口は禍の元
どうもルクレツィア四歳です。現在私は鬱蒼とした森の中を爆走しています。そう森、これを読んでいるあなたならこう思うでしょう。
『亜空間の森でまた修行なのね』
と。まぁそうですよねなんたって亜空間はマスター次第でどんな地形にもなれちゃうんですから!でも正直…飽きたのです。というより新しいことが減って退屈していた時、好奇心や探求心をそそるものが現れたんです。あと大体四歳児がここまで音を上げずについてこれたのが凄いんです神童ですよ褒め奉ってください!そしてそんな私は言ってしまったのです…
「師匠やみんなとの対人戦ばっかりで飽きちゃいました。十分戦えるようになりましたし、私魔物を見てみたいんです!なので私外の森に出てみたいです!」
いやぁ人間の好奇心って怖い、怖わ過ぎて震えます。なんで魔物見たいって言ったんですか、図鑑で見たからそれで十分じゃないですか。あの飽きたって言った時の師匠の顔、もの凄く悪そうでした!
「おぉワシの可愛いルークが反抗期じゃわい、お爺ちゃん悲しくて手が滑ってしもうた」
そういう師匠の両手にはガラス玉が…ピスティスとラトレイアが閉じ込められていたのです!そして私が取り返そうとするとヨヨヨと泣くふりをしてジャグリングをしながらも私を躱します。
「昔メリルが錬金術をするなら無人島か雪山とか言っておったが…まあ良い!ルークお前の要望通り外に出してやろう」
「それは嬉しいのですが二人を返していただけませんかね!?」
魔人同士の玉の取り合いは腕の残像が見える程の速度で行われ、大人の姿で魔眼を使っていても師匠とはやはり経験の差なのかまだまだ一本は容易ではありません。たまに取れても同じ手は二度と効かないので、作戦を考えるのが必然的に上達するのは師匠らしい教育方法だと思います。
「今からお前には三か月魔物の森で一人修行してもらう」
「え!?今からって急すぎますよ、それに一人ってまさか…」
「そのとおり」
そういって師匠がニヤリと笑った瞬間、突然の浮遊感のあと気が付くと私は森の中にポツンと一人立っていました。
『可愛い孫娘である弟子のために優しいワシがプレゼントをやろう』
念話で聞こえた言葉と共に目の前に現れたのはシンプルな等級の低い短剣でした。え、いや嘘でしょう?
『そういえばここは精霊や妖精の類は居らんからそのつもりで。それでは一か月後を楽しみにしておるぞ。ふぉっふぉっふぉ!』
私は呆然と短剣を握りしめそれを見つめていました。そして
「はぁぁぁ!?え、え?展開の速さについていけないし受け入れたくないんですけど!?私見てみたいって言っただけよね、それが何がどうして三か月の山籠もりならぬ森籠り!?しかも優しさ皆無の支給品。何が『可愛い孫娘である弟子』よ、何が『優しいワシ』よ捻くれ爺。この一か月お腹下して藻掻き苦しんでしまえばいいのよ馬鹿師匠!」
もうとりあえず叫びました。愚痴を吐き切った私はある程度スッキリしたというか…気持ちを切り替え取り合えず周囲の様子を探ろうと試みました。
「「「「「「「グルアァァァァァァァァ!!!!」」」」」」」
が、突然の展開に気を取られている間にまさかの四面楚歌。項羽もビックリの敵さんだらけの歌声ですよ、嘆きもへったくれもないです。「虞よ虞よお前をどうしたらよいものか」なんてお道化て短剣に言いますが、正直逃げる川もなければ付き添うお供のピスティスとラトレイアすらいない現状!
様子を伺っているのか魔力に敏感だという魔物は私の内包する魔力を感じ取り隙が出来るのを待っているのでしょう。つまりそれだけの知性があり私を囲んでいる様子から群れで行動しているのでしょう。【魔力感知】をするとその数は7頭で魔力量はそう多くないようですが…なんだかやたら殺気立ってますね。魔物って動物のようなイメー…ジ…
「は、え?」
しびれを切らしたのか木を揺らし姿を現したのは巨大な《黒狼》でした。その体は黒く艶やかで敵意の籠った赤い目で牙を剥き出しに襲い掛かってきた六頭をとりあえず避けます。2,3メートルほどの高さの巨体が爪や牙で攻撃し、恐ろしく連携が取れたコンビネーションで確実に私を殺そうとしています!
「やっぱり対人戦と魔物では全く違います!」
周囲の状況判断がつかない状態での戦闘は分が悪いので、私は一瞬綻んだ陣形の穴を突き全速力で走りだしました。あぁどうして私は図鑑だけで留めておかなかったんだ…後悔先に立たず、私は未だにしつこく追いかけてくる《黒狼》を背にため息をつきました。
そう…執着が凄い!どこまでも追いかけてくる体力と気力には感服しました。一体何が彼らをここまで突き動かすのでしょうか、私そんなご馳走に見えます!?確かにピスティスとラトレイアが言うには魔力の質は最高らしいですけれども!
そんな追いかけっこをしていると目の前に開けた岩壁が現れました。すると空から新たな《黒狼》が現れ急に狼の影が揺らめき鞭のようにしなると地面を叩き割りました。
「うわっ!」
さらには自分の影の面積が増えるよう木陰に移動され、かなりの数の影が私を捕えようと襲い掛かってきます。どうやら上位種の【影狼】だったようで右手に持つ短剣では影を弾くだけで刃こぼれしそうです。とりあえず避けることに徹しますが、私の方が足が速かったとはいえ他の【黒狼】が来るのも時間の問題です。
こう考えると優秀な相棒たちに支えられていたことがよくわかります。剣に均等に魔力を流すことは難しくピスティスのお陰で何も考えず剣を振り回していられました。もし何かあってもラトレイアが守り癒してくれる安心があって迷わず戦うことが出来ました。それが今二人のいない状態で初めての敵と初めての場所で戦いようやく気付くことが出来たのです。
「ガルゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
あまりにもちょこまかと攻撃を避けていたためか苛立ったように唸り、陰が集まると【影狼】の分身3頭が襲い掛かってきました。分身は影を操ることはできないようですが自身の身体を変化させ、身体から棘を伸ばしたり爪を鋭く出来るため距離を取り辛いです。
「もう鬱陶しい!」
本で見た魔物が目の前にあっても本能が格下に危機を抱かないから実感が薄い。ここにいるというのは分かっていてもそれが実在しているという感覚を感じられない。
だから私は子供だったのです。
バシュッ
一瞬で【影狼】の懐に入ると手刀で首を切り落としました。大人の姿のままで腕が長いとはいえ刃物でないと上手くいかず、頭から返り血を浴びてしまいました。いつものように綺麗にしようと思い、ついでに【影狼】も食事にしようと血を抜こうと思い触れた時なにか違和感を感じました。
死んでいるはずの【影狼】から魔力を感じたのです。魔物は体内に《魔石》と呼ばれる魔力の塊のようなものを持っていますがそれは体内の魔力とは別で、生きていても死んでいても外に魔力を放出することはないのです。私は首を落としても死なないのかと魔物の生命力に驚きつつ、魔法で身体をバラバラに裂きました。
血が噴き出し肉塊となった魔物をただ見つめ、どうやって食べようかと考えているときそれは居たのです。
【影狼】の裂けた腹から出ていた内臓だと思っていたものは手足やしっぽがあり、ピクピクと震え…動きをとめた。




