牢屋で交渉
「いや私もまさか闇オークション組織なんて大物引っかけるとは思わなかったんですよ。まぁ王子様と公女様も引っかけたんですけどね!ハハハッしんどい!てことで私と雇用契約結びません?」
「「よし乗った!」」
「はぁ…さっきから本っっ当に息ピッタリですね。ていうかもう自棄になってませんか?私が持ち掛けておいて何ですがよく考えましょうよ?私中々に怪しいですよ?裏切っちゃうかもですよ?」
「いやお前から言われなくとも俺はルカの力を借りれないか交渉するつもりだったぞ。正直俺とインジーだけでここを抜け出すのは厳しい。現に体の動きを制御され魔法を使うことも出来ずここに収容されたしな。騎士団の救助を待つにしても俺たちが大人の目を盗んでここにきている以上、間に合わず売り飛ばされる方が早いだろう。ならいくら怪しくとも自身の有用性を提示してきたルカの提案にのる。それにまぁ罪悪感あるんだろう?なんせ俺たちの身体の動きを止めたのはお前だもんなぁ?」
そこでルクレツィアは思わず表情を動かしてしまい、コーラルの悪い笑顔の前に屈してしまった。正直罪悪感はないといえば嘘になる。ルクレツィアの身勝手な判断で想定以上の危険な場所に連れてきてしまった故に、確実に無傷で返すことは決定していた。しかしその巻き込んだ二人がこの国の王子と公女。それも象徴的な地位についていることで、ただ無事に返せばいいだけでなく姿を消したことで発生した混乱への責任まで持たなくてはいけなくなったのだ。つまりルクレツィアにとって”罪の意識がある”ということは、身体の自由を奪い意図的に事件に巻き込んだ事を肯定することであり、同時にこの交渉の主導権を失ったことになる。
「どうして私が?あの怖い人たちの魔法とは思わないですか?」
「それはあり得ない。そもそもルカは勘違いしてるぞ」
「何をです?」
「この国じゃ魔法が使えるというか魔力を持つやつ自体が極少数で、そこから魔法を発現となるとさらに数は少ねぇ。んでその実力も一部を除けば大したことは出来ないんだ。まして人の言動の自由を奪うなんてそこらの悪党に居てたまるか」
「なるほど、あぁそんな国で規格外の力を持つのが【太陽神の愛し子】って訳ですね。それでは他国の線は無いのですか?」
「いやそれは…ってあぁそうか」
コーラルは何かに気づいたのか、ルクレツィアとイングリッドの顔を見比べ頷いた。その様子に何が何だか理解していない二人は顔を見合わせ首を傾げた。
「コニー?私たちの顔を見て何が分かったのよ?」
「なぁ俺とインジー、ルカの顔立ちをみて何か思わないか?」
イングリッドはその言葉に疑問を浮かべながらもコーラルとルクレツィアの顔を見比べる。ルクレツィアも亜空間から鏡を取り出し自身と二人を比べる。しかし二人とも分からなかったのか諦めたように溜息をつき、コーラルに正解を求めた。
「残念ながら二人の顔が強すぎるってことしか分からなかったわ」
「それはどうも。私も造形を無視してみても特に何か思うことは無いんですが…ツヴァイ、じゃなくてコーラル殿下は何か気づいたんですか?」
「俺もインジーも公の場じゃなければ呼び捨てでいいぞ。まぁ今はこんな状況だし偽名の方で頼むが。ってことで答え合わせだな。ルカが言ったように造形とかは無視で俺たちはお互いの顔を見ても特に思うことは無い。それは顔立ちの根本が類似しているからだろうな。でも、それは俺とインジー…だから言えることだな。」
「あーそう言われれば確かに!私とコニーって何となく他と顔の雰囲気が違うなってことあったわ。髪色とか印象の違いかと思っていたけど。じゃあ私たちって遠い祖先はルカと同じ人種ってことなのかしら?」
「まぁそれは今は置いといて、つまりそのちょと違うっていうのが重要なんだよ。ルカお前この国に飛ばされたって言ってたよな?ならそもそもその国の国交や形すら知らないんだろ」
「そうですね。言語習得と市場を楽しんでいたので細かいことは後でいいかなーって…あーそういうことですか」
ルクレツィアはいきなり知らない場所に飛ばされたにも関わらず、呑気に街を散策していたことを後ろめたく思いつつコーラルの言いたいことに気づいたようだった。その様子にイングリッドはますます混乱する。そもそも牢屋に転移させたあのガラの悪い男たちの話から、どうして自分たちの顔や人種の話が必要になったのかが分からずにいたからだ。
「この国は島国で単一民族国家、それも鎖国状態かそれに近いために外国人の流入は限られているんですね。そうじゃないならば、周辺の国とも根本の人種は同じでかつ互いの国民同士ではそのニュアンスの違いで見分けがつくと。外から来た私にはその顔の微妙な違いが分からないですし、正直パッと見て見分けもつかないです。」
「その通り。この国は周囲を海で囲まれているし隣国といえるのは一国だけ。んで特に王都なんかではまず他所の国の奴は見かけないし、いたとしてもその顔立ちは微妙に違う。コイツは意識してなかったみたいだが、俺とインジーはこの国じゃ顔立ちが違う。まぁ上級貴族…王家と縁が深い家なんかは似ている方だから、それが【太陽神の愛し子】の特徴かどうかは知らねえがな。だから俺たちはルカに違和感を感じずにいたが、傍から見たらお前は他国の人間だって直ぐに分かる。」
「そんなに目立ってたら誘拐犯に目を付けられても仕方ないわね。ん?じゃあコニーが顔に【認識阻害】をかけていたのもそのせいなの?」
「今気づいたのかよ…。お前は他の貴族と一緒で髪色を変えれば分り難いから良かったが、俺は明らかに誤魔化せないレベルで顔の造りが違うからな。一番ルカの人種に近いんだろ。」
コーラルはひっそりと溜息を吐き、イングリッドの反応も仕方ないと思っていた。元々鏡で自分の顔を確認することもない貧民街で生まれ、訳あって王子として王宮にあがったコーラルだからこそ気づいた違和感。イングリッドは生れついてからその高い身分ゆえ、使用人のいる生活に慣れその顔を意識することは滅多にない。顔を見合わせる貴族も高位の王族に近いく遠い血縁関係にある者ばかりで、平民と貴族、下級貴族と上級貴族、の顔立ちに微妙な差があることを知り得なかったのだ。平民の中で生まれ育ち、貴族という世界に飛び込んだコーラルだからこそ知るこの国の人の枠。【太陽神の愛し子】であり王子という立場から他国の要人の顔を見たこともある人種の違い。それらを踏まえコーラルはルカという少女の正体が、今後自分とイングリッドの目標の鍵になる気がしていたのだった。
「ゴホンッ。あーつまり私たちを牢屋に転移させたあの三人組はどう見てもこの国の人間であり、身体の自由を奪うなんて魔法は使えない。だからわざと捕まったと自白した私はそれと同時にお二人も意図的に巻き込んだ…と。」
「そう。だから俺はお前の罪悪感に付け込ませてもらうぜ?勿論報酬は約束するし出来る限りの願いは叶える。王子と公女の誘拐なんだ、この犯罪組織はどちらにしろ壊滅させられるだろうよ。その時にお前が命がけで俺たちを守ったって証言と、この国での生活と身分の保証をする。”飛ばされた”んだろ?どの道この国を出るのは容易じゃないし、暮らすにしてもその歳じゃ浮浪児の仲間入りだ。ならいつかお前がこの国を出るその日まで、俺の元で働いて俺たちのためにその力を貸して欲しい。」
「私からもお願いします。本当はルカ一人でこんな所今すぐ抜けられるんでしょう?多分私たちは碌に役に立てずルカに任せっきりなってしまうでしょうね…だから貴方の善意を利用する形でごめんなさい。それでも私を…コーラル殿下を助けてください。」
ふざけた雰囲気は一切ない真剣な赤い瞳に、ルクレツィアは内心気圧されていた。自分から持ち掛けた話がいつからかコーラルとイングリッドから懇願される形になっているのだ。勿論ルクレツィアはその依頼を断るつもりはないし、二人を助けたことからこの国で便宜を図ってもらえないか交渉するつもりだった。そしてコーラルの交渉とイングリッドの願いだ。
『主様ぁここで断ったら人でなしなのですよ~』
『そりゃ”いい人生経験になる”とか言って王子と公女を巻き込んだんだもんな~?あーあ、この二人は善意で怪しい路地に猫追いかけていくルクレツィア様を注意しただけなのに、災難だったな本当に。』
『ぐっ…私が軽率でした…』
『挙句の果てに”王子と公女だし助けたらこの後の生活保障してくれないかな~”なんて思ったりしていたりしていなかったりぃ~?』
『ちょっ!ピスティス私の心を読まないでっ!そんな恥知らずなこともう捨て去ったわよ』
『”もう”なのですか。ふぅ~む?』
『あ”っ』
『ルクレツィア様これはもう身を粉にして仕えるべきじゃないか?どうせ人の命なんて100年かそこらなんだ』
『それがいいのです!何より二人とお話している時の主様はとっても楽しそうだったのです!ならラトは主様がワクワク出来る選択を押すのです』
ピスティスとラトレイアから伝わるルクレツィアへの思いに胸を熱くしつつ、ルクレツィアはハッキリとした意思を持って目の前の二対の赤い瞳を見返した。宝石のような、燃える炎のような瞳がぶつかり時が止まったかのような空間。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
期待と負い目、ほんの少しの喜びを含んだ声がそっと置かれた




