悪役令嬢と王子様
あぁぁ殿下が子供でよかった…。張ったりかけて無反応だったらどうしようかと思ったわ。でもこれで確信した。王族は虚弱短命なんかじゃない…何かしらの理由で殺されているんだわ。実験、生贄…あの城で何代も前から何をしているの。
「……公爵の指示か?」
「殿下を懐柔しろという命令のことですか?」
「あぁ。アイツらは俺を縛り付けようとしているからな。公爵の娘であるお前に俺が夢中になれば操りやすいと考えるだろう。まぁお前のは懐柔なんて可愛いものじゃないが…」
「フフッ正直に言うと顔を見合わせるたびに言われていますよ。ですが娘が生死の境をさ迷ったというのに、子が産めるかだけ確かめに来るクソ野郎の指示なんて死んでもごめんですわ。ですから殿下に私を売り込んでいるのです。それと両親もですが使用人も教会も家庭教師も私を《太陽神の愛し子》《王子の婚約者》というものに縛り付けようとしているのでお揃いですね!」
「はっ、だから俺の見方だと?」
「正確には互いの協力者です。私たちにはお互いどうあがいても逃げられない宿命があり、お互いがその苦しみと力を理解できるからこそ出来ることがあると考えています。殿下は王族の…いえ国に根付く闇を打ち払いたい。私は目障りな大人たちを消して誰にも侵されることのない《イングリッド》になりたい。お互い敵が共通なのですから手を結んでも悪いことは無いでしょう?」
「誰にも侵されない…か」
私の本当の願い…それを考えた時私は自分の思いに気づいてしまったの。脱悪役で善人として人に愛されたいわけでも、死にたくないから生きていたいというわけでもない。ただ…ただ誰かに強制されることのない人生を歩みたい。生きがいというものを、自分の全てを掛けてもいいと思える何かに打ち込んでみたい。それが私の願い。だから私は生きてやるの。
前世の記憶を思い出し以前の自分を客観的に見て分かった。自分が世界の中心だと信じ結局は大人たちに良いように操られている愚かで滑稽な人形…プライドだけの空虚な人間、それがイングリッド=バーグマン。そしてそれは命が続く限り、アイツらがいる限り続くの。
なら諦める?今まで通り手の平で良いように転がされ踊り続けて最後は戦死?
ハッ馬鹿言わないで、だれがそんな人生「はいそうですか」って受け入れるっていうのよ!?もういっそ武功を立てて英雄になるのも悪くないかなとは思ったわ。だってそれが出来るのが『太陽神の愛し子』なんだもの。でもゲームでは死んだってことは油断はできないし、そもそも私戦闘狂じゃないのよ一生を戦場で過ごすなんて無理。だから私は考えた末にある結論に辿り着いたの。
「ですから私と協力しましょう?そして私の忠誠を受け取ってくださいコーラル殿下」
そうして殿下の前に膝をつき《忠誠の儀》として剣の代わりに薔薇をささげる。
「は!?いや俺は承諾していないしお前は婚約者の令嬢だぞ!?それがどうして騎士みたいなこと…」
「あら、私の前で王子様の仮面を脱いだというのはそういうことなのでは?それと私言いましたわよ?『貴方の背中を守る剣になります』なのでちゃっちゃと受け取って誓いを受け取ってください」
「お前こそどんどん雑になっていってるぞ。…はぁ、いいさお前の忠誠受け取ってやる。そんでアイツら皆殺しにしてやろう。俺は王家の闇を払うために、お前は自分の好きな《イングリッド》になるために」
そう言って殿下はバラを受け取り私の方に当てそういった。私は自然に上がる口角を自覚しつつ顔を上げ彼の手の甲に口付けを落とす。
「私イングリッド=バーグマンの忠誠をコーラル=バハルカンズ殿下へ誓います」
「あぁ。てことでお前も人の目がないところじゃ普通に話していいぞ。もうネコ被るのも限界だろ、腹割って話そうぜインジー」
「いいわよろしくコニー。それは私の愛称?」
「ハハッ俺も言えたことじゃないが王子をいきなり愛称で、しかもため口で呼ぶなんて図々しいやつ。あぁそうだ、いっそグリードとかにしてやろうかと思ったんだがな、優しい婚約者でいい主人だろ?」
「よく言うわ。ありきたりな人間なんてつまらないって顔に書いてるわよ?あとグリードで結構よ?その場合アンタは貞操の危機に直面することになるでしょうけどね?」
「は?」
「無駄にきれいな顔してるんだからさぞモテるでしょうねぇ、小さな男の子が好きな過呼吸気味の小父様方に!あはははははっ!」
「お、おい待て待てなんて恐ろしいこと言ってやがるこの頭クルクル女!」
「はぁ!?それ言っちゃう!?天パが気になる女の子にそれ言っちゃう!?もういいわ絶対教会関係者に告げ口してやる。『コーラル殿下は女性の私じゃ満足できないようで、特に中年の「わーわーわー!やめろ!聞きたくない!」ならあまり舐めた口を利かないことね!私と貴方は対等なのよ!むしろ私の方が若干上かもしれないわ、ひれ伏しなさい」
「てめぇ忠誠心皆無じゃねえか!?どっちが主人だよやっぱお前の名前はグリードで十分だ。てか俺王子なんだけど!?もっと繕えよ、ひれ伏し靴をなめやがれ高飛車女!」
「はぁぁぁ!?てめぇのアホ毛引っこ抜いてやろうかア"ァ"ン!?」
「―――!?」
「――!」
「―!?」
「…」
「「ぷっ!あはははははははっ!」」
王子と公爵令嬢の言い争いとは思えない舌戦を繰り広げ、私とコニーは「はぁはぁ」と息を切らしつつも互いに眼が合った瞬間笑い出してしまった。あぁ高笑いでも嘲笑でもなく心から楽しいと笑ったのはいつぶりかしら。涙が出る程にお腹が痛くなるほどに声を出して笑ったことはあったかしら。
「なぁインジー友達って騎士みたいに儀式しなくちゃいけないのか?」
「はぁ?何よ貴方友達いないの?」
「そういうお前にはいるのかよ」
「当たり前じゃな……よく聞きなさい今から私たちは《婚約者》兼《協力者》兼《主従》兼《友達》よ!」
「えっ!いつの間に!?というか何したら友達なんだ?」
「え、そ、そんなの…拳を交わし合えばいつの間にかなってるものよ。」
いやどこの少年漫画の友情よ…というか私って友達いないじゃない!てことはコニーが初めての友達?そう思ってチラリと目の前の彼を見ると…
「と…友達って作るの大変だけど、すっごくいいもんだなインジー!」
滅茶苦茶喜んでた。宝石のような赤い目がキラキラと輝いて見惚れてしまう。思わず俯いて顔を隠してしまったけれど、これは私も下手に隠すのも彼に失礼だろう。私は自分の顔の熱さを感じつつ彼の目を見てはにかんだ。
「えぇそうねコニー。私も貴方が初めての友達だから何だか照れ臭いわ」
「ハハッだよな!ていうかやっぱお前も友達いなかったんだな。まっ性格悪いもんな~気にするなよ!俺がずっと友達で、あ、痛っ痛いアホ毛引っ張らないでっ」
「完璧にブーメランなんですけれどねコーラル殿下?私の前にご自分の口と性格の悪さに目を向けるべきではありませんこと?ん?」
「そういうところが友達出来ない原因なんじゃないかいイングリッド嬢!?あと俺王子なんだって、不敬で金輪際椅子に座るのを禁止するぞ!」
「刑が地味にしんどいっ」
「ハハハッ!一生空気椅子ですごすがいい」
そう言い合いつつも楽しい時間を過ごした私たちはこれ以降《婚約者》兼《協力者》兼《主従》兼《悪友》として日々を過ごしていくのだった。




