒを案内して来た従者が再び訪れたのは、アウレリアが姿を消してからしばらくしてのことだった。相変わらず頭の中で響き渡る声にうんざりしていたが、晩餐会にはアウレリアも参加するだろうと気付き少しだけ気分が向上した。どういう基準なのかは分からないが、彼女の傍にいればこの声は遠ざかるようだから。
この声が何なのか、正確には分からぬが、アウレリア姫はレオノーレ女神の愛し子である、神聖力の塊のような方だ。それを思えば、この声はおそらく、神聖力とは真反対の力だと考えられる。……すなわち、魔の力か。
古くから、魔物とは神に相対するものとされる。だからこそ魔王は神に従う人間を滅ぼそうとし、神は神託を通して魔王を倒す力を与えるのだ。ディートリヒの故郷でもあるこのメルテンス王国の王族は、遡れば降りてきた神に辿り着く、神々の末裔と言われていた。魔王が必ずこのメルテンス王国の果てにある黒の森に居を構えるのも、そんな神々の末裔と相対するためなのだという。
つまり、神の力、神聖力をもって抑えられる声なのだとするならば、魔王に通ずる魔の力が作用しているのだと、ディートリヒは考えていた。
あくまで憶測に過ぎぬがな。……だが、神聖力をその身に宿す者は極稀であり、アウレリア姫に宿る神聖力は、他に類を見ないほどだという。それほどの方が触れて初めて、抑えられる声、というのは……。
やはり、魔王の力が作用しているのだろう。そう、思考が導き出すのに時間はかからなかった。
何にしても、今日の夕食はここひと月の間で最も旨い物だろうなと、そんなことを思った。
晩餐会の会場はあまりに広く、どこに誰がいるかさっぱり分からなかった。もっとも、七年ぶりの王城のため、知っているはずの者も姿を変えており、誰が誰だか分からない、というのが本音ではあったが。
晩餐会の主賓の一人であるため、あまりに長く置かれた机の内、王族の方々が座っている場所のすぐ近くに腰を降ろすことになったディートリヒは、思った通り広間に入る前よりも遠ざかった頭の中の声にほっとしつつ、王族席の方を見遣る。
メルテンス王国の国王に、王妃。そしてその息子である王太子と、娘である巫女姫。神々の末裔と言われても納得してしまう程の美貌を持つ彼らの姿のうち、やはりアウレリアだけは、その顔が見えないベールをつけたままだった。
「レオノーレ女神の神託は、姫様の美貌と引き換えに頂いたものなんですって」
料理に手を伸ばした状態で、ぼんやりとアウレリアを見ていたディートリヒに、隣に座っていたカサンドラが耳打ちする。「どういうことだ?」と思わずそちらに視線を向ければ、「詳しくは分からないけど」と、カサンドラ首を傾げながら呟いた。
「アウレリア姫は、生まれた時からそれはそれは美しい方で。その美しさを愛した女神が、姫様の美貌を欲して、代わりに神託を授けるようになさったとか。歴代の巫女姫が、代々ベールをかけているのはそういう理由じゃないかって言われてるの。もちろん、ただの噂話よ。言い伝えによれば、黒い髪と黒い瞳の姫に神託は降るとされているらしいから。そこに美しさ云々は何も書かれていないもの」
「まあでも」と、カサンドラは更に声を潜めた。
「ベールの下を偶然目にした女官は、とてもじゃないけどあの陛下と王妃様の子供には見えなかったって言ってたらしいわ。お二人とも金の髪に青い瞳だし、王太子様もそう。何より、陛下と王太子様は人間とは思えない程の美しさでしょう? いくら女神の愛姫といっても、あんな風にはなりたくないって言ってたって話」
「お気の毒よね」と、言ってカサンドラは再び食事を続ける。ディートリヒはそんな彼女から、再びアウレリアの方へと視線を戻した。
白い手袋に覆われた、あまりに細い腕。触れるだけで折れてしまいそうなその指の先まで、洗練された動きで料理に手を伸ばす姿。
美貌と引き換えに、か。
彼女の一挙手一投足を見つめながら、ディートリヒは思う。もし本当に、彼女が元々身に着けるはずだった、その美貌と引き換えに神託を得ているのだとしたら。ベールをかけた上でも、王族としてその傍に堂々と姿を現している彼女は、とても強い人間だろう。自分の見た目に劣等感を覚える人間は少なくない。その上、家族は皆、並外れた美貌の持ち主で、先程カサンドラが言ったような噂も流れているのだから。
俺はどちらかというと、女神はその心根の強さを愛されたのだと思うがな。
王女でありながら、一介の騎士を気遣う優しさも。その見た目を気の毒がられながら、堂々と振る舞うあの気品も。高潔なその心を愛されたのだと言われた方が、ディートリヒには容易く納得できる話だった。
「ではそろそろ、英雄の諸君に聞いても良いだろうか。先程、私が発した言葉は冗談でも何でもないぞ」
晩餐会も終盤に差し掛かってきた頃、国王がそう声を張り上げた。周囲の視線が一斉にディートリヒたちの方へと向けられる。
ベルンハルトとマリーが顔を見合わせて何やら示し合わせているのを横目に、ディートリヒはカサンドラの方へと顔を向けた。先程、と国王は言うが、残念ながらこの広間に訪れるまで控室にいたため、一体何のことだかさっぱり分からないのである。
「何のことだ」と、カサンドラに訊ねかければ、彼女はそういえば、というような顔で口を開いた。
「ディートリヒはいなかったから、知らなくて当然ね。さっき謁見の間でご挨拶した時に言われたのよ。魔王を討伐した褒美として、何でも一つ、望みを叶えようって」
「何でも、望みを……」
僅かに眉を顰めながら思わず繰り返せば、カサンドラがこくりと一つ頷いた。
「もちろん、国王陛下の出来る範囲で、だけど。私はほら、前から言ってたでしょう? 魔法を封じ込めた魔石を作る研究をしたいから、研究施設とか良いかなと思ってるのよね」
ふふ、とカサンドラは幼く見えるあどけない笑みを浮かべる。彼女は全属性魔法を操るが、そんなことが出来るのは彼女ぐらいしかいない。だから魔法を石に封じ込めた魔石を造り出し、誰もが魔法の恩恵を受けられるようにしたい。そう、彼女は以前から言っていたのである。
なるほど、と思いながら顔をカサンドラとは反対側へと向ければ、ベルンハルトとマリーが何やら国王に願い出ている所だった。
ベルンハルトはマリーとの結婚を。マリーは二人で住むための新居を望んでいるようである。
マリーは、メルテンス王国内では、光魔法を使う聖女と認識されている。光魔法を使える者は少なく、その中でも飛び抜けて強い魔力を持つ者のみが、聖女と呼ばれるのだ。そして聖女というのはあまりに貴重な存在ゆえに、王太子の妃となってもおかしくない身分とされる。ベルンハルトは、勇者としてこれから地位を得ることになるだろうが、あくまでも貴族位にもない一介の剣士に過ぎない。結ばれることを望むなら、確かに国王に願い出るのが早いだろう。
理にかなった申し出に納得しつつ、カサンドラが国王に先程教えてくれた願いを口にするのが聞こえた。国王はその全てに鷹揚に頷き、望みを叶えることを請け合っていて。
「シュタイナー卿」と、自分の名が呼ばれるのを聞いて、ディートリヒは顔を真っ直ぐにそちらに向けた。
「そなたの望みは何か聞いても良いか?」
国王の言葉をかけられたディートリヒに向けられた表情は様々。その内の、主に女性たちから向けられる半数以上視線が、驚愕のそれであった。
ディートリヒ・シュタイナー。その名を持つ闇魔法使いの騎士は、その強さと、王族にも並ぶと言われる美貌によって有名であったから無理もない。睡眠不足によりやつれた顔からは、彼らが目にしていた七年前の姿は想像も出来ないことだろう。
まあ、その点はディートリヒにとっては、どうでも良いことなのだが。問題は。
「……有り難いお言葉ですが、この場では口にし辛く。晩餐会が終わった後に、お時間を頂けますでしょうか。陛下」
もし本当に、望みを一つ叶えてくれるというのならば。
唯一つだけ、どうしても叶えて欲しいことがある。
思うも、とても人々の前で口に出来るような願いではなく。ディートリヒが言えば、国王は数度瞬きをした後、ゆっくりと一つ頷いた。
「よかろう。晩餐会が終わり次第、私の執務室へと来るが良い」
静かな口調は国王としての威厳に満ちたもので、自分の願いを耳にした時、彼がどのような顔をするのか、少しだけ不安になった。
晩餐会は何事もなく終了し、人々はゆっくりと自分の屋敷に帰って行く。ベルンハルトとマリー、そしてカサンドラが、泊まっている宿に戻るのを見送って、ディートリヒは踵を返し、歩き出した。同時に、さっと進み出て来たのは、晩餐会の前にも案内を勤めてくれた従者であった。
「何度もすまぬな」と告げれば、彼はくすりと笑って「お気になさらず」と呟いた。
「陛下の執務室はこちらです」
言って、従者は迷いなく歩いて行く。広間を出て廊下を進み、階段を登ってまた廊下。数度それを繰り返した先に、国王の執務室はあった。大きく、見るからに豪奢な造りの扉を、従者が数度叩けば、中から応答がある。「シュタイナー卿をお連れしました」と従者が言えば、中から低く、「入れ」という声が聞こえた。
ゆっくりと開かれた扉。ディートリヒは「失礼します」と短く言い、室内へと入る。応接用の豪華なソファと、奥に据えられた大きめの執務机。ばたん、と音がすると共に、部屋の中には自分と、そして執務机に座る国王の二人だけになった。
「そこでは声が聞き取りにくい。こちらへ」
扉の傍から動こうとしないディートリヒに、国王はそう声をかけてくる。「はっ」と応え、ディートリヒは国王の言葉に従って彼の前まで歩み寄った。一礼すれば、国王が鷹揚に一つ頷いて見せる。
さらさらと書類にサインをした後、「さて」と、国王が口火を切った。
「あの場で言い難い望みとは、一体何かね」
ペンを机の上に置き、国王は真っ直ぐにディートリヒを見つめる。その視線を、失礼にならない程度に受け止めながら、「はっ」と、再び短く応えた。
望みを叶えるという言葉を聞いてから、今までずっと考えていたこと。国王の手前、ああ言ってあの場で口にするのをやめたのだが、本当に願い出ても大丈夫だろうかと、そう考えに考えて。
しかし、大広間から彼女が出て行った時に、心は決まった。このままでは、自分は間違いなく、体調を壊して命を失うだろう。そして、その次はもしかしたら、一行の他の者へと移るかもしれない。だから。
「失礼を承知でお願い申し上げます」と、ディートリヒは静かに口を開いた。
「レオノーレ女神の愛姫、アウレリア様と共に眠る権利を頂けたらと思います」
途端、国王の眉根がぴくりと動くのを見て、ディートリヒは「ただの添い寝です」と慌てて続けた。
「実は魔王を討った際に、かの者に魔法をかけられたようなのです。その魔法のために、昼も夜も頭が割れそうな程の奇妙な声に苛まれ、眠ることさえ出来なくなりました。このままでは体力を奪われ、命を失うことになるでしょう。……私だけならばそれで良いのですが、この魔法が私の死後、他の者に移らないとも限らない。私の望みは、それを阻むためのものなのです」
そこまで言えば、国王も少し話を聞く気が出来たらしく、「ふむ」と小さく呟く。「だが、それとアウレリアの添い寝と、何の関係が」と訊かれ、ディートリヒは再び口を開いた。
「先程、控室でアウレリア姫にお会いしました。その際、かの方は私を心配し、椅子まで支えてくれようとしたのです。私の腕にかの方の手が触れた途端、私の頭の中で叫び続ける声が消えました。……一体、どういうことなのか、私自身も分かりません。声が消えたのは、あの時だけかもしれない。ですから、それを確かめるためにも、せめて一晩だけ、姫と添い寝をする栄誉を頂けないでしょうか」
「本当に効果があると分かれば、再びお願いすることになるかと思います」と、ディートリヒは続けた。冗談を言う様子など欠片もない、真剣な表情で。
国王はしばらく逡巡した後、「今も、声が聞こえているのか」と訊ねてくる。
ディートリヒは、ゆっくりと頷いた。
『~~~~~~~~~』
聞きたくなくても、ずっと頭の中で叫び続ける声。時が経てばと考えていたけれど、ひと月経っても声は止むことなどなく。ここまでくれば、聞こえなくなることなど有り得ないと思っていた。それなのに。
国王は考える素振りを見せ、「魔法というならば」と、再び口を開いた。
「マリー殿やカサンドラ殿に消してもらうことは出来なかったのかね。この国で最も魔法を知っている者たちなのだから」
もっともな意見に、しかしディートリヒは首を横に振る。「駄目でした」と、短く応えた。
「マリーは何度も私を癒そうとしてくれており、カサンドラも何かの魔法にかかっているのではと私を心配してくれました。しかし、結果として何も出来なかった。……正直な話、私はこのまま衰弱して死んでいくのだと思っていました。姫に、お会いするまでは」
心のままに、ディートリヒはそう続けた。全てが本当の事。本当の話。このまま死ぬのだろうと、そう思うしかなく、諦めかけていたのだ。けれど。
もし、出来ることならば。
最後に、望みがあるとすれば。
国王はまたしばらく考え込む素振りを見せた後、こくりと一つ頷いた。「……分かった」と、呟きながら。
「アウレリアに聞いてみよう。あの子が良いと言えば、構わん。……そなたのその様子では、なるべく早い方が良いのだろう。もう時間も随分と遅い、そなたは先に客室へ。あの子が良いと言えば、そこに連れて行くよう指示しよう」
「嫌だと言ったら、すまないが、諦めてくれ」と、言う国王の言葉に、ディートリヒはしっかりと頷いた。このような、不敬としか言いようがない望みを口にして、それを一考してくれただけでも有り難いことこの上ない。これ以上を望むのは、勇者の一行と言えども一介の騎士には過ぎたることだったから。
先程の従者が執務室に入って来て、ディートリヒを案内し始める。宿屋の方にも連絡しておいてくれるらしく、ほっと息を吐きながら、従者の後を追った。
どのような結果になったとしても、受け入れるしかないのだと、そう思いながら。
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