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貴方の幸せを願ってはいけませんか

夕日が差し込み燃えるような赤に染まる部屋でゴルバチョフは《エクスカリバー》と共に紅茶を飲んでいた。ゴルバチョフの入れたものは渋く、以前ルクレツィアが「人生の厳しさを教えてくれる味です」と言って顔をしかめていたことを思い出しフッと笑ってしまった。



目を閉じれば出会った日から今日までどんな姿の彼女(・・)も思い出せる。小さな口に頬がはち切れそうなほど食べ物を詰め口を拭いてあげたのは何時だったか。走るのままならない体で必死に向かってくるのも、自分が教えた魔法を使えた時の感動した表情も、自由を切望したあの涙(・・・)も、処刑台の上のあの表情(・・・・)何もかも(・・・・)が昨日ように。



ゴルバチョフは目の前に座る少年(・・)を見て自然と穏やかな顔になってしまうのを感じた。銀色に輝く髪も紫の瞳もどれも懐かしく愛おしい。()の時からずっと(・・・)ともにいた彼らは友であり自分の子と言っても良いくらい大切な存在で、失うことなんて耐えられない。



「あぁ…そうじゃな。あの子から親を奪いこの狭い世界(魔物の森)に閉じ込めた。前世の記憶を持ち、大人びた聞き分けの良すぎる(・・・・)あの子の心の闇を見て見ぬふりをし続けたのも、身勝手な思いで遊び盛りの子供の自由を奪い傷つけたのも全部ワシの仕業じゃ。あの子に慕られる権利なんてないことはよくわかっておる…」



力なく笑うゴルバチョフを《エクスカリバー》は見つめていた。噛み締めた唇から流れた血が口の中に広がり、握りしめた手には詰めが刺さっていて痛々しい。言いたいこと沢山あるが何から言えばいいのか、言っても意味のない事だというのは分かっている。でもこの気持ちをどうすればいいのかわからない。俯き震える《エクスカリバー》を思ってか、ゴルバチョフは話題を変えた。



「ルークは可愛いじゃろう?」


「は?なんだ急に」


「やはりワシも人の子のようじゃ、孫娘は目に入れても痛くないほど可愛い。あれ(・・)に似たのか人を頼るのを、心を預けることが苦手なようで自分をさらけ出すことを極端に恐れておる。妻に似たのか探求心というか負けず嫌いというべきかそんなところもよく似ておる。あと素の淑やかさというか優美さがないところも大きな声で言えんがよく似ておる。じゃが一番はワシに似た破天荒な性格が問題じゃな!」


「ふっ確かにお前と同じで大人しく椅子(・・)に座っていられるようなタイプじゃないな。おまけに立派な見本(ゴルバチョフ)がいるからか悪知恵ばかり働いて質が悪い。だがそんなことよりもアイツの根底はお前そっくりだ。一度懐に入れたら例え裏切られたとしても信じて切り捨てない。これでその悪役ぶる(・・・・)癖も似ていたら最悪だな?ははっ……で?お前の孫娘というならアイツはお姫様なわけだゴルバチョフ=セシルランダ=ライ=アルタイル元第一皇子殿?アルタイル神魔王国の姫君(・・)これの意味が、」


「その名前長いから嫌いなんじゃよ。」


「知るか。いくらお前が【賢者】といえどお前の息子現国王アルジャーノンの目をかいくぐって深層の(・・・)姫君をさらうのは難しいだろう、まして実行は別のやつだなんて不可能。ならアルジャーノンもこの件に関わっていてお前に娘を預けたと考える方が自然だ。


もう一度聞く。アイツ(ルクレツィア)は何者だ?微かに感じられたあの魔力は「アナスタシア」…は?」


「ルクレツィアの本当の名前はアナスタシア=ティナ=ライ=アルタイル。アルタイル神魔国の《祝福の姫》じゃった。じゃが今はただのルクレツィアじゃよ。他のないものでもない、ただの孤児のワシの弟子の小さな子供じゃ」



《エクスカリバー》はお道化ていたゴルバチョフの真剣な威圧するような視線を受けそれ以上何も言えなかった。



「心配じゃろう?見ていないと不安になる危うさじゃろう?」


「…やっぱり僕はお前が嫌いだ…分かっていて僕たちをアイツに引き合わせたんだろ。」


「考えすぎじゃよ。何でもかんでもワシの策略通りなんて神じゃあるまいし」



ふうと息をつきゴルバチョフは背もたれに体を預けた。《エクスカリバー》は無くなったポットに自ら魔法でお茶を入れ始めた。水の成分まで細かく指定しキッチリと時間を計っている機械じみた几帳面な性格はゴルバチョフには真似できないものだとつくづく実感する。おそらくルクレツィアもそうだが自分の興味があるもの以外はとことんダメなのだ。いや妻に似た狂気じみているほどの負けず嫌いというか執念があれば出来るのかもしれない。そんなことを考えながら《エクスカリバー》の入れるお茶を眺めていた。



「ところで今アイツは妹と精霊の森にでもいるのか?」


「そうじゃ。いやぁ精霊女王にコンタクトをとるのは骨が折れたわい」


「それで女王にアイツを預けたのか。はっ、もしかしたらそのまま帰ってこないかもしれないぞ?こんな面倒な爺のところより幸せだろう。」


「ワシもその方が幸せじゃと思うんじゃが、その場合遠くないうちに精霊の森が火の海になるんじゃよ。全く心の狭い男は嫌われるというのに困ったやつよのぉ。」



ゴルバチョフはやれやれといった様子で《エクスカリバー》の入れたお茶を飲んだ。同じ茶葉とは思えない上品な味に悲しくなる。今頃ルクレツィアは生まれて初めて飲む美味い(・・・)お茶に感動していることだろう。もしかしたら二度と自分が入れたお茶を飲みたくないと言い出すかもしれない。ゴルバチョフが「美味い」と言いながらお茶を飲み落ち込む様子を首を傾げ見つめた。



「まあ別にアイツが戻ってこようがこまいがどうでもいい。だがどこまで計算通りなんだ?」


「人聞きの悪い…と言いたいところじゃがこればかりは誤魔化せんな。今のところ全てじゃよ」


「アイツが普通(・・)にこだわっていることを知っているうえでわざと自分の成長に気付かせなかった。自分の姿を確認できなくなる呪いも執拗に頭部を狙った攻撃も、成長に関する思考を防ぐ呪いもそのせいなんだろ?最近じゃ精神苦痛を与え抑えていた感情を揺さぶり、今日の戦いでわざと自分の成長が止まっていることを意識させた」


「んん…ちとあからさまじゃったじゃろうか?」


「落ち込むなら最初からするな。やるなら嫌われる覚悟でしろよ意気地なしが」


「相変わらず冷たいのぉー。まぁお前の予想は当たっておる。」



《エクスカリバー》は何とも言えないような顔でゴルバチョフを見た。先ほどの言葉が嘘のように全て(・・)この男の手のひらの上で踊らされていたなんて恐ろしく、同時に誇らしい(・・・・)。「流石」と皺くちゃの顔で笑いかけてくるゴルバチョフを直視できず、《エクスカリバー》は少し赤くなった顔で視線を横にずらした。



「だがそこまでする必要はあったのか?精霊たちが女王のもとに連れていくほど気に入られているんだろ?ならアイツの見方に必ずなるはずだ。わざわざ感情を爆発させるなんて酷なことしなくても…」


「精霊女王は《全ての母》と言われておる。自然を愛し愛され力とする彼女にも感情があるゆえに《愛し子》という者もいる」



《エクスカリバー》はゴルバチョフが何を言いたいのかわからず、その真意を探らんと耳を傾けていた。ゴルバチョフは薄緑のお茶が入ったカップを手で包み、そこから目を離さないまま淡々と話を続けた。

よせ


「頼ることが苦手なあの子にとって急に現れた者が絶対的な見方だと言われても、はいそうですかと言うことはありえんじゃろう。精霊たちは《愛し子》の意思を尊重するゆえに、強力な見方を持っていてもいざという時役立てなかったら意味がない。ルークが信じない限り宝の持ち腐れ、という理由がついでかのぉ。流石に身に危険があれば精霊たちも実力行使に走る」


「ついで?今のが本命じゃないのか?」


「言ったじゃろ?精霊女王は《全ての母》であると。ルクレツィア(アナスタシア)の母はもうこの世にいない。あの子を産んで逝ってしまったんじゃよ」



《エクスカリバー》は目を見開き驚きを露わにした。ゴルバチョフは悲しそうな顔でカップを揺らし、波紋に浮かぶ自身の皺が刻まれた顔を見つめていた。



「あの子から奪っておいて何様だと思うかもしれんが、ワシは精霊女王から母親の愛を与えてくれることに期待しておるんじゃよ…。ワシも息子もそこんところが不器用じゃからのぉ、あの子に寂しい思いをさせてしまうことは分かっておった。ルークは一度爆発させてやらんと、とことん溜め込んでしまうじゃろうから早いうちに荒療治せんといかん。『悪役ぶる』じゃったか?あの子はワシによく似ておる。支えてやってくれんか《エクスカリバー》」


「……言われなくても…そうするつもりだ」



《エクスカリバー》は唇を噛み俯いた。


『お前が守ればいいじゃないか』


そういう権利がない事がない事を知りながら、《エクスカリバー》は静かに涙を流した。



















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