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従者の修行③

どうも主様…ルクレツィア様の侍女ラトレイアです。兄と共に主の役に立つため修行をはじめ、ここ(精霊界)に来て14年。今ではすっかりこの勉強詰めの生活にも慣れ、苦痛すら感じなくなってしまった自分に若干の恐怖を感じてしまいます。精霊の皆さまのご指導や良きライバル(ピスティス)のお陰で、腐ることなく日々研鑽を重ねております。


そうそうこの話し方もサリー先生の厳しい教育の中で矯正されたものの一つといえるでしょう。初めの頃は気が抜けると直ぐに言葉遣いを間違ってしまっていましたが今では切り替え可能です。サリー先生は怒ると笑顔で容赦なく威圧し、ワルキューレ様は嫌味だけでなく訓練と称してボコボコにされます。兄のピスティスは反抗的だったのですが今ではワルキューレ様の名前を聞くだけで震えてしまう程に調教されています。


他の先生方も普段は気さくでしたり大人しいのですがこんな感じで怒らせると恐ろしい方ばかりです。お陰で闇の精霊の方々の前では自然と身が引き締まってしまいまう始末です。と言っても兄のピスティスや主様の前では今まで通りの自分で居ようと思います。切り替えが出来るようになったのと、ルクレツィア様自身が主従を意識する場でない限り気軽い友人のような関係を求めているからです。


私たちは元々人ではありませんし精霊の方々と同様食事睡眠は必要なく魔力さえあれば問題ありません。私たちのような魔剣は主からの魔力以外に空気中の魔素を取り込み(魔力)とします。その為魔素の豊富な精霊界では不眠不休で動くことができ、この十四年、朝五時から夜の11時まで家事の練習やその他の修行、残りは自由時間という名の自習時間という鬼のような日々を過ごしてまいりました…。


日々の癒しはルクレツィア様のストーキング…監視……観察!そう観察です。【碧落の水鏡】という魔法道具を使い空いた時間でルクレツィア様の様子を見てきました。この魔法道具は具体的な場所や人物などを思い浮かべ魔力を流すことで対象を見ることのできるストーカー…いえ護衛に必須なアイテムなのです。私や兄は常々ルクレツィア様の生活を心配しておりました。ちゃんと食事や睡眠をとっているのか、怪我はまぁ確実にないでしょうけど野生に慣れ過ぎて言葉を忘れていないかとても心配で心配で…毎日主の失敗を楽しんでおりました。他人の不幸は蜜の味、こんな生活娯楽がないとやってられないですからね。流石我が主!離れていても臣下を大切にされるだなんて一生ついていきます!






「さて今日は何をしているんだろうな」



ラトレイアとピスティスは自由時間に日課のルクレツィア観察をしていた。物作りの妖精に特別に作ってもらった【碧落の水鏡】は録画機能がありそれを見るのが二人の日々の癒し…ストレス発散だった。ラトレイアはピスティスの入れたカモミールティーを飲みながら頭を抱えた。



「はぁ…やっぱりサバイバル術の一つでも教えておくべきだったのです。向こうは二週間ほどしか経っていないというのにどうして魔物と共存しちゃっているのです!?もはや立派な猿型の魔物の出来上がりです」


「ハハハ流石我らが主。うちの妹がツッコミを入れる程まで成長なさるとはな」


「何を関心して…」



ラトレイアは隣に座るピスティスを睨み文句を言おうとした。しかしその全てを諦めたような虚ろな目を見て口を閉じお茶を一口飲み落ち着こうと努めた。



ーやばいのです、とうとう兄がツッコミを放棄してしまったのですー



そう面倒くさがりなルクレツィアは先日ようやく生肉以外の食事をとろうと重い腰を上げたが挫折したのだ。食材を探そうにも魔素の濃い魔物の森で自生している植物は料理に向いておらず、銛で川の魚を取ろうにも魚とは似ても似つかない魔物しかいなかったようで不貞腐れやめてしまった。ピスティスはこの時点でルクレツィアは野性に返ることを確信し諦めたのだった。







「流石に食材がお肉一つで調味料無しはマズイです。お肉をただ焼くだけでも料理と呼べるのか怪しいのにこれでは話になりません」

「いやそもそも食事を三食生肉で過ごしていた自分の胃腸に今更まともな食事が必要なのか…」

「というか食べなくても魔人の身体は魔力さえあれば生きられるんだし食事はいらないんじゃ…」

「いえ何弱気なことを言っているのですルクレツィア!食育という言葉があるじゃないですか。この修行はそれを学ぶためのものでもあるのですよ!」

「そうですよ!それにこのままではあのメシマズ師匠と同じです!!」

「「「「はっ!」」」」

「ダメですダメです絶対だめです!それに旦那様に『はいこれ私の手作り料理です』って生肉出したら確実に引かれます、ドン引きです!そんな野生児即刻振られます」

「いや生肉って猟師か!あとそれそもそも料理とは言わないです。せめて塩かけて焼けば…料理といえるんじゃないですかね!」

「肉料理だけ得意とかまんま師匠じゃないですか!男を落とすにはまず胃袋を引きずり出すと言いますしやってやろうじゃないですかサバイバル料理!」

「「「オー!」」」

「オー!って、いや引きずり出したら死にます。グロいです」



脳内会議の末、サバイバルクッキングへのやる気を出したルクレツィアは食材探しへと向かった。だが彼女は忘れている。亜空間の中には非常食から素材に至るまで食材になりそうなものを沢山収納しているということを。



「うちの主は馬鹿なのか?亜空間にかなりの量の食材から料理まで持たせていたはずだが?」


「兄よ馬鹿はダメですアホにしておきましょう。だから亜空間の中はこまめに整理しろと…まぁうちの(アホ)は魔術を使う者なら喉から手が出るほど欲しい固有能力(絶対記憶)を持っていながらうまく使えこなせていないダメっ子だから仕方がないのです」


「はぁ…確か取り出す(・・・・)だったか?」


「確かそうだったと…『イメージとしては脳内の棚に沢山(記憶)が詰まっていて全てを完璧に覚えてはいるがそれを取り出す(思い出す)行為をしないといけない』だったと思うのです。だから多分今は料理に意識を持っていかれすぎて亜空間の中のことなんて忘れてるのだと思うのです。亜空間からお肉を出しておきながら何故非常食があることを確認しないのか…能力ゆえの怠慢なのです」


「ポンコツな主は中身の把握はしても《亜空間=素材倉庫》くらいしか思っていないからだろう。あとは作った薬や武器とかの保管庫。というか一体何を食材にするつもりなんだろうな。」


「音は聞こえないですけど多分食材を探しに行ってのでしょうね。というか口が動いてるってことは独り言を?」


「………例え主が野性に返ろうと魔物になろうと精神を病もうとも支えていこうな」


「兄よ諦めてはだめなのです。あぁぁルクレツィア様せめて魔物化だけは止めていただきたいのです、ラトたち(従者)の存在意義が危ういのです。」



【碧落の水鏡】は一方的に対象を覗くもので音を拾うことも逆にこちらの声を送ることもできない。その他まその濃度次第で難易度が上がることや魔力感知に優れたものには気づかれる、専用の結界で防ぐことも出来るなどの欠点があるため万能というわけではない。勿論本来ならばルクレツィアに使った際一瞬でバレ逆にジャックされるだろう。しかし今彼女は魔物の森というろくに転移のできないほどの濃い魔力の満ちた森の奥にいることや、周囲に強力な魔物が多いため【碧落の水鏡】で膨大な魔力を使い観察していても気づかないのだ。


ゆえに自分の剣たちが失礼なことを言っていても知らぬは彼女だけ。








「川魚って八個も目あります?そこからレーザー出します?しかも攻撃したら青色の毒液撒き散らして黄色の触手で捕獲しようとしてくるとかもう何からツッコめば良いかわかんないです。あと亀の甲羅ってあんな思春期の息子みたいに尖ってるもんなんです?しかも開閉して羽で飛ぶなんてどこの機動戦士ですかいやフォルム的にトランスしちゃう金属生命体か?いやそもそも亀だし、いやそれはどうでもいいんですけど!なんで本に載ってない生き物ばっかなんですかぁぁ!」



それもそのはずでこの魔物の森は強さのレベルがそこらの未開の地とは一線を画し、超弱肉強食主義である。その為生き残っている種も強く、そして生き残るために常に進化していっているのだ。その為ルクレツィアが知っている魔物や植物の知識は殆ど当てにならないのだ。



「えぇ!えぇ!キノコは嫌な予感してましたよ!でもモザイクかけなきゃ人様に見せられないような18禁キノコやら人間の顔そっくりのキノコとか食欲失せますよこの野郎!本当この森、錬金術や魔道具の素材ばっかりしかないです、草食魔物は一体なに食って生きてるんです排泄物か!?」



正解は味覚が逝かれていたり尋常ではない毒への耐性があったりして普通の食事をしているだけだ。またルクレツィアは今まで植物や魔物は素材としてしか扱っていなかったこともあり、何が、どこの部位が、どうすれば食料になるのかという知識が全くなかった。とりあえず目についた食べられそうなものを口にしていたが、ここは強い魔物しかいない魔物の森で生き残る植物や生き物ばかりのため殆どの癖が強い。見た目が強烈なものや防衛力の高いものから美味しそうな見た目のくせに猛毒や激臭であったりし、ルクレツィアの心は完璧に折れた。天才肌でこれ程多くの挫折を味わったことのなかったルクレツィアにとって、挑戦するものすべてが失敗に終わり頼る人も物もない状況で特に困らない食事について努力し続けることに疲れたのだった。



「というかわざわざここでワイルドな料理の練習しなくとも普通に家ですればよかったんじゃ…」


『主は一体何を悩んでおるのだ?』



ルクレツィアは頭を振りそれ以上考えることは止めた。ルクレツィアはポジティブに考えこの食材探しのお陰で【従魔】であるラペーシュに出会え、さらに自分の知識が全てであるという驕りに気づくことが出来たのだということにした。



『いえラペーシュの桃のお陰で元気が出たなーと!』


『それは良かった!あの桃は我の魂とも言えるゆえ内包する魔力や『おいおい待て待てちょっと待て』どうしたのだ主』


『おいこのボケ猿、もしかして《一心同体である木》って魂を具現化していたってことです!?』


『それに近いことをしていたが…何か問題が?』


『いや問題ありまくりですよ食べちゃったじゃないですか!?えっ私ペーシュの魂食べちゃったんです!?吐きます!?まだ消化されてな…あ、今私の身体魔人だから排泄せず魔力に変換されてた。あぁぁ私はなんてことを!』


『いや魂ってわけじゃ…』



ラペーシュの呟きは頭を抱え唸っているルクレツィアの耳には入らなかった。土下座して謝るルクレツィアと慌てる魔物(ラペーシュ)という奇妙な様子を見ていたピスティスとラトレイアは青ざめた。



「え、野性に返るどころかマジで魔物になっちゃった系なのです?え、え?嘘ですよね?」


「僕はルクレツィア様が魔物の鳴き声(唸り声)しか話せなくなっていても誠心誠意お仕えしてみせるさ…。魔物語今からでも習得しておくべきかな…あるか知らないけど…アハハ…」



ルクレツィア達の会話が聞こえない二人の誤解は続く



















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