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従者の修行⑥

ゴルバチョフに【転移】され光を纏い姿を現したルクレツィア様。僕とラトレイアはおよそ90年ぶりの主の姿に感動し、同時にその様子を伺っていた。



『この三か月間よく頑張った。お帰りルーク』


『しぃぃぃしょぉぉぉぉぉ!!!』



そう言ってルクレツィア様の頭はゴルバチョフの腹に沈んだ。



「兄よ…あれは正常なのですか?久しぶりの再会でいきなり頭突き決めちゃってるのですけど…」


「いや…普段通りに見えるような、でも普段もアレだし…」


「もう面倒ですしドリンク飲ませれば確実なのでは?」


「面倒くさがるなよ…正常な状態であれを飲ませたらお前の作ったもの一生信頼されなくなるぞ」


「あ、それはダメなのです」



僕たちは戸惑いながらも万が一のためゴルバチョフの合図を待ちつつルクレツィア様の様子を見つめた。しかしルクレツィア様は遠目から分かる程何故か怒っており僕たちは警戒を解かざるおえなかった。



『本当に危ないとこだったんですから!あとコンマ一秒遅かったら微妙に言葉残して帰ったカッコ悪い主人になるとこだったんですよ!』


「なんかプリプリしてるな…」


「それに人語喋ってますしこれは白では?」


「あぁ白…だな」



明らかに正常?な行動をしゴルバチョフと会話をしているルクレツィアを見て、僕たちは顔を見合わせガシッと握手をし頷いた。そして…



「出迎えの準備なのです!」


「その前に仕掛けてた迎撃魔術消せ!こっちに意識向いた瞬間バレるぞ!」


「いざとなればあの薬飲ませて記憶消すのです」


「名案だな!」



ルクレツィア様出迎え(迎撃)計画の隠蔽工作のため走り出したのだった。










「はぁはぁ…屋敷中に仕掛けた迎撃魔術やら呪いやら無駄にクオリティ高めたから解除に手間取ったな」


「息を整えるのですよ、主様(標的)まで6メートルなのです」


「おい馬鹿殺る気出すな切り替えろ、迎撃じゃない出迎えだぞ……来た」



二人は学んできた完璧な従者ではなくルクレツィアにとって三か月前のピスティスとラトレイアの表情で扉が開くのを待った。そしてたった数秒が永遠に感じられるほど待ちわびた時間はガチャッとドアが開く音で終わり、およそ90年ぶりに主人と目が合い二人は内心感動に震えていた。



――あぁぁ確かにラトの知ってる主様なのです、人の姿で人の言葉を操り二本の足で立っているのです――


――いや判断基準それしかないのかよ、お前のせいで感動が吹き飛んだわ――



「主様お帰りなさいなのです。少しくらいやつれているかと思ったのですがピンピンしていやがるのですね」


「そうだな折角労わろうと作ったこれも意味ないな」



鏡越しではなく直接姿を見ることができ言葉を交わせることに喜びを感じながらも、そんなことを表に出す恥ずかしさで素っ気なく挨拶を交わしてしまった。しかしそれと同時に完全にあの紫のドリンクがお蔵入りになったため、ピスティスはお盆の上のコップを残念そうに見た。



――今日の夕飯に入れようかな――


――いや暗殺する気なのですか、あ、これ薬だったのです――


――もう潔く毒だって認めろよ。僕これ見てるだけで吐き気がするんだけど、確実にトラウマだよ――



二人がそんなことを考えているとは知らずルクレツィアは素直に再会を喜んでいた。しかしその後ろからついて来ていたゴルバチョフは顔色を悪くし、気配を殺しその場から離れようとしていた。



「ただいま。そして今すぐその青紫の液体を捨てて…いや勿体無いから師匠の口に突っ込んで」


「「了解」」



ルクレツィアはこの三か月一筋縄ではいかない強力な魔物の中で暮らし気配に人一番敏感になっていた。野生の勘、第六感といったもので元々規格外の強さや強靭な肉体を持っていたが、この修行により野生動物のような俊敏さ警戒心が強まっていたのだ。その為ピスティスが持っている液体へ本能が全力で警鐘を鳴らしていることや二人と交わした契約により考えを読んだため、ルクレツィアは即座に飲むという選択を破棄した。しかし余りにも残念そうなピスティスが可哀そうになり、さらに突然森に飛ばされサバイバルを強いられた恨みのある師へ一泡吹かせてやろうという思いも相まって、ゴルバチョフへ青紫のドリンクを飲ませることを決め指示を出したのだった。



「えっちょ、ぐあぁぁぁぁぁ」



――うっわぁ…師匠があんな風になるなんて。やっぱり飲まなくてよかったです」


ルクレツィアは余りにも苦しむ師の様子を見て若干引きつつも、これを進めてきたラトレイアとピスティスにも恐怖していた。あのゴルバチョフに五感を無効化させる暇もないほどの素早さでドリンクを無理やり飲ませ、その動きが以前とは格段に良くなり連携も取れていたのだ。そして何よりも恐ろしいのはドリンクを飲まされたゴルバチョフが未だに(・・・)もがき苦しんでいるということだった。



――師匠が味覚を無効化する余裕もないほどヤバい味なのですか!?しかも苦しみ方が尋常じゃないんですけど…えっなんか悟ったような顔しだしたんですけど…何あれ怖い…。というか私そんな恨み買うようなことしました?あんなものを二人が作れたことにも驚きですけど、何より自分が暗殺対象になっていることに驚きです。自覚がない恨み程怖いものはないんですけど――



ルクレツィアは完璧な笑顔で内心を隠しつつも、下手なことを言って藪蛇にならないようお風呂へ逃げ込んだのだった。









「はぁ…全く酷い目に合ったわい…一瞬メリル()に会えた気がしたわ。なんて恐ろしいものを生み出してくれたんじゃお主らは」



ラトレイアとピスティスが食事の準備を終え、ルクレツィアがお風呂から戻るまでの間三人は食卓で談笑をしていた。ゴルバチョフはピスティスの入れたミルクティーを飲み口直しをしつつ愚痴をこぼした。


しかしそれが悲劇の始まりだったのだ



「まだまだストックは沢山あるのです。他にも効果を変えて色々作ってみたので今からでも飲んでみます?主様はまだのようですし」


「え"っいやワシはちょっと…ほ、ほれ今から食事じゃし腹がいっぱいになってはせっかくの料理を楽しめんから!の」


「大丈夫なのです!ラトの作るものは体内に摂取し数分すると魔力に変換されお腹に溜まらない優れものなのですから!ポーション系は回復のために沢山飲んでもお腹に限界があるので、それを改善出来ればと考案した傑作なのです!ただし通常の生物では体が逆に崩壊するので魔力浸食率が高い人しか服用できないのが玉に瑕なのです」


「いやワシ魔力もお腹いっぱいじゃよ?満タンじゃよ?だから間に合ってるっていうか…」


「ははっ必死だなぁゴルバチョフ?飲んでみたらどうだ?ラトレイアの作る薬は天にも昇る(・・・・・)ほどの味だぞ」


「まぁ!では兄のも用意しましょう」


「え、いや僕は大丈夫だか「そうじゃな。そんなに褒めるんじゃしピスティスも飲んでみてはどうじゃ?」おいクソ爺ちょっと黙れ、僕を巻き込むな」



ゴルバチョフとピスティスが言い争っている間にラトレイアは亜空間から何を出そうか考えていた。しかし直ぐに決まったのか閃いたような仕草をしはじめ、それを見たゴルバチョフ達は引きつった笑顔で顔を見合わせた。



――マズイマズイやめろ僕はもう飲みたくない。ここは僕を置いてお前ひとりで逝ってくれ――


――嫌じゃ嫌じゃ一人でなんて無理じゃ、お主を置いていけん死ぬときは一緒じゃ!道連れにしてやるっ!――


――おい本音が漏れてるぞ馬鹿野郎。あ、もう駄目だ…――



二人が念話で言い争っている間もラトレイアの腕が亜空間へと伸びていく。そして死を覚悟した瞬間、扉が開く音がした。



「あれ?待ってくださっていたんですか?遅れてすみません」



ルクレツィアの登場によりラトレイアは亜空間から手を引き夕食の給仕を始めた。ゴルバチョフとピスティスは内心ルクレツィアを崇め奉り感謝していた。



――神じゃ…ワシにはルークが女神に見えるぞ…さてはワシ、死んだのか?――


――あぁ我が主あの悪魔()から救ってくださり感謝します、一生お仕え致します。



こうして四人は久しぶりの会話を楽しんだったのだった。













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