剣と槍
「随分と剣が様になったじゃないか。手数を増やさずワシの攻撃についてこれるとは成長したのぉ」
「スーリヤお姉さまに教わったんです。どっかの自称老い耄れが全く武器の使い方を教えてくれなかったのでっ」
「ふぉっふぉっふぉ、ワシ槍以外は専門外じゃて。剣を使うなら素人に教わるより独学でやった方が自分に合った型を見つけられるんじゃと思ったまでよ。ルークはあまり槍は向いておらんかったからの」
「知ってますよ。みんなに言われたので流石に諦めました」
ルクレツィアとゴルバチョフは剣と槍を激しい火花を散らしながら言葉を交わしていた。魔法や魔術も使い激化する戦いでも二人は涼しい顔で会話をする。
ルクレツィアはある程度の基礎は剣術の本やそのほかの技術を応用しているが、それに精通している指導者からの指示は的確で無駄がない。長く人を見てきた闇の精霊エルドレッドから過去の魔法剣士たちの技を教えてもらい、魔剣の使い方やそれを使った戦い方を学んだ。というのも自然という人知を超えた力の集合体である精霊のトップとなればついていくのも大変で、遊ぶためにも身を守るためにも反抗するためにもルクレツィアは強くならなくてはいけなかったからだ。
しかし強くなり大人の身体を手に入れた状況でも師は遠く足元にも及ばない。だがルクレツィアは念話で《エクスカリバー》達に謝りつつもその顔は楽しくて仕方がないと書いてあった。
魔人同士の戦いは動体視力や身体能力の異常さから並みの武器では一撃で破壊されてしまう。最高ランクの武器である《エクスカリバー》であってもその負担は凄まじいことには変わらないが、現在ルクレツィアの身を守っている片割れの能力により即座に回復されていた。そしてルクレツィア自身も激化する戦いの中でもその美しい肌に傷はない。魔人の防御力と自然回復も同じ魔人のゴルバチョフの攻撃の前では絶対的ではなく、その攻撃からルクレツィアを守っていたのは防具になっている《エクスカリバー》であった。
元々ゴルバチョフは《エクスカリバー》に認められた真の持ち主ではなく、その能力の全てを知っているわけではなかった。ゆえにルクレツィアに伝えたことも力の一端であり、ルクレツィアは彼らと共に過ごす日々や精霊界での遊びでその使い方を学んでいった。
今身に着けている服や鎧なども《エクスカリバー》の変化した姿であり、本体である鞘の質量以上は魔力を使い補っていた。鞘は防御や回復、能力の向上や呪いの反射などの能力があり、その効果は半身の剣と自身だけでなくルクレツィアも対象であった。使い手の技量でその能力の威力や効果の範囲を上げることが出来るが膨大な魔力が必要であり、もはやルクレツィアしか使うことのできない装備になってしまっていた。だがそれでも【主従契約】をしていない状態での使用では能力に限界と過剰に魔力を消費してしまう。
剣も同様でゴルバチョフのような一流の魔法師の魂である武器と対等に戦うためには膨大な魔力が必要であり、それを賄えるルクレツィアの異常な魔力量があってこその今であった。魔人同士の高威力の魔法を切り纏い攻撃すると、いくらルクレツィアの技量が上がったとはいえまだまだ半人前な剣術では刃にかかる負担は大きい。
本来なら剣の表面に均等に魔力を流し強度の上昇と修復を同時にする必要があるのだが、魔法も剣術も上達したとはいえまだまだ未熟な彼女にとって師との戦いでそれをする余裕はない。しかしそれを代わりに代行する《エクスカリバー》も真の主として【主従契約】をしていないルクレツィアとでは自身の集中力と彼女の消費魔力が著しく善戦とは言い難かった。
「まだまだ粗さが目立つのぉ、繊細さが足らんぞ?魔術も随分と魔法効率が悪いんじゃないか?」
「ぐっ!うるさいですっこれからなんです!」
ゴルバチョフの持つ槍は槍頭に鋭い大きな刃と石突きには彼の目と同じ紫の意思が埋め込まれている。シンプルだがその刃に刻まれた模様や銀の柄が美しく、それが彼の心を現していた。
突きは素早く避け切れないものは【障壁】で守り、リーチの長い柄で払われれば受け流すか叩き切る。ビュンビュンと風を切り槍を振り回している姿から話想像もできないほどの速さと打撃や刺突の多さに翻弄され、さらに槍に集中しすぎると見計らった頃に仕掛けられた魔術が発動しその対処に追われる。焦れば魔術の精度は落ち無駄な魔力を消費するだけでなく、耐性が崩れると一撃で骨が折れる程の打撃がルクレツィアを襲った。
「がっ!…はっ…はっ、ぐぅ…」
「大口を叩いておいてこれで終わりか?ワシが本気を出すまでもなかったようじゃな?」
「はははっそれを見せてくれただけでも僥倖です。そんなに私はお婆様に似ていますか?」
その言葉にゴルバチョフの動きはピタリと止まり笑顔も固まっていた。これにはルクレツィアも苦笑を隠せない。一瞬の隙も見逃さず懐に飛び込んできたルクレツィアの剣を槍で払う。リーチが長い分懐に入られた際の攻撃が限られ魔法や魔術でルクレツィアから距離をとろうとする。しかしルクレツィアは魔力感知に優れ転移しようが魔法陣を展開しようが一瞬で場所を把握しそれを防ぐ。並外れた集中力と技術が求められるその技にゴルバチョフは舌を巻いた。
「鎌をかけたんですがその様子じゃ図星のようですね」
「…呪いが解けたのか」
ゴルバチョフの眉を下げ力なく笑う姿にルクレツィアは唇を噛み剣を振る。武器のぶつかる甲高い音と火花、魔法の応酬にあたりは更地と化し徐々にその範囲を広げていく。ひときわ大きく振りかぶった剣をゴルバチョフは槍を横に持ち受け止め、二人は同じ紫の瞳を正面からぶつけ合う。
「最初は皆に魔法で姿を大人にしてもらって剣の練習をしていたんです。その過程でクロエ母様が師匠がかけた呪いを解いてくれて…驚きました、愕然として一瞬何も考えられなかったんですよ」
ゴルバチョフは受け止めた剣を横へ受け流しそのままルクレツィアに向け払う。そしてそれを軽々飛び避け切りかかる弟子を槍で受け流していた。ルクレツィアはゴルバチョフが反撃しないこととその表情にギリッと奥歯を噛み締め、髪を振りかぶり歪んだ笑顔で嘲笑した。
「初めて自分の顔を見ました。最初それが自分の顔だなんて気が付きませんでしたよ、だって鏡にいつも見ていた姿絵と同じ顔がそこにあるんですもん!そしてこの瞳は紫!」
ゴルバチョフは何も言わずただルクレツィアの剣を受け止める。ははっ、と自嘲するルクレツィアの剣は先ほどと比べると随分と雑で投げやりな印象を受ける。
「師匠が私を拾ったのは必然だったんですね、だって私をここに連れてくるよう仕組んだのは師匠なんでしょう!?」
ルクレツィアの叫びは雷を纏い高速で放った一撃の音と共に辺りに鳴り響いた。




