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弱肉強食

「主はどうして我らを殺さなかったんだ?」



ラペーシュと森の散策に出かけていると突然そう声を掛けられました。私は持っていた一凛の赤い花をくるくると回し彼に視線を移し口を開きました。



「何、まさか本当に食べて欲しかったのですか?」


「いやそうではないのだが…主は我らだけは殺さなかったではないか。我らを完膚なきまで叩きのめし戦意どころか心まで折って我らを配下とした。何故だ?人間は我ら魔物の死骸に価値があるのだろう?主が望むのならば我らは一度は失ったこの命、差し出すのも厭わないぞ」


「んんー重い…重すぎますよラペーシュ。配下というより私は君たちのことを可愛いく出来の悪いペットのように思っています」


「ペ…ペット…」


「そう守るべき大切な私のモノ(・・)だと思っていますよ。だから皆を殺して利益を得ようだなんて思いませんし私のモノに危害を加えるやつは誰であっても許しません。貴方達魔物は私に負けた時点で私のモノなのですからいつ食材にされるか毛皮にされるかビクビクしていればいいのですよ!」


「矛盾しているぞ…?」


「煩いです。私のモノなのですから大人しく言うことを聞きやがれなのですよ」



何だかラトレイアのような言い方になってしまいました…ラペーシュは「そうか」と小さく笑い咲き乱れる赤い花を摘んでいきます。何の花か分からないこれは植物について研究しているロータスと助手のネージュに頼まれたものです。



「ラペーシュは何とも思わないいです?私は魔物を食べ訳ですし…人間です」


「我ら魔物には群れる者たちもいるが大半が種族が同じでも同族への仲間意識は薄い。共食いなんぞ当たり前だし強ければ強い程一匹狼になるゆえ主が魔物を食おうが何とも思わないのが我らの意見だな。それに人間であろうが魔物であろうが自分より強く、自分で主と認めたものにしかついてはいかん。我らは主だからその…ペットになったのだ…」



ラペーシュは不機嫌にそっぽを向き花を摘んでいきます。私は必死に慰めようと言葉を選ぶ彼が何だか可愛く笑ってしまいました。筋骨隆々の漢を可愛いという出来か分かりませんが、不器用な所やみんなと出会って尖っていたところが少しずつ丸くなっていく彼らの成長が嬉しく感じます。



「私は自分が生きるために殺すんです。それ以外の命は…奪いたくないのです。まぁ素材も必要なので絶対とは言えないのが偽善である証拠なんですが。私は自分が食べる分や錬金術などの素材に必要な分しか殺しませんし奪いません」


「自分を殺しにかかってきたやつらでもか?」


「ふふっ私を殺せる(・・・)なら話は別ですが?」



私がニヤリと笑うとラペーシュは花を摘む手を止め「愚門だったな…」と納得してしまいました。彼は私に戦いを挑んでくるくせに勝てるとは思って居らず、スキンシップのような感覚なのだと思います。



「弱肉強食というのは自然の摂理でしょうが理性を持って行動できる強者はその力を無暗に振りかざしてはいけないと分かったんです。だから私は必要のない殺生はしません。それを軽く払える力があるなら殺さず倒す(・・)なんてことなんて簡単でしょう?」



そういって私は手に持っていた花にフウと息を吹きかけます。すると徐々に花は枯れしな垂れてしまいました。



「ほら、命なんてこんなに儚い。これが生むはずだった命も、この命の家族や友人も私を恨んでいるのかもしれませんね?そうだとしても私は死んで詫びるなんてことはしませんよ」


「それは……いやならば主に殺しをさせないよう我らは強くあらねばいけないな」



『それは主の後悔か』ラペーシュの言葉はルクレツィアの目に遮られた。真っ直ぐ自分を射抜く紫の瞳を見つめ、ラペーシュはルクレツィアを主と仰いだ日のことを思い出した。



















『立派な桃の木ですね、お一つ私に下さいな』



金色の髪に紫の瞳の人間が脳に直接そう言った。並みの強さでは到底たどり着けないはずの森の奥深くに人間が、それも大して強くなさそうな雌が両手を差し出していた。人間には分からないだろうが我はそれを木の上から眺めこういった。



『ならば我を倒して(殺して)から言うのだな』



そして我は負けた。


我の大きさはあの人間の比にならぬほどの大きさで、それなのに気が付けば我は空を見上げ人間に見下ろされていたのだ。我は何が起きたのかわからずただこの圧倒的な、そしてそこの知れぬ強さに畏怖し…諦めた。



『大きな体ですね~7,8メートルはあるんじゃないです?桃の木も大きいですけどよくこんな巨体が乗って折れませんね!』


『殺せ…我は負けた…生き恥をさらすならば潔くこの命を差し出そう』


『えーいや…んんーでは味見を…』



そう言って人間は我の耳たぶを齧った。小さな口で齧られ引くりと痛みがしたがそれだけだった。我はこの人間の行動の意味が分からずただ茫然と、腕を組み咀嚼する人間を見上げていた。が人間は唸ったかと思うと眉を下げて困ったように口を開いた。



『えっと…私は貴方を殺しません』


『何故だ?お前は我ら魔物の死体を狩りに来たのだろう?』



過去に人間と対峙したことは幾度とあるが、皆我らを見て恐怖し逃げるか欲に目の色を変え襲い掛かってくるかだった。我はこの人間の意図が分からず思わず聞いてしまった。そもそも魔物と意思疎通できるものなど滅多にいない。数えきれないほど生きてきた我もこの人間の他に三人程しか出会ったことがないのだ。だがこの人間はその中でも群を抜いて毛色が違った。



『いやだって貴方不味いし…』


『は?』



不味い?我が?いやそもそもここら一体の主である我ほどの力を持つ魔物を食えることがおかしいのだ。この身に膨大な魔力を有する我を食えば良くて激痛による気絶、大抵は破裂し絶命するのが落ちであろう。それなのにこの人間は何ともない顔で我を食い天津さえ不味いと言い張った。



『耳たぶまで筋肉って半端ないです!こんな噛み応えのあり過ぎるお肉私の好みではないし、素材も間に合ってます。あと何より意思疎通した相手殺して食べるとか精神衛生上よくないです。貴方絶対化けて出てきそうですし!』



そう言って我の腹の上で取ったばかりの桃にかじりつく人間を、我はただ笑って見つめていた。



『ガハハハハハッ!』


『わわわっちょっと!うるさいし食べずらいので笑わないでくださいよ。それにしてもこの桃美味しいですね、貴方が管理しているんですか?』


『そうだ。我ら【妖猿】族の半身でもある大切な《黄金の桃》だな。といってももうこの一本しか残っていないんじゃないだろうか。一族は我以外人間に殺され我らと一心同体である木も失われているだろうから』



人間は幸せそうに桃を食い、我は質問に答えた。守り続けた桃をこうも喜び褒められると悪い気はしなかった。そういうと人間は大きな紫の瞳をさらに見開き口を開け間抜けな顔で我を見つめた。『あぁ美しいな』そう思った瞬間鳩尾に強烈な一発が入った。


















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