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暴走児

――遡ること牢の中――



「二人とも耳を貸せ」



ルクレツィアから「牢に誰か向かって来ている」という情報を得たツヴァイは、先ほどより音量を下げ蹲った状態で二人に目配せをした。時間が残されていないことを悟った二人も直ぐに意図を察し、声が聞き取り易いようコーラルの近くに蹲る。



「時間がないから簡潔に言うぞ。恐らく今から来るって奴らの目的は俺たち商品の検査とラッピングだ。下手な不良品を扱うような三流が、こんなに堂々と王都で闇オークションなんてしないだろうからこの二つは間違いないと考えていい。


特に衣服なんかは間違いなく着替えさせられて燃やされるだろうし、わざわざ別室で風呂(洗浄)して着替えなんてのも攫われたての俺たちには必要ない。だから二人は…そのここ(人前)で着替える可能性があるってことを覚悟しとけ」


「あらやだツヴァイが紳士ですぅ~」


「ひゅ~このエセ王子ぃ~」


「おい茶化すな馬鹿二人」



真面目に話していたツヴァイは二人のニヤニヤと揶揄ったような言い方に、怒りで上げた口角と笑っていない目で睥睨する。そうして緊張感の足りない二人の口を閉じ、再び計画の内容について語り始めた。



「ルカの腹時計を信じるなら今は夕方。こんな後ろ暗いオークションが始るとしては早すぎる。だからあっち()は用が済み次第ここから出るはずだ。そして完全に姿が消えたら脱出開始だ。」


「ツヴァイ何だか闇オークションに詳し過ぎじゃない?従業員なの?運営側なの?着替えの為じゃなくとも、敵が私たちを監視しやすいよう別室に移すかもしれないじゃない。」


「あ、それ私も思いました。あと腹時計じゃなくて時間感覚といって欲しいものですね!」



ルクレツィアは最後の訴えは真剣な表情の二人に無視されつつも、特に気にした様子もなく会話に耳を傾ける。確かにツヴァイが言っていることは可能性がないとは言い切れないが、リーリヤが言うように別室に連れていかれ三人を別々に分けられることもあるかもしれない。


『臨機応変』言い換えれば『行き当たりばったり』が行動の根幹を占めているルクレツィアも、流石にこれから先付き添うと決めた王子と公女相手に無計画で動くのは問題だと理解している。それゆえに時間がなくとも、ツヴァイの想定以外も視野に入れる必要があるのだ。



「詳しい…か。まぁここから出たらお前らにはちゃんと説明する。だから今は俺を信じろ。とりあえずここから出るのは競売に賭けられる前だけだ。これは俺たちが上物(・・)だとしても別室に移されることは無いって言い切れる。」


「分かったわ。なら敵が会場の方へ戻るのを確認してからこの牢から出るってことね。でもどうやって?」


「そりゃさっき鉄格子を腕力で曲げようとした…」



ルクレツィアは二人の視線に対して「あはっ!」とウインクを返した。その様子に毒気を抜かれた様にツヴァイとリーリヤは顔を見合わせ苦笑した。本来ならば競売に賭けられる事に怯え、今も敵が自らがいる牢へ向かってきていることに緊張すべきだろう。


しかしそれもこの少女なら何とかなると思ってしまうのだから気が抜けるのも仕方がない。本人の会話からも茶化すような言葉で自然に気を張ってしまう二人から肩の力を向いてくれるのだ。出会ってまだ数時間という短い付き合いだが、まるで親しい友人のようにスッと馴染んでしまうのは彼女の性格か。ツヴァイとリーリヤは軽く息を吐くと、笑みを浮かべ口を開く。



「まっ、ルカが居れば音を立てずに牢から出られるわね。それで?出た後はどうするつもり?」


「そこからは誰にも見つからないように遠くへ移動だな。んで施設の天井ぶっ壊して脱出成功」


「えっ、一気に説明が雑になったんですけど」


「あら、もう今いる牢屋の天井ぶっ壊せばいいんじゃないの?」


「え、ちょ、リリーも落ち着いてください。もっと穏便に行きましょ?ここの場所も敵がどれだけ居るか分からないですし、コッソリ抜け出して気付かれる前に安全な場所まで行けばこっちの勝ちですよ!」



どこかの老人(ゴルバチョフ)や|一言多め系失礼な従者たち《ピスティスとラトレイア》からじゃじゃ馬だ破壊神だと言われ続けられてきたルクレツィアも、この二人の突拍子もない提案には突っ込まざる負えない。


勿論人身売買の組織がいくら大きく全面戦争となっても負けるつもりはないが、これからこの二人と共に歩みを進めるうえで早速この国のブラックリスト入りは御免被りたい。現状身寄りのない孤児であるルクレツィアにとって、身分の高い二人のそばに居るためには、自身の有用性をアピールしなくてはならないのだ。引きつる頬で何とか思い直してもらうよう言葉を尽くそうとする。



「いいかルカ。俺たちが今捕えられている牢や競売の会場は王都の可能性が高い。城や公爵家で俺たちを探している中、城下で爆炎が上がって見ろ。この国でそんなこと出来るって言ったら真っ先に俺たち【太陽神の愛し子】を思い浮かべるはずだ」


「要は目立って脱走&誘拐組織撲滅計画よ!派手に行きましょう」


「ぇぇぇ…いやいや問題ありありですよ!?まずどうしてここが王都だと言い切れるんですか」


「あーここ王都には強力な結界が張ってある。だから如何に帝国の魔道具が優れていても【転移】はその中でしかできないんだよ」



ツヴァイの説明に「結界…強力…」と呟きながらも脳裏に浮かんだ疑問を掻き消し、ルクレツィアは理解したように頷いた。そしてさらに浮かんだ疑問「でもそれじゃあ尚更駄目じゃないですか。この施設が地下にある以上、上に民家があれば…」という言葉で再度頬を引きつらせることになる。



「ふっ…その場合はそういう星の元に生まれて来たってことで諦めてもらいましょう」


「あぁ善行を積んでいればお優しい女神様が助けてくれるだろうよ」


「諦観の笑みで指を組まないでくださいよ、発想がテロリストなんですけどこの国大丈夫ですか?王子と公女の教育間違ってません!?」



最早白目を剥いてしまいそうになりながらルクレツィアは二人の方に手を置き揺さぶった。正気を取り戻してもらいたいと切実に願うばかりである。そしてその思いが通じたのかツヴァイとリーリヤは胸の前で組んでいた指を外し、「ニパッ!」と音が出るような笑みを返してきた。



「まっ!冗談なんだけどな!」


「んぇ?」


「ちょっとルカ、私たちがそんな無責任なこという訳ないでしょ?冗談に決まってるじゃない」


「お、おぉう!分かっていましたよ!えぇ、冗談だろうなって思っていましたとも!」



明らかに二人の冗談(凶行)を真に受けていたルクレツィアの様子に、ツヴァイもリーリヤも心外だと言わんばかりにジト目で睨んでしまう。



「だが施設爆破は決定事項だがな!」


「やっぱ駄目じゃないですか!?」






こうしてルクレツィアの説得も虚しく、夜の王都は爆炎に包まれたのであった。






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