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乙女ゲームの記憶

初めは何をしているのかわからなかったコーラルだったが、次第に目を見開き驚きを露わにした。イングリッドへ空気中から光が集まりだし深紅の髪がキラキラと輝き波打っているのだ。そして更なる衝撃な出来事が目の前に現れる。



『来て』



いつものイングリッドとは違う神秘的な雰囲気の彼女から発せられた言葉の次の瞬間、コーラルの眼前には黒炎に包まれ彼を見つめる少女と目が合った。


ドクンッ


コーラルは何度も目を合わせ会話し時には悪口の応酬を繰り返した相手であるイングリッドが、何か知らない得体のしれない誰かになってしまったように感じた。しかし目が合った瞬間に感じた心臓を掴まれたような衝撃と熱を持った頬が些細なことを頭から消し去ってしまう。だがそれも一瞬のことでコーラルは未だ高鳴る鼓動を抱きつつ顔を引き締めイングリッドを見つめる。



「…インジーそれは詠唱省略?」


『そうだけどそうじゃない…多分私とコニーしかできないんだと思うの。先生が教えてくれた魔法と違うし…それにもう一つ見せたいものがあるの』



そう言ってイングリッドは輝く瞳を再び閉じると、同時に彼女の周りの黒炎と髪の輝きも消えいつもの婚約者に戻ったのだった。コーラルはいつもの彼女に戻ったという安心とあの姿をまだ見ていたいという気持ちに見ないふりをし、ひとまず現状を理解することに努めた。如何なる場合でも冷静に正確な判断と思考を巡らせることが、コーラルという幼い王子が王城で取り込まれない唯一の防御であり武器でもある。感情に流されないようにしつつも目の前で起こった現象への戸惑いと疑問は尽きない。


イングリッドは彼の様子に気づきながらも右手をコーラルに差し出す形で動きを止めた。目を瞑りやや眉間にしわを寄せ唸ったかと思えば、ボウッという音が鳴り小さな手の平から真っ赤に燃え盛る炎が立ち昇ったのだ。



「無詠唱!?」



コーラルは立て続けに起こる奇跡に混乱した。しかし疲れたように地面に座り込んでしまったイングリッドに慌てて近づく。



「ふぅ…どうよ?まだ慣れてないから凄く集中を必要とするのよね。でも練度を上げればいずれこの国の魔法を超えることが出来ると思うの。つまり背中はこの剣ことイングランドに任せなさい」


「は…ははっ、お前ほんと…わっけわかんねぇことばっかしやがるな」



疲れた様子を隠そうともせず地面に寝転んだイングリッドは隣に座るコーラルを見上げドヤ顔で笑った。その様子に放心していたコーラルはつられたように笑いだし彼女の赤い髪を撫でた。


イングリッドは屈託のないコーラルという少年の笑みを見て心が満たされるような幸福を感じた。しかし自分のなかに芽生えた気持ちの正体は曖昧で彼女はそれを突き止めることはしなかった。


そしてイングリッドはコーラルに忠誠を誓った日の夜に見た夢を思い出したのだった。














『わぁ可愛い猫ちゃん!どこに行くの?』



そう言って肩に届かないほどの桃色の髪を揺らし少女は路地へと足を踏み入れた。そしてそれの姿を見つめる影が揺れ場面が変わる。



『あれ、猫ちゃんどこー?』



猫を追いかけて薄暗い路地の奥に辿り着いた少女は自分が知らない場所へ迷い込んだことに気づいたのか、不安そうな顔でキョロキョロと周囲を見渡していた。少女は5歳くらいだろうか、桃色の髪はフワフワと柔らかそうな見た目であり同色の瞳は少し垂れ愛らしく優しい印象を与える。不安からか涙を蓄えた瞳と下がった眉は庇護欲を煽るのか、いや悪い大人を引き寄せたのか、少女の背後から伸びた影が彼女の口を覆う。



『んんー!?』



そして場面は暗転した。


暗転した画面には黒髪黒目の女性が反射し映っていた。ポニーテールの女性は20代前半くらいだろうかやや吊り上がった目元はキツイ印象を受けるが、バランス良く配置された目や鼻が美人といわれる顔立ちなのが分かる。



――ヒロインいくら幼いからって怪しい路地に入っていくとか本気!?警戒心なさすぎ、本能仕事しろよ…これが猫の誘惑なの…?猫アレルギーには分からないわ――



そう言って黒髪の女性は再び画面に目を向けた。



『ん…ここは、えっ』


『気が付いた?』



そう言って桃色の髪の少女は冷たい石の床で目を覚まし同時に聞こえた声に驚き飛び上がった。目の前には同世代くらいの茶髪を後ろで三つ編みにした少年が心配そうに少女を見つめていた。少女は優しい空色の瞳に一瞬見惚れつつも声を掛けられたことで我に返り周囲を見渡し青ざめた。



『あ、貴方は?それにここは…』


『ここは非合法競売場らしいよ。君が眠っている間に男たちが来てそう言われたんだ。体調はどう?』


『だ、大丈夫。競売場ってことは私たち売られちゃうってことだよね?貴方は…どうしてここに?』


『君が路地に入っていく姿をみて追いかけたんだ。まぁ結果はこれだけどね』


『あ…ごめんなさい』


『気にしないで。それよりここから脱出して騎士団に通報しないと…』



少女と少年がいる場所は地下にある薄暗く不気味な雰囲気の牢屋だった。冷たく薄汚れた石の床と鉄格子が恐怖を与え、少女は震える体を抱え涙を零さないよう唇を噛んだ。同じように不安を抱えているだろう少年に、これ以上心配させまいとぎこちない笑顔を向けた。



『大丈夫、何とかなるよ』



何の根拠もない言葉だが少年はその言葉を発した少女の姿に惹きつけられた。訳も分からず怖いだろうに必死にそれを隠し笑みを見せる少女の強さが彼の心に勇気を与えたのだ。



『あぁそうだ何とかなる。だからここから逃げよう』



そう言って少年が小声で何か言うと鋭い火の刃が鉄格子を切り落とした。



『凄いもうこんな魔法が使えるなんて!』


『そ…そうでもないよ。僕の婚約…いや…僕は凄くなんてない。それより早くここから逃げよう』



キラキラと目を輝かせて褒められた少年は少し照れたように頬を赤らめ目をそらせた。しかし暗い顔で何か言いかけたが直ぐに真剣な顔で鉄格子からの脱出を試みたのだった。


そして場面が暗転し、暗くなった画面に黒髪の女性が反射した。



――うわっ何このブサイクって私か…しんど。ていうかこの少年無自覚なのか知らないけど性格悪くない?怯えてる少女に『君が路地に入っていく姿をみて追いかけたんだ。まぁ結果はこれだけどね』って。暗に『なんで怪しい路地に入んだよ、お陰で捕まったじゃねぇか』って聞こえたのは私だけ?私の性格が捻くれてるの?少女も危機感持てよ何が『凄い』だ、緊張しろ。あぁもう駄目よ、これ絶対捕まってロリコンの餌食になるのよ――



そう言って女性は画面に目を向けた。



『『はぁはぁはぁっ』』


『どこだっ必ず見つけ出せ!』



少年と少女は手をつなぎ必死に薄暗い迷路のような地下を走っていた。しかし子供の足では逃げ切ることはできず、二人は大人たちに見つかってしまう。そして少年は少女を庇う様に前に立つと『逃げろ』と叫び魔法を放った。



『大事な商品だ、大人しく捕まれってりゃいいものを』


『誰が捕まるかっ』



そう言って場面は戦闘シーンへと移った。






しかし大人と子供ではいくら魔法が使えるとはいえ勝つことはできず、少年は追手に髪を掴まれナイフを首に当てられた。



『手こずらせやがって!お前も痛い目に合わされたくなけりゃ大人しくしろ』


『うぅっ!良いからっ逃げろっ』


『やめてっ彼を離して!』



少年はボロボロになりながらも少女を逃がそうと暴れ殴られてしまう。しかし少女はその瞬間を見逃さず、少年に気を取られた男へ体当たりし噛みついた。



『ウガッこのガキッ!』


『きゃっ!』



少女は男に吹き飛ばされ壁にぶつかり咳き込んだ。少年はよろめきながらも力を振り絞り炎の壁で大人たちの目を遮った。



『今のうちに行くぞ!』



そう言って少女は手を引かれ場面は暗転した。



――もうこの女の子見捨てて逃げた方がいいんじゃない?大切な商品らしいし少年が騎士団?を呼べば事件解決よ。一緒に逃げずに置いていこうよ…って駄目だよね――



そうして場面は最終局面へ向かう。



『だ、大丈夫!?じゃないよね…とりあえず腕を止血しよ。痛いけど我慢して』


『っ!』



二人は走りつかれ少年が怪我を負っていたため物置の奥に隠れている。少女はここに連れてこられた時のような怯えはなく、しっかりとした顔つきでハンカチを取り出し出血の酷い少年の腕を縛った。そして目をつぶり何か唱え傷口に手を向けると、ぼんやりとした優しい光が彼の腕を包んだのだった。少年はその美しい光景に痛みも忘れ見惚れていた。



『へへっこれが私の魔法なの。先生たちには誰にも教えちゃダメって言われてるからこれは二人だけの内緒ね。でもごめんね、私まだ上手く魔法が使えなくて…止血くらいしかできないの。貴方はこんなになってまで私を守ってくれたのに』


『いや…君は十分凄い。回復魔法なんて珍しい魔法難しくて当たり前だ。それに…隠していたはずの力を僕のために使ってくれてありがとう』


『え、えっと、ど!そういたしまして!』



嬉しそうに微笑んだ少年をみて少女は顔を真っ赤にした。今まで必死で気が付かなかったが少年の顔は非常に整っていて、優し気なその瞳は晴れた空のように澄んだ水色だった。そして少女はそこで彼の名前を聞いていないことに気づいた。



『あ、そういえば貴方の名前は…』


『居たぞ!こっちだ』



二人は隠れていたがとうとう見つかってしまい、部屋から引きずり出されたのだった。魔力の枯渇と疲労で既に満身創痍だった少年は尚も少女を逃がそうと暴れたが、大のそれも裏稼業の男には効果はなく頬を殴られ気を失ってしまう。



『やめてぇ!』



ぐったりとした少年をさらに殴ろうとする男を止めようと少女が泣き叫んだ瞬間、彼女の髪を掴んでいた男の腕に火の玉が直撃しその手が離れた。それと同時に複数の足音が聞こえ、少女は目を見開き涙を流した。



『そこまでだ!』



そこには輝く銀の鎧と太陽のように人々の心を照らす真っ赤なマントを背負った騎士たちが居たのだ。少女は駆け付けた騎士の一人に抱きかかえられ保護されると、少年も同じように保護されている様子を見届け気を失たのだった。





二人を攫った組織は壊滅には至らず攫われた人たちも全てを開放することはできなかった。そしてあの後共に突き出された少女は教会関係者に引き取られ身元は不明のまま離れ離れとなったのだった。


広々とした部屋には豪華なベットに腰掛けた赤い髪(・・・)を三つ編みにし同色の瞳を持つ少年がいる。



コンコンッ


『コーラル殿下(・・)お求めのものをお持ちいたしました』



コーラルと呼ばれた少年は召使いを下がらせ一人になった部屋で、受け取ったそれに口付け微笑んだ。手にもつそれはあの時彼の腕を止血しようと少女が使ったハンカチーフだった。少年は少女の可憐な見た目からは想像もできないほどの勇敢な行動や芯の強さが現れた表情を思い出し心が温かくなった。



『魔法が使えるということは学園で会えるはず。楽しみにしているよ"フォリア"』


そう言って少年はハンカチーフにある名前の刺繍を大切そうになぞったのだった。





――プロローグ重たっ!本編でいいでしょこれ――





そしてイングリッドは黒髪の女性の言葉で意識は浮上し目が覚めたのだった。









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