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マティスロア家の家令

イデアーレ王国の王都ラナスティア


その貴族街の一角にマティスロア侯爵家は屋敷を構えております。


私はマティスロア家の家令として、坊ちゃん…いえ今は若旦那様ですね。次期当主セドリック様を支えるべく、現当主である旦那様の元を離れ王都の屋敷にてその務めを日々全うしております。それはセドリック様が士官学校を卒業され、王都の守護を目的とする第一騎士団への所属が決定した頃からです。


故に私はセドリック様が主となった王都の屋敷をずっとお傍で見守ってきておりました。ご婚約者様であった若奥様をお迎えし、お二人のお子様に恵まれたこともあり、セドリック様お一人だけであった頃よりも屋敷全体が賑やかになったと感じておりました。


さてそんなマティスロア家ですが、この度新たなご家族をお迎えする運びとなりました。



「こんにちは、初めましてルカリアと申します」



セドリック様と共に馬車から降りたそのお方は、この国では珍しい光輝く金色の髪に澄んだ紫色の瞳、そして誰もが見惚れるような美しい顔に笑顔を浮かべ、私ら使用人に頭を下げお声を掛けてくださったのです。その様子にご家族より一足先にエントランスにてセドリック様とお嬢様をお迎えしていた我々は、セドリック様が以前より仰っていたご感想に深く頷かざるを得ませんでした。

そして坊ちゃんと同じ年頃だと伺っていただけに、その落ち着いた様子や利発的な眼差しにお二人を出迎えた使用人たちは私も含め安堵と期待を抱いてしまったのは仕方がない事かもしれません。それは彼女を紹介するセドリック様の柔らかい雰囲気を感じる程より実感し、新たにお仕えする侯爵家のお嬢様の存在を大きく印象付けるきっかけとなったのでした。







遡ること三週間ほど前でしょうか



我々上級使用人には事前にセドリック様より、王家(殿下)からの打診である少女を養女として迎え入れることになりそうだと伺いました。その少女はこの度のコーラル殿下とその婚約者バーグマン家の令嬢誘拐事件を引き起こしたとされる組織に関わっており、お二人の救出に尽力したこともあり友誼を結ぶ運びとなったそうです。


我が国では滅多に見られぬ容姿や優れた魔法を使うことからも、異邦人であり年齢故にスパイや暗殺者などの危険はないとの判断が出た様で、本人の希望や殿下の希望もあり今後臣下として重宝するとのこと。それ故に確かな身分を用意しこの国での後ろ盾を得て地盤を固めると共に、少女の心の拠り所になることを期待されているとセドリック様は仰っておりました。



「殿下はその少女のことを甚く気にいっておられるようだ。能力はもちろんはっきりと意見を申すところを高く評価している。この話も殿下がかなり慎重に進めていることからも、私たちに求められていることは幼い少女の心の拠り所…といえば聞こえはいいが、少女がこの国を裏切るもしくは出ていくことがないよう頸木となれということだろう」


「それは聊か考えすぎでは?確か殿下はローガン坊ちゃんと同学年だったと存じておりますが」



私ども上級使用人はセドリック様が生まれる以前から侯爵家にお仕えし、領地におられる旦那様より差し出がましくも次期当主(セドリック様)を教え導く立場を任されております。それ故に執務室には気心の知れた者たちが具申することもしばしばあります。



「殿下は恐ろしく聡明なお方だ。それは幾度か交わした限りだが婚約者のバーグマン家の令嬢にも言えるだろう。あの方たちをただの子供だと見誤ると痛い目を見ることになるだろうな…」



そう仰るセドリック様の表情は慣れ親しんだ者たちには分かる優しさを含んだものでした。あぁ、旦那様に似て…いえ最早マティスロア家の男児はというべきか、セドリック様のお顔立ちは鋭く整っている故の迫力と見事に鍛え上げられた体躯から発せられる圧力、あまり多くを語らずかといって目は鋭く雄弁といえば良いのでしょうか…少々周りの方々を威圧されてしまう傾向にあります。


勿論私どもは幼少の頃から存じておりますゆえ慣れておりますが、マティスロア家の男児は皆様少々誤解を招くことも多いのです。故にセドリック様がコーラル殿下の専属騎士を拝命する運びとなった時はかなり心配したものです。おっと思考がそれてしまいました。



「そんなお二人と友誼を交わす少女だ。まだ私の所のに話が上がっているだけで、その少女の返答次第でどうとでもなるそうだが、念のため準備を進めておいてくれ。はぁ…殿下はいつも突拍子もない事を…。そんなわけだ。かなりの曲者だろうが、殿下の申し出は断れん。この件はイザベラも了承している。というか乗り気だから明日から忙しくなる。皆そのつもりでいてくれ」



こうして侯爵家では少ない情報の中幼い少女を迎える用意が着々と進められていきました。


そんなある日


執務室にて一日の屋敷内の報告を行っていた私は、いつにも増して眼光の鋭い主人の様子にセドリック様の乳母兄弟であり従者のアロイスに目を向けました。このような状態ですが恐らくセドリック様は上の空で私の報告も聞き流しているのでしょう。長年の勘がそう申しております。



「あはは…クリストファー様にはバレバレですよね。いや実は…」


「天使に出会ったんだ」


「……申し訳ございません。もう一度お聞きしても?」


「今日例の少女と出会ったんだ。あの子は天使だった」



自分の耳を疑いましたが何度聞いても答えは変わらぬようです。この方は真面目な顔して何を言っているのでしょう?アロイスもこれには触れたくないのか、口を押えセドリック様を可哀想なものを見るような目でみています。いえあれは内心笑ってますね。


しかしこれはどういうことでしょう?元々旦那様もそうでしたが思っていることが表情と言葉に出ないお二人は、その内面は普段とは比べ物にならないほど饒舌で陽気…愉快…といえば良いのか、かなりのギャップがあります。最もそれを知るのも酔い潰れてしまう程に気心を置く人間や伴侶の前だけでしょうが…



「アロイス。セドリック様は酔っ払っていらっしゃるのか?」


「素面です。信じられないことに一滴すらアルコールは摂取しておりません。頭を打ったわけでもないのでこれは正常の思考下での発言かと」


「そうですか…」


「お前たち失礼だな」


「セドリック様…冗談は真顔で言うもんじゃないんですよ?せめて口角を上げるくらいして下さいよ」



残念ながらセドリック様は正常運転だそうです。そしてアロイス。いくら何でも主人の頬を無理に上げようとするのは止めなさい。セドリック様は冗談ではなく本気で仰っているんですから。その後の説明で養子の件は少女の了承を得たため、当初の予定通り準備を進めよとのこと。




この日以降セドリック様の症状は悪化の一途を辿るばかりで、何か魔法をかけられたのではと疑ってしまうのも一度や二度ではありません。当初セドリック様は少女に対しての関心はそこまで高くなかったように思います。それが今では口を開けば早く屋敷に迎えたいとばかり。さらには…



「いや本当に天使がいました」


「娘が可愛すぎて私どうかしてしまいそうよ」


「そうだろう、そうだろう」


「あぁ…これって感染性なのですね」



とうとうアロイスと若奥様まで天使病を患ってしまったようです。事前の顔合わせのため王城にてセドリック様とイザベラ様、従者のアロイスは件の少女ルカリア様とご対面されたそうで、その感想は以前のセドリック様同様「天使」の二文字でした。正直怖いです。しかし今のところ実害もない状態でただの家令に出来ることはなく、ルカリア様が正式に侯爵家の一員となり屋敷にいらっしゃる日を待つしかありません。




そしてその日がやってきたのです。







「お前変だな!」








この酷く美しい少女が天使か悪魔か


私はマティスロア家の家令として見極めなくてはいけないのです。




















ちなみにこの国に「天の使い」的な意味の「天使」はいません。

この小説はあくまでこの世界の文化を私たちの次元に起こしたということが前提であるため、彼らの中では私たちが想像する「天使」と呼ばれる言語やニュアンスがここに収まるわけです。つまり後に出でくる話で違和感が発生した場合、それはこことは異なる世界で文化形態を持つイデアーレ王国と私たちの理解を合わせるうえで生まれたズレだと理解してください。作者自身この設定を偶に忘れてるので、疑問を感じたらコメントください。


ちなみにこの法則を覚えていると後々物語の謎に気付けるかもしれません

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