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真っ赤なお目目の狐さん

『この悪戯っ子には少し痛い目を見せてあげましょう』



そう言ってゾッとするような恐ろしい笑顔で妾を縛り付けた人間が言った。突然妾の縄張りに現れた人間は何故ここにと思わずにはおれんほど弱く見えたのじゃ。それゆえ我は人のみにしてやろうと背後から襲い掛かった。


そして捕まり生きたまま毛皮に…マフラーにされた…



『許してたもおぉぉぉぉ!!!』



恥も外聞も捨てて泣き許しを乞うたのは初めてじゃった。











【氷狐】魔物の中でも上位である狐型の種族であり、高い知能と氷魔法を操る妾の一族は寒さの厳しい森の奥深くで集団で暮らしておった。寒さに強いとはいえそれは生まれたばかりの弱い、尾の少ないものには厳しく兄弟で協力して生きるしか道はなかったことが大きいじゃろう。母や父は妾らがある程度大きくなれば居なくなっておった。暑さに弱く上位ではないと生きていけないため、どんなにつらくともここで暮らさなければならん。どんなに辛くとも…。


妾は生まれつき雪のように真っ白な毛と燃え盛る炎のような赤い目をしておった。他の者は皆キラキラと輝く白銀の毛と冷たい氷のようなアイスブルーの瞳をしておるのが当たり前じゃった。


そう妾は生まれた頃から圧倒的弱者じゃったのだ。自然の、一年中雪に埋もれたこの白い世界でこの瞳はどれ程目につくのだろうか想像がつくじゃろう。


そしてそんな我を兄弟はもちろん両親も疎んだ。我ら【氷狐】の嫌う炎を彷彿とさせるこの瞳は一族の恥であり忌避されるものであった。



『お前なんて早く【氷熊】にでも食われてしまえばいい』


『一族の恥さらしめっその忌々しい目玉を抉り出してやるわ!』


『お前なんて生まれなければ良かったのだ』



なんど聞いたか分からぬほど目があえば、姿を見せれば必ず言われるこの言葉は妾を一人にするには十分じゃった。いつしか目を瞑ったまま狩りが出来るようになり、周囲に冷気を巻くことで視力に頼ることなく周囲の状況を隠れている得物や敵ですら分かるようになったっておった。


この厳しい雪と氷の世界で生き残るのは難しく、沢山いた兄弟もいつしか姿を消して負った。妾はそれを何とも思わんかった。凍り付いた妾の心では悲しいとも、ざまあみろとも思えずただそうかとしか思えんかった。



『人間だ助けてくれぇぇぇ!』



そう妾に求めてきた同族は妾の目を見た瞬間顔をしかめ、かと思えばニヤリとその顔を歪め魔法で妾を拘束した。



『お前が囮になれ。一族の恥さらしが唯一出来る大役だ光栄に思え』



この狭いコミュニティの中でどこまでも妾は異端であり、カーストの最下位であった。赤い目は虐げられて当たり前忌々しい瞳は消えてしまえ。ど。ただ…他種族なら…そう期待をしていたのかもしれん。目の前に現れた人間の集団は我らのような尾と耳を持っておった。妾は初めて見る人間をじっと見つめた。殺されても構わない。ただ妾を…異端の色でも【氷狐】として…



「なんだ変異種か…しかも何の価値のない(・・・・・)白い毛の劣等種だ。こいつはほっといてさっきの【氷狐(・・)】を追うぞっ!」



『ヒュッ』



その言葉で全てが(・・・)凍り付いた。目の前の人間たちも木も妾の身も心も全てが氷に包まれその時を止めた。分かっておった…分かっておったはずなのに…性懲りもなく期待して裏切られて傷ついて…僅かににじんだ涙が凍り、閉じていた瞼に封をした。



『どうせ傷付くくらいなら、もう二度と光はいらん』



気付けば妾の尾は九つになり、あれだけ疎まれた存在でありながら【氷狐】の頂点に君臨しこの雪と氷の世界の主となった。


じゃが…妾の心はあれから氷に包まれたまま、親に兄弟に一族に忌み嫌われた弱い妾のまま孤独な時を過ごした。ただ寝て狩りに出、食いまた寝るの繰り返し…楽しみも生きがいもなく、ただ鳴り響く鼓動を止めぬよう空く腹を満たし感じる疲労を癒すため眠りについた。




サクッサクッ




雪を踏みしめる音と嗅いだことのない匂いに惹かれ様子を見ると、人間の雌が無防備に足跡を残し歩き回っておった。九尾になり気が付けば5メートルほどの大きな木に隠れるのも難しい程大きくなった体でも、妾にとって何の問題もなかった。屈折を利用し物理的に姿を消すことや気配を消すことなど造作もない事。そうしていつものように背後から得物に食らいついた。



『いきなり丸のみゆにしようなんて酷いじゃないですか。私はただ雪だるまを作りに来ただけなんですから』



そう言って妾の体を氷漬け(・・・)にした人間は目の前で雪をいじりだした。この際妾の脳内に直接言葉を叩き込んできたところはどうでもいい。ただなけなしの【氷狐】としての矜持が、九尾としての自負が()に囚われていることがどうしても許せず暴れまくった。



手足を頭を尾を全身で暴れ魔法で術者に攻撃したがビクともせず、妾はついに動きをとめグルグル低く唸った。自分を殺そうとする人間に、世界にありったけの恨みを込め歯を剥き出し威嚇した。しかし妾をこうも容易く捕えたこの人間には何ともないのだろう。そう思っていると急に底知れぬ程の恐怖が妾を襲い、心地よさを感じるはずの氷に捕えられている状況で震えが止まらなくなった。混乱している中「ふふふっ」と笑い出した人間が妾の尾に触れた。



『この悪戯っ子には少し痛い目を見せてあげましょう』



そう言う人間は後から考えると真っ白に雪に埋もれそれに腹を立てたのだろう。妾が暴れた時盛大に雪を頭から被り妾はお仕置という名の毛皮の刑に処されたのだった。


強制的に体を小さくされ意識を保ったまま生きたまま毛皮にされ、人間の首に巻かれる。そして雪だるまと呼ばれるただの雪で作ったゴーレムを動かし遊ぶ人間を見つめていた。



『其方は一体何が目的なんじゃ…』



雪遊びに満足したのか人間は渋々妾を元の姿に戻した。抵抗する気も失せる程の圧倒的実力差とこの人間の奔放さに少し話をしてみたいと思った。



『え?見ての通り雪遊びですけど?もしかして貴方も参加したくなったのですか?はっ!もしかしてかの有名な新雪ジャンプしてみたいとか!確かにその大きさでは新雪に頭から突っ込むどころか地面にぶち当たりますもんね…』


『違うわ!なぜ妾が雪に突っ込まねばならんのじゃ!そうではなく、なぜ妾を殺すわけでも無視するわけでもなくお仕置といって首に巻いたのじゃ』


『えっとーそのフサフサのキレイな毛に興奮した…からじゃ理由になりませんかね?』


『は?…キレ…イ?妾の毛が?』


『そうですよ?雪に溶け込む程真っ白で神秘的です!』


『そうは言っても【氷狐】のあの輝く白銀の毛の方がずっと美しい…』



思わず言い返してしまった言葉も段々と尻すぼみとなり俯いてしまう。しかし人間は妾の顔に近づき頬を撫で自らの身体を寄せてきた。



『確かに美しいでしょうね、キラキラと輝く白銀の毛は私の大切な人たちと同じですから』



やはりそうであろう…そう落胆した瞬間、妾は往生際が悪くまだ誰かに認めてもらいたいという思いを捨てきれていないことに気が付いた。ここから消え去り誰もいない寝床で丸くなりたい、そう考え沈む思考を引き上げたのもこの人間であった。



『でも私に似合うのは貴方のような真っ白な毛皮でしょう?』


『何を…言って』


『だって私の髪もキラキラの金色で、相棒の二人もキラキラ。おまけに首に巻く毛皮までキラキラの白銀だなんていくら何でも目に悪すぎます!私はミラーボールじゃないんですからそこまで主張すればしつこすぎて鬱陶しいです。いっそ毛皮を黒に染めてやりたくなりますよ。』


『ふ…ふふっふはははははっ!』



妾のコンプレックスであった毛色をこうも言ってくれることが面白く嬉しくどうしようもなく涙が止まらなかった。よくわからない感情のまま笑い、涙を誤魔化すようにまた笑い人間は寝そべる妾の顔に身体を預けたまま言葉を続けた。



『もー私がキラッキラッの姿を想像して笑うなんて酷いです。でも分かったでしょう?だから私は貴方が(・・・)いいんです』



ずっと…ずっと待ち望んでいた言葉を貰い、妾の凍り付いた瞼は涙の熱で溶かされ数百年ぶりに色を映した。



『あら、ふふっ貴方泣きすぎて目が赤くなってしまったのですね。でもそのお陰で雪に溶け込んでしまう貴方を見つけ易くなりそうです。』



あぁ色とは…世界とはこれ程美しいものであったじゃろうか…妾はこの先今見た光景を忘れることは決してないのじゃろう。眼前に飛び込む紫の瞳と黄金の髪の毛、そして妾の色だという雪の白。


ずっと寂しくて悲しくて泣き続けていたゆえに妾の瞳は真っ赤になってしまったのじゃろう。



『寂しいなら私についてきませんか?貴方に合わせたい子がいるんです。みんなで食事を囲めばきっと楽しいです』






そういう()は妾に世界()を見せてくれた。



『ネージュ』



この名前が呼ばれるたび妾は嬉しくて仕方がない。


例え主がどこかに行ってしまっても妾の唯一の主であることに変わりないのじゃ。ただ…最後まで主に撫でてもらうのは妾の特権であることに変わりない。


今日も妾は主の後ろをついて回るのじゃった。


















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