これからのこと
勿論ルカリアの近況報告だけが今回のお茶会の目的ではない。それは徹底した諜報対策からも分かる通り、その程度の会話ならば貴族然とした態度で意思疎通を交わすことは出来る。故にこのお茶会の本質はそことは別にあった。
「それでただお茶を飲んでお菓子美味しいねで終わるわけではないのでしょう?」
「せっかちな奴だな。もっとのんびりと再会を楽しみもうぜ」
そう言ってコーラルはティーポットからカップに紅茶を注いだ。3人以外居ない部屋では給仕は各々で済ませ、ゆったりとした時間が流れていく。
「え~じゃあ近況報告の続きします?お二人とは結局事件後殆ど会話出来ていなかったですし、今まで何をしていたんですか?」
「よく聞いてくれたわ、そう!相互理解を深めるためにもそうやって純粋に互いを知ろうとすることが大切なのよね」
「なんだよ情報は重要だろ?」
「そうだけれども、2人は淡白過ぎるのよ。勿論触れられたくない話題もあるでしょうし、そういう配慮は親しい中にでも必要よ?でももっと何して遊んだの?とかどんな食べ物が気に入った?とか個人的な話題も共有しましょうよ」
そう言ってイングリッドは口を尖らせる。コーラルもルカリアにはその発想が無かったのか、今気付いたと言わんばかりに「あぁ!」と声を揃えた。
「なるほど。確かに私達というか主に私は付き合いが浅いですし、そういった会話も円滑な友人関係を続ける上で必要だって言いますもんね!」
「だな。てかそんな事言うとか、ルカお前絶対友達居ないよな、いや出来ないよな」
「言い換えないで下さい。あとコニーも気付いなかったじゃないですかボッチ王子」
「ほらもう2人とも一匹狼タイプなんだから揉めたって意味が無いでしょ」
口を開けばポンポンと飛び交う会話。しかし埒が明かないとイングリッドが口を開く
「私はあの事件の後、本当にいつも通りの生活を送らされたわ。勉強勉強勉強の毎日で特に面白いことを言えないのが残念ね。だから事件の詳細も分からないからそこを今日は教えてもらいたいわ」
「俺も同じく。あの件については報告は受けているけど、全ての情報かと言われたら疑問が残るとこだな」
「あら、コニーですら情報規制されていると?」
「さあな。ただ俺が疑ってるだけ」
コーラルは肩をすくめ、背もたれに身体を預けた。その様子に何か思うところがあるのかイングリッドは手を頬に添え考えこんでいる。
「真偽はどうであれ、コニーが掴んだ情報を教えてもらえますか?」
「あぁ。俺たちが巻き込まれた地下の闇オークションだが、規模はそう大きくなかったようだぜ。というのも本来は違法入手した骨董品や美術品がメインだったらしい。騎士団が介入して組織の大半は壊滅、商品は全て差し押さえって感じだ。だがどうやって俺たちを転移させた魔道具を手に入れたのか、そして地下牢で見た捉えられていた人間たちがどうなったのか…俺はその報告を受けていない。本来俺たちが知っているはずがない情報ゆえに深く聞くことが出来なねぇしな。」
「そんな…じゃああそこに居た人たちはどうなったの!?牢の中に人がいたのは私たち三人で見たわ!」
イングリッドは震える指先で口元を隠しコーラルに詰め寄る。その顔は青ざめており、酷く動揺しているようだった。
「俺たちが暴れている間に急いで別の場所に移したか、あるいは…」
「騎士団が…国が隠している?」
「かもしれねぇ」
先ほどまでと打って変わり、二人の間には暗く重たい空気が流れている。彼らにとっての敵である国の手がどこまで広がっているのか。五歳と幼く、取れる手段が限られいる現状では、強大過ぎる相手の一端を掴むことすら出来ないのだった。
「なるほど…というか今更なんですけど、どうしてお二人は大人を警戒…というか敵視しているんですか?」
ルカリアはこれまで「ふんふん」と、さも自分は分かっていると言わんばかりの雰囲気を醸し出していたが、そもそもこの国の情報どころか文字すら危うかったのである。無一文で見知らぬ土地に飛ばされた彼女だが、基本ポジティブで面白そうなことが好きな性格ゆえに、イングリッドとコーラルという退屈とは真逆の存在と行動を共にすることを決めた。つまり深い事情を聴かずここまで来たため、いよいよ話が見えてこなくなったのだった。
そしてそんな様子を知ったイングリッドとコーラルは、先ほどの深刻な顔を驚きに染めルカリアの顔を穴が開くほど見つめていた。
「えっあっ!?言ってなかった!?」
「そもそも俺らルカにどこまで現状を伝えてんだ?」
「いやぁ正直お二人が地位と宗教どちらも権力を持っていることと、なんか過激派思想の反王国主義者ってことくらいしかわかってないですね」
「違うと言い切れないが、お前が俺達をどう思っているのかよぉく分かった」
そこからは反逆者二人による王国の闇暴露大会が開催された。
スローガンは
『維新・刷新!首打ち国王晒し首☆』
ルカリアは何処の過激派テロリストだと突っ込みたかったが、それがこの時代の文明かと無理やり納得した。こうして謀反の片棒を担ぐことになったルカリアは、密かに決意する。
『二人が道を外さないよう見守っておこう』
かくしてルカリアはボケ担当からツッコみ役へジョブチェンジを誓ったのだった。
それはそうとルカリアは街を数日歩き回り言葉を覚えていったが、基本的な国や地域特有の気候など多くのことを知らずにいた。図書館なんてものは無く、本を手に取ったのは王城に滞在していた期間…それも子供が暇を潰せるようにと配慮された内容であった。マティスロア家に住み始めてからは幅広い分野を読んできたが、それも専門的な内容であり基礎を知らないゆえに知識に偏りがある。
「そう言えばルカに会ったら伝えておきたいことがあったんだったわ」
「なんですか?」
「領地もちの貴族の子供は基本王都にいるの。そしてどこの家も大体七歳くらいから各家で家庭教師を迎えるそうよ」
「ほうほう」
先ほどの説明で喉が渇いたのか、カップを片手にのんびりとした雰囲気が流れる。
「そして家を継ぐ子と魔法が使える子は否応なしに12歳から学園に八年間入ることになるの。つまり私たち三人に残された自由時間はあと七年…それまでにあらゆる力を手に入れる必要があるわ」
「力ですか…」
ルカリアは覚悟を持った瞳に貫かれ、その言葉の重さを噛み砕く。七年という時間をどう捉えるか。それは同時に自身の持つ能力が与える影響を意識する機会となる。現状魔法が発達しているとは言い切れないこの国で、ルカリアの力はそれだけで国を落とせてしまうものだろう。そうでなくとも諜報や資金集めなど簡単に出来てしまうのだ。
ゆえにルカリアは選択しなくてはいけない
「私達には使える人材も資金も情報も何も無い。与えられた権力の椅子に座らされているに過ぎないもの。そして身を守る術であった魔法も過信できない……」
「残り7年で俺達に賛同する仲間、資金、武力を手に入れる」
あの日、目の前の2人を巻き込んだあの時、ルカリアの心に浮かんだ純粋な疑問
『強い光を放つその瞳の先に何があるのだろう』
初めて交わす同世代との会話は、前世の記憶や書物で知るだけのものより心地よく楽しかった。友人と思えるほど、短い時間ではあったがあの牢でのお茶会は特別な思い出なのだ。
ならば幼い身で自らの現状に疑問を持ち、行動を起こそうとしている彼らに出来ることは何か…それは
「では私はお二人の最初の仲間として魔法を伝授致しましょう」
例えそれぞれに隠し事があったとしても、それがこの3人の在り方なのだ。
「私がお2人に武器を授けます」
だからルカリアは表に立つことはやめた
影として赤く燃え盛る炎に薪をくべる為に
◇イングリッド視点
部屋に1人きりとなり息を吐く。日課となっている日記に今日あった事を書き連ね、久しぶりに会えた友人達との会話に思わず頬を緩めてしまう。
元々こちらから願い出ようとしていたことだけれど、ルカに魔法を教えてもらう約束を取り付けられた事は良かったわ。
コニーと話し合った結果、私達はルカを兵器として使う事は有り得ないの。それは私たちのプライドの問題もあるけれど、何よりも疑心暗鬼になっている私とコニーが、心から気を許していられる相手だからかしら……友達なの。
見栄っ張りでプライドの高い私達、まぁ主に私とコニーだけれど、隠し事や本心を晒すことに抵抗がある。多分それはルカも。あの子も笑顔の下で相反する感情を抱えているんでしょうね?
それでもそれが私達なんでしょう。お互い隠したい事には触れず、肩を寄せ合う居心地のいい場所。
「ふぅ」
広い部屋に置かれた寝台の天蓋を下ろし目を閉じる。月明かりすら通さない真っ暗な闇の中、不安に身を竦ませ布団を深く被った。学園に閉じ込められるまでの残りの時間、その少なさからくる焦燥
にゲームの存在を強く意識してしまう。
「ヒロインは…無事なの?」
あの日見た牢の中には暗くてよく見えなかったけれど、確かに人間が居たわ。牢から離れ人気がない所で魔法を使ったから、爆発による崩落は私達がいた所くらいだったはず……ならあの人達は今何処に?
本来ヒロインとコニーが巻き込まれるはずだった誘拐……だけれどそこにはルカという異国の少女と悪役令嬢である私が舞台に上がった。つまり攻略対象との最初の出会いが無くなっただけでなく、最悪ヒロイン自体が退場した可能性さえあるわ。
ヒロインがあの日誘拐されていなければ……。分からない。牢の中を確認することは叶わなかったもの。でも今はどうすることも出来ないわ。
ならばやる事は1つ
ゲーム開始までに力を蓄えることよ




