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魔法少女

「なぁリンジー…」


「何よちょっと黙っててくれる?」


「いや…でもさ、お前…ぷっ、あはははははっ!やっぱ無理だ、なんだよそのへっぴり腰!あんなに自信満々に言っておいて…フハッ、クククッ…よ、よく俺の、剣に、なるなんて言えたなこの運動音痴」


「うっ煩いわね!大体うちは宰相や大臣を何度も輩出するほどの文官の家系なんだから、どうあがいても遺伝的に私の運動神経がいいわけないじゃないっそれくらい知っておきなさいよ!?」


「なんでだよ、逆切れするな」



イングリッドとコーラルはバーグマン家内の森で供を連れず二人だけで話し合っていた。婚約者同士の二人が仲を深めることは大人達にも都合がよく、普段は城で勉強やマナーを共に習い偶にコーラルがバーグマン家に訪れるという交流をしている。筆頭公爵家であり更には《太陽神の愛し子》を持つバーグマン家は王城に次ぐセキュリティと品格を持っている。その為元々我儘なお嬢様であったイングリッドや王子であるコーラルが言えば護衛や使用人は付き添うことも出来ず、二人は人の目のない空間を作ることに成功したのだった。


二人が打ち解けて数回目のバーグマン家訪問のある日、イングリッドはコーラルが持ってきた剣を両手で持ち構えようとしたがその重さと体幹の弱さで何ともみっともないポーズになっていた。コーラルはその様子を見て限界が着たのか吹き出し笑い転げ、イングリッドは腹を立てながら剣を地面に置きコーラルの腕をバシバシと叩いた。



「はぁ腹が痛てぇ、お前といると自然に腹筋が割れる…」


「そのまま笑い死ねばいいわ、ついでに言うと顎も割れているわよ」


「ゑ、嘘」


「嘘よ」



コーラルは顎に手を当て青ざめたが、舌を出しからかうイングリッドをみて真顔になった。「驚いた?相も変わらず憎らしいほどのイケメンよ」という言葉にもジト目で睨んでいたが、本気で怒ったのかと焦りだしたイングリッドを見てその表情を和らげた。さっきまでの憎らしい態度はどこへやら、あたふたと心配するイングリッドが可愛く思ってしまったコーラルは照れ隠しのように彼女の頭を乱暴に撫でた。



「……ふっまぁ俺が死んだあと必然的にお前も笑い死ぬことになるだろうな。俺がそんな死に方すれば大爆笑するだろ」


「よくわかってるじゃない、ある意味無理心中ね」



イングリッドはコーラルが怒っていないことを知りいつも通りの態度に戻ったがコーラルは内心その変化を楽しんでいた。コーラルは死ぬわけにはいかないしイングリッドの死を望んでなどいない。だが心の奥深くで《無理心中》という言葉に高鳴る心臓を自覚し誤魔化すように嘲笑した。



「俺と同じ墓に入れることに感謝し咽び泣け」


「それはこっちのセリフよ、実は寂しがり屋のコーラル君?」


「そのままお返しするよイングリッドちゃん?」


「うわそのキラキラ笑顔気持ち悪っ」


「いやだなぁ私の笑顔のどこが気持ち悪いんだい?」



二人は悪口を言いながらも木に寄り掛かり楽し気にからかい合っていた。四六時中言動を全て監視、注目される二人にとって、何も気にせず自分で居られるこの時間は日々の息抜きとなっている。まだ同年代との交流が殆どなく大人びているとはいえ五歳の幼い二人は友達という存在が何よりも大きく支えとなっていたのだ。



「まぁ剣と言ってもあれは比喩だったのよ。私の本領は魔法なんだから!」


「はいはい次はどんなカッコ悪い姿をさらしてくれるんだ?」


「まぁ見ていて」



この国の貴族は生まれてすぐに魔力の有無を神殿で確認し、もしあった場合安全のため五歳までその力を封印される。例え両親が魔法を使うことが出来たとしても例外はあり確実に子供が魔力を持って生まれるという保証はなく、貴族の中でも魔法の使えない者も少なくない。そもそも魔法を使えると言ってもその威力は大きな差があり、コップ一杯に水を注ぐレベルから池の水を一杯に出来る程のレベルまで偏りがある。その為国は若き才能を発見し伸ばすことに力を注ぎ、身分の差なく五歳を迎えると子供たちは魔法の勉強を始めるのだ。特に《太陽神の愛し子》は魔力量から威力までが桁外れであり、国教であるカラール教の神の使徒として信仰の対象とされている。


先に五歳を迎えたイングリッドは教会からの教師から魔法の指南を受けていた。その時の周囲からの期待の目(プレッシャー)は凄まじく、イングリッドは震えそうな体を根性で抑え我儘で高飛車な少女を演じきったのだ。もし何らかのアクシデントが起き魔法が使えなくなっていたら…そう考えると周囲の人間の目が怖くなり魔法の制御が疎かになったのは記憶に新しい。そのためあの時の恐怖と絶望(・・)をコーラルには味合わせないためイングリッドはある魔法を見せる。



「偉大なる火の尊よ燃え舞う炎よ我が魔力を捧ぐ《火翔の鳥》」


ピーッ



イングリッドの詠唱により燃え盛る炎の鳥が彼女の手から現れる。子供の方に乗れるほどの小さな鳥を肩に乗せているイングリッドは熱さを感じていないのか涼しい顔でコーラルに話しかける。



「今のが魔法よ。先生が言うには魔法とは神に祈りと魔力を捧げ起こす奇跡だそうで、魔法のレベルが飛びぬけて高いということから神に愛された者《太陽神の愛し子》が敬われるんだそう」


「なるほど、神に愛されてる…か。はっ、なら国王たちを殺してくれりゃあいいのにな…」


「ふっ、なんて顔してるのよコニー。まさか本当に神がいると?いたとしてもその神様は我が国に見切りを付けたのじゃないかしら?」



イングリッドは魔法を消し、俯き拳を握りしめたコーラルを覗き込み笑った。コーラルは力強い深紅の瞳と目が合い顔を上げる。



「この国の魔法レベルは徐々に衰退しているし、そもそも魔法を使える貴族の数が減少しているわ。これって先生や教会の言っていることをが本当で神様がいるっていうなら、もうこの国への愛は期待できないんじゃないかしら。私たちが大層な名前で呼ばれているのもこの現実から国や教会が民心を離さないためだったりして。それって面白くない?私たちの名前で大分いい暮らしをしていようじゃない教会も貴族も。」


「…俺たちが魔法を全く使えなかった場合、民は混乱するだろうな。国防から魔石への魔力供給まで貴族の魔法(奇跡)で支えられてきた国だ。それに太陽神を祀る教会は勢いを失い、貴族という立場の意味もなくなる。ふっ確かに面白いな」


「でしょう?私たちを洗脳しようと躍起な司祭たちは衝撃で痩せてしまうかも。だから敵を倒すという手段としては宗教革命もありかもしれないわ」


「あぁただ敵を葬り国を手に入れるだけじゃだめだな。魔法に頼らない国づくりと民心の獲得…はぁ、ストレスで白髪だらけのハゲになったら《太陽神の愛し子》とは呼ばれなくなるかも」


「ある意味神々しくていいんじゃない?主に頭部が」



イングリッドは考え込んだコーラルをからかいつつ寂し気な顔で頭を撫でた。これから先二人を待ち受ける闇は想像を絶するほど険しく活路を見出すことすら出来ないかもしれない茨の道だろう。この国で何代も続く闇は深く籠の中の鳥である二人に出来ることは無いのかもしれない。それでもイングリッドはこの幼くも反逆の覚悟を決めた王子に期待し忠誠を誓ったのだ。


自分が生き残るための駒でありお互いの目的のための協力者という薄情なものではない。確かにイングリッドはこの王子に誓った。コーラル=バハルカンズという幼い王子に王者の資質と強い覚悟を秘めた瞳をみたのだ。だから彼の障害を少しでも取り除き守るのもイングリッドの役目だろう。



「だからもし魔法が使えなかった場合は革命を起こしましょう。むしろただ王を打つより民を巻き込んだ方が貴方が即位したとき支持を受けやすいかも。顔と名前を公表された以上直ぐに排除ということは無いでしょうし、そもそも国民には隠し通されるはずだもの。その間に魔法以外の武力や協力者を得て民の心を動かせば…無血を目指しましょうなんて偽善を言うつもりはないけど「ありがとう」…え?」


「っ!いつもいつもよくしゃべるなって言ったんだよ!それで俺を守る剣とやらは今の魔法を見せたかったのか?いくら衰退しているとはいえそのレベルなら魔導士団にゴロゴロいるぞ」



コーラルはイングリッドが魔法を見せた真意に気づきポツリと感謝の言葉を掛けた。先に魔法を学ぶことになった彼女が受けた周囲の過剰な期待と失敗は許さないというプレッシャーは相当なものだっただろう。特にイングリッドの性格は自分に絶対的自身を持っているようで実際は本心を隠し虚勢を張る臆病なものだ。一人で魔物の巣窟へ放り込まれたうような状況で、一体どれ程の恐怖と緊張を感じたのか。コーラルは『周囲の目は気にするな。魔法が使えなくても構わない』という遠回しなメッセージに気づきつつも面と向かって感謝するのも恥ずかしく話を変えようとした。喋っていたイングリッドは彼が何を言ったのか聞き取れず、急に元気になったコーラルに首をかしげながらも口角を上げ挑発的な笑みを見せた。



「もちろん。むしろこれからが本題よ」



そう言ってイングリッドは目を閉じ両手を広げた。











長らくお休みしてすみません。

今後も気ままに更新するので、ご留意ください。

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