ルベライトの輝き
暗い洞窟でジッと息をひそめ暮らしていた。腹には子が、私たち【土蜘蛛】は成長し強くなると上半身は人と変わらない見た目で下半身を蜘蛛の姿の完全体を取る。と言っても私程の生体は居らずここら一体の主になって以降強敵と呼べるものにも出会うことはなかった。
「うぉぉぉ…成長すればそらなりますよね…」
ある日いつものように罠を仕掛け得物を待っていると血の匂いと人間の声が聞こえた。
「いや肉体そのものが成長している証ですけど…うぅぅこの重い感じ…これ回復魔法でいいんですかね誰か教えてください…」
何やらブツブツ言っている人間を観察する。一体何百年ぶりの人間の血肉だろうか…滅多に来ないご馳走に得物がかかるのを今か今かと待っていた。フラフラと前屈みである人間が自ら罠に向かっていく…よし!糸に触れた瞬間一気に引き上げ網に絡ませる。
「うわぁっ!?は!?苦しんでいる人にさらに追い打ちをかけるとか今日はとことんついてないです!」
『久しぶりの人肉は息がいいわね』
『うっわぁ巨乳!』
『うわ喋った!?』
久しぶりの御馳走は私につるされいつ食われるかというこの状況で私の胸をガン見していた。しかも魔物と直接会話ができるなど初めて出会ったタイプの人間だった。【土蜘蛛】は蜘蛛のように得物が大人しくなるよう待ちそして毒を注入しその血を抜く。ただ人間のような上半身を持っていても視力を得ることはなかった。目の前で糸に絡まれ宙吊りにされている人間は怯えることもなくただ腹を立てているのが音で分かった。
『ちょっと今宙吊りはまずいんですって!デリケートな時期なんですから放っておいてくださいよ!』
『貴方は私の餌なのよ?餌の分際で何を言っているのよ』
『いや隣に滅茶苦茶デカいミイラいるじゃないですかこれで十分でしょっ』
『私今お腹に子供がいるの。それは私の夫よ』
そういうとギギギッと音がしそうな動きで人間が隣の糸に包まれた夫を見た。
『おっと?』
『そう夫。この子達の父親であり私の食糧』
キョトンと目を丸くしたかと思えば人間はギョッとしたように隣と私を見比べた。顔にもかかっている糸から人間の顔はコロコロとその表情を変えているのが分かり面白い。
『うえぇぇぇ!?ちょっえ、夫!?食べちゃったんですか夫を!』
『まぁ人間には分からないでしょうね。私たち【土蜘蛛】は子を産み育てるための栄養を夫を食い得るのよ。だからこれは私と夫の愛ゆえの行為なのよ』
今でも思い出す愛しい1400匹目の夫…あら1500だったかしら。彼との夜には決して他種族のようなロマンはなく、ただの作業だったけれどその後の…私に食べられる覚悟を決めた彼は最高に愛おしかった。ほう…と頬を染め夫を見つめていると、いつの間にか人間の声がやけに近くで聞こえた。
『いやまあ愛は人それぞれですし合意の上なら問題ないですよね、うんそうです、そうに違いない』
そういう人間は私の隣に立ち膨らんだ腹を眺めていた。
『いやぁ蜘蛛の揚げ物ってどうなんでしょうかね、ちょと虫はキツイですですし食べるなら魔石かな』
そういう人間にゾッとした恐怖を感じ飛び退き距離を取った。瞬時に糸を吐き相手を拘束しようとするが人間は目にもとまらぬ速さでそれを躱した。糸を操り殺すことだけに集中するが、最高強度の糸ですら簡単に切り刻んでしまう人間に恐怖し同時に畏怖した。お山の大将、井の中の蛙、慢心していたのだろうか目の前の到底かなわない化け物を相手にそんなことを考える。
『っ!』
『すごく器用ですね、動かせる手足が多い分手数もそれに動きも複雑で流石【土蜘蛛】の女王というだけあります。私も参考にしてみようと思います!』
『うるさいっ私は負けられない、この子達のために生きなければいけないのよ!!』
最高強度の糸を組み合しさらに強度を上げる。本来の蜘蛛が持つ空間認識能力を張り巡らせた極細の糸で発揮し、高速で動き回る人間に何とかついていく。長く住み知り尽くした洞窟だからこそ出来る芸当であり、そうでなければこの尋常じゃない速さについていくことは不可能だっただろう。それでもこの人間にとってこの動きは本気ではないのだろう、凄いと感心しながらも捕まることはなくそれどころか糸を全て断ち切ってしまった。
『宝石が好きなんですか?』
『は?』
そう言って人間はその手に沢山の宝石を持ち眺めていた。宝石と言っても採掘しただけで加工も何もしていない原石だ。人間はそれを徐に投げると指に魔力を集め【土蜘蛛】の技である魔糸を作り出した。投げ上げられ宙を彷徨う石に魔糸を絡ませたかと思えば、次の瞬間には綺麗にカットされた宝石がその手にあった。
『これ貴方の色と同じなんですね。旦那様からの贈り物ですか?』
『ぁ……』
何故か夫たちは皆、食べられる前にこの石を送ってきていた。目の見えない私は何故石を送ってくるのかわからず、ただプレゼントが嬉しく保管し眺めていたのだ。
『これは……私の色なの?』
『そうですよ?貴方の髪は綺麗なネオンピンクです』
『そう…そうなのね……』
ようやく理解した石の意味に何故か心が温かくなる。彼らにはこの色が見えていたのだろうか、ただ私を思ってくれていたことが嬉しかった。
『てことで返してほしければ私の手足となってください』
『は?、いやそこは良かったですねって宝を返すんじゃないの!?』
『ヤレヤレ人生はそんな甘くないんですよ、服従か死か選びやがれ』
『ちょっと趣旨が変わってるんだけど!?』
人間はフウと息をつきわざとらしく首を振り、一瞬で私の真後ろに移動した。そして私背をツーと指で撫でながら呟いた。
『赤ちゃん……元気に生まれてくるといいですね?』
激しい鼓動と冷汗をかき、息も忘れゆっくりと首を動かし振り向いた。細かいの糸を切られ表情は分からない。だがそれが余計に恐怖をあおり、宝石だけでなく宝物まで奪おうとする人間に震えた。気が付けば【主従契約】を果たし私はこの宝石の名前を貰っていた。
『我が子のため…我が子のため…』
そう言って今日もルクレツィア様のために働く。だがいつしかその仕事が楽しく我が子の成長と共に他の仲間との交流を心地よく感じていたことに気づいた。
『ルベラ』
あの日貴方に人化を教わり見た光景を私は忘れない。初めての色の美しさを、与えてくれた宝の色と共に私はこの先ずっと生きていくのだ。
だから他の皆みたいな上等な忠誠はなくても貴方の役に立ってあげますよルクレツィア様




